13 / 15
第二章 当主編
第十二話 亡国の姫と異質の軍師
しおりを挟む
同年八月十五日夏。織田信長率いる二万の軍勢が越前、加賀に侵攻し、一向一揆と朝倉残党狩りが行われていた。
織田の軍勢は田畑や家屋に火を掛け、民を見ると競う様に殺戮をしていく。
そんな中、織田の軍勢に紛れ、山本勘蔵は護衛の疋田文五郎と風魔衆五人、犬彦を伴い、武田勝頼の命でとある任の為、闇働きを行った。
闇働きの内容は、滅亡した朝倉の姫君を保護し、摂津の石山本願寺に送り、護衛するというものであった。
そして、どうにか加賀、尾山御坊に着くと坊官、七里頼周と下間頼照に面会し。
七里頼周は山本勘蔵達を迎えると、苦い顔で、
「お主が、あの武田を織田や徳川から勝利に導いた二代目山本勘助殿か……。お主が手緩い策で織田信長を逃がしたばかりに、せっかく奪った越前を失い、加賀も…。口惜しい……。この責如何するか!」
と、責め立てたが、そこへ、下間頼照は、宥める様に、
「七里殿。その辺にしておれ、我ら一向衆、本願寺顕如様に恥を欠かす積もりか? それとも信心が足らぬと申している様なものぞ! 山本殿、亡き朝倉義景殿の姫君をお頼み申したぞ! 我らは此処で織田を引き付け、その隙に落ち延び下され!」
すると、尼姿の十代半ばの娘、多分、朝倉の姫君が二人が山本勘蔵の前に来て、年長の姫らしき者が、
「私達の護衛に来て頂きありがとうございます。私は葵と申します。妹の桂共々、摂津の石山本願寺まで送り届けて下され、お願い致しますぞ」
更に妹、桂と思われる少女は、
「教如様に嫁ぐのは、約定通り、葵姉上様でしょう ね。私は今、好きな殿方が出来ました。よろしくお願い申します」
葵は驚いた様に、まさか……。
「桂。その好きな殿方とは、誰でしょうか? 知人でそのような器のある大名の殿方は居るのかえ?」
「その殿方は、大名の殿方では御座いません。私達を、憎き織田の魔の手から守ろうとして下さる殿方です……。そなたの事ですわ……。山本様……。いえ、勘蔵様……。どうか私を貴方様の嫁にして下さいませぬか?」
葵は頭に手を押さえて、
「桂。お戯れを……。確かに山本殿は織田信長を合戦で破った方ですが、下賎な身分の低き者……。その様な者に名家朝倉の者が懸想するなど許されぬ事ですが、山本なら良いでしょう」
山本勘蔵もこの桂の発言にろうばいし、
「俺には正室と側室、二人の妻がいり申す。しかし、亡き義景様の姫君で在られまする。桂姫様を嫁になど、身分が違いまする。どうか、俺の様な者は、たんなる家臣として扱って下され」
「成りませぬぞ山本殿! 桂の気持ちに応えないと、本当に尼になると誓いを立てているのじゃ……。それでは朝倉の血筋を残す役目が果たせぬ! 良いのか?」
「本当ですか、葵姫様……。桂姫様が尼に成るのは困りまする。しかしながら、亡き義景様の法要も済んでいないと思われます……。しかも、他家である。俺の妻に成るなど、世間の大名に笑われましょうぞ! ご再考して頂きたい」
だが、葵は笑顔で、
「そうじゃ、桂は他の誰でも無い、そなた……。山本勘蔵の妻に成る事を決意したのじゃ。これは上意である。そなたは桂を妻にするのじゃ! 二言は許さぬ!」
これには、流石の山本勘蔵も、反対できず。
「有難き幸せに存じる。必ずや朝倉家の血筋を絶やしませぬ」
と堪念した。
「分からば、良いのじゃ! 桂を頼みまするぞ」
こうして、山本勘蔵は朝倉義景の娘、桂姫を妻にする事を決めたのである。
その日の内に、加賀一向一揆衆の本拠地、御坊山城にて、七里頼周と下間頼照に面会し、事の次第を打ち明けたのであった。
当然、七里頼周と下間頼照は、葵姫との、本願寺次期教主である教如との婚姻を承諾したが、山本勘蔵が、桂姫との婚姻に難色を示したが、その日の夜、何と、本願寺教如が自ら船団を率い葵姫を向かいに来た。
山本勘蔵が、本願寺教如に謁見した際。
「私の許嫁を救いに来た。山本勘蔵殿には、儂の義妹である。婚姻、承諾致す。尼にするのは、余りにも勿体無い。私の妻の妹を幸せにして下され、今日より、私は同じ、朝倉義景殿の娘姉妹を妻にする事で、義弟として扱う。何か御力になれる時は、できる限り助力致する」
本願寺教如は、山本勘蔵に感謝の言葉を掛けた上に、自らの義弟として認めたのである。
その夜、船団の船の上で本願寺教如と葵姫、そして、山本勘蔵と桂姫は共に同じ場所で祝言を挙げ、本願寺教如は山本勘蔵にある事を任せたのである。
「義弟殿、私の願いを聞いて下さらぬか?」
「教如様、それは一体?」
「義弟殿にとある人物を家臣として迎えてくれぬか?」
「その人物とは?」
何と、山本勘蔵の背後に猫背で、三十代前半? の痩せた汚い姿でいた牢人がいた。
「この本多正信を家臣にして頂きたい。実は才はあるが、気難しいく、他の坊官から忌み嫌われておる。惜しい者故、そなた与える。使いこなせば、織田信長を窮地に持ち込めよう」
俺も冷たい悪寒を感じる牢人に見えるが、父、山本勘助も醜い外見と年齢で仕官を断れた事もあり、気にしない事にし、
「本多殿にお聞き申す。そなたは何を得とする?」
本多正信は鋭く警戒しながら、俺を見て、
「それがしの得は策略にございます。特に、敵を知れば負ける気はしませぬな」
と、とぼけている。
山本勘蔵は、こ奴、面白いと思い。
「あいわかった。本多殿。俺の家臣になれ! 亡き父と似た才がありそうだからな」
本多正信は眼を見開き、驚きを隠す様に。
「ありがたき幸せ」
と、一言申したのである。
その後、若狭で本願寺教如と別れ、新たに、桂と本多正信を伴い、遠江、浜松城帰還したのであった。
織田の軍勢は田畑や家屋に火を掛け、民を見ると競う様に殺戮をしていく。
そんな中、織田の軍勢に紛れ、山本勘蔵は護衛の疋田文五郎と風魔衆五人、犬彦を伴い、武田勝頼の命でとある任の為、闇働きを行った。
闇働きの内容は、滅亡した朝倉の姫君を保護し、摂津の石山本願寺に送り、護衛するというものであった。
そして、どうにか加賀、尾山御坊に着くと坊官、七里頼周と下間頼照に面会し。
七里頼周は山本勘蔵達を迎えると、苦い顔で、
「お主が、あの武田を織田や徳川から勝利に導いた二代目山本勘助殿か……。お主が手緩い策で織田信長を逃がしたばかりに、せっかく奪った越前を失い、加賀も…。口惜しい……。この責如何するか!」
と、責め立てたが、そこへ、下間頼照は、宥める様に、
「七里殿。その辺にしておれ、我ら一向衆、本願寺顕如様に恥を欠かす積もりか? それとも信心が足らぬと申している様なものぞ! 山本殿、亡き朝倉義景殿の姫君をお頼み申したぞ! 我らは此処で織田を引き付け、その隙に落ち延び下され!」
すると、尼姿の十代半ばの娘、多分、朝倉の姫君が二人が山本勘蔵の前に来て、年長の姫らしき者が、
「私達の護衛に来て頂きありがとうございます。私は葵と申します。妹の桂共々、摂津の石山本願寺まで送り届けて下され、お願い致しますぞ」
更に妹、桂と思われる少女は、
「教如様に嫁ぐのは、約定通り、葵姉上様でしょう ね。私は今、好きな殿方が出来ました。よろしくお願い申します」
葵は驚いた様に、まさか……。
「桂。その好きな殿方とは、誰でしょうか? 知人でそのような器のある大名の殿方は居るのかえ?」
「その殿方は、大名の殿方では御座いません。私達を、憎き織田の魔の手から守ろうとして下さる殿方です……。そなたの事ですわ……。山本様……。いえ、勘蔵様……。どうか私を貴方様の嫁にして下さいませぬか?」
葵は頭に手を押さえて、
「桂。お戯れを……。確かに山本殿は織田信長を合戦で破った方ですが、下賎な身分の低き者……。その様な者に名家朝倉の者が懸想するなど許されぬ事ですが、山本なら良いでしょう」
山本勘蔵もこの桂の発言にろうばいし、
「俺には正室と側室、二人の妻がいり申す。しかし、亡き義景様の姫君で在られまする。桂姫様を嫁になど、身分が違いまする。どうか、俺の様な者は、たんなる家臣として扱って下され」
「成りませぬぞ山本殿! 桂の気持ちに応えないと、本当に尼になると誓いを立てているのじゃ……。それでは朝倉の血筋を残す役目が果たせぬ! 良いのか?」
「本当ですか、葵姫様……。桂姫様が尼に成るのは困りまする。しかしながら、亡き義景様の法要も済んでいないと思われます……。しかも、他家である。俺の妻に成るなど、世間の大名に笑われましょうぞ! ご再考して頂きたい」
だが、葵は笑顔で、
「そうじゃ、桂は他の誰でも無い、そなた……。山本勘蔵の妻に成る事を決意したのじゃ。これは上意である。そなたは桂を妻にするのじゃ! 二言は許さぬ!」
これには、流石の山本勘蔵も、反対できず。
「有難き幸せに存じる。必ずや朝倉家の血筋を絶やしませぬ」
と堪念した。
「分からば、良いのじゃ! 桂を頼みまするぞ」
こうして、山本勘蔵は朝倉義景の娘、桂姫を妻にする事を決めたのである。
その日の内に、加賀一向一揆衆の本拠地、御坊山城にて、七里頼周と下間頼照に面会し、事の次第を打ち明けたのであった。
当然、七里頼周と下間頼照は、葵姫との、本願寺次期教主である教如との婚姻を承諾したが、山本勘蔵が、桂姫との婚姻に難色を示したが、その日の夜、何と、本願寺教如が自ら船団を率い葵姫を向かいに来た。
山本勘蔵が、本願寺教如に謁見した際。
「私の許嫁を救いに来た。山本勘蔵殿には、儂の義妹である。婚姻、承諾致す。尼にするのは、余りにも勿体無い。私の妻の妹を幸せにして下され、今日より、私は同じ、朝倉義景殿の娘姉妹を妻にする事で、義弟として扱う。何か御力になれる時は、できる限り助力致する」
本願寺教如は、山本勘蔵に感謝の言葉を掛けた上に、自らの義弟として認めたのである。
その夜、船団の船の上で本願寺教如と葵姫、そして、山本勘蔵と桂姫は共に同じ場所で祝言を挙げ、本願寺教如は山本勘蔵にある事を任せたのである。
「義弟殿、私の願いを聞いて下さらぬか?」
「教如様、それは一体?」
「義弟殿にとある人物を家臣として迎えてくれぬか?」
「その人物とは?」
何と、山本勘蔵の背後に猫背で、三十代前半? の痩せた汚い姿でいた牢人がいた。
「この本多正信を家臣にして頂きたい。実は才はあるが、気難しいく、他の坊官から忌み嫌われておる。惜しい者故、そなた与える。使いこなせば、織田信長を窮地に持ち込めよう」
俺も冷たい悪寒を感じる牢人に見えるが、父、山本勘助も醜い外見と年齢で仕官を断れた事もあり、気にしない事にし、
「本多殿にお聞き申す。そなたは何を得とする?」
本多正信は鋭く警戒しながら、俺を見て、
「それがしの得は策略にございます。特に、敵を知れば負ける気はしませぬな」
と、とぼけている。
山本勘蔵は、こ奴、面白いと思い。
「あいわかった。本多殿。俺の家臣になれ! 亡き父と似た才がありそうだからな」
本多正信は眼を見開き、驚きを隠す様に。
「ありがたき幸せ」
と、一言申したのである。
その後、若狭で本願寺教如と別れ、新たに、桂と本多正信を伴い、遠江、浜松城帰還したのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし
佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。
貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや……
脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。
齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された——
※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる