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第一話(未来を変える為に負うリスク)

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「なぁ深紅たん。今日こそ良いだろ?一緒に風呂入ろうぜ。なぁ、なぁ」
家に帰宅するなり昨日の今日でまた深紅たんに混浴しようと誘いをかけていたのだが、何やら最近ハマっているお笑い番組に夢中になっているようで、暫くの間だんまりしたままだった。
……しかし、深紅たん。芸人の漫才やらコントを見てもほとんど笑いやしないなぁ。
最近流行りのパン一芸人の時にちょこ~っとだけピクッと肩を震わせたくらいで後はほんと全然だ。
その芸人の出番が終わるなり俺の方へくるっと振り向いて、
「や。と言いたいところだが、主のお願いを何でも聞くのも深紅の役目。了解した」
「へ、良いの!?やったー!」
「ただし」
「……ただし?」
「主にはパン一芸人のモノマネを見せて欲しい」
良いだろう。それくらいいくらでも見せてやらぁっ!
俺にも海パン着て風呂に入れってことね。あれと同じようなの持ってたかはわからんが、その
リクエストには答えよう。深紅たんのスク水姿を見られるんだから、それくらい安いもんだ。
「ふふふ。そうと決まれば」
深紅たんにゆっくりと歩み寄ると、休みの日でも普段着のようにいつも着ている学生服を脱がそうと手をかけた。
「あ、主?一体深紅に何を?」
「俺がスク水に着替えさせてあげよう。さぁ、バンザイしてごらん」
まるで変態親父のようにハァハァと息を荒くしながら深紅たんの服を脱がそうとする俺の姿は誰が見ても正に変態だった。
そんな異常な行為に深紅たんが嫌がらない筈もなく、着替えさせるのに少々時間が掛かってしまった。
こんな場面を来夢に見られでもしたらまず俺の命は無い。
「うぅ……主、酷い。深紅の服脱がした。深紅は主の着せ替え人形じゃない」
「ふ。悪く思うな。最近俺の言うことを素直に聞いてくれなかった深紅たんへささやかなお仕置きをしたまでさ」
深紅たんのスクール水着姿はやっぱりというか予想通りというか、滅茶苦茶似合っていてそのまま抱きついてしまいたいくらいの可愛さだった。
「深紅たんマジで可愛いわ。俺の彼女になってくれ」
「前にも言った筈。主には奥方がいると」
「ああ。そうでしたな」
同じ湯船に浸かっているのに全然狭くない。深紅たんの体が小さいからだろう。
隣を見れば、お湯に顔半分を沈めてブクブクと泡を出して遊んでいる。
そんな姿がまた魅力的で、俺からしたら文句のつけようがない最高ランクの可愛さなのである。
「主、目が痛い。シャワー、シャワー」
「はいはい。ちょっと待ってな……ほれ」
気付けば背中を流して貰う筈が、俺が深紅たんの髪の毛を洗ってやっていた。
シャンプーの泡が少し目に入ったくらいで騒ぐとことか何か子供みたいで可愛いな。
あんな激しい戦闘で頭かち割られたり腕や手首斬られたりしても泣いたり痛がったりしなかったのにな。不思議なもんだ。
「主、髪洗うの下手くそ」
「そうかよ。じゃあ次は体洗ってやる。スク水脱げ、脱げ」
「大丈夫。自分で洗う」
先程無理矢理着替えさせられたことを思い出したのか、俺に対してすっかり警戒心を持ってしまっていた深紅たんだった。
「なあ、深紅たん」
「……何?」
体を洗い終わった後もう一度湯船に浸かり、隣の深紅たんへ話しかける。
「こんなとこで話すような内容じゃないと思うのだがな、俺を天才科学者にさせないよう馬鹿に導くとしよう……でも、そうしたらお前は、深紅たんはどうなっちまうんだ?」
ずっと、未来の話を聞いてから気になっていたことだ。
俺の人生を変えちまえばタイムマシンもアンドロイドもこの世に誕生しなくなるということだろうから、もちろん同じアンドロイドである深紅たんの存在も消えて無くなるのではないのか。
そんな未来は嫌だぞ。俺はもちろん悲しむし、日向だって同じくらい淋しがるだろうぜ。
「主が天才科学者になったからこそ、深紅は此処に存在している。未来が変わればもちろん跡形もなく消滅する筈」
「お前はそれで良いのかよ。未来で処刑され
る俺を救って自分は消えるって言うのか?」
「深紅はその為に過去に来た。主を救えるのなら悔いはない」
「……俺は、反対だからな」
「……主?」
「深紅が消えるなら俺は明日から死ぬ気で勉強を始める。お前の計画には賛成出来ない」
深紅たんが俺を死刑という道から救う為、態々過去にまでやって来てくれたその気持ちは正直に嬉しい。
でも、彼女が消えるくらいなら例え後二十年ちょいくらいしか生きられなくてもそれでも構わない。残された時間を明るく楽しく生きていこうじゃないか。
「主、駄目。深紅は大好きな主に死んで欲しくない」
「俺も気持ちは同じだよ。お前が俺を思ってくれるように、俺もお前に消えて欲しくないんだ。俺のお願い、聞いてくれないのか」
「でも、それでは主は……きっと死刑に」
「俺が死ぬまで後二十年ちょいもあるんだ。死刑にならない道を考える時間は十分にあるんじゃないか?」
「……わかった」
俺の言葉を聞いて何となくだが深紅たんがちょっと涙目になっているような気がしたが、風呂の中だし目に水が入って赤くなってるだけかもな。
「それにさ、天才の道を行くならこれからは悪いアンドロイドに深紅たんが苛められないで済むだろ。あんなのはもう嫌だからな。深紅たんが痛そうな目に合ってるとこ何か俺は見たくないぞ」
「あり、がと……深紅のこと心配してくれて」
いつもほぼほぼ無表情の深紅たんが少しだけニコッと微笑んだのを俺は見逃さなかった。
防水のカメラがあるのなら持ち込んで激写したいところだが、家にそんな高価な物を買える金などない。
「ほらほら深紅たん。あひるさんだぞぉ~」
湯船にぷかぷかと浮かんでいたあひるのおもちゃを深紅たんに差し出した。
「主、深紅子供じゃない」
「子供みたいに可愛いのは確かだろ」
「照れるな、主」
「よく言われるんだろ。未来の俺に」
「そう」
俺の深紅たん好きは二十年以上先の未来でも続行中らしい。
……そう言えばと、俺が深紅たんに頼まれたモノマネをしていないことを思い出したのは風呂を出た後だった。








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