友人の距離

たいら

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友人の距離

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 翌朝、ホテルのレストランで二人で一緒に朝食を食べた。
 僕は昨日のことを思い出し、恥ずかしくて彰の顔があまり見られない。でも彰はいつもと変わらずまるで何もなかったかのようだ。
「悪いな。一緒に観光ができたらいいんだが、今日も撮影があるんだ」
「いいよ、彰は仕事だからね」
「また帰ったら会おう」
「うん」
 帰ったら……。僕はパソコンを持って来たしここでも仕事はできるけれど、彰がそれに気が付いていないわけがない。 
 帰れったことか……。
 僕はがっかりしながらパンを頬張る彰を見た。表情はいつものように穏やかに見える。
 僕は昨日のことでさらに彰に近づいたと思っていたのに、彰はそうは思っていないのだろうか?
「どうした? もう食わないのか?」
 彰はいつものようにカフェオレのおかわりを注文してくれた。
 東京に戻って来てしばらく経っても彰から連絡はなかった。
 僕から誘っても用事があると断られてしまう。  
 何が起きたんだろう。
 あの朝からか? いやその前から? ……わからない。
 彰に会えないだけで、連絡が来なくなるだけでこんなにも辛いなんて。もう僕はあの告白の前には戻れないんだと感じる。彰の温もりを知らなかった日には戻れない。
 こんなことになるなら秋田になんかに行かなければ良かったんだ……。
 きっとあの日から僕らの関係は変わってしまったんだ。
 たまに出る僕の行動力を恨む。
 僕は大量に買ったお土産のきりたんぽを見たくなくて、家を飛び出して彰とよく一緒に来ていた喫茶店に来ていた。彰のことを思うとこの店のことを思い出し一人で来てしまうのだ。
 一人パソコンを睨みながらカフェオレを飲んでいると彰からメールが届いた。
『今日会えないか?』
 僕は嬉しくて、文字通り飛び上がって喜んだ。





 そこは初めて行くメキシコ料理屋だった。彰と一度も来たことがなく、なんの思い出もない場所だ。
 僕と彰は向かい合わせに座り、賑やかに飾られた店装と音楽の中、もくもくと食事をしていた。
 彰はあまり僕を見ない。
 僕はやっぱり何か彰を怒らせてしまったのだろうか?
 久し振りに会ったのにこんな悲しい食事になるとは思わなくて、僕は食べ慣れない味だということもあり料理を半分以上も残してしまった。
 食事の後の帰り道、僕らは並んで歩いた。
 僕はなんだか今日の彰と話すのが怖くて、車たちのテールランプの上に一人浮かぶ月を見ながらゆっくりと歩いた。
 三日月だ。
 歩いても歩いても距離が縮まらない三日月。
 近づくには天に向かい何年も何年も歩き続けなければならない。しかし歩き続けることができるのならいつか会えるはずだ。
 そんなことを考えている僕の隣で彰がぽつりと言った。
「征、俺たちもう会うのをやめよう」
 僕は立ち止まった。
 やっぱり、と思う。
 冷たい空気の中で自分が息がしづらくなっているのを感じた。
「どうして?」
 彰も立ち止まり、僕を振り返った。
 街灯の光は彰の背中側にあり、反射して表情が良く見えない。
「俺が悪い。俺があんなことを言わなければ良かったんだ」
「なんのことだ?」
「俺はお前が幸せでいてくれればそれだけで良かったんだ。お前が俺に応える必要は全くない。俺のことはもう忘れてくれ」
「……どうしてそんなこと言うんだよ」
「もう俺はお前の友人ではいられない。俺はお前を苦しめたくないんだ。もう俺たちは一緒にいない方がいい。……お前は俺といない方が幸せになれる」
 これ以上、彰の言葉を聞くのはつらかった。
 鼻と喉の奥が痛い。
 僕彰の右手を掴んで引っ張った。
 やっと彰の潤んだ瞳が見えた。
「お前は悪くない。お前がいなくなっても僕は幸せにはなれない。お前が僕を好きでも好きじゃなくても、僕はお前がそばにいなくちゃ駄目なんだ……」
 一気に話して息が苦しい。僕は喘ぐように息継ぎをしながら言った。
「……お前が望むことなら、何だってするから! ……お前が望むなら、友人じゃなくてもかまわないから! だから……」
 彰の目から涙がこぼれるのが見えた。人や車が横を通り過ぎても気にしなかった。
 僕は彰を抱きしめた。大きな体が怯えたように固くなる。
 彰の嗚咽が聞こえた。
「気づかなかった僕が悪い。もっと早く気づけば良かった。僕にはお前しかいないのに……」





 僕らは夜道を手を繋いで歩き、家へと帰った。
 彰はなかなか泣き止まなかった。
「彰、ほら、見てごらん。三日月だよ。僕らが恋人になった記念日の三日月さんだよ」
 月を指差す僕を見て彰が鼻でフフっと笑った。
「……それでも小説家かよ」
「なんだよ。人が初めての告白したってのに!」
 彰は笑いながら涙を拭いた。



 
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