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しおりを挟む結弦の勤務時間は昼の十二時から夜の八時までに決まった。
店が早く開店できるように掃除をしてもらい、本棚に本を詰めてもらうのが今の仕事だ。
「どう? 片付いてる?」
俺は早めに本店の方を閉め、結弦のいる支店に顔を出した。土産にコンビニで買った缶チューハイと缶ビールを持って。
もうすぐ終業の八時だが結弦は白いエプロンをして埃まみれになりながら本に付いた埃を払っていた。見ると本棚にもだいぶ本が詰まっている。これなら来週にも開店できるかもしれない。
結弦がふっくらしたほっぺたで笑った。
「はい。だいぶ目途が付いてきた感じです」
「もう終わりだろ? これ飲んでっていいから」
そう言って俺は酒が入ったビニール袋を結弦に差し出した。すると結弦は困ったように眉毛を下げた。
「あ、すみません、僕、お酒飲めないんです」
「えっ、そうか。悪かったな。じゃあお茶買ってくるから」
「あ、いえ、大丈夫です。お茶なら持ってますから」
そう言って結弦は隅に置いていた自分の鞄からペットボトルを取り出した。
「……そっか。じゃあ次はお菓子でも持ってくるよ」
酒よりもお菓子の方がよっぽど嬉しいのか結弦がふっくらした頬をさらに赤らめて笑った。
「ありがとうございます」
俺は仕方なしと埃の残る床に座り、かわいそうな缶チューハイの栓を開けた。お茶を持った結弦も横にちょこんと座る。
「良路さんはどうして古本屋さんをやってるんですか?」
結弦は人懐っこそうな顔でそう聞いてきた。なんだか大きな子犬みたいだ。
人見知りではあるが慣れればよく喋るタイプと見た。俺はこれからのことを考え、結弦と仲良くなるために自分のことを少し話しておくことにした。
小さな頃から祖父の横に座って店番をしていたこと。親父に反対されながらも店を継いだこと。突然地上げ屋がやって来たこと。店を一度売り渡したが、また谷神のおかげでこの店に戻ってこられたこと。
谷神がやって来たのは俺がほとんど話し終え、缶チューハイニ缶を飲み終わりビールにまで手を出し始めた頃だった。
「なにやってるんですか」
谷神が店の古いガラス戸を開け姿を見せた。会社帰りでそのまま来たのかまだスーツ姿だ。
「おぉ」
俺は手を上げて挨拶をした。
「あっちにいないからこっちかと思って来てみたんですよ。まったく……」
どうやら一度家に帰ったらしい。
谷神が俺が空けた缶チューハイを見てから俺を睨む。俺は肩をすくめ、目をそらした。
気まずい空気が流れる中、横に座っていた結弦が口を開いた。
「……あ、あの、この方は」
「ああ、こいつがオーナーの谷神だよ。こいつがこの店を取り返してくれたんだ。で、こっちがアルバイトの狩野結弦くん」
「どうも」
谷神が笑いかけると結弦も慌てて頭を下げた。
「ど、どうも。はじめまして」
「結弦くん、もう九時過ぎてるけど大丈夫?」
谷神が近付き、左手にはめている腕時計を結弦に見せた。
「あっほんとだ! ぼ、僕、帰ります」
結弦がすぐに立ち上がった。
「そっか。もうそんなに時間経ってたのか。遅くまで悪かったな。気をつけてな」
「はい!」
結弦は鞄を掴み、バタバタと急いで帰ってしまった。見たいテレビでもあったんだろうか?
「良路さん」
「ん?」
「だめですよ。こんなところで飲んだら。早く家に帰りましょう」
「んー、まだ。これ飲み終わってから」
俺はまだ半分残る缶ビールを谷神に振って見せた。しかし谷神に奪われ一気に飲まれてしまった。
「あっ!」
谷神が空になった缶を床に置いた。
「まったく、子供みたいな人なんだから」
「俺は子供じゃなっ」
反論しようとしたが言い切る前にキスをされた。ビールの味のする口で舌を強く吸われ、そのまま押し倒された。
激しいキスが終わると首筋を舐められた。シャツのボタンがはずされ、手が忍び込む。
「……良路さん……」
「……谷神……、……あっ…………」
今度は乳首を強く吸われた。
「……ここでも、するのか……?」
「もちろん」
谷神の舌が腹へ下がり、ベルトをはずされた。
「……あ……、……あ…………」
あっという間にシャツのボタンを全てはずされ下半身がむき出しになってしまう。足の間に顔を埋め、舌を這わせながら俺を見た。
「二人で何を話してたんですか?」
「……ん……、お前のこと……」
「僕?」
「……お前が俺を……、……あっ……」
谷神が俺のものを握り、扱きながら根元の膨らみを口に含んだ。
「……僕が、良路さんの人生をめちゃくちゃにしたって?」
「……ちが……」
あまりの気持ち良さに目をつぶった。
谷神の舌は根元から上へと舐め上げ、形をなぞった。そしてゆっくりと口の中に含まれてしまった。
「……あ、……あ…………」
俺は開いた足の間にいる谷神の髪を撫でた。
卑猥な音が古い本屋の中に響く。俺と谷神がしていることを床に置かれた古い本たちや古い壁に打ち付けられた本棚たちが静かに見ている。
この店にも長い歴史があるはずなのに俺たちが塗り替えていく。
「……お前の、おかげだって、いったんだ……」
あの店が俺にとってどれだけ大事か。失ってから気がついた。
谷神が俺のものから口を離し、顔を上げた。
「良路さん」
「ん?」
「……店を買い戻したから僕と付き合ってるんですか? 僕のこと本当に好きですか?」
谷神が眉毛を下げ、不安そうな顔をしている。谷神はたまにこんな顔をする。
俺を体ごと全て奪ったくせに。
「……好きだよ。もう俺にはお前しかいない」
本当はあの店ももう谷神のものだ。
「…………」
「お前がいなきゃ、自分寂しがっていることにも気づかなかった」
谷神は起き上がり、俺を見下ろす。
「……それは、僕じゃなくても」
「さっさとヤろうぜ。お前が俺の体をこんな風にしたんだろ? いまさら不安がるなよ」
俺の体はさっきからずっと待ち侘びていた。谷神に抱かれるのを。
「お前が俺に男を覚えさせたくせに。責任取れよ」
俺が睨むと谷神がやっと笑った。
「そうですね」
また首筋に唇が触れた。
俺の体はずっと谷神を待ち侘びていた。もうこれがなければ駄目なくらいに。
谷神の体が乗っかり、押し潰される。この心地良さも谷神が俺に教えたことだった。
「……ん…………あ…………」
抱きしめられたあと谷神の濡れた指が中に入ってきた。
「僕、良路さんのためだったらなんだってできるんですよ」
谷神が耳元で囁く。俺の中で指が動く。俺の中を広げ、早く繋がるために。
「……んっ……」
「良路さん」
体が重なったまま貫かれすぐに腰を使われる。
「……あっ!……あっ!……あっ!……谷神っ!……あぁっ!……」
途中から体をうつ伏せにされるとまた谷神が入ってきた。俺を奥まで犯そうと深く突き刺して腰を振る。
「……あぁっ!……あぁっ!……あぁっ!……あぁっ……あぁっ……あぁっ……!!」
最後はひれ伏すような形で谷神にイかされ、結弦が掃除したばかりの床に精液を放っていた。
年季が入って黒ずんだ木の床に俺の白い精液が散らばっている。
しかも谷神が抜け出たあと尻からどろりと溢れ出たもので、中に出されていることに気がついた。
「…………っ」
二階に風呂場があるとは言え、これはかなり面倒くさい。
しかもまだ酔っているし、ここで寝ることはできないから家に帰らなくちゃならないし、掃除もしなくちゃならないし、面倒くさいことだらけだ。
「……谷神、お前な……」
床でぐったりしながら睨む俺を見て谷神が笑った。笑いながら俺を起き上がらせる。
谷神は終わったあともいつも元気だ。俺みたいにぐったりすることはない。爽やかに笑ってやがる。
「良路さん。僕はあなたのためならなんだってできるし、もしあなたに嫌われてたとしても絶対に放しませんからね」
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