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ビビりとモフモフ、冒険開始

語り合おう、物理で

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お昼ご飯は残念ながら後回し。
ディアさんに促されて、お兄さんとサシで話すことになった。土鍋ご飯食べたいのに…!
俺の目の前に立っているお兄さんは、未だ目を合わせようとせず、灰色のちっこい狼を抱いている。

「………」
「…………」
『?』
「……………」
「……いや、せめて何か言おうか?!」
「あ、ああ…その、いざ会うと、何を言えばいいのか……。」

なんだ、その思春期的な言い訳は。
好きな子を呼び出したはいいけど、何話せばいいんだコレ的なやつか。
感情真逆だろうけど。

「んじゃ、俺からいい?」
「…何だ。」
「あのさ……そn、ぷふぅっwちょ、ごめwコラwwwお前らw飛び付くなってのw」
『わーい、ぽかぽかだぁ~♪』
『ぽかぽかのおにーちゃん、あそぼー♪』
「…流石同類……。」

い、一応真剣に話したいんだけどなぁ!
ちっこい狼達が、尻尾やら髪やらにじゃれついてくる。
なんて可愛すぎる妨害だ…!
ちょ、待てコラw服に入るのはやめてwww

「わーかったからwあ、ごめんwで、さぁw狼の赤ちゃんw抱っこwしwてwるとかwwwどういうw心境のw変w化?www」
「わ、笑わないでくれないか…!」
「いや、アンタをw笑ってんじゃwなwくwてwお前ら、いい加減に離れてwww」

毛がw首とかに当たる毛が、くすぐったいんだよw
ダメだこれ、お話しできねぇwww

「詩音、詩音!wこのチビちゃん達www引き取ってwww」
「は、はい!お邪魔したら、ダメですよ~。」
『わぁ~』
『きゃ~さらわれる~』

あー、腹筋鍛えられるわw
よし、コレで話せる。

「んで?どしたの、その子。」
「…不可抗力だよ。ディアドルフ殿に『落とすな』と言われて、渡されたんだ。」
「……それって、『降ろす』なら問題無いんじゃね?」
「コレを降ろすと、他が寄って来る。一番大人しいのが、コレなんだ。」
「地味に撫でてんの、気付いてるからね?」
「………………わ、私の勝手だろう!」

さては、抱っこしてる内に、情が湧いたんだな?そうなんだな?ようこそモフモフの世界へ。

「なーんか、拍子抜け。」
「…拍子抜け?」
日輪十ヶ条ひのわじゅっかじょうその1。喧嘩は売るな、但し売られたら高く買ってよし。」
「なんだそれは。」
「アンタには盛大に喧嘩売られたからさぁ…次会ったら、ボッコボコに伸してやろうと思ってたんだよってこと。」

日輪十ヶ条その4『女子供は慈しむべし』ってのもあるけど、お兄さん子供って歳じゃないしょ?

「…今は、その気が無くなったと?」
「だって、なんか可愛いの抱っこしてるし。そのちっこい狼に、情湧いたんだよな?認めちまえよ、無害な獣は可愛いだろ?」
「か、可愛いなどとは、思っていない!」
「へー?」
『えー?』

そのわりに、撫で方優しいけども。

「まあ、いいや。つーわけでだ。」
「…?」
「ボッコボコにはしねぇけど、一発殴らせて!」
「えっ」
「うぉらぁああ!!」

フルボッコは勘弁してやるけど、何もしねぇわけねぇだろうがぁああああ!!
加減はしてやっから、殴らせろ!

「ごはっ……?!」
『わ~』

勢いだけそれっぽく見せて、軽く当てるだけでもぶっ飛んだよ…。ラルフとはやっぱ違うな。
狼の仔は、腕から抜け出て無事着地したね。

「けほっ、けほっ…!」
『だいじょーぶ?』

悪いなお坊っちゃん、顔面じゃないだけマシと思ってくれ。

「ふぅ…アンタもかかって来いよ。何言えばいいか、解らないんだろ?とりあえず、思いの丈をぶつけてみようぜ!」
「ぐっ…な、なんて野蛮な…!」
「野蛮でも、何の進展も無いよりゃマシだって!それとも、貴族のお坊っちゃんに、殴り合いの喧嘩は難しいかな?これくらいできないんじゃ、いざってときに領民を護れないんじゃないか~?」
「っ、馬鹿にするな!」
『がんばれー』

お、魔法とかじゃなく、拳でやり返してきた!
いいね、意外とガッツあんじゃん!
しかし、容赦なく顔面狙ってきたな!

「くっ……!」
「っとと…」

顔を殴られて、そのまま拳押し付けられてるのを、背筋使って額で押し返す。
デスノ●トでこんなシーンあったな……。
やってみて解った。思うよりキツイ。

「おりゃっ!」
「なっ…」
「どっせーいっ!!」
「うわぁっ!?」

思いっきり上体を起こしてバランスを崩させ、勢いそのままに突撃した。
飛びかかりつつ、襟を掴んで前転を決めれば、グルンと縦に回して地面へ叩きつけることができる。
一応相手は一般人なんで、ダメージを軽減させるため、叩きつける瞬間に地面との間に入ってあげた。

「おふっ…!」
「ぐぁっ?!」
「けっほ…結構痛いなこれ。」

マトモに地面へぶち当ててたら、お兄さん骨折れてたかもな。

「このっ…放せ俗物っ!」
「あだっ?!…コソコソ呪いなんて卑怯な手使わなくても、正面からバトルできんじゃんw」
「う、煩いな!」

後方頭突きされるとは、予想外だわw
案外石頭だね、お兄さん。
意外性に免じて放してあげよう。

「ここまで来たら、拳に乗せて言いたいこと言っちゃおうぜ!」
「拳に乗せて?」
「ほらほら、カモン!」
「そ、そうだな……私はっ!貴殿に謝るつもりはない!」

そうそう、殴り合いコミュニケーションといこうじゃないか!
お兄さんの拳を手で受け止めて、此方も止めれる程度の速さと力で拳を返す。

「えー?!謝罪くらいしろよ!」
「家を護るのは、次期当主として当然だろう!」
「なんで俺が、アンタん家どーこーすると思ったのさ!」
「獣人は粗暴で、悪辣な者ばかりだからな!」
「それどこ情報?!奥方様?!」
「ああ、そうだ!」
「なんでそんな情報出たの?!」
「母上は幼き頃より、獣人の野蛮な振る舞いに心を傷めておられたのだ!」
「アンタ自身は、獣人に会ったこと無かったんだよな?!」
「母上が私に虚偽を教えるわけがないだろう!」
「誰もアンタの母さんが嘘つきなんて言ってねーよ!」

拳の打ち合いから、相手が掴みかかってきたんで取っ組み合いになった。
ガキみたいな喧嘩だけど、今の俺らには調度いいだろ!

「つーかアンタ!こんだけガッツあるなら、呪いなんて手に出てんじゃねぇよ!卑怯者ー!」
「表立って粛正しては、母上の行いまで表沙汰に成るではないか!」
「母上母上煩ぇなマザコン野郎!大人なんだから、てめぇで責任取らせとけ!」
「母上でなくとも!男に産まれた以上、女性は護るべきものだ!」
「奇遇だな!俺もそう思う!」
「矛盾しているではないか!」
「仕方ねぇだろ!アホなんだよ俺!」
「開き直るな愚か者!!」

ゴロゴロと草原を転がりつつ、掴み合って引っ張り合う。
何を思っているのか、相手を罵りながらも叫んで伝え合う。
こういう喧嘩は嫌いじゃない。
お互いを理解するための、儀式みたいなもんだ。

『がんばれ!がんばれ!』
『ぽかぽかのおにーちゃん、まけるなー!』
『きみどりのおにーさん、いけいけー!』

ちっこい狼達を観客に、お兄さんがヘトヘトになるまで喧嘩を続けた。

「いいなー、じゃれるの楽しそう。帰ったらガルヴァと遊ぼうかな。」
『あそぶのです?』
「洪水,台風,大嵐を起こさぬようにな?」
「き、規模が違いますね……。ガルヴァさんとは?」
「家の三男だ。」
『きょーだい、いっぱいですか?』
「うん、いっぱい居る!ガルヴァは俺と双子なんだよ~。あんま似てないけど。」

俺達が真剣に取っ組み合いをしてる中、他の3人と1匹は、呑気にそんなことを話していたそうな。

───────

「ぜー…はー……」
『きみどりのおにーさん、たおれたー!』
「…死んだー?」
「か、勝手に殺すな……!」
『だいじょーぶ?』
『おひるねー?』

お兄さんが、疲労から大の字に寝転んだことで、喧嘩はお開きとなった。
観戦していた狼ちゃん達に囲まれても、追い払う気力さえ湧かないらしい。

「ありゃ、狼ちゃん達お昼寝モード?遊びたかったんだけど。」
「元気だな、ヒノワ殿…本当にラルフと同年代なのか……?」
「え、たぶん?……そういや、ラルフ何歳?」
「……14歳だが…。」
「へぇ~……うっそぉ?!4つ下?!」
「なっ……?!ということは…じ、18歳……年上……?」
「え、お兄さんいくつ?」
「17歳……。」
「マジかよ年下?!ごめん!20代だと思ってた!!」

うーわ、うーわ!
てっきりラルフも、18か17だと思ってたのに!
中学生?!中学生なの?!
今の俺と、身長あんま変わんないぞアイツ!(178㎝くらい)

「……俺、14歳に見えるんだ?」
「…13歳か…12歳の可能性も考えていた。」
「うそーん……。」

俺の見た目、小6~中2かよ…!
日本人マジックかかってるにしても、若く見られ過ぎじゃね?!

「18歳で素がコレか…。」
「アホなのは自覚ある。」
「なら、まだ良い方だな。…はぁ…こんな風に、誰かと組み合ったのは初めてだ。」
「ラルフと、殴り合いの喧嘩とかしないの?俺は妹とよくやってたけども。」

ひたすら、俺がポコポコ殴られるだけだったけどね。
可愛い妹に拳はふるえない。

「ラルフと喧嘩をしたことはないな…。ヒノワ殿…妹君相手に、こんなことを?」
「いや、俺が殴られるだけ。」
「安心したよ。」

そっかー…男兄弟に、取っ組み合いの喧嘩は、付きものだと思ってた。あ、でも詩音もお兄さんと取っ組み合いはしてなかったか。
家柄がいいと、そういうのも無いのかね?
詩音もデカイ病院のボンボンだし。

「んで、俺と喧嘩した感想は?」
「そうだな……貴殿を警戒するだけ、無駄だと解ったよ。…母上にも、憂いは晴れたと伝えよう。」
「おー、ありがと!俺としては、襲ってきたり呪ってきたりしなきゃ、それでいいからね~。」
「ああ。」

ふぅ…誤解とけて良かった~。
ラルフが板挟みじゃ、可哀想だもんね。

「……ところで、呪いは不発だったらしいな?」
「不発ってーか、ディアさん一家の活躍で解呪されたらしい。」
「解呪……そうか。彼の一族なら、腕輪の呪いを解く程度、造作も無いのだろうな。」
「でもなんか、妙なんだよね。」
「……妙、とは?」

デイヴィーさんの事だから、何か考えあってやったんだろーけどさ。

「解呪はしたんだけどさ…タイミングが……。呪い発動したら、解呪されるようになってたんだわ。」
「な、何…だと……?!で、では何故私は無事なのだ?!」
「え、知らね……発動してから解呪だと、お兄さんに何かあるもんなの?」
「……発動した呪いを解呪されると、術者に呪いが返ってくるものなんだ……。」
「……マジで?!」

え、そういう報復?!何それ怖っ!
ディアさんが連れて来なかったら、お兄さん俺のこと誤解したまま石になってたの?!

「な、何故そんなことに成ったんですか?!」
「兄ちゃん!ちょっと、どういうことさ!?」
「あ、バレた?いやぁ、人を呪うような奴は、一回呪われてみた方がいいかと。」
「やめてよ!俺は殴り合って解り合う派なの!」
「…対話の機会を設けて、正解だったな。」

ホントだよ!ありがとうディアさん!
何も知らない内に、とんでもない事成るとこだったわ!

「だから言ったでしょ。本人にちゃんと説明して、了承得てからやれって。」
「だってー、俺内心ブチギレてたもんだからさー。屋敷ごと吹っ飛ばさなかっただけ、マシだtあだっ?!…シャベルいたい~……っ!」
『ひゃあっ!しらないおねーさん、でてきたです!』

…一瞬で銀髪のスゲー美人さんが増えた……!
空間転移?…武器がシャベルってことは…

「……えーと、もしかしてお兄さんっすか?」
「…よく解ったね。大抵女だと断定されるんだけど…。」
『おとこのひと、です?!』
「ディアさんとこのご長男、野郎からナンパされまくる超美人って聞いてたんで。」
「デイヴィー、もう一発覚悟いい?」
「なんで俺って決めつkいだぁーっ!」
「学習しないの、アンタくらいだから。」
「…お兄さん…!その気持ち、解ります……っ!」
「…アンタがシオンか。……そんなに可愛い顔してると、大変そうだね。」

詩音が両手で、お兄さんの手をガシッと掴んだ。
同じ悩みを抱えてるもんな。
…判断間違えなくて良かったぜ。

「あ、あの、ディアドルフ殿…詳細をご説明いただけるでしょうか…?」
「生憎、次男に任せると言ってしまったのでな。息子達に聞いてくれたまえ。」
「あー、まぁザックリ言うとだな。君がミライを呪ったら有罪ってことで、呪い返し発動するようにしてもらったんだよ。兄さんに。」

呪わなければ、見逃す仕組みだったのかぁ…。
……インガオホー?

「ミライがアンタの石化を望まないなら、装備する前に、シオンに解呪させろって言ったんだけどね。…まあ、こうなっても…父さんが話す機会くらいは、作ってくれると思ったから…呪いが返ってから、12時間で石化するように調整しといたけど。」
「そ、そんなことも可能だとは…流石はディアドルフ殿の御子息、と言ったところか……。」
「時限式とかスゲェ。」

ディアさんの行動まで、計算に入ってるんだ…。

「でさ、俺としてはお兄さんの気持ちもチョイ解ったし…許すっつーか、石に成れとまでは思わないっつーかで…。」
「なら、今の状態で解呪をかければいいよ。呪いはもう、返ってはいるから。」

ほほう。

「詩音、解呪してやってよ。」
「わ、解りました。私も怒ってますけど…未来くんが、それでいいなら。」
「…感謝する。」
「ミスったら、俺が解呪するから。気楽にやっていいよ。」

……気楽な解呪ってなんだろう。
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