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ビビりとモフモフ、冒険開始

日本の味と局地的狼祭り

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八百屋さんに、見たことも無いような植物を、アポなしで売りつけたデイヴィーさん。
買い物の後、散歩がてらやってきた平原で、俺らにも同じ植物を少し売ってくれた。

詩音の計算によると、単価が八百屋さんに売った半額らしいけど、いいの?少量だけどさ。
…弟価格?何じゃそりゃ。

「コレがビットの実?」
「そう。凄く甘いから、お菓子作りに使えるんだよ。馬鹿みたいに高い、砂糖より断然お得♪」
「お菓子ですか!」
「へぇ~。」

砂糖って高級品なのか。
そういや、アイテムボックスにあったのは、砂糖じゃなくて蜂蜜だったな。

「何か作ろうかな…クッキーくらいならできるかも。」
『クッキー、しってるです!そうちょーさん、たまに くれるのです!』

そういや、小梅にも時々、手作りクッキーあげてたな。
……ベーキングパウダーさえあれば、にゃんこ用ニンジンクッキー再現できるぞ…!
ベーキングパウダーって、要は重曹だよね…炭酸水素…カルシ…ウム?ナトリウムだっけ?ベリリウムではないことは確かだ。
……どうやって作るんだろ…。
くそぅ、科学真面目に受ければ良かった……詩音知らないかな?

「この、ソイという茶色の葉っぱは、何に使うんですか?」
「調味料だよ。何て言うか…塩っぽい不思議な味がするんだ。煮出して何かにかけてもいいし、すりおろして練って、スープに入れると溶けていい味になるんだ~♪」
「塩っぽい不思議な味…?スープ……?!」

……まさかコレ…醤油,味噌の原料か?!
だとすれば、料理の幅が広がる!

「ふ、ふふふ…いい買い物ができたぜ、兄ちゃん…!俺、たぶんお得意様に成るわ!」
「気に入ってくれた?いずれ、家の菜園と果樹園案内してあげるね~。」
「いいの?!」
『おうちで、コレが とれるです?』
「そうみたいですねぇ。」

もしかして…この分なら、アレも扱ってるのでは?!

「ねえ、兄ちゃん!米って植物解る?!」
「コメ?」
「えっと、見た目は麦に似ていて…水を張った土地で育てて、こう…先端の尖った楕円形の小さい実が、幾つもなる植物…でしょうか。」
「んー、コメって名前じゃないけど…ソレっぽいので、ライスってのがあるよ。」
「「それ!!」です!!」

貴方が神か…!
日本のソウルフードに、異世界で出逢えるとは…!

「でもアレ、食べるの?焼いたら牙折れそうなくらい硬くて…煮ればべっちょべちょになるから、俺あんま好きじゃない……。」
「いや、米は炊けぇええええええええ!!」
「た…竹?」

調理法確立されてないんかーい!!
なんて…なんて勿体ない!

「小梅、土鍋だ!至急土鍋を作ってくれ!」
『ど、なべ?おなべですか?』
「そう、土の鍋!『ねこなべ』くらいの大きさのやつ!昨日の浴槽と同じ素材で!ピッタリ嵌まる蓋も!あ、蓋に小さく穴空けて!」
『はいです!』
「土の鍋?え、何するの?」
「お料理ですよ♪」
「さあ、ライス出して!」
「えぇ…本当に食べるの?」
「詩音、料理セット!あとテーブル!」
「はい、セッティングしますね!」
「えーと、計量カップ…兄ちゃん、ライスはこのカップの線に沿って、2杯分用意してね!」

計量カップ、作っといて良かった。
詩音の水属性魔法は、ミリリットル単位で量を指定できるからね。
それを利用して、キッチリ作ったんだよ。

さて、素晴らしい植物を売ってくれたお礼も兼ねて、デイヴィーさんに、米の炊き方を伝授しようじゃないか!
序でに、ソイを使って豚汁擬きも作ってしんぜよう!
先ずは、釜戸作らねば。

『そうちょーさん、おなべ できたです~♪』
「お、ありがとう小梅!次は、鍋が乗せれるように…えーと、壁が一ヶ所無い箱形の土台作ってくれ。」
『はいです!』
「詩音、テーブル出したら、水の瓶何本か出しといて!速やかに置けよ?俺に渡そうとか、思わなくていいからな!」
「は、はい!」
「よっしゃ、食材切ろう。」

詩音、よく転ぶんだよ。
独りで走らせたりすると、何も無い所でも転ける。
だからいつも、手繋ぐんだが…
昨日置いてっちゃった時は、大丈夫だったんだろうか……。
両脇に2人以上いれば、対応できるけど…ラルフとレナさんに迷惑かけなかったかな?

そういや、昨日は液体果実水持って歩いてたのに、珍しく溢したり落としたりしなかった。
コイツ…割れ物は割る物、液体は溢す物ってレベルでやらかすんだけどなぁ。
バイトでも、ホール担当という名の、スタッフにゃんこの世話専門人員だったくらいなのに。
……運がまた、本気出してきたか?

「ミライ、ライスは白くなるまで剥くの?俺やっとく?」
「うん、頼む!剥いたら何回か洗って、その器に入れて水に浸けといて!」
「りょーかい。」

…風属性魔法って、精米もできるんだ……!
便利だな~……。

よし、さっき買ったゴボウを軽く揚げ焼きして…一旦取り出してから、薄切りしたオーク肉も表面をカリッと焼く。
アクセントに刻み生姜入れてっと♪

『だい、できたです!』
「おお、いい感じ!ありがとうな、小梅~♪」
「今は、何作ってんの?」
「豚汁ならぬ、オーク汁!」
「いいですね!何かお手伝いすること、ありますか?」
「ソイをすりおろして欲しいんだけど…すり鉢とか無いな。」
『どんなのですか?コウメ、つくるです!』
「最高かよ小梅!」

土属性魔法マジ有用…!
詩音、割るなよ?小梅の善意を割るなよ?

そろそろ、野菜全部入れよう。

「えーと、ソイは…コレですね!」
「あー!待ってシオンくん、それサビの葉!似てるけど、鬼辛いやつ!ソイは茎がしんなりしてるのだから!」
「え、あ、此方ですか?」
「そう、それ!ごめんごめん、使わない植物避けとくね。」
「ナイス、兄ちゃん。そのまま、その超絶ドジっ子の面倒頼むわ。」
「…シオンくん、いつもこんな感じ?」
「うん。」

此方来てから、大してやらかしてないのが、奇跡なくらいだよ。

「よいしょ…あ、なんだか味噌っぽくなってきました!」
「溢すなよ~?」
「はい!」

本当はこんにゃく入れたいけど…作ったこと無いからなぁ。
さーて、水入れよ。

「…米、そろそろ吸水できたかなぁ?」
「そういえば、土鍋で炊いたことあるんですか?」
「炊き込みご飯なら。」

30分くらいは経ったと思うけど…大丈夫かな?
一回水切らないとな…ザル…無いから器の端に手当ててやるか。

「炊けるかなぁ~♪」

土鍋に入れて…カップ2杯分の水を注いだら、中火にかけて蓋をする!

「どれくらい、火にかけるの?」
「沸騰してから、弱火にして15分。」
「楽しみですね~♪」
『おいしーの、できるです?』
「おう、美味しくなるぞ~♪」

───────

※その頃のディアドルフ様はというと

「はぁぁ…フカフカですわぁ…♪」
「皆、大人しいだろう?」
「ええ♪お母様も、一匹撫でてみませんか?この子達、全然威嚇してきませんわ!」
「…わ、私は結構です。」

少々荒療治だが…イシュタリアとアンジェリカを、大量の獣系モンスターの群れに放り込んでみた。
まあ、モンスターと言っても、愛玩用として飼うことも可能な者達だが。
ミライを想定して、狼系の子供だけを用意してある。

「この子、少し冷たいわ…大丈夫ですの?」
「スノーウルフだな。冷たいくらいが正常体温だ。アイテムボックスが無いときの、食材の保冷等に重宝される。」
「ディアドルフ殿、こ、この黒い仔犬をそちらにやってくださる?何故私の方に寄ってくるのです…。」
「シャドウウルフの幼体だな。貴君に撫でて欲しいのだろう。」

ふむ…アンジェリカは問題無いな。
やはり、一度ミライの毛並みにやられたのが大きいのだろう。
イシュタリアも、ミライを撫でれば少しは変わる可能性が……いや、そもそも、ミライが触れさせたがらない、か。

「母上、失礼します…………ディアドルフ殿…これは何の催しですか?母上のお心を、更に追い詰めようとでも?」
「おや、サリエル。」
「お兄様!この子達、安全に触れますわ!大人しい子ばかりですのよ♪」
「アンジュ、獣の行動など信用できないだろう。何を考えているのか、わからないのだから…とりあえず、その仔犬を置くんだ。」

……折角だ、サリエルも荒療治しておくか。
謝罪する気が起きるかもしれん。
そこまで行かずとも、対話くらいには持ち込める可能性がある。
ミライには悪いが、本人が話したいと言うなら、今日中に会わせるつもりだ。
石になっては、話せないからな。

「貴君も少しくらい、触れてみたまえよ。」
「っ?!何を…!わ、私の頭に、何を乗せたっ?!」
「生まれて間もない仔狼だ。落としたら2匹に増やす。」
「なっ?!」

喜べ。その子、生後7日の無属性フェンリルだぞ。
新しく産まれたのを、ひ孫から預かってきた。

「こんなに仔犬ばかり…よくまあ、集めましたこと……。」
「狼なのだが。」
「犬も狼も似たようなものだろう!と、兎に角この獣達を、他所にやっていただけないか?!」
「そう意地になるな。アンジェリカ嬢を見習ってはどうかね?」
「お兄様、お母様!この仔犬、翼が生えてますわ!」
「アンジュっ…今度は何を抱えてるんだ?!」
「フェザーウルフの幼体だな。その大きさでも、数メートルなら飛ぶ。」
「犬なのに、飛べるのですか?」
「部屋で飛ばすのは、およしなさい。……もう、警戒するのも、馬鹿らしくなってきましたわ。」

…多少は馴れたか?
この分なら、放置しても仔狼達が危害を加えられることは無さそうだな。

「サリエル。」
「な、何か?」
「少し、2人で話がしたい。」

現時点で、どう思っているのか聞かせてほしい。
獣人のこと、ミライ個人のこと、呪いのこと。
どこまで知っていて、どう考えて仕出かした事なのか。

「…わかりました。その前に、頭の上のコレを降ろしていただけますか?」
「自分で取れば良いだろう。私は『落としたら増やす』としか言っていないが?」

その子には聞かれても構わんな。
さっさと部屋を移動しようではないか。

「腕を引かなくても、逃げませんよ…。コレに極力触れたくありません。邪魔なので取ってください。」
「噛まれる心配は無いのだがね。」
「何故そう言い切れます?」
「その子にとって、貴君は怖い者ではないからだ。空腹というわけでもなし。襲って来ないと解っている相手に、牙を剥く必要がどこにあろうか。」
「…獣が牙を剥いてくるのは、此方が襲うからだと?」
「覚えがあるだろう。」

ミライを『ラルフの友人』として、普通に迎えてくれていれば…コレほど面倒で厄介な事態にはならなかっただろうに。
…連れてきた私にも、非はあるがね。

「…昨日の犬は…家族に牙を剥いたから、弓で射殺したのですよ。」
「その前に、牙を剥かせた者が居る。初めから噛みつくつもりで、人に近寄る獣はそういない。」
「それでも…貴方とて、理由はどうあれ、噛みついてきたモンスターは倒すでしょう?」
「相手に理性が無いなら、な。貴君が弓を引いた相手は、理性もあれば言葉も通じる者だが。」

適当な空き部屋に入って、念のため結界を張る。
この先の会話は、家人に聞かれたくないだろうからな。

「…それで、どのような御用でしょう。」
「仲良くしろとは言わぬが、いがみ合うのは辞めにしないか?」
「は?」
「間に挟まれている、ラルフが哀れだ。」

頭に乗せた仔フェンリルを一旦取り上げ、胸元に向けて軽く放ると、反射的にだろうが両手で抱えた。

「おや、受け止めてくれるとは。」
「……増やされては堪りませんので。」
「フフフッ…触り心地はどうかね?」
「…大人しくしている分には、許容できます。」

───────

※ご飯が炊けました

「でれれれでれれれ♪でれれれでれれれっ♪ごーまー●ーれー♪」
「何でしたっけ、それ。」
「ゼ●伝の宝箱オープンBGM。」
『まっしろ、ほかほかです!』
「……うっそ、コレ本当にライス…?!滅茶苦茶いい匂いする!」

ふはははは!米が炊けたぞぉー!
しゃもじ無いから、スプーンでよそっちゃえ。

「オーク汁も、アイテムボックスから出しますね。」
「スゲェw野外飯のレベルじゃないw」
「汁物は俺がよそう。」
「お願いします。」
「小梅は、ねこまんまだな。」
『かけちゃうです?』

米、2合じゃ足りなかったかな?
…まあいいや。

「ん?……えー…早くね……?ミライ、お客さんだって。」
「お客さん?」

『わぁ~』
『おそと~♪』
『あそぼあそぼ~』

…え、何か可愛いのが集団で現れたんだけど。

『おにーさん、あそぼ!』
「おおぅ、なんだお前可愛いなw」
『きんいろの おにーちゃん、みどりになった!』
「あー、ごめん別人www」
『おにー…おねーさん?』
「お兄さんですぅ……。」
『ねこちゃんだー!』
『あそぶですか?』

何コレ。何なの、このちっこい狼達。
可愛すぎるだろ、昼飯食べれないんだけど。

「おや、昼食か?」
「あ、お帰りディアさ…ん……」

大量の狼モンスターを連れてきたのが、ディアさんだってのは解った。

「…ひ…ヒノワ…殿……」
『がんばれー』

俺と目を合わせようとしない、ちっこい灰色の狼抱えたお兄さんまでいるのは…何故に?
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