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「月城様は夜間授業に参加するんだね。」
「え!?.....ああ...そうみたい、だな。」
加賀美の口から突然放たれた「月城」の名前にドキリとする。
「何はともあれ、早く見つかるといいね!パートナー!」
「あ、あのさ...もしパートナーが見付からなかったらどうなんの?」
「基本強制参加だから何とも言えないけど...、どうしても見付からなかったら僕と一緒に裏方のお仕事しよっか。」
「裏方...?」
「そう、裏方!
僕と二人で雑用係!まあ、取りあえず皆に声かけてみて。」
「うん...。」
自席に戻る加賀美を見送り、予鈴と共に授業を受ける。
夜間授業とは違い、穏やかな昼下がり。
窓から差し込む光に目を細めながら、ノートに板書し授業内容を理解したフリをする。
そんなことを繰り返して、ようやく下校時刻となった。
今日一日はとてつもなく長く感じた。
加賀美はホームルームが終わると同時に教室を飛び出していく。
今日も今日とて学級委員の仕事とは、大変そうだ。
「四季、土曜日一緒に遊ぶんじゃなかったのか...。」
「あ。」
「あ、じゃない!私がどれだけ貴様と遊ぶのを楽しみにしてたか!」
西園寺が四季の席にしがみつきながら眉根を寄せている。
「如月の二人にしろっていうオーラに耐えられなかったんだもん。」
「もん、って可愛こぶっても無駄だ!
この私より可愛くて美しいものなど、この世には存在しえないのだからね!」
「...ん...?」
「帰るぞ、今日は私のディナーに付き合ってもらうからな!」
反論する間も与えられず、鞄を担ぐ西園寺の後を着いていくこととなった四季は、彼の襟から覗く鬱血の痕に気付いた。
長い廊下を歩く西園寺から仄かに香るフレグランスの匂いは、いつもと違う彼を演出している。
「西園寺、なんで今日は香水付けてんの?」
「......たまたまだ。
この複雑で甘い香り...美しい私にピッタリだと思わないか?」
「まあ、そうだね。」
「ふふっ、そうだろうそうだろう!
実はこの香りは、私をイメージして作って貰ったんだよ。
オーダーメイドって奴だな。
西園寺家にはお抱えの調香師がいてね?その調香師が本当に素晴らしいセンスを持っているんだ。
私は見ての通りこの美貌を兼ね備えているが、調香師は私を白百合のようだと言って、高貴なこの香りは白百合をモチーフに」
「あ、密...。」
ぎゅうううう
ペラペラと喋り続ける西園寺の前に、突如として立ちはだかる巨大な壁は、あっという間に口やかましい西園寺を飲み込んでしまう。
「黒須も、おはよ...元気?」
「ああ。如月も...元気そうだな。」
前髪の隙間から微かに見える如月の目は、胸の中でジタバタする西園寺を愛しそうに見つめている。
「ぷはっ...。」
「...密、今日も可愛い...。」
ようやく酸素を取り込むことに成功した西園寺は、強く抱きしめたままの巨体に向かって「からかわないで下さい!」と焦っている様子だ。
「フワフワ...もちもち、すべすべ...。」
西園寺の白い頬に自らの頬を擦り寄せ、ブロンドに輝くパーマのかかった髪に鼻を寄せる。
「甘いにおい...食べちゃいたい...。」
「ぴゃっ!!」
(なんだその声、どっから出してんだよ。)
肉食獣に捕まった西園寺は、身動きをとることも出来ずにただただ如月の腕の中で好き勝手されている。
置いて帰ろうか迷っていると
「景光...西園寺が困っているよ。」
聞き慣れた声が四季の耳に入り込んだ。
「こんばんは、四季... 。」
美しい黒の髪、ルビーの瞳は真っ直ぐと四季を見つめる。
「月城...!」
今日は会えないと思っていたから、月城の思わぬ登場で心拍数が跳ね上がった。
僅かに弧を描く唇を見ると、昨日キスしたことを思い出してしまい、咄嗟に目を逸らす。
確かに彼は美しかった。
華があり、冷淡で幻想的。
ドールのように滑らかな肌は白く、現実離れした容姿は、何度目の当たりにしてもため息が漏れてしまいそうになるほどの魅力がある。
ただ、キスをしてからは
「目の下に隈が出来てるね...、昨日はあんまり眠れなかったのかな。」
彼が美しいだけじゃないことに気付いた。
今までの月城を表すとするなら、芸術的な美しさだが、彼の内に秘めていた想いや衣服で隠れた肉体、よく見れば美しいだけではない顔。
ヴァンパイアと言えど、どこか人間らしい。
「かっこいい...。」
「え?」
きょとん、とした月城を見て、自分の口からとんでもない言葉が飛び出したことに気付く。
無意識だった。
大体、男から「かっこいい」なんて言われて嬉しいだろうか。
散々言われ慣れてるだろうお褒めの言葉は、彼にとって鬱陶しいだけかもしれない。
落ち着け、今の自分は月城にとって害のない友人の一人だ。
これからも、彼の良き理解者として隣にいられたらそれでいい。
「ありがとう...。
四季も...綺麗で可愛いよ。」
「...!」
恥ずかしくて顔を見ることが出来ない。
彼の口から放たれる言葉は魔法のように四季の耳の中で木霊した。
「...綾斗と黒須って、何かあったの。」
「ふむ...、私には分かるぞ...!四季、貴様...月城様にお熱だな!」
「え!?.....ああ...そうみたい、だな。」
加賀美の口から突然放たれた「月城」の名前にドキリとする。
「何はともあれ、早く見つかるといいね!パートナー!」
「あ、あのさ...もしパートナーが見付からなかったらどうなんの?」
「基本強制参加だから何とも言えないけど...、どうしても見付からなかったら僕と一緒に裏方のお仕事しよっか。」
「裏方...?」
「そう、裏方!
僕と二人で雑用係!まあ、取りあえず皆に声かけてみて。」
「うん...。」
自席に戻る加賀美を見送り、予鈴と共に授業を受ける。
夜間授業とは違い、穏やかな昼下がり。
窓から差し込む光に目を細めながら、ノートに板書し授業内容を理解したフリをする。
そんなことを繰り返して、ようやく下校時刻となった。
今日一日はとてつもなく長く感じた。
加賀美はホームルームが終わると同時に教室を飛び出していく。
今日も今日とて学級委員の仕事とは、大変そうだ。
「四季、土曜日一緒に遊ぶんじゃなかったのか...。」
「あ。」
「あ、じゃない!私がどれだけ貴様と遊ぶのを楽しみにしてたか!」
西園寺が四季の席にしがみつきながら眉根を寄せている。
「如月の二人にしろっていうオーラに耐えられなかったんだもん。」
「もん、って可愛こぶっても無駄だ!
この私より可愛くて美しいものなど、この世には存在しえないのだからね!」
「...ん...?」
「帰るぞ、今日は私のディナーに付き合ってもらうからな!」
反論する間も与えられず、鞄を担ぐ西園寺の後を着いていくこととなった四季は、彼の襟から覗く鬱血の痕に気付いた。
長い廊下を歩く西園寺から仄かに香るフレグランスの匂いは、いつもと違う彼を演出している。
「西園寺、なんで今日は香水付けてんの?」
「......たまたまだ。
この複雑で甘い香り...美しい私にピッタリだと思わないか?」
「まあ、そうだね。」
「ふふっ、そうだろうそうだろう!
実はこの香りは、私をイメージして作って貰ったんだよ。
オーダーメイドって奴だな。
西園寺家にはお抱えの調香師がいてね?その調香師が本当に素晴らしいセンスを持っているんだ。
私は見ての通りこの美貌を兼ね備えているが、調香師は私を白百合のようだと言って、高貴なこの香りは白百合をモチーフに」
「あ、密...。」
ぎゅうううう
ペラペラと喋り続ける西園寺の前に、突如として立ちはだかる巨大な壁は、あっという間に口やかましい西園寺を飲み込んでしまう。
「黒須も、おはよ...元気?」
「ああ。如月も...元気そうだな。」
前髪の隙間から微かに見える如月の目は、胸の中でジタバタする西園寺を愛しそうに見つめている。
「ぷはっ...。」
「...密、今日も可愛い...。」
ようやく酸素を取り込むことに成功した西園寺は、強く抱きしめたままの巨体に向かって「からかわないで下さい!」と焦っている様子だ。
「フワフワ...もちもち、すべすべ...。」
西園寺の白い頬に自らの頬を擦り寄せ、ブロンドに輝くパーマのかかった髪に鼻を寄せる。
「甘いにおい...食べちゃいたい...。」
「ぴゃっ!!」
(なんだその声、どっから出してんだよ。)
肉食獣に捕まった西園寺は、身動きをとることも出来ずにただただ如月の腕の中で好き勝手されている。
置いて帰ろうか迷っていると
「景光...西園寺が困っているよ。」
聞き慣れた声が四季の耳に入り込んだ。
「こんばんは、四季... 。」
美しい黒の髪、ルビーの瞳は真っ直ぐと四季を見つめる。
「月城...!」
今日は会えないと思っていたから、月城の思わぬ登場で心拍数が跳ね上がった。
僅かに弧を描く唇を見ると、昨日キスしたことを思い出してしまい、咄嗟に目を逸らす。
確かに彼は美しかった。
華があり、冷淡で幻想的。
ドールのように滑らかな肌は白く、現実離れした容姿は、何度目の当たりにしてもため息が漏れてしまいそうになるほどの魅力がある。
ただ、キスをしてからは
「目の下に隈が出来てるね...、昨日はあんまり眠れなかったのかな。」
彼が美しいだけじゃないことに気付いた。
今までの月城を表すとするなら、芸術的な美しさだが、彼の内に秘めていた想いや衣服で隠れた肉体、よく見れば美しいだけではない顔。
ヴァンパイアと言えど、どこか人間らしい。
「かっこいい...。」
「え?」
きょとん、とした月城を見て、自分の口からとんでもない言葉が飛び出したことに気付く。
無意識だった。
大体、男から「かっこいい」なんて言われて嬉しいだろうか。
散々言われ慣れてるだろうお褒めの言葉は、彼にとって鬱陶しいだけかもしれない。
落ち着け、今の自分は月城にとって害のない友人の一人だ。
これからも、彼の良き理解者として隣にいられたらそれでいい。
「ありがとう...。
四季も...綺麗で可愛いよ。」
「...!」
恥ずかしくて顔を見ることが出来ない。
彼の口から放たれる言葉は魔法のように四季の耳の中で木霊した。
「...綾斗と黒須って、何かあったの。」
「ふむ...、私には分かるぞ...!四季、貴様...月城様にお熱だな!」
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