届かない恋に手を伸ばす君は

まこと

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雨音がうるさい窓際で

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 降り止まない土砂降りの雨。
鬱陶しい湿気が、薄暗い教室の雰囲気をより暗くする。
教室には俺と、一人女の子がいる。
「雨、止まないね」
独り言か、それとも話しかけてきたのか、女の子が窓に近づきながら呟く。
彼女の名前はなづき。
このクラスの委員長であり、俺と秘密を共有する友人である。
「そーだね」
と俺は答えた。
本当にさっきから、この雨は止まない。
授業が終わり放課後になってから、もう何時間経っただろうか。
一向に収まる気配がない。
「ねぇ、りょーこちゃんとはどーなの?」
「ラブラブだよ」
りょーこちゃんとは、俺の恋人だ。
付き合って半年ぐらいになる。
「そっちこそ、保延先生とはどーなの?」
「今日も会えたよ。少し話せた」
保延先生とは、なづきの好きな人だ。
なづきは先生を好きになった、特殊な生徒。
まあ、俺もチャットアプリで恋人を見付けた、という点では相当に特殊だけど。
恋愛においてお互い理解されにくい者同士、こうして仲良くなれたのかもしれない。
「俺さ、1年のときなづきのこと好きだったんだよって言ったじゃん?」
「うん」
「覚えてたんだね」
「だって聞いたの1か月前だし」
続きを促すようななづきの目線。
「まだ好きだって言ったら、どーする?」
できるだけフラットに、声が震えないように言ったつもりだ。
「りょーこちゃんがいるでしょ」
笑いながらなづきが言う。
「俺今、声震えてた?」
「え?」
よかった、震えてなかったようだ。
ずっと椅子に座ってたから、尻が痛くなった。
それとなくなづきに近づく。
窓の縁に背を預け、後頭部を窓枠に押し付けた。
斜め上を見る感じ。
「そーじゃなくてさー…」
そーじゃなくて、なんなんだ?
答えが出ない。
沈黙が続く。
天井を見つめながら、雨音に耳を傾けた。
「りょーこちゃんとうまくいってないの?」
「ラブラブだって言ってんじゃん」
「じゃあ、なんで?」
答えは、出ない。
あえて言葉にするならば、
「なんとなく…?」
この言葉が一番しっくり来る。
「タイミングが良かったら、好きになってたかもね。今は保延先生が好きだから」
なづきが窓の縁に腕を乗せて、壁に寄りかかった。
俺との距離は、だいたい30cmくらいか。
「なんだよ、タイミングって」
俺の目線は相変わらず天井だ。
「だから、君が私に好きだったんだよって言うタイミングだよ。少し遅かった」
なづきは窓の外を眺めている。
雨は、まだ止まない。
「じゃあ今告白しても、振るってこと?」
「うん。だって君にはりょーこちゃんがいるじゃん」
さっきから何度も俺の恋人を引き合いに出してくる。
「りょーこちゃんがいなかったらオッケーするってこと?」
俺はなづきを見た。
窓の縁に重ねた腕に、顎をのせている。
「どーだろうね。そのときになってみないとわかんないや」
「…そっか。それもそーだな」
そのときになってみないとわからない。
全くその通りだ、と思った。
俺もなんとなく、窓の方を向いた。
窓の縁に腕を重ねて、その上に顎を乗せる。
「もっと早く君のこと知ってたら、オッケーしてた、と思う」
「まあ、話すようになったの最近だもんな」
「うん」
二人の距離は近くて遠い。
「俺のこと好き?」
ざあざあとうるさい窓を叩く雨。
教室の中はざあざあ以外の音がないみたいだ。
俺の音も、なづきの音も。
「好きだよ」
雨音に紛れて聞こえてきたのは、どことなく切なげな、か細いなづきの声。
「俺も好きだよ」
だけど、結ばれることはない。
お互いにその事を理解している。
俺は今の恋人を捨てるつもりはないし、なづきの保延先生への想いも嘘はないはずだ。
だからこそ、お互いに素直な言葉が出たんじゃないだろうか。
「まあ、たとえそうだったとしても…」
「ん?なに?」
「いや、独り言。気にしないで」
たとえそうだったとしても、俺にできることはなにもない。
両想いだったとしても結ばれない恋はある、ということだ。
だとしたら、子供のうちからお互いに貴重な体験ができた、ということではないか。
なら、だとしたら。
感謝くらいはしておかなければならないだろう。
「俺、なづきに出会えてよかったよ。ありがとう」
「私も君に出会えてよかった。ありがとね」
笑うなづきとの距離は、まだ30cmぐらい。
この距離は、縮まることも離れることもない。
手を伸ばせば届く、この距離。
でもこの想いは、届けてはいけないものだから。
だから…
「雨、止まないね」
と俺は言う。
この雨が止まなければいいのに、なんてことを考えながら。
「そうだね」
となづきが笑う。
なづきも同じ気持ちなのかな。
だったらいいな。
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