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第一章
第12話 登山
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「いやいやいや、登山は過酷ですよ! それに騎士団の仕事だって!」
「アルの生活を見たいの。それに騎士団は私が数日いなくても大丈夫よ」
「し、しかし……」
「正直言うとね、私は騎士として、剣士として、これ以上伸びないと限界を感じていたの。でも今日のアルを見て、鍛え方によってはもっと伸びるかもしれないと思ったのよ」
「い、いや、それでも……」
「ダメかしら?」
レイさんほどの美女に見つめられると、身体が固まってしまうことが分かった。
そして、これは断れない。
断る理由もない。
「わ、分かりました。ただ現実問題として登山に一日、滞在は休息含めて最低でも二日、下山に一日、少なくとも合計四日間は必要です。天候が崩れるとそれ以上伸びますし、何より命の危険があります」
「大丈夫よ。一週間は余裕を見てるわ。それにザインは優秀なのよ」
副隊長のザインさんに全部押しつけるんだ、と思ったけど表情には出さなかった。
俺は少し考え込み、あることを思いついた。
「一つ条件があります」
「何かしら?」
「あの……俺に剣術を教えてもらえませんか?」
「そうきたのね。とても素晴らしい交渉術ね。私は剣を教えないのだけど……。分かったわ。いいわよ」
交渉成立だ。
騎士団の入団試験に勧められたからではないが、俺も今後生きていく上で剣術を覚えたいと考えていた。
しかも、周辺国でも最強を誇るクロトエ騎士団の、それも一番隊隊長に教えてもらえるのであれば、このチャンスを逃す手はない。
俺はレイさんに登山の注意点、必要な装備、持ち物を伝えた。
正直、俺一人なら昼に出発しても日没までに自宅へ帰ることができる。
しかし、レイさんが一緒だとそうはいかない。
早朝に出発する必要がある。
そうなると、食料や生活品の買い出しができない。
そのことを話すと、騎士団の駐屯地から持っていけばいいとのこと。
レイさんって意外と融通が利く人のようだ。
明日は日の出前に出発することを伝え、残りの葡萄酒を飲み干し、お互いの部屋へ戻った。
セレナが見送りしてくれるって言っていたけど、これは会えないな。
◇◇◇
ザインの部屋をノックするレイ。
「こ、これは隊長! いかがされましたか?」
「私は明日、アルと山へ登る。一週間は戻らぬ」
「アルの家へ行くんですか! そ、それはどうして? 反対です!」
「銀狼牙が見つかったのだ」
「え! ぎ、銀狼牙が? まさか!」
「アルが飼っていた」
「そ、それは本当ですか?」
「ああ。明日の早朝に駐屯地へ行く。今から諸々の手配を頼めるか?」
「かしこまりました」
「留守の間、よろしく頼む」
「お任せください」
◇◇◇
翌朝、日の出前に宿をチェックアウト。
これから標高五千メデルトにある自宅へ帰る。
横には銀狼牙のエルウッドと美女が一人。
クロトエ騎士団一番隊の隊長レイ・ステラーさんだ。
不思議なパーティーになった。
まず騎士団のラバウト駐屯地へ行き、一週間分の食料や生活品をもらう。
それを籐かごに入れ、天秤棒に吊り下げ両肩で担ぐ。
重量は約三十キルクといったところか。
下山時の百キルクに比べたら軽いものである。
しかし、レイさんは驚いている。
「アル、それを担いで登るのよね?」
「そうです」
「この生活を十年以上も……」
自分では慣れているが、確かに他の人にはできないことだと思う。
俺はレイさんに登山の注意点を伝えた。
「レイさん、今回はテントを持っていません。日没までに必ず帰る必要があります。ですので相当厳しい登山になります」
「分かったわ。迷惑かけないように頑張る」
そこへ副隊長のザインさんが見送りに来た。
「アル、隊長を頼むぞ! 隊長! あとのことはお任せを!」
「ザイン、よろしく頼む」
ザインさんに挨拶して出発。
ラバウトの街を出ると、すぐに大きな湖に出た。
ラバウト湖だ。
早朝から漁師の姿が見える。
昨日レイさんと食べた大虹鱒の味を思い出しつつ、湖の畔からフラル山の樹海に入った。
ここから本格的な登山が始まる。
「アルの生活を見たいの。それに騎士団は私が数日いなくても大丈夫よ」
「し、しかし……」
「正直言うとね、私は騎士として、剣士として、これ以上伸びないと限界を感じていたの。でも今日のアルを見て、鍛え方によってはもっと伸びるかもしれないと思ったのよ」
「い、いや、それでも……」
「ダメかしら?」
レイさんほどの美女に見つめられると、身体が固まってしまうことが分かった。
そして、これは断れない。
断る理由もない。
「わ、分かりました。ただ現実問題として登山に一日、滞在は休息含めて最低でも二日、下山に一日、少なくとも合計四日間は必要です。天候が崩れるとそれ以上伸びますし、何より命の危険があります」
「大丈夫よ。一週間は余裕を見てるわ。それにザインは優秀なのよ」
副隊長のザインさんに全部押しつけるんだ、と思ったけど表情には出さなかった。
俺は少し考え込み、あることを思いついた。
「一つ条件があります」
「何かしら?」
「あの……俺に剣術を教えてもらえませんか?」
「そうきたのね。とても素晴らしい交渉術ね。私は剣を教えないのだけど……。分かったわ。いいわよ」
交渉成立だ。
騎士団の入団試験に勧められたからではないが、俺も今後生きていく上で剣術を覚えたいと考えていた。
しかも、周辺国でも最強を誇るクロトエ騎士団の、それも一番隊隊長に教えてもらえるのであれば、このチャンスを逃す手はない。
俺はレイさんに登山の注意点、必要な装備、持ち物を伝えた。
正直、俺一人なら昼に出発しても日没までに自宅へ帰ることができる。
しかし、レイさんが一緒だとそうはいかない。
早朝に出発する必要がある。
そうなると、食料や生活品の買い出しができない。
そのことを話すと、騎士団の駐屯地から持っていけばいいとのこと。
レイさんって意外と融通が利く人のようだ。
明日は日の出前に出発することを伝え、残りの葡萄酒を飲み干し、お互いの部屋へ戻った。
セレナが見送りしてくれるって言っていたけど、これは会えないな。
◇◇◇
ザインの部屋をノックするレイ。
「こ、これは隊長! いかがされましたか?」
「私は明日、アルと山へ登る。一週間は戻らぬ」
「アルの家へ行くんですか! そ、それはどうして? 反対です!」
「銀狼牙が見つかったのだ」
「え! ぎ、銀狼牙が? まさか!」
「アルが飼っていた」
「そ、それは本当ですか?」
「ああ。明日の早朝に駐屯地へ行く。今から諸々の手配を頼めるか?」
「かしこまりました」
「留守の間、よろしく頼む」
「お任せください」
◇◇◇
翌朝、日の出前に宿をチェックアウト。
これから標高五千メデルトにある自宅へ帰る。
横には銀狼牙のエルウッドと美女が一人。
クロトエ騎士団一番隊の隊長レイ・ステラーさんだ。
不思議なパーティーになった。
まず騎士団のラバウト駐屯地へ行き、一週間分の食料や生活品をもらう。
それを籐かごに入れ、天秤棒に吊り下げ両肩で担ぐ。
重量は約三十キルクといったところか。
下山時の百キルクに比べたら軽いものである。
しかし、レイさんは驚いている。
「アル、それを担いで登るのよね?」
「そうです」
「この生活を十年以上も……」
自分では慣れているが、確かに他の人にはできないことだと思う。
俺はレイさんに登山の注意点を伝えた。
「レイさん、今回はテントを持っていません。日没までに必ず帰る必要があります。ですので相当厳しい登山になります」
「分かったわ。迷惑かけないように頑張る」
そこへ副隊長のザインさんが見送りに来た。
「アル、隊長を頼むぞ! 隊長! あとのことはお任せを!」
「ザイン、よろしく頼む」
ザインさんに挨拶して出発。
ラバウトの街を出ると、すぐに大きな湖に出た。
ラバウト湖だ。
早朝から漁師の姿が見える。
昨日レイさんと食べた大虹鱒の味を思い出しつつ、湖の畔からフラル山の樹海に入った。
ここから本格的な登山が始まる。
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