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第二章
第28話 鉱石鑑定再び
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「食事の用意ができました」
使用人が声をかけてきたので、俺とカミラさんはレストランへ移動。
テーブルには見たこともない料理が並んでいる。
街道の岩をどかしただけで、これほど豪勢なおもてなしを受けていいのだろうかと悩むところだ。
そんなことを考えている俺の心を読んだのか、カミラさんが声をかけていた。
「あそこで馬車が通れなかったら、日が暮れて死んでいたかもしれません。それほど冬の夜の峠は危険なのです」
俺は素直に、この豪華な食事をいただくことにした。
「うわ! 凄く美味しい! こんな豪華な食事は初めてです!」
「ウフフフフ、ありがとうございます。遠慮せずに、たくさん召し上がってくださいね」
食事をしながら談笑していると、執事のような初老の男性がカミラさんに耳打ちする。
すると、カミラさんが困惑の表情を浮かべた。
「アルさん。鉱石の商談でトラブルが起こったそうです。食事中に申し訳ないのですが、一旦席を外しますね」
カミラさんが席を立とうとしたので、俺は声をかける。
「あの! 鉱石のことだったら、お役に立てるかもしれません」
俺は鉱夫であることをカミラさんに伝える。
カミラさんは俺を信用してくれたようで、一緒に商談の場へ行くことになった。
商談はこの宿の一階にある、宝石店の応接室で行われているらしい。
移動中に詳しい内容を聞いた。
付き合いのある商人が、白鉱石、緑鉱石、赤鉱石をそれぞれ百キルク、合計で三
百キルク売りに来た。
どれもレア五の希少鉱石だ。
大量なので真贋の判断に時間をかけると伝えるも、相手側は取引を急かし、今すぐ返事をよこせ、返事がないなら他で売ると言っているそうだ。
金額は通常金貨百枚のところ、急ぎということもあり金貨五十枚を提示。
それにしても、白鉱石、緑鉱石、赤鉱石を合計で三百キルクは凄い量だ。
俺でも採掘に数ヶ月はかかる。
しかし、この話はどうもキナ臭い。
なぜならば、この三種類の鉱石は、数ヶ月前にラバウトの商人トニー・ケイソンが詐欺にあった時と同じ鉱石だからだ。
俺たちが応接室へ入ると、中年太りの商人と、身長二メデルトはあろう大男が厳しい顔でソファーに座っていた。
中年太りの商人は、カミラさんの姿を見るなり表情が一変。
「これはこれはカミラさん。わざわざお越しいただいて恐縮です」
「ネイサさん、今日はどうしたのですか?」
「急遽この鉱石を売る必要ができたのですが、これだけの上物なので、ぜひカミラさんにお売りしたいと思いましてねえ」
「それはありがとうございます」
「従業員の方が真贋の判断に時間がかかると仰るのですが、私は元Cランクの冒険者です。そして横にいるのが、今王国で最も勢いのある冒険者として有名なCランクのハリー・ゴードンです。真贋を見る必要はありますかな?」
商人はビリー・ネイサというらしい。
そして、隣にいる大男には見覚えがある。
ラバウトでレイさんに一蹴されていたCランク冒険者だ。
「おう! Cランクのハリー・ゴードンだ! 俺が採ってきた鉱石だぞ。偽物のわけがねえ。急いでるんだ。早く買い取ってくれ」
相変わらず礼儀というものを知らない奴だ。
それとも冒険者って、こんなものなのだろうか。
ハリーはどうやら俺のことは覚えてないらしい。
もしかしたら、トニーに偽の鉱石を売ったのはこいつかもしれない。
カミラさんが見本の白鉱石、緑鉱石、赤鉱石をそれぞれ一つずつ手に取って確認。
難しい顔をしながらハリーに質問する。
「こちらの鉱石はどこで?」
「フラル山に決まってるだろ! あんたの宝石店で加工して売れば、莫大な金になるぜ」
フラル山の希少鉱石は標高五千メデルト以上でしか採れない。
高品質だが採掘の難度が高すぎて、市場に出回る数が極端に少なく高値で取引される。
そもそも、フラル山で希少鉱石を採る鉱夫は今や俺しかいない。
フラル山で採ったというのは完全に嘘だ。
「ちょっと失礼します」
俺は鉱石を手にする。
「なんだてめーは!」
ハリー・ゴードンが怒鳴る。
本当は見る必要もないのだが、もしかしたら産地違いで本物かもしれないと思い、一応手に取って確認した。
「これは見事な白鉱石ですね」
「そうだろ! てめーは分かってるな!」
「フラル山で採ったとのことですが、標高は何メデルトでしたか?」
「あ? 樹海の上の三千メデルトに決まってるだろ!」
「なるほど……」
俺は鑑定用のハンマーで白鉱石を叩く。
「てめえ、何しやがる!」
「白鉱石の透明度はもう少し高いんですよ。それに硬度は六。このハンマーはただの鉄なので硬度四。叩いても簡単には割れないんです。しかし……」
白鉱石らしきものが割れている。
恐らく溶かした軽鉄石に色素を入れ、細かい岩や本物の白鉱石の粉末を混ぜ、白鉱石っぽく仕立て上げているのだろう。
軽鉄石の硬度は三だ。
硬度四の鉄で叩けば割れる。
だが、以前ラバウトで見た偽物より、間違いなく品質は上がっていた。
「これは偽物ですね。軽鉄石と考えればそれなりの価値はあると思います。三百キルクの軽鉄石だと……そうですね、恐らく銀貨五枚の価値はあるでしょう」
「デタラメ言うなああ!」
ハリーは激昂して大声を出す。
あまりにも大きな声だったので、部屋にある調度品が振動した。
その勢いに従業員はしゃがみ込み、カミラさんの身体は硬直。
仲間であるネイサすら驚いている。
しかし、俺は構わず発言。
「フラル山で希少鉱石が採れるのは標高五千メデルト以上です」
「そんなもん関係ねーわ! てめえ! ぶっ殺してやる!」
ハリーは立ち上がり、手がつけられない状態になってしまった。
偽物は確定したので、この取引はなくなってもいいのだが、店内で暴れるのは困る。
その瞬間、カミラさんが立ち上がった。
「お引取り願います!」
「くそっ! ハリー、ここで暴れるのはまずい! 一旦帰るぞ!」
カミラさんが毅然とした態度を取ると、ネイサがハリーを怒鳴りつけた。
そのまま激昂するハリーを連れて、なんとか外へ出る。
ネイサの使用人は、慌てて見本の鉱石を抱えて出ていった。
使用人が声をかけてきたので、俺とカミラさんはレストランへ移動。
テーブルには見たこともない料理が並んでいる。
街道の岩をどかしただけで、これほど豪勢なおもてなしを受けていいのだろうかと悩むところだ。
そんなことを考えている俺の心を読んだのか、カミラさんが声をかけていた。
「あそこで馬車が通れなかったら、日が暮れて死んでいたかもしれません。それほど冬の夜の峠は危険なのです」
俺は素直に、この豪華な食事をいただくことにした。
「うわ! 凄く美味しい! こんな豪華な食事は初めてです!」
「ウフフフフ、ありがとうございます。遠慮せずに、たくさん召し上がってくださいね」
食事をしながら談笑していると、執事のような初老の男性がカミラさんに耳打ちする。
すると、カミラさんが困惑の表情を浮かべた。
「アルさん。鉱石の商談でトラブルが起こったそうです。食事中に申し訳ないのですが、一旦席を外しますね」
カミラさんが席を立とうとしたので、俺は声をかける。
「あの! 鉱石のことだったら、お役に立てるかもしれません」
俺は鉱夫であることをカミラさんに伝える。
カミラさんは俺を信用してくれたようで、一緒に商談の場へ行くことになった。
商談はこの宿の一階にある、宝石店の応接室で行われているらしい。
移動中に詳しい内容を聞いた。
付き合いのある商人が、白鉱石、緑鉱石、赤鉱石をそれぞれ百キルク、合計で三
百キルク売りに来た。
どれもレア五の希少鉱石だ。
大量なので真贋の判断に時間をかけると伝えるも、相手側は取引を急かし、今すぐ返事をよこせ、返事がないなら他で売ると言っているそうだ。
金額は通常金貨百枚のところ、急ぎということもあり金貨五十枚を提示。
それにしても、白鉱石、緑鉱石、赤鉱石を合計で三百キルクは凄い量だ。
俺でも採掘に数ヶ月はかかる。
しかし、この話はどうもキナ臭い。
なぜならば、この三種類の鉱石は、数ヶ月前にラバウトの商人トニー・ケイソンが詐欺にあった時と同じ鉱石だからだ。
俺たちが応接室へ入ると、中年太りの商人と、身長二メデルトはあろう大男が厳しい顔でソファーに座っていた。
中年太りの商人は、カミラさんの姿を見るなり表情が一変。
「これはこれはカミラさん。わざわざお越しいただいて恐縮です」
「ネイサさん、今日はどうしたのですか?」
「急遽この鉱石を売る必要ができたのですが、これだけの上物なので、ぜひカミラさんにお売りしたいと思いましてねえ」
「それはありがとうございます」
「従業員の方が真贋の判断に時間がかかると仰るのですが、私は元Cランクの冒険者です。そして横にいるのが、今王国で最も勢いのある冒険者として有名なCランクのハリー・ゴードンです。真贋を見る必要はありますかな?」
商人はビリー・ネイサというらしい。
そして、隣にいる大男には見覚えがある。
ラバウトでレイさんに一蹴されていたCランク冒険者だ。
「おう! Cランクのハリー・ゴードンだ! 俺が採ってきた鉱石だぞ。偽物のわけがねえ。急いでるんだ。早く買い取ってくれ」
相変わらず礼儀というものを知らない奴だ。
それとも冒険者って、こんなものなのだろうか。
ハリーはどうやら俺のことは覚えてないらしい。
もしかしたら、トニーに偽の鉱石を売ったのはこいつかもしれない。
カミラさんが見本の白鉱石、緑鉱石、赤鉱石をそれぞれ一つずつ手に取って確認。
難しい顔をしながらハリーに質問する。
「こちらの鉱石はどこで?」
「フラル山に決まってるだろ! あんたの宝石店で加工して売れば、莫大な金になるぜ」
フラル山の希少鉱石は標高五千メデルト以上でしか採れない。
高品質だが採掘の難度が高すぎて、市場に出回る数が極端に少なく高値で取引される。
そもそも、フラル山で希少鉱石を採る鉱夫は今や俺しかいない。
フラル山で採ったというのは完全に嘘だ。
「ちょっと失礼します」
俺は鉱石を手にする。
「なんだてめーは!」
ハリー・ゴードンが怒鳴る。
本当は見る必要もないのだが、もしかしたら産地違いで本物かもしれないと思い、一応手に取って確認した。
「これは見事な白鉱石ですね」
「そうだろ! てめーは分かってるな!」
「フラル山で採ったとのことですが、標高は何メデルトでしたか?」
「あ? 樹海の上の三千メデルトに決まってるだろ!」
「なるほど……」
俺は鑑定用のハンマーで白鉱石を叩く。
「てめえ、何しやがる!」
「白鉱石の透明度はもう少し高いんですよ。それに硬度は六。このハンマーはただの鉄なので硬度四。叩いても簡単には割れないんです。しかし……」
白鉱石らしきものが割れている。
恐らく溶かした軽鉄石に色素を入れ、細かい岩や本物の白鉱石の粉末を混ぜ、白鉱石っぽく仕立て上げているのだろう。
軽鉄石の硬度は三だ。
硬度四の鉄で叩けば割れる。
だが、以前ラバウトで見た偽物より、間違いなく品質は上がっていた。
「これは偽物ですね。軽鉄石と考えればそれなりの価値はあると思います。三百キルクの軽鉄石だと……そうですね、恐らく銀貨五枚の価値はあるでしょう」
「デタラメ言うなああ!」
ハリーは激昂して大声を出す。
あまりにも大きな声だったので、部屋にある調度品が振動した。
その勢いに従業員はしゃがみ込み、カミラさんの身体は硬直。
仲間であるネイサすら驚いている。
しかし、俺は構わず発言。
「フラル山で希少鉱石が採れるのは標高五千メデルト以上です」
「そんなもん関係ねーわ! てめえ! ぶっ殺してやる!」
ハリーは立ち上がり、手がつけられない状態になってしまった。
偽物は確定したので、この取引はなくなってもいいのだが、店内で暴れるのは困る。
その瞬間、カミラさんが立ち上がった。
「お引取り願います!」
「くそっ! ハリー、ここで暴れるのはまずい! 一旦帰るぞ!」
カミラさんが毅然とした態度を取ると、ネイサがハリーを怒鳴りつけた。
そのまま激昂するハリーを連れて、なんとか外へ出る。
ネイサの使用人は、慌てて見本の鉱石を抱えて出ていった。
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