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しおりを挟む翌日、パーティメンバーでクエストを消化した。
うちのパーティは構成バランスが良く強さ的にも最強だ。このゲーム世界最強の、剣士、踊り子、黒魔法使い、白魔法使いが揃っている。
さっくりとクエストを終わらし、倒したモンスターを解体していた。
このモンスターというのは獣の姿をしている。
間違っても魔族などではなく、魔王も出て来ない。そこまで現実をゲームの中に組み入れるような生々しいことはしていなかった。
それでも、今日倒した獣は少し人型に近い獣で、きっと誰もが魔族のことを心の中に思い描いていた。
「魔族の土地は、位置情報取得出来ないそうですね~」
「へ?」
位置情報だと!?
それは裏ネットのトップシークレット情報だった。個別の魔法番号から、魔法の底の管理者達は個人の位置情報を追跡できるという、嘘か本当か分からない、都市伝説に近い情報だった。
「魔族は人族のネットに接続出来ないのですけど、それは魔族の魔法の力が人族の魔法の力と反発しあってしまうからだそうです。同じように、魔族のネットがあったとしても人族は接続出来ないし、また、魔族の土地にいる人族の場所は、魔族の魔力の強さに弾かれて特定出来ないとか」
王子の語る言葉に、驚きながら彼の表情を伺うと、胡散臭い笑みを返された。
「だから例えば、人族のネットワーク自体は魔力の底、この星の大地に沁み込んだ場所にありますから魔族の土地からだってネットに繋がれるんですが、大地の上の我々からはその場所は調べようがないってことですよ」
こいつ間違いなく、魔族の土地から助けを求めている私の設定のことを言っているんだな、と睨み返しながらも、真実味のある話に納得しそうになってしまった。
「魔族の土地にいるってことは、分かるじゃないか」
悔しくてそう言い返すも、
「それを悪用する連中もいるんですよね。魔族の土地の近くにわざわざ行ってからネットで悪さをするようなやつ」
王子の説明に、ゲーム内でギリギリの行為を繰り返し金を貯めて来た自分でも、やりそうな範囲のことだなと思ってしまう。
「きっと囚われの聖女も、もう助け出されることなんて望んでないですよ」
「……なぜだ?」
私の言葉に、ずっと黙って私たちの会話を聞いていた勇者が口をはさんで来た。
戦利品を拾いながら振り返ると、勇者は戦闘の後片づけの手を止めて私を見つめていた。
「……人族の中に戻っても、実の家族が誰なのかも分からない。友人も知人もいない。常識もない。もしかしたら今更怖くて人と話すことも出来ないかもしれない。そんな人間なんて、よくて魔王を倒す駒として期待されるだけじゃないです?面倒くさいですよね」
「……」
「という……設定なんですよ」
苦虫を嚙み潰したような表情で私を見つめる、ばか真面目な勇者を見ていたら、くふふ、と笑い声が漏れてしまった。
勇者は良い反応をするなぁ。
その反応はとても好ましいものに思えていた。
王子や姫は何を言ってもふわっと受け流すし、普通の人は拒絶や嫌悪を返してくるというのに、勇者の心にはまるで私の言葉が届いているかのように、打てば響いてくれるから。
つい、からかってしまいたくなる。
「じゃあ勇者、今日も朝までふたりで過ごしましょうか?」
「……ふざけた言い方をするな!」
少し顔を赤くして、姫と王子に言い訳をするように叫ぶ勇者は、まるで最強の剣士には見えず、純朴な少年のように見えた。
もう長い間、夜を勇者と過ごした。
この言葉だけだと卑猥な感じが漂うけれど、実際に甘いことは何一つなく、パーティを解散した後の時間を私の金策に付き合ってくれているだけだった。と言っても素材に関しては平等に分配しているので勇者の方もそれなりに稼げているはずだ。
慣れたようにモンスターを狩り、解体し、戦利品を回収する私たちは、次第にポツポツと会話をするようになっていた。
「勇者は今、王城で、旅に出るための訓練中だ」
それはお互いの設定の話だったのだけど、毎日話していると、設定の中の人物が本当に生きているように思えてくるから不思議だった。物語の中に確かに生きているような感じと言うのかな。
「訓練?」
「そうだ。国に保護された勇者は、魔王を討伐するための軍隊と共に、攻め入る好機を狙っている」
「ふ~ん。魔王は聖女が倒すんじゃないのか?」
「聖女は現れないこともある。そんな時は魔族と戦うのは勇者の役割だ」
「そうなんだ?」
「ああ、人の中で、もっとも魔力の強い者としての役割なのだという」
「おお!勇者ってそういう人なんだ」
「担がれているだけだが」
「そっか、大変だね……」
「……これだけ長い間聖女が現れないと、さすがに、魔王が囲っているのではないかと国も考え出している」
「……へぇ?」
誰も信じなかったけれど、今になってそういうこともあるんだろうか?それにしてもいちいち真実味があるんだよね。勇者の言うことって。
「というのも今代の魔王は、今までになく人族に攻撃的なんだ。争いが絶えず、人々は脅かされている。先代の聖女を殺したのも魔王ではないかと疑われている。魔王と聖女を筆頭にけん制し合い、平和を維持し続けて来た歴史を、自ら壊し去ろうとしているかのようだ。今の魔王なら聖女を攫っていたとしても不思議ではない」
「ふうん」
魔族の土地にいたとしても魔族も魔王も会ったこともないし、ネットにも情報が載っていないからほとんどなにも分からず、勇者の話はピンと来なかった。
そんな私の様子をじっと見つめていた勇者は、少し考えるようにしてから「聖女は今はどうしているんだ?」と言った。
「聖女は、食べて寝てネットしているだけですねぇ。生まれてこの方、ほぼ部屋の中にいて誰にも会ったこともありませんから」
「どうして言葉が分かるんだ?」
「あ~」
どうしてと言われるとどこから説明したらいいのか悩むな。
「前世の記憶があるんですよ。この世界ではない別の世界に生きていたって言う。その世界にもこのネットと似たような仕組みがあったので、ある日そっくりな仕組みのこのネットに接続出来てからは、ネットで言語や常識や風習を学んだそうですよ。もう四年位前ですかね」
「俺が初めて見かけたころか」
「そうですね」
一番はじめのネット社会は文字データの宝庫だった。あの頃の勇者のことを私は覚えてはいないけれど。
「……あんなに昔から、か」
「何言ってるんですか、生まれてからずっとの設定ですよ?」
夜が明けてくる気配を感じながら、私は空を見上げて言った。
ゲームの世界の空にも朝日が昇って来る。虚構の世界の中にも、脳内では本物と変わらないように思える眩しい空が広がっていく。
「じゃあ、今日もお疲れ様でした!」
大金となる戦利品を手に、にひひ、と笑いながら言う私に、
「お疲れ……」
嫌そうな視線を私を向けた後に、疲れたように呟く勇者が居た。
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