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番外編(式の翌朝)
鳥の声に目を覚ますと、眩しい朝日を感じる。
うっすらと目を開けると、目の前には私を抱きかかえるように眠る美しい男の人がいた。
長い睫毛が彼の顔に影を作る。
起きているときには気難しげな表情をしがちな人だけど、今は安らかな寝息を立てている。
朝日の差し込む、小綺麗に整えられた寝室のベッドの上で、そんな彼の寝顔を見つめ続けた。
こんな風に、私が起きた後にもジェイラスが気付かないことは、珍しいことに思えた。
きっと、疲れているんだ。
だって昨日は結婚式だったから。
一日中忙しくて、緊張し続けて、夜やっと二人きりになれたと思ったら、そしたらまた体力を消耗したから……。
…………。
…………。
…………。
そ、そう、そして朝になったらチュンチュンとした鳥の声に起こされたのだ。
ジェイラスもたくさん汗をかいていたからきっと疲れてるんだ。
汗……滴ってたな……。
…………。
…………。
…………。
(う、う?なんか今日はおかしいな、少し考えごとをするだけで、頭が爆発しそうに恥ずかしくなって思考が止まってしまう……)
一人だけ気持ち良さそうに眠る彼がなんだか憎たらしく思えてきて、私は人差し指でぷにっと彼の頬をつついた。
すると漆黒の瞳が姿を現す。
彼は一瞬、ここはどこだろうかというように視界を彷徨わせるのだけど、私を瞳に映すと幸福そうに微笑んだ。
「ルー……」
そのまま私の寝起きの顔に手を添えて、唇を合わせてくる。
宝物に触れるような、そっと優しいキス。それは昨晩とは全然違うものだった。昨晩とは。
……………………。
「ルー?」
はっ!
「な、なぁに?」
「どうかしたか?」
「ううん」
ちょっと思考が止まりがちなだけだ。
「なんだ?体が辛いのか?」
「か、からだ?」
「痛いところはないか?」
「い、いたい?」
なんだかどんどんと、また頭が爆発しそうになってくる。
「だ、大丈夫……」
いや頭は大丈夫じゃないかもしれない。
ジェイラスは、そんな挙動不審の私の額にそっと口づけを落としてから立ち上がった。
シーツがするりと落ちると、彼の美しい肉体美がさらされる。
ぐっ……。
今まさに、彫像よりも美しいお姿が目の前に……。
「朝食を、用意しよう。ルーは、そのまま休んでいるといい」
「わ、わ、私も手伝うよ」
そう言って身動きしようとしたら、思ったより体がちゃんと動かなかった。ぎくしゃく。
「無理はするな。体の鍛え方が違うんだ」
体の鍛え方……体の……体の……。
…………。
…………。
…………。
「ルー、朝食を持ってきた」
あれ?今作るとか言ってなかった?
「もう作ったの?」
「もう?」
私の言葉にジェイラスが不思議そうな顔をする。
ジェイラスはベッドの上に朝食を載せたトレイを置いた。
黒髪を後ろで束ねて、ラフなシャツとズボンに身を包んだ彼は、寛ぐようにベッドの上に座った。
私はのそりのそりと、シーツで体を隠しながら半身を起こした。
「口を開けて」
「ん?」
ジェイラスがスプーンを私の前に差し出してくる。
――ん、んん??
「俺が食べさせよう」
んんんんん????
「な、な、な、な、なんで」
「……こんなときでないと、ルーは忙しなく俺の世話をしてくれるだろう。たまには俺にもやらせてくれ」
え、そんな風に思ってたのジェイラス?知らなかった。
「食べてみてくれ」
懇願されるような瞳に、思わず胸がきゅんとしてきてしまい、つられるように口を開けてしまった。スプーンが差し込まれる。
パクリ。
もぐもぐ。
「……おいしい」
「良かった……ちゃんとした料理は慣れてないからな」
ジェイラスはずっと一人で生きてきて、住むところも転々としてきたらしい。
もしかしたら、誰かにご飯を作ったりとか、こんなふうに食べさせるなんて、初めてなのかもしれない。
見上げると、すごく嬉しそうな彼の笑顔があった。
「さあ、ルー」
そう言うとまたスプーンが差し出される。
なんだか餌付けみたいで恥ずかしいし、自分でも食べられるのだけど……。
私は口を開いて、ジェイラスの差し出すスプーンを口にくわえた。パクリ。
「おいしいです」
「良かった」
ジェイラスが喜んでくれるなら、私が恥ずかしいことなんて、些細なことでしかないんだ。
恥ずかしい、こと、なんて……。
…………。
…………。
…………。
「ルー?」
「はっ!!」
また思考が止まってた。
「昼食も俺が作ろう」
え、それってまた餌付けモード?
嬉しそうな彼の笑顔を見ていたら……葛藤はあれど、まぁいっかと思えてきてしまう。惚れた弱みだ。もう最初から負けてるんだもの。諦めて彼のための雛鳥にでもなりましょう。ピヨピヨ。
「じゃあ夜は私が作るね」
「無理はするな」
料理の仕方はお屋敷の方たちが教えてくれた。今ではもう、家庭料理もお菓子も作れる。この世界の人たちと同じ生活も出来るはずだし、常識もたくさん学ばせてもらえたんだ。
私と彼の、二人の暮らしは始まったばかりなのだ。
「なら明日の朝はまた俺が作ろう」
「明日の、朝……」
「きっとまた疲れさせる」
「……」
しばらくまた私の思考が止まってしまっていたみたい。
ちゅっと音を立てて、私の頬からリップ音が聞こえた。
「え?」
「早く食べないと、俺が食べてしまうぞ」
誰がなにを食べるの?もちろん食べ物だよね……?
頭がぐるぐるぐるぐる。
目眩がするくらい幸福で、もうどうしよう。
「さあ」
「はい……」
私は大人しく雛鳥になった。ジェイラスは親鳥だ。
そうして新婚はじめの数日間、私はずっと、彼だけの雛鳥になったのでした。
おしまい
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最後までお付き合いありがとうございました。
予想よりだいぶ長くなってしまいました。
感想を教えて頂けると嬉しいです。
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みんなの感想(14件)
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素敵なお話をありがとうございました
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悪魔バージョンのジェイラスも脳内でしっかり萌え対象てした!
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リオンくんご成長したらどんなふうになるんだろう
などと考えてくと楽しいです♥
どのキャラも皆イキイキしててその後が気になります♪
こちらの作品も読んでくださってたんですね!感想とても嬉しいです。
萌は全てを凌駕する……そんな話を書いた覚えがあるのですが、これだけ読むと一体どんな話なんだ、ですよね( *´ ▽ ` )
悪魔ジェイラスも萌対象になれたなら、やり遂げた感があります、ありがとうございます!
その後の子供もお父様もリオンくんも考えて頂けて嬉しいです。
長く書いてるとキャラと会えなくなるのが自分でも寂しくなります。
こちらこそとても素敵な感想をありがとうございました!元気を貰えました。
完結お疲れさまでした。
二人のお互いを思い合っているがゆえの葛藤とか読んでいてハラハラしたり切なくなったりしてからのハッピーエンド。
もう、最高です。甘々なのもたまらなかったです。
以前のお話も好きでしたが今回の方が今世に集中してシオリとジエイラスを見ていたので感動が大きかったです。
素敵なお話ありがとうございました。
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じっくり書いたのでそんな風に言って頂けて嬉しかったです。
書き直しても、やっぱり上手く書きなかったな……と思っていたんですが、楽しんで頂けたなら書いて良かったと思えました。
こちらこそ素敵な感想をありがとうございました。本当にとても嬉しかったです。
いよいよ大詰めですね
⁽⁽ (˶> ᎑ <˶) ⁾⁾
大詰めに気付いてくださり嬉しいです(^o^)
今月中に終わらせたかったので今日だけで1万字も書いてたのに無理でした……。後数日で終わらせられたらいいなと思ってます。
終わりましたらピコっぴ様のところにもゆっくりお邪魔させてもらいたいです。