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 私達の正面のソファにヤコブソンとフローラ、斜め前のソファに前王と前王妃が座っております。
 勿論、私達の周りは護衛が固めておりますので、丸腰の四人には何も出来ないでしょう。
 もっとも、ここで襲ってくるくらいの気概があれば、もっと違う未来があったかもしれませんわね。

「まず、なぜフローラ様がこのような状態なのかご説明くださいませ」
 ヤコブソンに問い掛けます。
 ここ一週間は食事はなく水だけ届けられてましたが、それの取り合いでもして、フローラは殴られたのでしょう。
 予想はしておりますが、ハッキリと自白していただかなくてはいけません。
 フローラの息があるうちに、お願いしますわね。

「それは……そ、そうだ!昨日水を届けに来たヤツがフローラに暴力を振るったんだ!」
「まぁ!騎士が二人にメイドが一人の合計三人に暴力をですか?扉の外から?長い棒でも使ったのかしら?でもフローラ様は逃げもせず殴られ続けたのですね。なんて我慢強い方なのでしょう」


 この建物内には、凶器となりうる物は一切置かれておりません。
 カトラリーもです。
 食器も置いてありません。
 毎日届けられる食事は、届けた者が食器もカトラリーも全て持ち帰っておりました。
 その為、食事時間は15分と短かったのですが、人間って適応するのですね。
 ヤコブソンもフローラも、すぐに15分で完食するようになったそうですわ。
 水は、革袋に入れられていたそうです。

 因みにこの食事の決まりは私達が決めたわけではなく、この建物を利用する際のなのです。
 罪を犯した王族を閉じ込める館ですので、死んで楽になるのは許さない……という事なのでしょう。

「王族であっても、他人を殺そうとすれば罪に問われます。ヤコブソン様、両手を前にお出しください」
 言わんとする事を理解したのでしょう。両手を自分の後ろへ隠しました。
 そうです。凶器になる物が無いのですから、自分の体を使い暴力を振るったのでしょう。
 暴行の証拠は、彼自身の拳なのです。



 本来の予定では、飢えた二人が私達に襲い掛かって来るのを取り押さえ、罪に問うはずでした。
 まさか既に命をおびやかすほどの争いをしているとは、さすがに思いませんでした。
 私を追い落とそうとしてまで結ばれた二人ですのにね。

 ヤコブソンの前に、とても綺麗なカップを置きます。
 そこに赤いワインを注ぎました。
「そ、それは……」
 前王は気付いたようですわね。
 しかし私と目が合うと、口を閉ざし下を向きました。

「ヤコブソン様、どうぞお飲みくださいませ」


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