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05:邪神と『瑠璃』
しおりを挟むケツァルコアトルを送るまでは、と耐えていたカルセドニーだったが力が足りず、召喚者の意識消失による強制返喚という、儀礼を欠いた返喚方法になってしまった。
薄れ行く意識の中で、消えゆくケツァルコアトルを見ていたカルセドニーの顔には、魔力切れだけではない顔色の悪さがあった。
意識を手放したカルセドニーをサファイアが受け止める。しっかりと抱きかかえると、ヘリオドールの所まで連れて来た。
「頼む」
静かにカルセドニーを下ろすと、ヘリオドールに声を掛けた。
それに小さく頷いてから、ヘリオドールはカルセドニーの身体に両手をかざす。
二言三言何かを唱えると、その両手が白い光を放つ。
その光が全身を包んだ瞬間、カルセドニーの瞳がゆっくりと開かれた。
自分が意識を失っていた事を思い出し、カルセドニーは勢いよく起き上がった。
「クェツァルコアトルは?!」
カルセドニーの顔色が悪いのは、魔力切れだけのせいでは無いだろう。
慌てた様子のカルセドニーと視線が合ったインペリアルトパーズが苦笑いを浮かべる。
「何か……勝手に納得して帰っていったよ」
インペリアルトパーズの困惑した説明に、カルセドニーも戸惑いを露わにする。
神に分類される者達は、蔑ろにされる事を何よりも厭うのだから当然だろう。
「ちゃんと送り帰す儀礼を欠いたのに? 怒りもせず?」
カルセドニーの言葉に、全員の視線が瑠璃へと集まった。
ケツァルコアトルが怒りもせずに帰った理由は、なぜか瑠璃だったようだから。
「八百年前。一番長生きしているエメラルドでもまだ生まれていない……か」
全員の視線に気付いていないはずはないのに、瑠璃は気にした風もなく独り言を呟く。
それを聞くともなしに聞いていたフローレスが、瑠璃の手を取り歩き出す。
「な、何?」
いきなりのフローレスの行動に、さすがの瑠璃も焦りを見せた。
「瑠璃、八百年を生きていなくても、この世界の過去を知っている者がいるだろう。もし禁忌の魔法を使ったのなら、歴史として記憶に刻まれているはず」
フローレスの説明に、瑠璃の瞳が細められた。
「ファイアオパール……」
この世界の歴史を、生まれながらにして脳裏に刻む宝石人の顔を瑠璃は思い出していた。
「ファイアオパール! ファイアオパールはどこにいる?」
建物の入り口をくぐった途端、フローレスが大声で叫んだ。
普段は物静かなフローレスが大声で誰かを呼ぶ事など初めてなので、その場にいた誰もが動きを止めて入り口へと視線を向ける。
「おそらく自室にいらっしゃると思われますが……」
一番近くにいた宝石人が戸惑いながらも返事をする。
「自室に?」
フローレスの視線がその宝石人へと向いた。
「は、はい。少し前にお部屋の掃除に伺いましたら、今日は良いと断られましたので……」
視線を合わせないように頭を深く下げながら答える。
一般の宝石人にとって、円卓の十三人は畏怖すべき存在なのだ。
「そうか、ご苦労」
短くそう告げたフローレスの視線は、すでのその者にはなかった。
瑠璃の手を取り、足早にファイアオパールの部屋の在る方へと向かう。
手を取られた瑠璃の方も、抵抗する様子もなく付いて行く。
その後をヘリオドールが、更に後れてインペリアルトパーズとカルセドニー、最後にサファイアが続いた。
ファイアオパールの部屋の扉が見える位置まで来た途端、瑠璃の足が止まった。
先を歩いていたフローレスも無理強いをせず、一緒に足を止める。
「どうした?」
繋いでいた手を離し、フローレスが振り返った。
「禁忌の魔法を使った先代瑠璃……それが何百年も瑠璃がいなかった理由に間違いないでしょう。でも、それを知る必要があるんでしょうか? 『瑠璃』の存在全てを否定する事に……」
瑠璃の言葉は途中で途切れた。後ろからヘリオドールに背中を叩かれたせいだ。
さすがに眉間に皺を寄せながら、瑠璃が後ろを振り返る。
どこか悪戯っ子のような笑顔を浮かべたヘリオドールがいた。
「お前、頭が良すぎて考えすぎる所があるよな? 『瑠璃』の存在が否定されているんなら、今のお前が居るわけないだろう。それにさ、俺、思うんだけど」
ヘリオドールが一度、大きく深呼吸をする。
「先代瑠璃も、自分のエゴで禁忌の魔法を使ったんじゃないって。だって、邪神が『全ての悲しみを凝縮したような瞳をした女性』って言ってただろ?」
妙に自信タップリのヘリオドールの言葉に、瑠璃はほんの極わずかだったが微笑んだ。
to be continued……
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