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06:ファイアオパールの見る世界
しおりを挟む扉をノックしてからタップリ五分以上かかってから、ゆっくりと扉が開かれた。
どこか不機嫌な表情で一同を迎えたのは、部屋の主ではなく、パライバトルマリンだった。
戦士独特の鍛え上げられた肉体を惜しみなく晒している。
「悪いな、トルマリン。急ぎの用件なので邪魔をする」
出て来た相手に驚いた様子もなく、フローレスが部屋の中へと歩みを進める。それに続いて瑠璃が無表情で頭を下げて通る。
ヘリオドールは苦笑いをしながら片手で謝罪のポーズをして見せた。
カルセドニーとインペリアルトパーズは、視線を合わせないで軽く会釈をしながら通り過ぎる。
最後にサファイアが、パライバトルマリンの大きくはだけた胸元をトンっと一つ拳で叩いてから部屋へと入った。
全員が部屋に入ったのを確認してから、パライバトルマリンは扉を閉めた。
「珍しい組み合わせですね……?」
首元までキッチリとボタンを留めたファイアオパールが椅子に座って皆を迎える。
ほんのりと頬が染まっているのは、髪の色が映っているせいだけではないようだ。
「すまない。用事が済んだらすぐに退散する」
本気で申し訳なさそうな声を出したサファイアが、そっと瑠璃の背中を押した。
隣に並んだ瑠璃へと一瞬視線を落としてから、フローレスは目の前のファイアオパールへと真剣な視線を向ける。
「今、面白い情報をクェツァルコアトルから聞いた。先代瑠璃が禁忌の魔法を使った可能性が高い。大凡八百年ほど前だそうだ。たどれるか?」
ファイアオパールの表情が変わった。
顔色自体が変わったと言っても良いだろう。
「禁忌の魔法?」
瑠璃が静かに頷いた。
ファイアオパールの震える手が口元を押さえる。
明らかに嘔吐を我慢している仕草だ。
「大丈夫か? ファイ!!」
今まで我関せずで、皆から離れた所で様子を窺っていたパライバトルマリンがファイアオパールに駆け寄った。
腹の中の物を粗方吐き出したファイアオパールがパライバトルマリンに支えられて戻って来た。
真っ青になったファイアオパールが洗面所に行った時、具合が悪いならば出直すとフローレスは告げた。
それをパライバトルマリンが引き止めていた。
正しくは、ファイアオパールが皆を帰さないように、パライバトルマリンに言っておいたのだ。
「大丈夫か?」
ヘリオドールがファイアオパールの手を取り、小さく呪文を呟く。
淡いピンク色の光がヘリオドールの手から広がる。ファイアオパールの浅い苦しげな呼吸が、落ち着いた呼吸へと変化した。
「ありがとう、ヘリオドール」
大きく深呼吸したファイアオパールがヘリオドールへと礼を言う。
それからもう一度大きく息を吸って、両手を広げた。
「実は、今の症状は初めてじゃないんだ。前にも一度だけ、同じ発作を起こした」
ファイアオパールの両手の中の空気がゆらめき、炎へと姿を変える。
「瑠璃が生まれた時、先代瑠璃の事を調べようとしたんだ……瑠璃を育てる役に立つだろうと思ってね」
炎の色が、今まで見た事もない色に変化していく。
紅蓮とも鮮血とも見えるし、褐色や錆色にも、鈍色にも見える。
「さっきの発作なんて比べようもないほど、酷いものだった。ホンの少し思い出しただけで、嘔吐するほどの酷い症状。それはそうだよね。不用意に禁忌の魔法に触れていたのだから……」
理由は今、初めて知ったけれど、と最後に一言、誰に言うでもなくファイアオパールは呟く。
炎全てが交じり合い、この世に存在する色全てを混ぜ合わせたような混沌とした状態になる。
それこそ、吐き気を催すような色味。
「今回は、覚悟を決めているから大丈夫! 皆も覚悟を決めてよね!!」
炎が真っ黒な色を吐き出した。
闇の中に、青い炎がゆらめいている。
それが徐々に形を成し、荒れた大地に広がる髪へと変わる。
静かな表情の女性が淋しげに空を見上げていた。
微かに動く口元が何かを呟いている。
世界にやり直すチャンスを下さい
確かにそう動いた。
まさに宝石が砕けるように、女性の姿が壊れた。
最初は大きな塊だったのが、徐々に崩れていき、最後には青い砂へ……。
女性だった砂が風に飛ばされて行く。
砂の触れた場所が荒野から徐々に姿を変える。
瓦礫の山が神殿へと。
荒れ果てた地が緑の輝く大地へと。
岩ばかりがあった場所が大きな湖へと。
誰一人いなかった世界に、人々が溢れ出した。
「どういう……事なんだ?」
インペリアルトパーズが崩れるように床に座り込んだ。つられるように、その横にカルセドニーが座る。
「世界は一度、滅びていた?」
よろめいたヘリオドールが壁に背をついた。
パライバトルマリンは頭を抱えて椅子に座っている。
辛うじて平静を装っているフローレスとサファイアも、青い顔で炎を睨んでいた。
ただ一人、瑠璃だけはいつものように無表情だった。
to be continued……
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