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復讐実行の章 ※センシティブな内容となります
39:未来を見据える
しおりを挟むマリーズは友人達の話を一通り聞いて、幸せな公爵夫人を演じた後、話が一段落したところで疲れたように溜め息を吐き出した。
そうすれば気遣い屋のミレイユが気付いてくれると解っていての行動である。
「あら、どうされましたの?マリー様」
予定通り、ミレイユが心配そうにマリーズに声を掛ける。
マリーズはミレイユの方へ顔を向け、目に涙を溜めた。
「皆様に心配を掛けたくなくて、我慢しておりましたが……」
瞼を少し伏せると、涙が頬を伝う。
「私達は仮面夫婦なのです」
マリーズの衝撃の告白に、誰もが動きを止めた。
そこでマリーズは、ジスランにはコレットという愛妾が居た事。
コレットは、ジスランがマリーズと婚約する前に、既に公爵家でメイドとして雇われていた事。
そのコレットが現在妊娠中である事を告げた。
嘘は1つも言っていない。
「公爵家の恥になるので、決して表には出せないのです」
マリーズは悲しい表情で俯く。
悲しい、辛い表情は、前回を思い出せばすぐに出来た。
死ぬほど、自分の命を掛けて復讐を誓うほどの、辛い記憶。
「皆様にお願いがございます。この事は、皆様の胸の中だけに留めてください」
マリーズの頼みに、皆が顔を見合せて戸惑う。
特にミレイユは、マリーズの兄である夫に相談しようかと思っていたからだ。
「私は、3年後に白い結婚を理由に離縁しようと思っているのです。もしこの醜聞が広がれば、私の純潔が散らされ、離縁できなくなってしまいます!」
マリーズは涙を流し、五人に訴えた。
一度でも閨を共にしていれば、白い結婚は成立しなくなってしまう。
「勿論協力いたしますわ!」
最初に口を開いたのは、ミレイユだった。
「学生時代からマリー様にご執心だと思っておりましたのに、あれも全て演技だったのですね!」
「マリー様と出会う前からのお付き合いですか」
「愛妾を先に妊娠させるなど、貴族の風上にも置けませんわ」
皆が口々にジスランを責めるのに、子爵夫人は何やら考え込んでいる。
そして、重い口を開いた。
「実は前に街で、アルドワン公爵令息がマリー様以外の女性といる所を見た事がございましたの。その時は見間違いだと思っておりましたが……」
マリーズの主張が嘘では無いと証明された。
マリーズは涙を拭うふりで顔を隠した。
前と違って、死んで終わり……では無いのである。
ジスランとコレット、そして魔法使いの三人に復讐した後にも、人生は続く。
復讐をしないで、新しい人生で幸せになる選択肢も無かった訳では無い。
何せ今回は、三人は何もしていない。
魔女も真摯に話せば理解してくれただろう。
だが、それを選べなかった。
マリーズが自ら行動しなければ、また同じ人生が巡って来たであろうから。
現にマリーズに出会う前までは、ジスランとコレットは前回の人生をなぞっていた。
アルドワン公爵夫妻が生きているから、コレットの産む子供もまともに育つだろう。
いや、あのジスランを育てた親なので、絶対では無いが、ジスランとコレットだけしか居ないアルドワン公爵家よりは、多少マシだろう。
それでアルドワン公爵家がどうにかなったとしても、それはマリーズの責任では無い。
前回は正妻が産んだ、両親が貴族の正式な後継者だった男の子は、今回は妾の産んだ平民の血が入った子供となる。
しかし本来、それが正しい生まれなのだ。
「皆様、離縁後も私と仲良くしてくださいね」
マリーズの目が、少しだけ未来を見る余裕が出て来たようだった。
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