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第二章 【西の王国】
2-72 壮行
しおりを挟む翌朝、ハルナは老婆の元へ行く。
昨夜話をしていた、冬美が眠っているお墓まで案内してもらうためだった。
老婆の手には、近くの山の中から摘んできた花束を用意してくれていた。
ハルナは老婆の後ろをついて行き、宿の裏側に向かっていく。
裏側には少し山の中に入る道があり、一分ほど山をジグザグに登っていくと宿が上から見渡せる場所に出る。
そこには、石が三つ並んであった。
老婆は三つ並んだ石の真ん中に花束を置く。
真ん中が老婆の夫で左が娘、右側が冬美のものだと言った。
老婆は片膝を立て、拳の掌側を胸に当てて目をつぶり安らかな眠りを願う。
クリエたちも、立ったまま同じ動作で慰霊をささげた。
ハルナは、前の世界と同じように両手を前に合わせ冥福を祈った。
「お婆さん、有難うござます。冬美さんも、きっと最後はお婆さんのところで幸せに過ごせたでしょうね」
「あぁ。そういってもらえると助かるよ……最後はお前さんの心配ばかりしておったからな。でも、間に合って良かった……こうしてフユミのことも、伝えることもできたのじゃからな。肩の荷が下りたよ」
「あのぉ、お婆さん?もし、よかったら墓標を作り直したらどうですか?見たところ普通の石ですし、名前とか入れた方がよりいいんじゃないかと思うんですけど……」
「できれば、そうしたいところじゃが、そんなお金も下から運んでくる力も、もう無いわい」
「あ、そうか。クリエさんは”土”だったわね!」
――?
老婆は何のことか、さっぱりわかっていなかった。
「クリエさんは”土”の精霊使いなんです。石とか砂とかの元素を操れるんですよ!」
そう言われて、クリエは何もない場所に今から作ろうとしていた墓標の形の石を作って見せた。
「おぉ!?お前さん、精霊使いだったのか!この力は初めて見たが、こりゃあ凄いもんじゃな!お願いしてもよいか?」
老婆が興奮気味に、クリエの力を称賛する。
褒められたクリエの顔が明るくなる。
「それでは、名前を教えていただいてもいいですか?石に名前を刻みます」
「おぉ、そうか。それは助かるのぉ。それじゃあ、夫の名前は……」
名前を聞き、クリエは石を一つずつ消して四角い墓標を作り出した。
名前はこの世界の言葉で書かれていた。
それを見た、老婆はクリエに感謝した。
「これで誰のものかわかるなぁ。ワシがいなくなってしまった後でも、わかるようになったわい。お嬢ちゃん、ありがとう!」
何度も何度もお礼を告げる。
そして、お参りも一通り済ましてハルナたちは宿に戻った。
これから、ハルナたちは西の王国を目指していく。
「お婆さん、お世話になりました!」
ハルナは、お婆さんにお礼を言う。
「いや、いいんだよ。ずっと気になっていたことも解決したんだ。また、顔を出しておくれ」
「ありがとうございます……それと、これ受け取ってもらえませんか?」
ハルナは、ネックレスを老婆に手渡した。
「こ、これは……」
「冬美さんもこの世界で、良い人に出会えて喜んでいると思います。お世話になったお婆さんには、ぜひ持っておいてもらいたいんです。この世界にいた証としても」
「しかし……大切なものじゃないのかい?」
ハルナの提案に、老婆は戸惑う。
うれしい反面、思い出のある大事なものを、家族でもない者が受け取っていいのかと。
それを聞いたハルナは、老婆に答えた。
「この世界では、冬美さんにとってお婆さんが”家族”だったと思います。私もそんなに冬美さんのことをよく知っているわけではないですが、冬美さんはお婆さんのことを家族のように接していたと思います」
その言葉に、老婆はネックレスを握りしめ目を閉じる。
その間、老婆は冬美と過ごした日々の思い出に浸っていた。
「わかったよ……だが、これはお前さんから貸してもらうだけにしよう。フユミはお前さんのことを一番心配しておったからな。ワシもこの先、どのくらい生きていられるかわからん。だから、その間は”コレ”をかしてもらう。だからまたここにワシの様子を見においで……いいな?」
「はい!」
ハルナは良く分からない理由だが、老婆の気持ちが伝わってきたので、その約束を了承した。
老婆はその返事に対し、満足そうにうなずく。
「それでは、ハルナ様。そろそろ行きましょうか?」
ソフィーネは、丁度よいタイミングを見計らいハルナに告げた。
「お前さんたち、そういえばこれからどこへ行くんじゃ?」
「私たち、西の国の王都に向かうんです」
クリエが老婆に答えた。
そして、軽く説明をして西の警備兵が起こしたことを国に報告しにいくことを伝えた。
「そうか……まだ、警備兵の中にはそんな奴らが……そうじゃ!」
老婆は、また自室に戻り何かを探していた。
目当てのものが見つかったのか、ハルナたちの前に戻ってきた。
「これを持っておいき」
「これは?」
ハルナが手にしたものはバッジだったが、アーリスから預かった者よりも随分と古いものだった。
「それはワシの旦那が警備兵の時に持っていたバッジじゃ。王都の関所にいる警備兵の隊長に、それを見せるがいいさ」
「その隊長とは?」
「ワシの旦那の弟で、名は『ボーキン』。今でも年に何回かここに顔を見せに来てくれる、優しい男さ。このバッジを見せれば、お前たちの力になってくれるじゃろう」
「ありがとうございます、助かります!」
「それでは、別料金だった食事代を……」
カルディが出そうとするが、老婆が遮る。
「また、”どうせ”帰りに寄るんだろ?その時は……な」
カルディはこれ以上何も言わず、笑顔で老婆の好意を素直に受け入れた。
「それじゃ、行ってきます!!」
ハルナはそう告げて、宿を出る。
時折振り返り、いつまでも見守る老婆に手を振りながら、道を進んで行った。
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