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第三章 【王国史】
3-21 隠した名前
しおりを挟むその名前を聞いた途端、ハルナたちは何かの事情があると察した。
そして、ハルナはマーホンの顔を見てこの人物を知っているかという目で見たがマーホンは首を横に振った。
「そ……それで、その。もし差し支えなければ、その……マーホンさんでしたか?その方にはどのような用事が?」
アルベルトは空になったカップを渡すように促し、女性はアルベルトに空になったカップを返した。
「はい……お恥ずかしいことですが、我がエフェドーラ家は各家の繋がりが、そんなに強いわけではありません。遠い親族になると顔も名前もわからない状況です。なのでエフェドーラ家はこのような紋章を……っと、これは荷物が盗まれてしまっていま持っていません」
マーホンはその女性の説明が正しいと首を縦に振るが、ステイビルの視線に気付き咳ばらいをして大人しくなった。
「今、一族の最年長の祖母様の体調のご様子が良くないので、本家の代表でありますマーホンという人物が王国の城下町にいるとのことで探しておりましたが居場所が突き止められませんでした」
「それは、いつ頃のお話しですか?」
「一週間前くらい前に到着し、そこから数日間探し回りましたが何の情報も得られませんでした」
ステイビルは、丁度王選が開始されてマーホンがハルナたちに協力し始めた時期であることを確認した。
王国は、マーホンの情報も開示しない様にされているのだと推測した。
「それで……どうしてあの場所で倒れていたんですか?」
「実は、お財布と荷物を町を出たところで盗まれてしまいまして……まずはモイスティアを目指して歩いていたところですが、お腹もすいて喉も乾いて疲れ果てて倒れてしまったんです」
恥ずかしそうに、その女性は手で顔を隠しながら事情を説明した。
「その間、誰も通らなかったのね……私たちが通ってよかったわね」
エレーナは、本当に良かったとその女性に告げた。
「失礼ですが、今回モレドーネまで行かれると先ほど耳にしました……その、私もご一緒させて……頂けないでしょうか?」
「もうひとつ、聞いてもよろしい?」
「はい、なんでしょう?」
今まで黙って聞いていたマーホンが、女性に話しかけた。
「アナタは、マーホンという人物を見つけた場合はどうするおつもりでしたの?」
その質問に女性の目は厳しく変わる。
「私は、マーホンさんという方を許せません。本家でありながら、こんな状況で傍に居なくてほったらかしで、無責任な方であると思います!ですので、本家の座を降りて頂き、その責任を追及するつもりです!」
そのことを聞き、ハルナたちは目が笑っていたが”また面倒なことが……”の空気が流れていた。
ソフィーネとアルベルトはハルナとエレーナにお任せをすると行った感じで、そのハルナとエレーナはステイビルにお任せしますといった流れになった。
ステイビルは『ヤレヤレ』と小さくつぶやき、その女性に話しかけた。
「事情は分かった。まずは、モイスティアまでは一緒に行こう。そして、とにかく今は、弱った身体を休めるべきだ」
その女性も自分が興奮していたことを思い出し、お詫びして今日は身体を休めることを約束した。
翌朝、マーホンとソフィーネが早起きをして朝食の支度をする。
その後でハルナたちが起きてきて、全員で食事を採った。
そして、食後のお茶を楽しんでいるところでハルナは女性に問いかけた。
「あの……そういえばお名前をお伺いしていませんでしたよね?」
「あ。失礼しました、助けていただいたのに名乗らずに大変失礼しました!?」
女性は慌てて手にしていたカップをテーブルの上に置き、背筋を伸ばしてハルナたちを見る。
「申し遅れましたが、わたくしエフェドーラ第三家の”ノーラン・エフェドーラ”と申します」
マーホンの親には四人の兄弟がいる。
マーホンの父親は長男で本家となり、次に生まれた長女が第二家となり、その下の次男、三男が第三、第四家となっていた。
「あの、皆さまのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、私はハルナ。こちらはソフィーネさん」
「私は、エレーナよ。よろしくね。後ろがアルベルト」
「私は……が、ガヴァス。そう、ガヴァスだ、よろしくな」
((ガ……ガヴァス!?))
ハルナとエレーナハ心の中で、復唱した。
ステイビルは、一応勘付かれない様に本名ではなく偽名を使うことにした。
東の国の国内とはいえ、王族の名が国内全域に浸透しているかといえばそうでもないのだが、ここはマーホンのためにも気付かれない様に偽名を名乗ることを選択した。
「えーと、そちらの方は?」
ノーランは最後にマーホンの姿を見て、名前を伺う。
「私は……」
マーホンはみんなの視線が集まるのを感じ、唾を飲み込んだ。
「私は、メイルと申します。……よ、よろしく」
「わかりました、”ガヴァスさん”に”メイルさん”ですね。よろしくお願いします!」
ノーランは、自分を助けてくれたこのメンバーのいうことを何も疑うこともなく、全員の名前を信じた。
「う、うむ……あ、いや。こちらこそ、よろしくな」
ガヴァスを名乗るステイビルは、これから王子の名ではなく一般市民であることを演じなければならない。
そのことに面倒臭さも感じながらも、初めての出来事に何が起こるか分からない楽しみを感じていた。
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