352 / 1,278
第三章 【王国史】
3-184 エルフの村の防衛5
しおりを挟むハルナたちは空に舞い上がったレッサーデーモンが、魔法の矢で貫かれて墜落していく様を遠くから見ていた。
いま、ハルナたちはエレーナと合流し、東の国のメンバーでその対応を行っていた。
最初に相手にしていたレッサーデーモンが屋敷の方向へと逃げ、それを追いかけていたハルナたちはその途中でナンブルと遭遇する。
ハルナたちは、もう一体の方を先に片付けて欲しいと依頼された。
その思惑には、村の被害を少なくさせるためという考えがあった。
そのことを承諾して、ハルナとソフィーネはエレーナと合流しもう一体への対応にあたった。
「……もうっ!しつっこいわねー!?」
エレーナは、レッサーデーモンの攻撃を氷の壁で防ぎながら悪態をつく。
攻防は人間側が優勢だった……しかし、それもほんの僅かな差だった。
言い換えれば、ハルナたちに被害が出ない程度というもの。
その優劣は、突然その立場を変える。
ガキーン!!
アルベルトが使っていた剣が、レッサーデーモンの腕の一振りで折れてしまった。
ドワーフの町で整備をしてもらっていた時、切れ味を増すために削ったことに切れ味は上がったが強度が少しだけ落ちていた。
ドワーフたちにとっては最善の策で施してくれていた整備だったが、相手の力が剣の強度を上回っていたために耐えきれなかった。
(自分の腕が未熟のために剣を……)
アルベルトは、ドワーフに申し訳ない気持ちになる。
そこに、ステイビルが合流し運よくドワーフ……ジュンテイから託された刀を持ってきていた。
ステイビルはアルベルトがレッサーデーモンの攻撃を交わしている姿を見て、攻撃手段がなくなっていたことに気付く。
「――アルベルト!!!」
ステイビルはアルベルトの名を呼び、屋敷より持ってきた武器を意識させた。
アルベルトがステイビルの近くまで行きやすいように、ハルナ、エレーナ、ソフィーネたちはアルベルトのサポートする。
攻撃はできないまでも、相手の足止めをするだけは十分な戦力だった。
ハルナ、エレーナの攻撃とソフィーネの素早い動きによる攪乱でレッサーデーモンは自分の思うようには動くことはできなかった。
その行動に腹を立てたのか、レッサーデーモンは一旦上空の高い場所に移動した。
そして大きな声で嘶き、エレーナめがけて急降下する。
エレーナの身体を束縛しようと、伸ばした腕襲い掛かる。
「エレーナ!!」
助けようとハルナは、飛び出そうとしたがその行動をソフィーネに止められる。
その瞬間、視界の端から飛び込んでくる人の姿が見えた。
レッサーデーモンは本能的に危険を感じ、急浮上して危険を回避しようとした。
――ザッ
ドっ……ドっ……ド……
エレーナを掴もうとしていた切り落とされた腕が、地面を数回跳ねて転がっていく。
「アルベルト!!」
エレーナは、目の前を横切り自分を助けてくれた者の名前を呼んだ。
アルベルトは装備を変え腕に付けていた盾を外し、刀を両手持ちで構える。
ハルナがみればその姿は、この世界にはいない侍のような雰囲気が漂っていた。
いままで相手の剣を、この強靭な腕と爪で跳ね返してきた。
元素を使ってくる攻撃や惰弱な人間による打撃での攻撃は、鬱陶しくはあるがこの身に全くダメージが与えられるようなものではなかった。
今までも、何度もこのような状況は経験しており、いつも同じような結果になっていた。
”――最後に勝つのは自分だ”
悪魔は、そう思いながら目の前の小さな生き物たちに対峙していた。
焦る必要もなく、ゆっくりと命と体力を削っていき最後に止めを刺せばよかった。
その間に、周りの環境も破壊できるならば、これに越したことはない。
グレーターデーモンのように、理論的思考や言語能力は持たないが殺戮や破壊のための方法なら考えることはできる。
オオカミやコボルドのような下等な生き物と同じように、生きるための欲求や快楽を満たすため必要最低限の知能は持ち合わせていた。
今回その中に備わっている知能の中で、初めての経験する感情がレッサーデーモンの頭の中に芽生える。
その不快な感情の名は”恐怖”
しかし、その生まれたばかりの感情を理解することはできなかった。
ここでその感情について考えていればこの後の行動も変わっていたであろう。
所詮それは、結果論の話しだった。
レッサーデーモンは自分の身体を傷つけた今までと違う攻撃に苛立ちを見せて、最初に葬るべきターゲットをアルベルトに定めた。
体格も攻撃範囲も自分が優勢と感じたレッサーデーモンは、残された三本の腕の爪で力任せに何度も切りつける。
この人間は先程、自分の攻撃を盾で防いでおり、何度かひるむ姿を見ている。
今は盾も装備していないため、最大の力で押し切れば肉の破片が飛び散るものと考えていた。
だが、それは悪魔の希望的観測だった。
アルベルトは、盾を外したことで最小限の動きで攻撃を交わしていく。
回避動作中の攻撃については、刀で弾きその軌道を変えている。
しかも、小さな切り傷のおまけ付きだった。
アルベルトの行動は、水が流れをイメージさせるような無駄のない動きを見せる。
レッサーデーモンは小さな傷でダメージは無いと言えども、攻撃が当たらないことと少しずつ削られていき不快感は募るばかりだった。
とうとう我慢も限界に達し、レッサーデーモンはアルベルトと距離を置いた。
残った一本の腕と、反対側のもう一本の腕で手を合わせその空間に黒い球体を作り出していく。
その姿を見たアルベルトは自然と刀を腰の鞘に納め、そのまま刀を抜く体制のまま相手の様子を伺う。
準備が整ったレッサーデーモンは、咆哮をあげ黒い球体をアルベルトに向かって放った。
ハルナたちから見れば早い放出速度も、今のアルベルトから見ればゆっくりとした動きでとらえられていた。
黒い球体は、アルベルトの刀の間合いに入り、アルベルトは一瞬にして剣を抜刀する。
斬撃は形となって放たれ、目の前のものを全てを切って進んで行く。
その結果、黒い球体は二つに割れ空気の中に消えていく。
それと同時に、レッサーデーモンの上半身は右の腋の下から左の肩にかけて亀裂が入り滑り落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる