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第三章  【王国史】

3-204 東の王国8

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ウリエルはエイミに土と風、セイラに火と水の属性の精霊と契約していることに気付いていた。


二人は練習の間に、精霊に関して浮かんだ疑問をウリエルに確認していった。
もちろん、訓練の手を休めることは許されず、会話をしながらという条件で。


話しながら精霊の力をコントロールしていくことは、二人にとってはとてもいい訓練になっていた。

意識が乱れれば、精霊の力は消失または暴走してしまう。
人が自律神経を使って無意識に呼吸をするように、精霊の力を自然に扱えなければならないとウリエルは言った。






新たな知識として教えてもらったのは、ウリエルと”同等”の存在だった。



土属性を束ねるウリエルの他に火は”ミカエル”、水は”ガブリエル”、そして風は”ラファエル”という各属性を束ねている存在がいるという。


それぞれの場所はお互い秘密とされており、用事があれば四人が知る方法で連絡が取れるとのことだった。

その他、同じ属性の力を持ち、強い存在がいることをウリエルは告げる。
その存在の名前は竜と呼ばれる種族だった。

敵対はしていないが、仲間であるようなことでもないらしい。
その間には何かあると感じはしたが、これ以上はウリエルは教えてくれなかった。









さらにエイミは質問を重ねていく。





「ウリエル様、本当に人の中で精霊と契約したのは私たちが初めてなのですか?」



『えぇ、そうね。ほらほら、エイミ……石の高さが下がって来てるわよ』



「……は、はい!」







今の訓練は二十センチの正六面体を作り、胸の高さで空中に制止させている。
エイミは土の属性で岩を、セイラは水の属性で氷で造り出し一定の高さで制止させている。

案外コントロールが難しく、自然に起きている重力とそれに反発して起こす浮力のバランス。
それだけに意識をしていると、この正六面体は形が崩れてしまうため形の保持にも力を入れる必要があった。


ちなみに次のステップは、この高さと大きさを維持したまま、この正六面体を回転させていくことになる。





『……先程の質問ね。あなた達が一番最初っていうのは、本当の話よ』


「それは、何か理由があったのですか?」


『理由……っていうほどのものはないわね。ただ、”その時期がきた”ということかしら?』




稀に他種族の中に、精霊と繋がりその力を授かる存在もあったという。


ただ、そういった生物は知能と理性が低いため、その力を使いこなしたりすることが無いようだ。
稀に狩りのときや襲強敵に襲われたときなどに、精霊の力を使い自分たちの命をつないでいったようだ。




ではなぜ、今まで人間は精霊との関わりがなかったか?

人間は独自で進化をしていったことがその理由らしい。
群れを成し、その中で秩序を創っていった。

他の種族でも群をなして、生活をしているものたちもいた。
だが、それは人間のモノと比べると秩序も理性もあって無いような次元の低いものだった。
基本的に自分が死なないためや、生き延びることを目的とし、強い者がその集団を取りまとめているだけだった。

そこには主に、弱肉強食のルールしか働いていない。
弱ければ餌食にされ、強ければその恩恵を受けることができる。





だが、人間は違っていた。
中には低俗な力によって全てを思い通りにするような者もいたが弱い者たちが手を組み、個では立ち向かえない力に抵抗を見せ勝利する者も現れた。

そしてまた力を持つ者が己の欲望だけで行動せず、弱いものを助け協力し合う者たちも現れた。


自然の法則を見つけようとする者、天体や天候を観測をし続ける者、架空の物語を紡ぐ者、音で楽しませようとする者、食糧を自分たちの手で栽培しようとする者……など、様々な人間が営みの中で発生してきている。




『……そうして発展してきた人という種族に次の段階がきたっていうことなのかもね』



「"かもね"って、ウリエル様がお決めになられていることではないのですか?」



エイミは次の段階の訓練である、正六面体がクルクルと一定の速度で回転させながらウリエルの言葉に反応した。




『私はそんなに凄いものではないわ、ただ”精霊たちのまとめ役”っていう事だけなんだから』




それでもエイミたちにとっては、神に近い存在のように思えてならない。
しかし、先ほどのウリエルの態度はそういったものではないとエイミたちの考えを否定しているようでもあった。




そこから、さらに訓練は続いていく。

精霊の力の形を自在変えたり、ウリエルが作った迷路のような壁に当たらないようにその中を通していったりさえ、微妙なコントロールもできるようになってきた。





『いい感じになってきたわね。そろそろ、最後の仕上げに行こうかしらね』





「最後……」


「ですか……?」



最後という言葉を聞いて、エイミもセイラもホッとした気持ちになる。
その反面、本当にこれでいいのか?もっと練習しないといけないのではないかという思いが浮かんでくる。


そんな気持ちを抱きながらが二人は次のウリエルの言葉を待った。

二人はどんな試練を与えられるのかという表情に対し、ウリエルはニコっと微笑んだ。


そして


『――じゃあね』





その言葉と共にエイミとセイラは真っ黒な闇の中に放り込まれた。

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