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第三章 【王国史】
3-221 東の王国25
しおりを挟む「――危ない!」
その人の力から離れた速度で移動してみせる敵に対し、エイミは狙われたブランビートのことを精霊の力で守ろうとする。
しかし、ブランビートは驚いた様子も見せず、後方に剣を払い相手の攻撃を防いで見せた。
「――グッ!?」
手に傷を負い、トライアは手を引いて元にいた場所に戻っていた。
ブランビートはトライアの気配を感じ、剣を振りぬいていたがその結果は見ての通り良い結果となった。
「……まぐれにしても、この俺に傷を負わせるとはたいしたものだな……糞がァ!!!お前ら、まともに死ねると思うなよ!!」
トライアは怒りに染まった目つきで、次の狙いをエンテリアに切り替えて突進してくる。
エンテリアは剣を繰り出すよりも、盾を装備した左の前腕を前にして右の前腕を交差した体勢で構えその攻撃に備えた。
その姿を見たトライアは、盾の上をサンドバッグのように何度も何度も拳を叩きつけた。
ブランビートは助けようとしたが、エンテリアは自分の実力を試すかのようにその行動を制する。
「オラオラオラオラ!どうした!?やり返してこないのか!?それとも手も足も出ないのか!!」
バカにしたような目つきで自分の防具を殴り続ける男の顔を、エンテリアはじっと盾越しに観察する。
何度も強い衝撃を盾を通じて感じているが、エンテリアにはそれ程のダメーを受けてはいないと感じた。
だが、異様な光景がエンテリアの目の中に入ってくる。
何度も打ち付けられた盾は、拳の形でいくつも表面がへこみを見せる。
その縁は突の状態になっており、そこに打ち付けられた拳の皮膚が飛び散っている。
(な、なんだこいつは!?)
それでもお構いなしに、自分の力を盾に対してふるい続けるトライア。
痛みを感じているそぶりも、表情も見せていない。
トライアは大きく振りかぶり、連打の最後を飾る一撃を精一杯叩きつけた。
「――っ!?」
その一撃でエンテリアの身体は、大きく吹き飛んだ。
「エンテリア!」
「エンテリアさん!?」
それを見たブランビートとセイラは、思わずその名前を呼んで安全を確認した。
エンテリアは地面に両手をついて、ゆっくりと身体を起こす。
その動きには、攻撃を耐えて続けて蓄積された問題ないと思われていたダメージの積み重ねの痕が感じ取れる。
エイミとセイラはエンテリアの元に駆け寄ったが、トライアはその行為を邪魔することはしなかった。
それは、強者としての余裕ともいえる態度だった。
相手の攻撃は、自分の身体に致命傷を負わせることもできない。
こちらの攻撃は、今見た通りの結果。
(さて、こいつらをどんなふうに殺してやろうか?あの女たちが絶望で顔がゆがむようなやり方がいいよな……)
トライアは舌なめずりをして、長い前髪の隙間からエンテリアに駆け寄った二人の女性を見つめる。
「私は……大丈夫です。それよりも、お二人はこの場を離れてください……」
「何を言ってるんですか!?これは協力しないと助からないですよ!?」
その言葉に、エンテリアは疑問を感じる。
武器も防具もない二人に、この怪物のような目の前の男を同行することは難しいだろうと考える。
体術の使い手とも考えたが、今までの様子からしてその淡い期待は頭の中から消え去っていた。
「だが、あなた方にはこの者に対抗できる手段がありません!我々もあなた方が狙われてしまうと、護ることも攻撃することもできないのです!!」
エンテリアははっきりとは言わないが、二人のことを”邪魔”だと思っていた。
ある程度の相手ならばブランビートもエンテリアも、二人を守りながら戦える自信があった。
それに一緒に来ることを許したのは、それだけではない。
”格好の良いところを見せたい”という気持ちも、少なからずあった。
それで二人との距離が近付くことになればという思いが、このような結果になってしまっていたことに自分を責める。
エンテリアもブランビートも、いくら頼まれたとはいえこの場所にエイミとセイラを連れて来たことを後悔する。
自分たちの邪心が原因の一つではあるが、今は何としてもこの二人は無事にこの場を離れてもらわなければこの先はないと考えた。
エンテリアかブランビートのどちらかが付いて、二人を遠くまで離して終わり次第応援に駆け付ける。
これが最善の手であると、二人は同時に判断した。
(ならばこの役目は、ブランビートが適任……)
エンテリアはブランビートに目線を送り、それに気付いて応えた。
エンテリアは、腰の袋から紙でできた球を取り出す。
ブランビートは、エイミとセイラの位置を確認し逃亡の経路を確認した。
「エイミさん、セイラさん……すぐに後ろに走ってください。あとはブランビートが指示します」
「「「え?」」
エンテリアが小さい声で、近くで身体を支えてくれているエイミとセイラに話しかけた。
二人は一瞬、何を言われたの理解できなかった。
だが、それ以上に状況が素早く変化した。
エンテリアは、手にした紙の球を地面に投げつけた。
それは破裂した後、白い煙のような粉が辺り一面の視界を奪っていく。
「さ、早く!!」
エンテリアは、二人の女性にこの場を離れるように指示を出した。
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