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第六章 【二つの世界】

6-42 決断

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「……どうする、ステイビルさん?」



サヤは、口の中に噛み切れていない食べ物がある状態でステイビルに声をかける。
そんな無礼な行為も、今のステイビルにとっては何の関係もない。
それよりも重要なことは、なぜサヤがドワーフたちの言葉を遮り自分に対してその決断を求めたのかということだった。
しかも、その行為にたいしてイナたちもまるで嫌な顔をしておらず、サヤという者に対して従っているようにも見える。
サヤを見た時に、その隣にいるハルナの態度が少しだけ焦っているように見える態度も気になった。


だが、もとよりステイビル自身に用意された答えが一つしか選べないことも判っていた。
これほどの用意周到な案を用意されて、断る理由はないとステイビルは心を決めた。



「……どうやら、私がいない間に検討が行われていたようですね。であれば、この話を断る理由はありません……この命に掛けましても王国側を説得してみせましょう。その話、お受けします」


そのことを受けて、イナたちは安堵の表情を浮かべる。
もし、サヤが提案したこの案が断られたとしたら……サヤからどのような仕打ちが待っているのかと、イナたちは心の中では怯えていた。

そんな心配を他所に、サヤは口の中に入っていた食べ物を噛み切れないうちにまた一つ口の中にいれて言葉を発した。



「へー、やるんだ。……まぁ、がんばんなよ」




それだけ告げると、サヤは再び口の中にいれた食べ物の咀嚼を再開した。






そして、こんな調子ではあったがステイビルとドワーフとエルフの間で再び協力関係が構築されることになる。
その中心には、サヤとハルナの存在があったことはこの世界の記録には残らない。



ドワーフはその後すぐに長老会議を開き、このドワーフの村の者たちに説明をする。
始めは大きな反対の声が聞こえてきたが、そこにお願いをしていたナルメルが登場する。
”ドワーフの話にエルフが口を出すなどなにごとか!!”と批判の声がイナたちに殺到する。

だが、その騒音も一瞬にして口を閉ざすことになる。
それこそが、サヤという魔素の塊の存在だった。
人の皮をかぶった魔物だとか、幻覚を見せられているのではないかという意見もある。
そのこと自体を信じられずに、ナルメルが自分たちのことを騙そうとしているのではないという意見まで出てくる。
しかし、最終的にはナルメルの”嘘をついていたならばこの片耳を切り落とす”という約束によって落ち着いた。
エルフの特徴的な耳を切り落とすとき、それは大きな犯罪などを犯したときなど耳を切り落として集落から追放されるときに行われる行為だ。


ドワーフでも知っている気高いエルフが、自らその約束をするという行為がどれほどの責任をもって発言しているかということを表しているのかはすぐに分かった。
こうして、ドワーフの中でもこの件に関して、意見がまとまり認められることになった。

その後エルフの村からも、同様にまとまったという連絡がナルメルから入り、この話は前に進められることになった。








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