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第六章 【二つの世界】
6-41 承諾
しおりを挟む「な……なんということ……!?」
ステイビルはさらっと話すハルナの言葉に怒りを感じつつも、その理由をイナたちに問い質す。
その反応を予測していたのか、ニナがその理由を述べた。
人がふもとに住まう前からドワーフとエルフはこの山の中を居住区としており、勝手に人間が山のふもとに居住区を作った。
そのため協力するにしても、今回のような問題が発生しないため一定の距離を置いて人と接するようにしたいという意見を述べる。
だが、それも本当のことではない。
歴史的な観点からすれば、それは間違いではなかった……しかしその部分はドワーフとエルフにとってはどうでもいいことだった。
この二つの種族が恐れているのは、ただ一つ。
”――種族の消滅”
もちろん、それを可能にできるサヤのことだった。
ナルメルの力によって、サヤの中にある魔素の量が尋常でないことは知っている。
エルフやドワーフも魔素を扱えるが、こんなにまで量を取り込んでいる必要はない。
空気中に漂っている魔素を利用して取り込み、術式や身体に備わっているスキルでその力を発動させる。
サヤには術式やスキルが必要が無いほど、圧倒的な魔素の量で相手を傷つけることができるとナルメルは説明する。
そのことを聞いたイナたちは、目の前の二人を見下すことを止めた。
「でね、なんとかこのイザコザを辞めさせたいと思ってるんだけど……何かいいアイデアはない?」
その言葉を聞き、ハルナはサヤのことを酷いと感じた。
争う相手に、その和解案を出させようとしていた。
しかし、落ち着いて考えてみるとそれも悪くない手だという考えが頭の中に浮かび上がってきた。
相手への敵対心が満たされた思考の中で、新しい考えを強制的に割り込ませることで冷静に物事を考えることができるのではないかとハルナは期待した。
すると、その案は今まで黙っていたサナから出てきた。
「となると、私たちの損害も全て水に流さなければならない……そういうことになりますね」
その言葉を聞いても、サヤはとぼけた顔のまま小指で耳の穴にいれて垢を掻きだす。
はたから見れば小馬鹿にされたような動きでも、圧倒的な力の前には何も言うことができない。
サヤが何も言わないことからこの発言も問題ないと考え、サナはそのまま自分の考えを伝えた。
「ですが、我々も大きな損害を受けているのです。ですから、公平に相手にも相応の痛みを受けていただかなければ納得ができません。ですから、この土地から人間が手を引いてくれれば今回の件で我々は、もう人間を襲うことはないと約束しましょう……と、いうのはいかがでしょうか」
サヤは耳の垢の付いた小指を、自分の座っていた椅子の上に付けて拭う。
そして、冷めたお茶を一口含んでから告げた。
「……いいんじゃない、それで?」
「……というわけで、我々はこのような案をあなた達に提案します。もし、これが破棄されるのであればこの地の争いは再開し、あなたたちの多くの血が大地に沁みていくことになるでしょう」
「……その土地というのは、どの程度の広さなのでしょうか?」
その問いをドワーフやエルフが答えるよりも早く、予測していなかった同じ席の列から聞こえてきた。
「まぁその辺はさ、後で考えればいいじゃない。この話、受ける?受けない?……どうする?」
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