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第六章 【二つの世界】
6-51 暴力
しおりを挟む「これはこれは、”元”王子様からわたくしの手に大切な国の武器をお戻しいただけるとは……」
「もう一度だけ伝える、余計なことを言わずともよい。なぜお前は、無抵抗な相手に対しその槍で攻撃を仕掛けたのか?その理由を聞かせてくれないか……オギブス」
その言葉と同時にステイビルは、腰に下げていた剣の鞘に手をかけ、親指で鍔の部分を押してその剣を抜く準備をする。
「なぜか?ですか……いくら無抵抗であれ、相手は亜人ですぞ。我々の大切な人材が奴らによってどれほど傷つけられたことか!」
そう強く発言し、人差し指でステイビルの後ろに並ぶエルフとドワーフたちを指で刺した。
それからオギブスは、ステイビルの質問に答えるために言葉を繋げていく。
「……我々はこの国を守っているのですぞ。今は王子ではないとしても、貴方もその責任があるのではないですかな、ステイビル様?それを相手の中に紛れ込み、あまつさえ我々の敵の命までも救っている始末。国のことを第一に考えておられない貴方様が、ご兄弟のキャスメル様に王の座を奪われた理由も、そこにおありなのではないですかな!?」
「オギブスっ!!……貴様ぁっっっ!!!!」
「「――ドイル様!?」」
その言葉を聞き、感情を抑えられなくなったドイルはオギブスに殴りかかろうとした。
だが、その行動を傍にいたドイルの側近たちが、背中から抑え込んで暴力による抗議を未然に防いだ。
部下に抑えられたドイルに目線をやり、オギブスは鼻でフンっと嘲笑った。
再び目線をステイビルに向け、自分の発言に対して何も返してこない元王子に更に言葉を続けた。
「どうです?ステイビル様は、剣の腕もおありですし、先ほどの反応も警備兵の隊長……いや、騎士団員の技量をお持ちです。まずは、私の下で、”研修”を積んでいただければ、王宮の中での暮らしを取り戻すことも可能ですぞ。もちろんわたくしも全力で援助いたします……おぉ。そうされるのがいいのでは?いかがでしょうか、ステイビル様!!」
ステイビルは、剣の鞘を握る手の親指で押しだしていた鍔を元の位置に戻す。
そしてゆっくりと空を見上げて深呼吸し、肺の中にいれた空気を口をすぼめてゆっくりと吐き出した。
再び目線は目の前のオギブスに向けて、先ほどよりも力が抜けた表情をつくる。
その行動をオギブスは、自身が提案した案を最終的には受け入れてくれたものと判断した。
「もしよろしければ、今すぐに王宮へはいれるようにご手配いたしますぞ!住み慣れた場所……懐かしいでしょう?”我々”と共に、王国の新しい時代を築いてまいりましょうぞ!!」
そう言ってオギブスは、ステイビルに対して握手を求める。
その差し出された手と、オギブスの希望に満ち溢れた目を交互に眺めると、ステイビルは自分の右手を衣服に数回擦り付けて綺麗にした。
その動きを見て、オギブスは自分に力強い味方を得たことを確信した。
――ゴッ
オギブスは衝撃と共に自分の目の前が一瞬にして白くなり、その後に鼻元に強い痛みを感じて後ろに倒れ込んだ。
「オギブス……貴様、私に向かってよくも無礼なことを」
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