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第六章 【二つの世界】

6-128 理想と現実

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長い王国の歴史の中で、王の周囲にいる協力者が重要だということは既知の事柄だった。
だからこそ、王選の後に自分の周囲にいる有能な協力者を見定める力も必要とされた。
その協力者の忠誠心が”本物である”ことも見極められなければならず、自分の思考や行動がその者たちから忠誠を捧げたいと思わせる人物でなければならないことも要求される。


何でも意見を聞いていれば、自分の考えを持たない者として判断される。
自分の意見を持っていたとしても、相手の意見よりも上に行っていなければ”そういう方”であると見下されてしまう。
他人の意見を聞き、自分の信念を持ち、知識と人望、そして敵を打ち破る力と技能を持ち合わせる者……
それが人の上に立ち、人々に支えられて自らを中心に国を成す者としての必要とされる資質であった。



幼いころからそういうことを意識させられ、――相手はそう思っていないが――自分の中で失敗を何度も繰り返しながら心を傷付け……そして打ち付け鍛えられた鋼のように”強い王子”が作りあげられていく。
その集大成となるのが、王選であった。




そうして、ステイビルが今までの人生の中で見つけた自分自身の目標は”優しさ”だった。

今まで世の中を見てきた中で、万人を救い満足させることなどできるはずがないと知った。
人にはそれぞれの環境があり、それぞれの希望や欲があるためだ。
その欲を叶えるためには、誰かを不幸にさせてしまうことは当然の結果で当たり前のことである。
世の中にはプラスとマイナスのバランスがあり、勝者がいればその裏には敗者が必ず存在する。

しかしステイビルはいかなる競争にも、負けた者がそこから何かを掴めば次には勝利に結びつく可能性が高くなると考えていた。
実際ステイビル自身も、何度も悔しい思いを繰り返しそれをバネにし、その苦い経験を活かしてきた。
そうすることにより、我が国の人材は育ち、より一層よい国となっていくこととステイビルは信じてやってきた。
ステイビルを応援してくれる者たちも、その理想に対して賛成の意を示してくれた。



だが、それは強者側からの側面が色濃く表れた理想だった。
ステイビルはそれなりの運動能力と知識を得る機会に恵まれていると、反対の立場からステイビルを見た者たちは言う。
もちろん、ステイビルが努力を行っていたことは知っていたが、その中身は”努力”という言葉だけでしか理解されていなかった。
というのも、反対側の者たちも当然”努力”は行ってきた。しかし、その努力もステイビルが考えているほどの努力までは到達していない者たちが、ステイビルを批判している者たちには多く見ていた。



その中の一人が、双子の兄弟であり競い合っているキャスメルだった。
ステイビルが成功を掴み取っていく中、それによってキャスメルはステイビルとは違う思いを抱き続けてきた。


そこでキャスメルの中で絶対的な信念が生まれる……”勝者こそ正義”であるということが。







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