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第六章 【二つの世界】
6-210 違和感20
しおりを挟む荷物を積んだ馬車が並んで街道を進んでいき、目的地はもう少しで到着する。
グラキース山の山頂が木々に隠れて見えなくなり、その麓に近付いてきたことを表していた。
列の先頭を行く男が、大きな旗を掲げて数回横に振る。
その合図を受けた後方の馬車は、ゆっくりと減速をして止まった。
そして旗を振った男の元へ、警備兵が二人で向かってきた。
そこからは、いつもの通り町の中へ入るための”儀式”が行われる。
「……物資の定期供給のためにやってまいりました。町への許可をお願いいただきたい」
「了解した……お待ちください」
警備兵の一人がその言葉を聞き、町への入口を開こうと元の場所へ持っていく。
(……?)
しかし、今回はいつもとは違う出来事が、目の前で起きようとしていた。
数人のドワーフが、警備兵と同じ装備で駆けつけてくる。
そのドワーフは、許可を出そうとした警備兵さえも止め、再び町へ入ろうとしている列の前まで戻ってきた。
「待て待て……中に入るのは待って欲しい。できれば、今回はここで荷物の受け渡しをお願いしたい」
「「……え?」」
そのドワーフの言葉に驚いたのは、隊長だけでなく町を守る警備兵も同じような声をあげた。
「ど……どうして?何の理由で……」
「突然のことですまない……ナルメル様とイナ様の命令により、今回はこの場での受け渡しをお願いしたいとのことなのだ」
ドワーフは腰に下げた袋から、ひと巻きの手紙を取り出し警備兵へと差し出す。
警備兵は手に嵌めたグローブを外し、結ばれた紐を解き手紙を開いた。
そこには今ドワーフが告げた指示内容が書かれてあり、この地を任せるために渡したステイビルの印が押されていた。
この印は、ナルメルたちが行う命令が、ステイビルのものと同等であることを意味し、これに背くことはステイビルの命令に背くことを意味する。
警備兵二人はお互いに顔を見合わせた後、物資を運んできた隊長の目を見た。
「……そういうご希望であれば、この場でお渡しすのは良いのですが……その、”大丈夫”ですか?」
隊長が心配したのは、これだけの量の物資を町の中の倉庫へと運ぶには手間がかかる。
いつもならば、馬車を倉庫の前までつければ、倉庫の中に運ぶだけなのでそこまで問題にはならない。
ここから倉庫までは、持って運ぶには少し距離がある。
しかし、そのことを聞いたドワーフはただ”問題ない”と告げた。
隊長もこれ以上何も言うことはせず、ドワーフに荷物の置き場を確認し部下の者たちに指定された場所に荷物を積み上げるよう指示した。
それと隊長はもう一つ心配していることがあった……
通常ならば荷を降ろした後は、かなりの時間が経過するため、この町に一泊してから王都へと戻ることが通例だった。
そのことを確認すると、ドワーフは町に入ることを拒否した。
だが、簡易的な宿泊施設はここに用意すると約束し、その手はずもドワーフとエルフが行うとした。
隊長は仕方なくその条件を承諾し、今回は町の外で休息をとり町に戻ることにした。
だが、今回以降同じことが続き、この行為が王都の中でも問題となっていった。
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