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第六章 【二つの世界】
6-209 違和感19
しおりを挟むナルメルとニナは自分たちの種族の中で、いまだに不信感を抱く者たちに声をかけていき、この作戦に参加するものを集っていく。
この事に対し、拒否をしたからと言ってその者に処罰が与えられることはない。
ただ、処罰しない代わりにこのことは口外しないでほしいと告げていた。
ドワーフとエルフも、人間を理解し協力する者もいる……それでも、同族の繋がりの方が強いため、優先順位は同族の絆に傾いていた。
そのため、今回の作戦は人間側に漏れることがなく、静かにその準備は進められていた。
全ての者たちに意思を確認し、決して邪魔はしないことと承諾をとっていく。
そこから一か月ほどの時間が経過し、カステオとニーナが部下を従えてこの町に訪れた。
その姿はボロボロで、通常のルートを通っていないことがすぐに分かった。
聞いたところによると、二人はそれぞれ別々なルートを十名ほどの編隊を組んでディヴァイド山脈を遠く離れてこの国に入ってきたという。その道程は過酷で、最終的に到達した際に残っていた兵士は五、六名だった。
「ようこそ……グラキアラムへ。カステオ、ニーナ様」
キャスメルはナルメルとニナが自分のために用意してくれてた屋敷に、二人と生き残った付き添いの者たちを案内した。
「……どうやらうまくいったようですね。キャスメル」
「えぇ。エルフとドワーフの者たちにも、”カステオが言った通り”この状況を良く思っていない者がいたようです」
カステオはキャスメルの言葉を聞きながら、差し出された水をゆっくりと口に含み乾いた身体の中に浸透させていく。
ひと息ついたところで、カステオはキャスメルの言葉に応えた。
「すべてにおいて、一つの意思に統一することなど不可能だ。それは人間であっても亜人たちであっても同じこと。それらの思いはルールという縛りの中で抑制されているだけ、本来は口にすることすら許されない思いも、一度大きな理由と仲間がいればその決意は揺らぐものだ」
今回の件も、カステオが持つ考えに全てが当てはまっていたわけではないが、こうしてカステオの考えに賛同してもらえるような状況が創りだされた。
よく生き物の考えを理解していると感心すると同時に、こうして自分たちの身を危険に晒してまでこの作戦を実行しようとしたのは、ニーナに対する強い感情が伺える。
西側であったニーナは病的に痩せ細っていたが、今の身体は同じ痩せた状態でもまだ力強さが戻ってきていた。
出なければ――たとえ部下に守られていたとしても―――この過酷な道程を乗り越えてここまでたどり着くことはできなかっただろう。
そしてもう少し時間が経過した頃、この部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。
この部屋にメイドがいないためキャスメルは、入室の許可を出すために自らの足で扉を開きに向かった。
「お初にお目にかかります……西の王よ」
「紹介します。こちらが、この町のエルフとドワーフを束ねている、ナルメルさんとイナさんとニナさんです」
「こちらこそ、ご協力いただきありがとうございます」
こうして、カステオとナルメルたちの顔合わせが実現した。
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