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第六章 【二つの世界】

6-372 サヤとハルナと24

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「なんでアイツを黙っていかせたんだよ!?」


このサヤの言葉は独り言ではない……確かにここにいる誰かに向かって叫んだ。
だが周囲に人がいれば、それはそのようにとらえられてしまうだろうが、モイスには自身の中に存在しているものへの言葉だと理解していた。
少しだけ間を開けながらサヤは、繰り返し盾の創造者を見逃してしまったことに対する不満の言葉を並べていった。




サヤが攻撃を仕掛け、盾の創造者の転移を阻止しようとした際に、剣の創造者がサヤの身体を支配しその行動を止めた。それは、無策で追いかけたとしても盾の創造者を止めることは出来ないと判断したからだった。
しかしサヤは、向こうにいる”存在”のことが気になり、早く助けに行きたいと訴えている。
そこで剣の創造者はそれをなだめようとして、先ほどから同じような議論がサヤの頭の中で繰り返されていた。


モイスは、いつまでも終わらない片方だけのやり取りの主張を聞きながら、地面に落ちていた盾を見つけその前に降り立つ。

爪の先で何度か盾の表面をつつくも、何の変化も反応もみられない。
自分の元素の攻撃を避けたことを思い出し、氷の息を吹きかけてみた。
すると、凍ったのはその地面の周囲だけであり、置き去りにされた盾には凍っていたり冷やされたような形跡はなかった。


「……ふーん」


その様子を見ていたサヤが、モイスがいま行った実験の結果に興味を示した。


「この盾の効力って……まだ生きてるんだね」

『そのようだな……』

「これってただの”器”じゃなかったの?」

『そう思っておったのだが……何か変化がおきたのか……調べる必要があるな』

「とにかく、一度戻ろうか。あいつらもそろそろ出してあげないと可哀そうだし」





「た、助かりました。サヤ様」


ボーキンは、そう言ってサヤに対してお礼を告げる。
その後ろにはその他の三人が並び、同じように片膝を付いてサヤに対して最上位の礼の姿勢を取る。


「あぁ……いいんだよ。無事でよかったじゃない?」


サヤは、助けられたマギーのところにいる者たちの衰弱しきった顔を見て慰めの言葉を掛ける。
事情も知らずに、真っ暗闇の中で自分の意識だけで存在するという、普通の物であれば気がおかしくなっても仕方のない状況で、四人は協力し合って耐えていたという。


「それで、これからどうされるのですか?サヤ様」


「そうだねぇ……」


この世界が今すぐ崩壊してしまうという事態は、この段階では回避されたようにも思える。
盾の創造者はこの世界を諦め、”まずは”向こうの世界からと言っていたことを説明した。

「そうでしたか……であればこちら側今のところ問題なさそうですね。しかし……」


ステイビルは、サヤの表情が晴れない理由がなんとなくわかっていた、きっと向こうの世界のことを気にしているのだと察した。
しかし、対策もできないまま向こうに行ってもこの状況は変わらないであろうことは、剣の創造者からの説明を聞かずとも推測できた。


(何か決め手がないと……)


この場にいる者たちの空気が、時間が経つにつれて重くなっていった。







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