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第六章 【二つの世界】
6-404 残された言葉
しおりを挟む「――は?」
盾の創造者からの提案を聞いたサヤの返答は、たった一言だけだった。
その返答に対し、自分の意図が伝わっていないのだと勘違いした盾の創造者は、もう一度直接的な表現で
サヤに対して問い掛けた。
『……どう?この場であなたしかこの状況を抜けることができる能力と知識を持っているのは”あなた”だけだと思うけど?』
「……ふん。アンタの言う通りになるわけないだろ?さっさと、アタシたちおいてどこでも行けばいいじゃないか」
こうしてサヤから戻ってきた正式な回答は、盾の創造者を驚かせるものではなかった。
それよりも、こちらの意見を承諾した後の方が色々と面倒な読み合いをしなければならず、面倒にならずに済んで良い結果になったことにホッとしている部分の方が大きかった。
『……いいわ。あなたの挑発に乗ってあげましょう。でもね、決してあなたはここから出られることはないわ、最後のチャンスを逃したことを後悔することね?』
「あぁ、なるべくそうならないように努力してみるわ。アンタも後悔すんなよ?”ここであいつらを消しておけばよかった”……てね」
『その減らず口もいつまで持つのかしらね……楽しみだわ。と言っても、もうあなたと会うのはこれで最後にしたいわね』
その言葉の最後は、盾の創造者の本音だった。
執拗に行われるサヤの追跡、ラファエルたちの裏切り、肉体を借りているハルナからの資源の拒絶……これまで存在してきた中で、これほどまでに”事”がスムーズに運ばないことは長い歴史の中でも記憶にない。
その度にどのような対策を取るべきかを、この最近ずっと考えてきた。
本当はもっと他のことに思考の時間を割り当てたいのだが、徐々にサヤの抵抗の割合が大きくなり、それに対抗するための時間を取られていった。
『どうせここに閉じ込めたのだし、これ以上あなたに関わったとしても、きっと碌なことが無いわ。まずはあなた達の動きを止めたのだから、ゆっくりとこの空間を壊す方法を探してみるわ。でなければ、この世界を壊すこともできないもの……だから、まずは私の邪魔をさせないためにあなた達を消すことを優先することにしたわ』
「……ってことは、もうハルナも必要ないってことか?」
『えぇ、そうよ。最終的にあなた達が消えて、持っている資源がこの世界に還ればまたその資源を取り込むことができる……そう、今度こそ誰の邪魔をされずにね』
もうこれははっきりと決めたことだと、盾の創造者は自分自身にも言い聞かせるように言った。
それは、ハルナを諦めることだけではなく、もう一つの自分と同じ存在に存在に対してもだった。
サヤと一緒に組んでいる剣の創造者が、どのようになってしまうのかということを。
ただ、お互いが攻撃し合えない今までの状況から想像すると、一人だけは無事でいるのではないかという期待もあった。
『もう会うこと……いいえ、本音を言えば”会いたくないわ”。残り僅かの時間、みんなでゆっくりと過ごして頂戴ね。それじゃあ……ね』
そう言い残して盾の創造者の意識は、この空間の中から完全に消えた。
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