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第六章 【二つの世界】
6-493 お詫び
しおりを挟む「……どうだ、ハルナ?私と一緒になってくれないか?もし、ハルナが、このような堅苦しい地位が嫌だというのなら、私は……国王の座をキャスメルに譲ってしまっても構わない……と思っている」
「――!?」
ステイビルの突然の発言に、エレーナとアルベルトは目を丸くして驚く。
王国のためにと、エレーナたちは……あのマーホンもステイビルに力を貸してくれていた。
それをこんなことで全てを無かったことにしようとする、ステイビルの軽はずみな発言は黙ってはいられなかった。
「ステイビル様……」
しかし、エレーナとニーナが今の発言を咎めようとするしたが、ハルナの落ち着いた声にその行動も止められた。
ステイビルも、自身の問い掛けた本人から自分の名を呼ばれ、背筋を正してハルナの方へ向きあった。
ハルナの発言を待つ静かなこの場には緊張感が漂っており、この場にいるハルナを除く全ての者たちの心音が自分の耳にうるさく鳴り響いていた。
「……私」
「……あぁ」
「……私、ステイビルさんと一緒にはなれません」
ハルナの最終的な返答に、誰もが自分の予想通りだったと感じている。
そのためハルナの出した答えに、”なぜ?”や”どうして?”などという言葉は誰一人として出てこなかった。
「そう……か」
ハルナの返答の後、数秒間の無音の時間があり、それの時間を終わらせたのはこの緊張を作るきっかけとなったステイビルだった。それによって、この場の固まった空気が通常のものに変わっていた。
ステイビルは、口元を必死に上にあげてハルナにお礼を告げる。
「うむ、ありがとう……ハルナ。これで、心残りは消えた。まぁ、全てとは言えないが、これでこの国のことに関して全力で行うことができる」
「ステイビルさん……」
ハルナは、ステイビルが無理やりの表情を作っていることを悟り、酷いことをしてしまったのだと声をかけようとした。
だが、その先を告げさせるよりも先にステイビルはハルナに手を出して止めた。
「よしてくれ……私もわかっているつもりだ、ハルナとは似合わない人間であることは。だが、これも自分自身の不甲斐なさと捉え、これからの戒めとすることができるだろう」
「わたし……そ、そんな風に……」
途中で言いかけたハルナは、学生時代にその行動を注意されたことを思い出す。
相手の申し出を断ったときに、下手に優しい言葉を掛けてしまうと相手に変な希望を持たせてしまうからやめた方がいいということを。
実際に、ハルナはそのアドバイスを受ける前に何度か問題になったことがある。
それによって、相手はハルナへのアプローチが攻撃的に変わっていき、最終的には警察と相手の親御さんを巻き込んでの騒ぎになり、そんな男を追いかけていた女性からの嫌がらせを受けてゲームの世界に入り込んでしまうきっかけとなったことを思い出す。
「ご……ごめんなさい」
ハルナは、この件に関して最後にそう口にした。
ステイビルもハルナの発した言葉の表情が、今にも泣いてしまいそうな顔になっていることに対し、自身がおかしなことを言ってしまったためだと詫びた。
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