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第一章 魔女の森。
不幸せの原因は、他の誰かの身勝手ではなく、自分自身の身勝手である。
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「な、何言ってんのよ、スライム……なんでそれがあの子にとって……?」
スライムさんの衝撃の一言に戸惑いを露わにするピクシーさん。
同じようにざわつく周囲。
そんな状況をよそにしろうさぎさんは言います。
「──いえ、それが彼女にとって……『人間の彼女』にとっての本当の幸せの形です」
「……う、うさぎぃ……あんた…… 」
感情をどうにか抑えながらしろうさぎさんの名前を呼ぶピクシーさん。
全てわかっている、一匹だけ先に進んでいるようなしろうさぎさんの言動に。
誘導されるように導き出されたその回答に、ピクシーさんは怒りすらも覚える感覚でした。
それを知ってか知らずかしろうさぎさんは更にこう続けます。
「ピクシーさん。彼女の本当の居場所はこの森にはありません。彼女の本当の居るべき場所は彼女と同じ人間達のいる世界です……」
「嘘よ、ただの詭弁よそんなの!! 例えそうだとしても、そんなの出来る筈ない!! だって……だってあの子は、魔女子は人間に捨てられたのよ!! 今更人間の世界に戻れる訳ないじゃない!! だからそれは叶わない理想、幻想の幸せよ!!」
抑え込んでいた感情が爆発するピクシーさん。
それとは対照的にしろうさぎさんは冷静に淡々と話を続けます。
「……でも、それは、同じ場所には、ですよね……」
「…………っ」
「例えば、もし、どうにかして魔女子さんの事を誰も知らない街に彼女を連れて行く事が出来たなら……その場所をもし見つけてあげる事が出来たなら……彼女を人間の世界に返す事は可能かもしれない……彼女が人間である以上、彼女を本当の意味で救えるのは私達じゃない、彼女と同じ人間です……私達が選んだ答えがそれを可能としてしまった……これは私達が生み出した新しい悩みごとであり可能性、彼女にとっての新しい未来なんです……」
「……それが、そんなのが可能性? 新しい、未来? ……この森で魔女として私達と一緒に暮らすのと、人間の場所で魔法使いの……人間の女の子として生きて暮らすのと、どちらが魔女子にとって幸せなのかって? ……笑わせないで!! そんな保証どこにもないじゃない!! 人間達の世界にあの子が戻ったとして、それで絶対幸せになれるってあんたは言い切れるの!?」
「……それは、わかりません……もしかしたらまた同じ様な目に会う事もあるかもしれない。でも、だけど、そうじゃないとも言い切れない。だったら……」
「──だったら私は言い切れる!! 私なら魔女子をこれから先、絶対に泣かせたりなんかしない!! 永遠に愛し続ける事が出来る。幸せに出来る!! うさぎ、それは人間側には見出せない私という確かな未来よ」
「…………」
「…………」
森を包んだ静寂。
モンスターさん達が二人のやり取りを固唾を飲み込み見守る中。
その沈黙を破ったのは悩めるゴブリンさんでした。
「主さん。今、ボク達何してるんですか?」
「……え?」
悩めるゴブリンさんの突然の問いかけにしろうさぎさんは視線を彼へと向けます。
「ゴ、ゴブリンさん、それって、どういう……」
「ゔぁゔぁゔぁ。だから、今僕達は一体何をしてるのかなって? 魔女子さんに嘘を吐くのも、この先をどうするかボク達が決めるのも、なんか全部おかしいなって……嘘や隠し事は駄目ってこの前言ってたのに、今ボク達はそれを考えようとしてるんですよね?」
「そ、それは……」
「全部駄目だってわかっているのになんでまたそれを考えなきゃいけないんですか? 魔女子さんの気持ち、魔女子さんじゃなきゃわかんない筈なのにそれを今考えようとしてる。ピクシーさんも一緒になって……」
「だ、だから、それは……」
「僕は悩めるゴブリンだから上手く言えないけど。それって何か魔女子さんの事じゃなくて自分達の事を必死に考えている様にボクには見えるんです……」
それは魔女子さんの為ではなく自分達の為。
誰かの為にと始まった筈のそれは。
いつの間にか自分達の為のお話し合いになっていたのでした。
再び静まり返る森。
核心をつく悩めるゴブリンさんの一言に。
その事に気づかされたしろうさぎさんはその場で頬を叩くと頭を激しく左右に振ります。
そしてそれから大きく一つ息を吐くと静かにこう言ったのでした。
「……はぁ、駄目ですね、私……こんなんじゃこの森の主失格です……ゴブリンさん。あなたの言う通りです。それは私達がここで決める事なんかじゃない。魔法使いとして生きるか、魔女として生きるか、その全てを知った上でそれを決めるのは魔女子さん本人です……彼女には今二つの道が与えられた。その道を私達は作る事が出来た。ただ、それだけです。そしてきっとそのどちらを選んでもイタミは伴うなら……私達が今するべき事は──」
そしてしろうさぎさん手に持っていた本を開きます。
一枚一枚紙を捲り止まったあるページ。
彼女はそこに書かれてある言葉を読み上げます。
「不幸せの原因は、他の誰かの身勝手ではなく、自分自身の身勝手である──」
しろうさぎさんが読み上げた言葉にピクシーさんも大きく一つ息を吐くと答えます。
「……はぁ。わかったわよ。魔女子の為……か。まさか、ゴブ。あんたにそれを言われるなんてね。私も地に落ちたもんよ。いいわ、それが私達に今出来る最善の策って事ね。それに、不幸せの原因は、他の誰かの身勝手ではなく、自分自身の身勝手である。……か。ホント、ムカつく……返す言葉も見つからないわ……」
「……ピクシーさん……」
「……うさぎ。変な気を使わせちゃったわね。あんたは魔女子だけじゃなく私達も傷つかせたくなかったって、そういう事なんでしょ? だからこんな回りくどいやり方までして……私達にそれを自分達で気づいて欲しかった」
「……う、うん。……でも……違う。やっぱり私も同じ。何にもわかっていなかった……魔女子さんの事を救いたいって言いながら、結局自分の事しか考えていなかった……私達がそのやり方を決める事で、私達が覚悟を決める事で、自分達につく傷を小さくしたかっただけだったんだって……一番痛いのは魔女子さんで、一番考えなきゃいけないのは魔女子さんの事だった筈なのに……」
「……そっか。それなら、私達は一匹じゃなくて本当に良かったわ。あんただけでも駄目、あんたと私だけでも駄目、リリパットやスライム、悩めるゴブにここに居るみんな、みんながいたからその間違いに気づけたんだから」
「うん……そうだね」
「……ったく、言っとくけど、私の本心は今でも同じよ。魔女子に人間の世界に戻って欲しいなんて思ってない。なんせアイツら人間のせいで魔女子はこうなったんだから。だけど、それも魔女子がそれを望むなら話は別。私にとっての一番の望みははあの子が本当に幸せになってくれる事なんだからさ」
「うん……そうだね」
「……あ~あ。私達もいい加減学習しろってんの。お互いに頭にすぐ血が上るのは良くない癖だと思うわ」
「……うん……そうだね」
「じゃ、もう後はパパっと決めちゃってよ。で、森の主さん、私達はこれから一体何をどうすれば良いって?」
「……うん」
そうしてしろうさぎさんは深呼吸をすると気持ちを新たにモンスターさん達にこう告げます。
「皆さん、色々とご迷惑をおかけしました……ですが、これで最後です。私達がこれからする事は、魔女子さんにこの事実を全部話して、どうするかを彼女に決めてもらうこと。そして、その時きっと魔女子さんは深く傷つきます。私達はみんな魔女子さんが大好きです。だから、その時はみんなで魔女子さんを全力で支えてあげましょう」
──おぉーーーー!!
大好きだから自分でなんとかしてあげたい。
だけど時には大好きだから何もしてあげられない。
それを決めるのは魔女子さん本人で。
それなら今自分達に出来る事はそんな彼女を全力で支えてあげること。
大好きな魔女子さんをみんなで守ってあげる事だったのでした。
──そして、一つの物語はここに終わりを迎えます。
スライムさんの衝撃の一言に戸惑いを露わにするピクシーさん。
同じようにざわつく周囲。
そんな状況をよそにしろうさぎさんは言います。
「──いえ、それが彼女にとって……『人間の彼女』にとっての本当の幸せの形です」
「……う、うさぎぃ……あんた…… 」
感情をどうにか抑えながらしろうさぎさんの名前を呼ぶピクシーさん。
全てわかっている、一匹だけ先に進んでいるようなしろうさぎさんの言動に。
誘導されるように導き出されたその回答に、ピクシーさんは怒りすらも覚える感覚でした。
それを知ってか知らずかしろうさぎさんは更にこう続けます。
「ピクシーさん。彼女の本当の居場所はこの森にはありません。彼女の本当の居るべき場所は彼女と同じ人間達のいる世界です……」
「嘘よ、ただの詭弁よそんなの!! 例えそうだとしても、そんなの出来る筈ない!! だって……だってあの子は、魔女子は人間に捨てられたのよ!! 今更人間の世界に戻れる訳ないじゃない!! だからそれは叶わない理想、幻想の幸せよ!!」
抑え込んでいた感情が爆発するピクシーさん。
それとは対照的にしろうさぎさんは冷静に淡々と話を続けます。
「……でも、それは、同じ場所には、ですよね……」
「…………っ」
「例えば、もし、どうにかして魔女子さんの事を誰も知らない街に彼女を連れて行く事が出来たなら……その場所をもし見つけてあげる事が出来たなら……彼女を人間の世界に返す事は可能かもしれない……彼女が人間である以上、彼女を本当の意味で救えるのは私達じゃない、彼女と同じ人間です……私達が選んだ答えがそれを可能としてしまった……これは私達が生み出した新しい悩みごとであり可能性、彼女にとっての新しい未来なんです……」
「……それが、そんなのが可能性? 新しい、未来? ……この森で魔女として私達と一緒に暮らすのと、人間の場所で魔法使いの……人間の女の子として生きて暮らすのと、どちらが魔女子にとって幸せなのかって? ……笑わせないで!! そんな保証どこにもないじゃない!! 人間達の世界にあの子が戻ったとして、それで絶対幸せになれるってあんたは言い切れるの!?」
「……それは、わかりません……もしかしたらまた同じ様な目に会う事もあるかもしれない。でも、だけど、そうじゃないとも言い切れない。だったら……」
「──だったら私は言い切れる!! 私なら魔女子をこれから先、絶対に泣かせたりなんかしない!! 永遠に愛し続ける事が出来る。幸せに出来る!! うさぎ、それは人間側には見出せない私という確かな未来よ」
「…………」
「…………」
森を包んだ静寂。
モンスターさん達が二人のやり取りを固唾を飲み込み見守る中。
その沈黙を破ったのは悩めるゴブリンさんでした。
「主さん。今、ボク達何してるんですか?」
「……え?」
悩めるゴブリンさんの突然の問いかけにしろうさぎさんは視線を彼へと向けます。
「ゴ、ゴブリンさん、それって、どういう……」
「ゔぁゔぁゔぁ。だから、今僕達は一体何をしてるのかなって? 魔女子さんに嘘を吐くのも、この先をどうするかボク達が決めるのも、なんか全部おかしいなって……嘘や隠し事は駄目ってこの前言ってたのに、今ボク達はそれを考えようとしてるんですよね?」
「そ、それは……」
「全部駄目だってわかっているのになんでまたそれを考えなきゃいけないんですか? 魔女子さんの気持ち、魔女子さんじゃなきゃわかんない筈なのにそれを今考えようとしてる。ピクシーさんも一緒になって……」
「だ、だから、それは……」
「僕は悩めるゴブリンだから上手く言えないけど。それって何か魔女子さんの事じゃなくて自分達の事を必死に考えている様にボクには見えるんです……」
それは魔女子さんの為ではなく自分達の為。
誰かの為にと始まった筈のそれは。
いつの間にか自分達の為のお話し合いになっていたのでした。
再び静まり返る森。
核心をつく悩めるゴブリンさんの一言に。
その事に気づかされたしろうさぎさんはその場で頬を叩くと頭を激しく左右に振ります。
そしてそれから大きく一つ息を吐くと静かにこう言ったのでした。
「……はぁ、駄目ですね、私……こんなんじゃこの森の主失格です……ゴブリンさん。あなたの言う通りです。それは私達がここで決める事なんかじゃない。魔法使いとして生きるか、魔女として生きるか、その全てを知った上でそれを決めるのは魔女子さん本人です……彼女には今二つの道が与えられた。その道を私達は作る事が出来た。ただ、それだけです。そしてきっとそのどちらを選んでもイタミは伴うなら……私達が今するべき事は──」
そしてしろうさぎさん手に持っていた本を開きます。
一枚一枚紙を捲り止まったあるページ。
彼女はそこに書かれてある言葉を読み上げます。
「不幸せの原因は、他の誰かの身勝手ではなく、自分自身の身勝手である──」
しろうさぎさんが読み上げた言葉にピクシーさんも大きく一つ息を吐くと答えます。
「……はぁ。わかったわよ。魔女子の為……か。まさか、ゴブ。あんたにそれを言われるなんてね。私も地に落ちたもんよ。いいわ、それが私達に今出来る最善の策って事ね。それに、不幸せの原因は、他の誰かの身勝手ではなく、自分自身の身勝手である。……か。ホント、ムカつく……返す言葉も見つからないわ……」
「……ピクシーさん……」
「……うさぎ。変な気を使わせちゃったわね。あんたは魔女子だけじゃなく私達も傷つかせたくなかったって、そういう事なんでしょ? だからこんな回りくどいやり方までして……私達にそれを自分達で気づいて欲しかった」
「……う、うん。……でも……違う。やっぱり私も同じ。何にもわかっていなかった……魔女子さんの事を救いたいって言いながら、結局自分の事しか考えていなかった……私達がそのやり方を決める事で、私達が覚悟を決める事で、自分達につく傷を小さくしたかっただけだったんだって……一番痛いのは魔女子さんで、一番考えなきゃいけないのは魔女子さんの事だった筈なのに……」
「……そっか。それなら、私達は一匹じゃなくて本当に良かったわ。あんただけでも駄目、あんたと私だけでも駄目、リリパットやスライム、悩めるゴブにここに居るみんな、みんながいたからその間違いに気づけたんだから」
「うん……そうだね」
「……ったく、言っとくけど、私の本心は今でも同じよ。魔女子に人間の世界に戻って欲しいなんて思ってない。なんせアイツら人間のせいで魔女子はこうなったんだから。だけど、それも魔女子がそれを望むなら話は別。私にとっての一番の望みははあの子が本当に幸せになってくれる事なんだからさ」
「うん……そうだね」
「……あ~あ。私達もいい加減学習しろってんの。お互いに頭にすぐ血が上るのは良くない癖だと思うわ」
「……うん……そうだね」
「じゃ、もう後はパパっと決めちゃってよ。で、森の主さん、私達はこれから一体何をどうすれば良いって?」
「……うん」
そうしてしろうさぎさんは深呼吸をすると気持ちを新たにモンスターさん達にこう告げます。
「皆さん、色々とご迷惑をおかけしました……ですが、これで最後です。私達がこれからする事は、魔女子さんにこの事実を全部話して、どうするかを彼女に決めてもらうこと。そして、その時きっと魔女子さんは深く傷つきます。私達はみんな魔女子さんが大好きです。だから、その時はみんなで魔女子さんを全力で支えてあげましょう」
──おぉーーーー!!
大好きだから自分でなんとかしてあげたい。
だけど時には大好きだから何もしてあげられない。
それを決めるのは魔女子さん本人で。
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