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第二章 調停者。
【第四話】 決着。
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「愚問だな、クロエ。こじつけでも何でもそこまでのストーリーを生み出す事が出来たこと。それだけで私にとっては充分だ。『身構えていた』、『怯えている』、そのどちらの答えにも絶対という確信を持てない状態でそのどちらかを選べというのなら、私は迷わず信じる事で可能性を生み出せる方を選ぶよ」
アナスタシアの自身を真っ直ぐ見つめる目を見てくろうさぎさんは静かに頷きます。
「……うん」
「クロエ、それがキミの言った仮説というのなら、それが私の出す答えだ」
静かに、だけど力強くそう答えるアナスタシアにくろうさぎさんはそれを決断します。
「……わかった。それじゃあ僕達は彼が『怯えている』と『決めつける』、それで良いね?」
「ああ。構わない、それで行こう」
そうして一人と一匹はここに一つの『決めつけ』を行う事でその先へ新たな可能性を生み出します。
それはたった一枚のコインの『表か裏か』を選ぶかのように。
そのどちらもそこには存在しているように。
一人と一匹が今選んだのは不確かで、だけど確かな『未来』です。
見えない問いの答えを目の前に一人と一匹は進む為の答えをそこに描き出します。
「……で、クロエ。それを決めつけた事で私達はどう『時間』を味方につけられるというんだ……?」
「うん。それはね……」
くろうさぎさんはその場にしゃがみ込むと地面からあるものを拾いそれをアナスタシアに見せます。
「松、ぼっくり……?」
「そう、松ぼっくり。これが僕達にその『時間』を教えてくれるアイテムだ」
「……時間を教えてくれる、アイテム?」
「うん、そうだよ。アナスタシア、よく見てて?」
そう言うとくろうさぎさんはその場所から周囲を警戒するトロールめがけてその松ぼっくりを放り投げます。
「グフゥッ!!」
──カンッ。
トロールは突然目の前に放物線を描き飛んで来た小さなソレに気づくとその大きな棍棒で松ぼっくりを勢いよく叩き落とします。殆ど手応えのないその感触、トロールは松ぼっくりの飛んで来た方向に視線を向けますがそこには何も気配を感じることは出来ませんでした。
「……クロエ、今のは一体……」
松ぼっくりを投げてからくろうさぎさんに促されるかたちで即座に違う場所へと身を移したアナスタシアが問いかけます。
「アナスタシア、今の『状態』をしっかりと覚えていて欲しいんだ……」
「状態?」
「そう、状態。彼は今この小さな松ぼっくりに気づいてそれを叩き落としたよね? それはつまり彼が警戒心を研ぎ澄ました先でそれを保っている『状態』である事を意味している」
「……ああ」
「それで、だから僕はこれから定期的に松ぼっくりを彼めがけて放り投げるよ。そして、それが彼の警戒網をすり抜けて彼にぶつかった時……」
「それが、警戒心が解けた時……か」
「そう、キミが彼を救う合図だ」
くろうさぎさんは続けて更にそこに至るまでの詳細をアナスタシアに話して聞かせます。
「いいかい、アナスタシア。これから僕達がやるべき事はこうだ──」
・森に姿を隠したままお互いにトロールに向かい牽制をする。
・決して場所は悟られないように行動したら移動する。
・次第にそれを『ストレス』と感じたトロールを見てもまだ我慢。
・時間を使って削げるだけ削ぎ落とす。
・松ぼっくりが当たったのを合図に仕掛ける。
「──なるほど。それで『ストレス作戦』、これからの『時間』が私達の味方になるということか。物理的にではなく精神的にアイツを追い込むんだな?」
「そう。ここに来る前にアナスタシアにも言ったように一番重要なのはその心の『状態』だからね。キミもそれはもう充分理解しているだろ? だから、僕達はそうなる『状況』を敢えて作り出してそこを突くんだ」
「状況が状態を生み出す、か……私には到底思いつけない作戦だよ。クロエ、確かにそれなら勝機はそこに生まれると思う……だが、牽制するとは聞いたが具体的には私は何をすれば良いのだろうか? その、キミと同じように何かを放り投げたりすれば良いのか?」
「うん。それなんだけどね……」
するとくろうさぎさんは静かにアナスタシアの剣に触れると言います。
「キミには、コレがあるなって」
「……剣? 私は剣を使うのか?」
「うん。キミと言えばやっぱりこれしかないかなってね」
「いや、だが、しかし……剣を振るうのは最後だけなのではなかったか?」
「ううん。剣は振るうだけが使い方じゃないよ、アナスタシア──」
それからくろうさぎさんはアナスタシアに彼女の取るべき行動を伝えます。
「──と、いう感じなんだけど、どうだい?」
「そうか、それがこの剣で私がやるべき事か……本当にキミはいちいち私の知らない術をよく知っている」
「ふふ。そうかい? ……それじゃあ、アナスタシア。心の準備は良いかい?」
「ああ、大丈夫だ」
「次僕達が再び会う時は──」
「アイツを私が救ったその時だ」
そうして一人と一匹は二手に別れ行動を開始します。
当初の作戦と同じ『時間』という概念を活かした作戦、ストレス作戦。
同じものを使ったその作戦は前提一つで大きくその用途を変える事となるのでした。
アナスタシアの自身を真っ直ぐ見つめる目を見てくろうさぎさんは静かに頷きます。
「……うん」
「クロエ、それがキミの言った仮説というのなら、それが私の出す答えだ」
静かに、だけど力強くそう答えるアナスタシアにくろうさぎさんはそれを決断します。
「……わかった。それじゃあ僕達は彼が『怯えている』と『決めつける』、それで良いね?」
「ああ。構わない、それで行こう」
そうして一人と一匹はここに一つの『決めつけ』を行う事でその先へ新たな可能性を生み出します。
それはたった一枚のコインの『表か裏か』を選ぶかのように。
そのどちらもそこには存在しているように。
一人と一匹が今選んだのは不確かで、だけど確かな『未来』です。
見えない問いの答えを目の前に一人と一匹は進む為の答えをそこに描き出します。
「……で、クロエ。それを決めつけた事で私達はどう『時間』を味方につけられるというんだ……?」
「うん。それはね……」
くろうさぎさんはその場にしゃがみ込むと地面からあるものを拾いそれをアナスタシアに見せます。
「松、ぼっくり……?」
「そう、松ぼっくり。これが僕達にその『時間』を教えてくれるアイテムだ」
「……時間を教えてくれる、アイテム?」
「うん、そうだよ。アナスタシア、よく見てて?」
そう言うとくろうさぎさんはその場所から周囲を警戒するトロールめがけてその松ぼっくりを放り投げます。
「グフゥッ!!」
──カンッ。
トロールは突然目の前に放物線を描き飛んで来た小さなソレに気づくとその大きな棍棒で松ぼっくりを勢いよく叩き落とします。殆ど手応えのないその感触、トロールは松ぼっくりの飛んで来た方向に視線を向けますがそこには何も気配を感じることは出来ませんでした。
「……クロエ、今のは一体……」
松ぼっくりを投げてからくろうさぎさんに促されるかたちで即座に違う場所へと身を移したアナスタシアが問いかけます。
「アナスタシア、今の『状態』をしっかりと覚えていて欲しいんだ……」
「状態?」
「そう、状態。彼は今この小さな松ぼっくりに気づいてそれを叩き落としたよね? それはつまり彼が警戒心を研ぎ澄ました先でそれを保っている『状態』である事を意味している」
「……ああ」
「それで、だから僕はこれから定期的に松ぼっくりを彼めがけて放り投げるよ。そして、それが彼の警戒網をすり抜けて彼にぶつかった時……」
「それが、警戒心が解けた時……か」
「そう、キミが彼を救う合図だ」
くろうさぎさんは続けて更にそこに至るまでの詳細をアナスタシアに話して聞かせます。
「いいかい、アナスタシア。これから僕達がやるべき事はこうだ──」
・森に姿を隠したままお互いにトロールに向かい牽制をする。
・決して場所は悟られないように行動したら移動する。
・次第にそれを『ストレス』と感じたトロールを見てもまだ我慢。
・時間を使って削げるだけ削ぎ落とす。
・松ぼっくりが当たったのを合図に仕掛ける。
「──なるほど。それで『ストレス作戦』、これからの『時間』が私達の味方になるということか。物理的にではなく精神的にアイツを追い込むんだな?」
「そう。ここに来る前にアナスタシアにも言ったように一番重要なのはその心の『状態』だからね。キミもそれはもう充分理解しているだろ? だから、僕達はそうなる『状況』を敢えて作り出してそこを突くんだ」
「状況が状態を生み出す、か……私には到底思いつけない作戦だよ。クロエ、確かにそれなら勝機はそこに生まれると思う……だが、牽制するとは聞いたが具体的には私は何をすれば良いのだろうか? その、キミと同じように何かを放り投げたりすれば良いのか?」
「うん。それなんだけどね……」
するとくろうさぎさんは静かにアナスタシアの剣に触れると言います。
「キミには、コレがあるなって」
「……剣? 私は剣を使うのか?」
「うん。キミと言えばやっぱりこれしかないかなってね」
「いや、だが、しかし……剣を振るうのは最後だけなのではなかったか?」
「ううん。剣は振るうだけが使い方じゃないよ、アナスタシア──」
それからくろうさぎさんはアナスタシアに彼女の取るべき行動を伝えます。
「──と、いう感じなんだけど、どうだい?」
「そうか、それがこの剣で私がやるべき事か……本当にキミはいちいち私の知らない術をよく知っている」
「ふふ。そうかい? ……それじゃあ、アナスタシア。心の準備は良いかい?」
「ああ、大丈夫だ」
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