メイド・イン・メイド~機械仕掛けの恋人~

ゴサク

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お前ら全員ブッ飛ばす!

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 初夏の日差しを浴びて、俺達は並んで石畳の上を歩く。空を見上げれば、澄んだ青が目に飛び込んでくる。

「晴れましたね~!」

 アミィも空を見上げながら、顔に笑みを浮かべて、嬉しそうにはしゃいでいる。こうやって遊びに繰り出すのは初めてだから無理もない。

 俺達は昨日の俺の提案通り、部屋の近くの『高天崎たかまさき公園』へとやってきた。世の中は機械化が進んでいるとはいえ、やっぱり木々の緑に囲まれるのは気分がいいもんだ。

 俺達が住む『高天崎たかまさき市』は、国内で有数の『科学と自然の共存』を掲げた大都市で、こんな自然に囲まれた場所が多く存在する。

 そして、ここは高天崎市の公園としては一番規模が大きく、出店も何軒か出ている。辺りを見回すと、家族連れやカップルとおぼしき人達がちらほらと見える。

 梅雨も明け、これからだんだん暑くなってくる季節。天気がちょっと心配だったけど、本当に晴れてよかった。

「そうだ! どうせだから、ソフトクリームでも食べようか」

「いいんですか!? ありがとうございます! ご主人様!」

 俺の言葉に、アミィは子供のように純粋な笑顔を浮かべる。あぁ、俺、何だかとても幸せな気分だな。

「あぁ、ちょっと待ってろよ……」

 俺は売店でソフトクリームを二つ買い、アミィの元へと戻る。恐らくは初めてのソフトクリーム、アミィの喜ぶ顔が楽しみだ。

 …………

「落とさないようにね、アミィ」

「はい!」

 アミィは幸せそうな顔でソフトクリームをなめる。小さな舌でソフトクリームをなめるアミィは、まるでミルクを飲む子犬のようだ。期待通りのその横顔を眺めていると何だかこっちまで嬉しくなってくる。

「ご主人様、私、こんなに優しくしてもらっていいんでしょうか。何だか、申し訳ない気分になってしまいます」

 ソフトクリームを舐めていたアミィの顔がわずかに曇った。アミィの気持ちも解るけど、俺はそんなアミィを見たくて公園に来たわけじゃないんだ。

「いいんだよ、俺がやりたくてやってるだけなんだから」

「でも! 私はメイドアンドロイドなのに……」

「それは言いっこなし! アミィはそんなこと気にせず、ありのままでいてくれればいいんだよ!」

 俺の言葉で、アミィの顔に笑顔が戻る。やっぱり、アミィは笑顔でいてくれるのが最高にかわいい。

「はい……解りました……私、まだご主人様とお会いしてからそんなに経ってないですけど、本当に幸せですよ」

「俺もだよ、アミィ」

「ご主人様……!」

 俺とアミィは顔を見合わせ笑い合う。するとその時、俺の手が急に軽くなる。しまった、やってしまった。俺の手元のソフトクリームが粘りけを帯びた音と共に近くの通行人の服に付く。

「すみません! 俺の不注意でした!」

 俺は慌てて頭を下げて謝る。しかし、どうも相手の様子がおかしい。俺のことを、すわった目で睨み付けてくる。

 運悪く、ガラの悪い連中の一人に当たってしまったようだ。俺の不注意とはいえ、これは面倒なことになりそうだ。

「おいオッサンよぉ」

「やってくれたねぇ」

「いい年したオッサンがちびメイドとイチャイチャしてんじゃねえよ」

「あわわ……」

 アミィは何も言えず震えている。アミィがいる手前、ここは穏便に済ませたい。

「クリーニング代は出しますから……」

「当たり前だろ! バカが!」

「ってか、弁償だろ弁償」

「あ……あ……」

 アミィは目を伏せて、体を震わせながら苦しんでいる。その様子は、アミィの動悸が聞こえてきそうなほどだった。

 参ったな、この連中、思いのほかガラが悪い。そんな考えが顔に出てしまったようで、連中の一人の勘に触ったようだ。

「何ガンくれてんだオッサン!」

「ぐっ!」

 腹に蹴りのいいのが入った。マズいな、袋叩きの流れだ。蹴りを皮切りに、俺に追撃が浴びせられる。降り注ぐ蹴りの雨に、俺は堪らす地に伏せた。俺はいい、アミィ、今のうちに逃げろ、逃げてくれ。

 俺はアミィのほうに目をやった。何だか、アミィの様子がおかしい。アミィの震えは止まり、静かに佇んでいた。そして、目を伏せていたアミィの顔が徐々に上がっていく。

「おい、お前ら、恭平に何してくれてんだ……」

 え?

「アイスが服に付いたくらいで一人に寄って集ってよぉ……」

 アミィ?

「お前らのその腐った根性、俺が叩き直してやる!」

 アミィ!?

「覚悟しやがれ!! この馬鹿野郎共!!」

 アミィが普段の甘えるような声とは全く違う、凛とした声で吼えた。その顔には、今まで見たこともない険しい表情を浮かべ、怒りを露にしている。

「へへっ、何言ってやがるこのガキンチョが。この人数をお前みたいなガキンチョ一人でどうしようっていうんだよ、なぁ、教えてくれよ」

 連中の一人の痩せぎすな男が下卑たにやけ顔を浮かべてアミィに歩み寄る。その男はアミィを馬鹿にするように、無防備で舌を出しながらゲラゲラ笑う。

「おいおい、絵に描いたような馬鹿面だな、お前。俺はな、お前らみたいな人数を傘に粋がっている馬鹿が大嫌いなんだよ」

 アミィは目の前まで迫った痩せぎすな男の目を睨み付け、ハッキリとした口調で切って落とす。そのアミィの態度に、痩せぎすな男は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら叫ぶ。

「何だと! ガキが! あんまり嘗めた態度を……」

「だからお前は馬鹿だって言うんだよ。雑魚ほど口を動かすって……な!」

「あがっ……!」

 叫びを上げている最中の痩せぎすな男の土手っ腹に、アミィのボディーブローが突き刺さる。その一撃に、痩せぎすな男は顔を赤から一気に青くして、口から吐瀉物を吐きながら膝から地面へと崩れ落ちる。

 そして、アミィは呆れたような顔で残りの連中の前に向き合う。アミィから放たれた強烈な一撃に、連中は口を開けて呆けている。

「いくらお前らが馬鹿でも、これで今お前らが置かれた状況は解っただろ? だが、もう遅いよ。お前らは俺の目の前でやっちゃいけないことをやったんだ、相応の報いは受けてもらうぜ」

 アミィは連中に向けて怒りを露にして凄む。次の瞬間、アミィは勢いよく地面を蹴った。足元の石畳が割れんばかりの踏み切り、真っ直ぐに連中へ向かっていくアミィからは風を切る音が笛のように鳴る。その動きは、アミィのいつもの危なっかしい足取りとは違う確かなものだった。

「ほら、何呆けてやがる、隙だらけじゃないか。ま、いいさ、それじゃあ遠慮無く、お前のそのだらしなく開いた口、閉じさせてもらうぜ!」

 アミィは連中の一人の懐に潜り込んでニヤリと笑みを浮かべる。そして、次の瞬間にはアミィの右拳がスキンヘッドの男の顎を捉えていた。強烈な一撃を食らったスキンヘッドの男は、立ったまま気絶しているようだ。

「な、何だこのガキ! よくも俺達のダチ公を!」

 アミィがすぐ近くまで来ていることに、スキンヘッドの男が気絶してから気づいたひょろ長い男がアミィに向けて細長い腕を振り上げ、無造作に振り下ろす。

「お前こそ何だこの三下が、そんなもんが俺に当たるわけないだろうが。今までの俺の動きを見てなかったのか? そんなんだからお前らはこれから俺にぶちのめされるんだよ!」

 アミィはひょろ長い男から振り下ろされる拳をひょいとかわし、地面を思い切り蹴り、ひょろ長い男の顔面近くまで飛び上がった。

「こいつはちょっと強烈だぜ? まぁ、死にはしないだろうから我慢しな。なに、心配するな、所詮相手はちびメイド……だろ!」

 アミィは重力に任せてひょろ長い男の足元へと落ちていく。その間に、アミィから素早く、正確に両拳から連打が放たれる。眉間、人中、喉、鳩尾、腹、その正中線上にアミィの拳が吸い込まれた。

「ぐがあああっ!」

 アミィの連打をノーガードで受けたひょろ長い男は、あまりの痛みに地面に体を投げうち、ゴロゴロと転がりながら悶え苦しんでいる。

 これで残ったのはガタイのいい男がただ一人。ガタイのいい男は目の前で起きている信じがたい光景に、歯をカチカチと鳴らしながら困惑している。

「何なんだよ……何なんだよぉ……お前は一体何なんだよおお!」

 ガタイのいい男が咆哮を上げて、アミィを睨み付ける。肩で息をして、荒い鼻息を上げ、脂汗を浮かべながら。

 その様子を、アミィは嘲笑を浮かべながら見ている。そして、アミィは少し苛立ったような口調でガタイのいい男に答える。

「だから、何度も言わせるなよ、お前らこそなんだってな。いいからお前も大人しく俺に倒されろ、時間の無駄だ、早く来な」

「黙れぇぇ!!」

 ガタイのいい男がアミィの挑発に乗って猛然と突進してきた。地響きがするような突進は、ものの数秒でアミィの目の前まで迫る。
 
「学ばねぇなぁ、やっぱりお前らは正真正銘の馬鹿の集まりだよ」

 アミィはその突進を事も無げにかわし、がら空きになった男の脇腹にフックを繰り出す。しかし、その拳は決定打にはならず、ほぼダメージも無さそうだった。

「おっと、こりゃあ参った。まぁ、一人くらいは俺を楽しませてくれないとな」

 アミィは一旦その場から離れ、おどけたような様子でガタイのいい男に向き直る。

「へへ、所詮はガキのペチペチパンチ、俺には効かねえ、効かねぇよ! さぁ、どうしてくれようか、まずは捕まえて裸にでもひん剥くか!」

 確かに、今までの相手は不意を突くか急所への一撃でのノックアウト。正面をきってのぶつかり合いでは、これだけの体重差は埋める術は無いだろう。

「アミィ……ダメだ……逃げろ……」

 しかし、アミィはガタイのいい男を見据えながら不敵に笑う。その笑みに恐れは微塵も感じられない、むしろ楽しそうですらある。

「へぇ、試してみるかい、ダルマちゃん。いいぜ、もし俺を捕まえられたら裸踊りでも何でもしてやろうじゃないか、まぁ、出来たらの話だけど、な」

 アミィは人差し指をチョイチョイと動かしてガタイのいい男を誘う。そんなアミィの解りやすい挑発に、ガタイのいい男の怒りは怒髪天を衝いた。

「ほざけぇ!! このクソガキがあ!!」

 男が再び猛然と突進する。その勢いはさながらサイのようだ。怒りに任せたその突進は、さっきのものより明らかに勢いがある。ヤバイ! これは避けられない!

 しかしアミィは怯まない、真っ直ぐに相手を見据えている。その視線は、ガタイのいい男のただ一点に集中している。そしてアミィは左拳を振りかぶり、ガタイのいい男を迎撃するよう、その場で構える。その目には、ただならぬ闘志がみなぎっていた。

 俺が地に這いつくばりながらアミィの方を見ていると、ギリギリと金属を擦り合わせるような音が聞こえてきた。その音はどうやらアミィが振りかぶっている左腕から聞こえてきているみたいだった。

 まるで弓を引くように、アミィの腕が小刻みに震えている。そして、アミィの目の前までガタイのいい男が迫った次の瞬間、アミィから勢いよく拳が放たれる。

「終わりだ、喰らいな、ダルマちゃん」

 アミィが放った渾身の左ストレートがガタイのいい男の鳩尾を捉える。まるでアミィの腕が伸びたかのような錯覚さえする矢のような左ストレート。その一撃の衝撃を支えるアミィの足元の石畳に、大きな亀裂が走った。

「があっ……」

 ガタイのいい男はアミィの一撃を受けて、その場に大の字に倒れ込んだ。体重差をものともしないアミィの強烈な一撃、俺はただその威力に驚愕するばかりだった。

 そして、この場に静寂が訪れた。この場で二本足で立っているのはアミィただ一人。アミィは背中越しに俺の名前を呼んだ。

「大丈夫かい? 恭平」

「あ、あぁ……」

 俺には何が起きているか解らなかった。俺を呼ぶその声は確かにアミィの声だけど、いつもよりトーンが低い。それだけでアミィはまるで別人のように見えた。

「安心しな、これからは何かあったら俺が恭平を守ってやるよ」

 アミィが俺に優しく語りかけながら、ゆっくりとこちらを振り向く。こちらを見据えるアミィの深いブルーの瞳は、いつもより少し切れ目で口には自信に満ちた笑みを浮かべていた。

 …………

 これが『二人目』のアミィ、アミィが持つもうひとつの人格。これで恭平は本当の意味でアミィと出会うことになった。このアミィが持つ二つの人格の謎こそが、二人の運命の鍵を握ることになる。

 これが二人の物語の始まりだった。はたして、二人はこれから訪れる運命に立ち向かい、受け入れることが出来るのであろうか。しかし、恭平にはそのような運命が待ち受けていることなど知る由もなく、恭平はただ目の前のアミィを呆然と眺めることしかできなかった。
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