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I can't stand myself
①
しおりを挟む僕の記憶の限りでは、家族からも使用人達からも、そして付き合いの深い貴族達からも僕は嫌悪されている。
小さい頃は自分が嫌われていることも理解できてなくて、何度も本邸へ足を向け、何度も折檻されていた。
僕が生活していた離れには一日に2度、僕の世話をする為に使用人が来ていたけれど、誰も僕とお話してくれることはなかった。
そんなだから、僕は13歳になった今でもあんまり喋れなくて学校でも友達なんて1人もいやしない。
先生達にも嫌われていて、生徒達からも存在しない人間扱いされている。
偶に自分の体を触ったり、鏡を見たり、虫や動物に触れてみたりして僕が存在する人間だってことを確かめないと分からなくなっちゃう。
僕がこんなに大勢の人から嫌われているのにはきちんとした理由があって、僕は侯爵家の宝華である美しい母上を誘拐し監禁して乱暴した末に出来た子供だったんだ。
母上が助けられた時にはお腹の中には僕が居て、堕ろせないところまで育ってしまっていた。
僕の存在のせいで母上は解放された後も精神的な苦痛を味わされ、僕を産む頃には死んでしまいそうな程疲弊しきっていた。
何とか僕を産み落とした後、優秀な医師と献身的な家族の支えで母上は少しずつ回復へと向かっているそうだ。
この事は小さい頃に本邸へ足を運ぶ僕を捕まえた執事から背中を鞭で打たれながら聞いたことで、それでやっと僕は自分の立場を理解することが出来たのだ。
まだ理解できない言葉や人の感情が多い僕だけど、そんな理由で生まれた僕を皆が嫌うのは当たり前のことだって納得してる。
小さい頃に与えられた絵本は僕みたいな理由で生まれた邪悪な悪魔をめったんめったんにやっつけるお話が沢山あったから、めったんめったんに殺されないだけ僕は優しい人達の所に生まれたんだなって思う。
母上にも侯爵様や兄上や弟には本当に申し訳ないけど、僕は僕を殺さずにいる彼等が大好きだ。
本邸に行くのは辞めた僕だけど、離れの小さな庭にあるベンチに座ると偶に彼等の穏やかで優しい声がして、それを子守唄に眠るのが大好きなんだ。
でも学校の寮に住んでる今はその大好きな時間は得られなくなってしまったし、恐らく学校を卒業したら僕は侯爵家の離れからも出されて二度とあの声を聞くことは出来ないのだと思う。
12歳になって学校に通わしてくれるって執事から聞いた時にはとても驚いた。
皆は僕を侯爵家の敷地から追い出したかっただけなのだろうけど、それでも僕みたいなのを学校に通わしてくれるんだから本当にすごい。
ドン
「うわっ!最悪!汚物にぶつかっちまった!」
「ぁ…ごめ、さい」
「喋るな!穢らわしい!」
ぼうっとして歩いていたから曲がり角で生徒とぶつかってしまった。
ここ2日ほど食料にありつけてなくて力が入らなかった僕は床に転がり、慌てて謝ろうとしたけど、その人は僕の声も聞きたくなかったようで何度も蹴られた。
僕の顔が血まみれになった頃、やっと怒りが収まったらしい生徒から解放され、痛む頭を押さえながら常に持ち歩いているタオルで床についてしまった血を拭き取る。
「汚い、汚い、汚い」
汚い僕の血を皆が通る所に残すなんて絶対駄目なんだ。
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