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I can't stand myself
⑪
しおりを挟む父上が本邸に帰られた翌日、何故か兄上がやってきた。
しかも、今日からは兄上が僕と此処で暮らすらしい。
「学校は?」
「定期的なテストで成績さえ残せば問題ない」
兄上はなんて事ないようにそう言うけれど、僕は口をぽかーんと開けたまま兄上を見上げることしか出来なかった。
僕も学校に通っていた時に何度かテストを受けたけれど、ほとんどの問題を解くことが出来なかった。
教師達も用紙の返却の時、困った顔を見せるくらいにはやばかった。
うん。
兄上は僕なんかと違って見た目も血筋も中身も素晴らしいのだから、僕が兄上の学を心配するなんて愚か、だよね。
そう結論付けて、僕は部屋に引きこもった。
引きこもってすぐに僕は兄上のお誘いで外に出ることになってしまった。
どうやら父上から馬のことを聞いてたみたいで、もう一度行こうと言われた。
昨日の馬と同じ馬が出てきて、何故か僕の髪の毛をむしゃむしゃしている。
痛くないけど引っ張られる感じがすごい。
兄上は髪の毛をむしゃつかれている僕を見てすごく笑っている。
楽しそうでなによりです。
「この馬には十分な運動が必要だが、厩務員達は他の馬の世話もある。馬主が偶に馬に乗ることで馬の運動不足を解消することができるし、馬のストレス解消にもなる。」
突然凄く話しだした兄上。
「今その馬はリスィに遊んでくれと強請っているぞ」
「え?」
兄上の言葉にしばらく固まって、ゆっくりと僕の髪の毛にむしゃつく馬へと視線を動かす。
馬はぱっと僕の髪から口を離すと今度は僕の首の辺りをちょんちょん鼻先でしてくる。
「どう…遊べば?」
そもそも同じ人とも遊んだことがないのに、馬とどうやって遊んだらいいのだ?と兄上を見上げる。
「一緒にこの子に乗って少し散歩しよう」
「…それは、遊び…なのですか?」
乗るだけの僕達からすると遊びかもしれないが、馬は僕達を乗せて歩くことが遊びになるのだろうか?
「乗馬は体幹が鍛えられる。乗るだけではないのだ。人を乗せて歩くくらい馬にはどうってことない」
え?でもそれって兄上の意見で、馬が本当に大丈夫かなんて分からないですよね?と思って、兄上をじっと見つめるけれど、兄上は苦笑いして僕の両脇に手を突っ込みすっと持ち上げてしまう。
そのまま足を上げて、だとか色んな指示が飛んできて気がついたら僕は馬の背に乗っていた。
馬は兄上の言う通り、よろけたりもしないし、嫌そうに暴れる様子もない。
すぐに兄上が僕の後ろへ飛び乗ったけれど、それでも馬は重たそうじゃないし、よろけたりもしなかった。
兄上の言葉は本当かもしれないと感動していると、兄上が紐を掴んで足をぱんって鳴らした。
すると馬はゆっくりと歩き出し、僕の体が左右に揺れて、慌てて掴めそうな所を掴む。
「リスィ、ここを持つんだ」
わたわたとする僕に兄上が目の前のぼうみたいなやつを握れと言うから握ってみると、それだけで随分と乗るのが楽になった。
兄上が言ってた通り、馬に乗るのもただ乗ればいいってものじゃないんだと知った。
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