短編集【5話執筆中】

薄明 喰

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何故君が犠牲にならねばならなかったのか

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ガーダル国が敗戦し、自分に命令を下していた人間達が殺され、自分も捕まった時、モルテは遂に自分の番がきたのだと思った。



敗戦が決まった時、モルテは戦前から敵兵の目を掻い潜って国へ戻った。
沢山の人を殺した自分は真っ先に敵に捕まえられ殺されることを理解していたのだ。


モルテは死ぬことに恐怖はなかったが、捕まる前にまだ脳みそをいじくられる前の赤子達を密かに教会へ逃がしておきたかったのだ。

恐らく自分以外の子供兵はもういない。
大人の戦士達は戦闘のほとんどを子供兵にやらせていたから負けた今、我先にと逃げ出しているか敵に命乞いをしているだろう。

だからモルテが最後の生物兵器なのだ。


敵に捕まり、自分はこの後敵国で衆目の目に晒され首を落とされるのだと敵の人が言っていた。
モルテは迫るくる死に少しの抵抗もなかった。


罪を犯した者が首を落とされる所は何百回も見てきたし、なんならその内の数十回は自分が落とした。




敵に捕まったらぐちゃぐちゃにされて殺されるから絶対に捕まるな。
捕まった時は自爆しろと国から命令を受けていたが、自分にそう命令していた人間は皆死んでいる。

それにモルテの身体は既にぐちゃぐちゃなのだから、捕まった時にぐちゃぐちゃにされると声を荒らげて脅す人間の意図が全く分からなかった。




断頭台に放り投げられていよいよ首を落とされるという時に、モルテはある人によって生かされた。

その人物であるラオネット大将はモルテが珍しく覚えている敵だった。


強くて、なかなか死なない人。



そんな人が自分のととさまとなり、アリオスと言う名前をつけた。

初めはアリオスって何だろうと思っていたが、しばらくしてそれが自分を読んでいるのだと気がついた。





ラオネット大将はアリオスを養子にしたことで、国の多くの人から白い目で見られていた。
アリオスは周りがラオネット大将にそんな視線を向ける意味を正確に理解することはできなかったが、自分が原因であることは何度も自分を指さし声を荒げる人に遭遇し、察した。


自分を養子にせずにいれば強いととさまはモーディア国の英雄として崇められていただろうに、何故自分を養子にしたのかとアリオスはずっと不思議に思っていた。






ラオネット大将と過ごす争いのない日々は大きな違和感があったが、2年も経つとラオネット大将とのなんて事ないお喋りに足が弾む気持ちになった。

命令のない日々をどう過ごせばいいのか、ととさまは楽しいと思うことをしようと言うけれど、アリオスは楽しいが分からなかったし自ら考えて行動することも苦手だった。



余りに深く考えると翌日高熱が出るということが何度かあり、ととさまはアリオスに何が好きだとか何をしたいかだとかをあまり聞かなくなった。

その代わりに今日はここに行こうとかこれを食べようと色んな所へアリオスを連れ回した。




外食をする時はアリオスが原因で決まった2店舗しか行けなかった。


「生物兵器に食わせる料理はねぇ!」


と皿を投げつけられたこともある。
ラオネット大将が庇おうと前に出てきたので、慌てて引っ張って投げられた皿は見事にアリオスの額に当たって砕け散った。


額から血を流すアリオスにラオネット大将は酷く慌てていたがアリオスには何故彼がそんなにも慌てているのか理解することはできなかった。

皿を投げつけた店員もまさかこんな大事になるとは思っていなかったのか段々と顔色を悪くしていく。



「ととさま。大丈夫、です。放っておけばとまります」


アリオスは自分の額に綺麗なハンカチを当てるラオネット大将へなんの問題もないことを知らせようとそう告げたのだが、何故かラオネット大将も店員も顔を顰めてしまった。

今までに額の皮膚が裂けたことなど幾らでもあるし、この程度の怪我は改造された自分はすぐ治ると知っている。




しかし、その日、ラオネット家に帰っても血は止まっていたが額の裂けた所はなかなか塞がらなかった。

そこでアリオスは自分の身体のタイムリミットが近いことを悟った。




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