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何かあったらしい
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月曜日の朝、どんな日曜だったか早速由美さんに報告したかったのだが、時間が合わなくて雑談の余裕がなかった。そして和香は、竹田さんとペアでマンションの植え込みの除草に行く。もともとあった樹木の根本に、住民が『好意で』草花を植えてくれているので、除草剤が使えないらしい。色とりどりの草花は確かに綺麗だから、管理会社は大歓迎、らしい。
「どうせ植えるんなら、枯れるまでメンテしてくれっていう」
「除草は嫌いじゃないけど、それには同意です」
運転席と助手席でぼやきあうと、すっごく同士っぽい気分になる。日差しが強くなってきたので、和香は麦わら帽子も装備だ。竹田さんは髪を染めるのに間が開いてしまったらしく、てっぺん近くの髪がキラキラしている。白髪染めとかの薬剤で真っ黒にしちゃえば良いのに思いながら、和香はそれを口にしない。自分がその立場に立てば何かほかの理由があるのかも知れないし、余計なお世話だ。
刈込鋏で伸びた枝を切っていく竹田さんの位置を確認しつつ、和香はしゃがんで雑草を引く。高木は業者を呼ばないと手入れできないので、竹田さんが切っているのは中低木の細い枝だけだ。あれくらいなら、自分にもできる。舘岡中では下手なりに自分でやっていた、と横目で竹田さんを観察する。タオルを巻いた頭の下で、作業着の肩が揺れる。シャキシャキと鋏の音がリズミカルで、やっぱり自分よりずいぶん早いな、なんて。
「そんな短いの、神経質に抜かなくていいぞ。どうせこの時期なんだから、またすぐ生えてくる」
薄いゴム手袋で地面ギリギリの雑草を抜いている和香に、上から声がかかった。気温が上がってくると外作業は身体に負担が大きいから、さっさと終わらせてしまうに限る。十時に管理室でお茶に呼ばれると、身体が少し汗臭かった。
「今日は若い人たちが来てくれたから、早いねえ」
麦茶を出してくれた管理人さんは、和香の祖父くらいの年齢だ。さすがにこの年代の人に、日向で長時間働けとは言えない。仕様内だとか契約とかあるけれど、それは生命を脅かせてまでとは謳っていない。
「時間見て、また来ますよ。正面のガラスを綺麗にしてくれてるから、植込みさえすっきりしてればこのマンションは大丈夫です」
竹田さんが残った麦茶を一息に飲んで立ち上がったので、和香も一緒に立ち上がる。
「とっとと終わらせて、昼休み長くとろうぜ。昼寝したい」
十一時過ぎに作業を終えてコンビニで弁当を買うと、竹田さんは公園の駐車場に車を入れた。
「悪い、食ったら寝るわ。十二時半にになったら起こして」
弁当をあっという間に食べ終えた竹田さんは、車のシートを倒してすぐに寝息になった。取り残された和香は、しばらくスマートフォンを弄ってから外に目を向けた。
移動しながらいろんな場所で作業すると、どうせ今だけのおつきあいだって割り切れるから、仲良くなろうとか考えなくて済むんだな。これはこれで、楽なことだ。これで何人か楽しく連絡の取れる友人がいれば、別に寂しくないんじゃない?
もう、ここにいれば無理しなくていいんだ。ペースの違う人に合わせて疲れなくても、コミュニティに入って行けなくて悲しい思いをしなくてもいい。みんなに可愛がってもらって、仕事も教えてもらえて、自分のペースを崩さずに済む。
ぼうっとしていると、竹田さんのスマートフォンが急に鳴った。
「はい、もしもし?」
目を閉じたままくぐもった声で受信した竹田さんは、次の瞬間目を開けて座り直した。
「わかった、すぐ帰る。病院に電話して、受け入れだけ頼んどいて」
それだけ言って電話を終えると、和香に向き直った。
「午後の現場、ひとりで行ってくれる? 車、運転できたっけ?」
「免許は持ってます」
竹田さんの声が慌てているので、和香も早口になる。
「それじゃ悪いけど、駅まで行って運転交代。俺、このまま直帰するから、あとは頼むな」
事情はわからないけど、会社に戻って着替える時間も惜しいほど、急ぎの用事らしい。そのまま発車して駅に着くまで、竹田さんから説明はなかった。駅で運転席を交代して、シートの位置を調整した。午後は小学校のフェンスに絡みつくヤブカラシを退治しなくては。
「どうせ植えるんなら、枯れるまでメンテしてくれっていう」
「除草は嫌いじゃないけど、それには同意です」
運転席と助手席でぼやきあうと、すっごく同士っぽい気分になる。日差しが強くなってきたので、和香は麦わら帽子も装備だ。竹田さんは髪を染めるのに間が開いてしまったらしく、てっぺん近くの髪がキラキラしている。白髪染めとかの薬剤で真っ黒にしちゃえば良いのに思いながら、和香はそれを口にしない。自分がその立場に立てば何かほかの理由があるのかも知れないし、余計なお世話だ。
刈込鋏で伸びた枝を切っていく竹田さんの位置を確認しつつ、和香はしゃがんで雑草を引く。高木は業者を呼ばないと手入れできないので、竹田さんが切っているのは中低木の細い枝だけだ。あれくらいなら、自分にもできる。舘岡中では下手なりに自分でやっていた、と横目で竹田さんを観察する。タオルを巻いた頭の下で、作業着の肩が揺れる。シャキシャキと鋏の音がリズミカルで、やっぱり自分よりずいぶん早いな、なんて。
「そんな短いの、神経質に抜かなくていいぞ。どうせこの時期なんだから、またすぐ生えてくる」
薄いゴム手袋で地面ギリギリの雑草を抜いている和香に、上から声がかかった。気温が上がってくると外作業は身体に負担が大きいから、さっさと終わらせてしまうに限る。十時に管理室でお茶に呼ばれると、身体が少し汗臭かった。
「今日は若い人たちが来てくれたから、早いねえ」
麦茶を出してくれた管理人さんは、和香の祖父くらいの年齢だ。さすがにこの年代の人に、日向で長時間働けとは言えない。仕様内だとか契約とかあるけれど、それは生命を脅かせてまでとは謳っていない。
「時間見て、また来ますよ。正面のガラスを綺麗にしてくれてるから、植込みさえすっきりしてればこのマンションは大丈夫です」
竹田さんが残った麦茶を一息に飲んで立ち上がったので、和香も一緒に立ち上がる。
「とっとと終わらせて、昼休み長くとろうぜ。昼寝したい」
十一時過ぎに作業を終えてコンビニで弁当を買うと、竹田さんは公園の駐車場に車を入れた。
「悪い、食ったら寝るわ。十二時半にになったら起こして」
弁当をあっという間に食べ終えた竹田さんは、車のシートを倒してすぐに寝息になった。取り残された和香は、しばらくスマートフォンを弄ってから外に目を向けた。
移動しながらいろんな場所で作業すると、どうせ今だけのおつきあいだって割り切れるから、仲良くなろうとか考えなくて済むんだな。これはこれで、楽なことだ。これで何人か楽しく連絡の取れる友人がいれば、別に寂しくないんじゃない?
もう、ここにいれば無理しなくていいんだ。ペースの違う人に合わせて疲れなくても、コミュニティに入って行けなくて悲しい思いをしなくてもいい。みんなに可愛がってもらって、仕事も教えてもらえて、自分のペースを崩さずに済む。
ぼうっとしていると、竹田さんのスマートフォンが急に鳴った。
「はい、もしもし?」
目を閉じたままくぐもった声で受信した竹田さんは、次の瞬間目を開けて座り直した。
「わかった、すぐ帰る。病院に電話して、受け入れだけ頼んどいて」
それだけ言って電話を終えると、和香に向き直った。
「午後の現場、ひとりで行ってくれる? 車、運転できたっけ?」
「免許は持ってます」
竹田さんの声が慌てているので、和香も早口になる。
「それじゃ悪いけど、駅まで行って運転交代。俺、このまま直帰するから、あとは頼むな」
事情はわからないけど、会社に戻って着替える時間も惜しいほど、急ぎの用事らしい。そのまま発車して駅に着くまで、竹田さんから説明はなかった。駅で運転席を交代して、シートの位置を調整した。午後は小学校のフェンスに絡みつくヤブカラシを退治しなくては。
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