暮井慈の事件簿

藤野

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file.1 公立中学殺人事件

8.エピローグ

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 平日の昼間だというのに自宅で悠々アフタヌーンティーを楽しむ慈を、雄は呆れ顔で見ていた。
 礼として持参したケーキが、次々と彼女の口の中に消えていく。
 初めて目にするというわけでもないのだが、何度見ても目を疑う光景だった。

「大学はどうしたよ」
「自主休講。……って言いたいところだけどね、開校記念日でもともと休みなのよ」

 だからカレンダーなんて関係ないの、と自慢げに言って幸せそうにケーキを頬張る。
 彼女の要求する見返りはいつもこれだ。そして、買い物の付き添い。それも買ってとねだるでもなく、どっちがいいか、と意見を聞くだけ。何とも無欲なことである。
 初めこそ手軽でいいと楽観ししていたが、回数を重ねた今では返って心苦しくて仕方がなかった。

「お前、もっと高望みでもいいんだぞ?」
「あら、これ以上なく高望みしてるつもりだけど。それより兄さんも食べたら? 紅茶だって、せっかく淹れたのに冷めちゃうわよ」

 どこがだと指摘してやりたくなるのを紅茶で押し流す。飲み頃だったそれを楽しむ間もなく飲み干して、やけくそにフォークを突き刺した。
 気づかないことを幸せだと彼女は笑う。彼女の得ているものはケーキだけではないというのに。

「ねぇ兄さん、今度買い物に付き合ってくれない? 新しい服選びたいの」
「へいへい。わぁーったよ」

 服くらい自分の好きなモン選べよなとぶつくさ言われ、投げやりに返されても、慈は微笑みを絶やさない。
 慈は普通ではなく、平凡でもなく、無欲でもない。彼女だけが、その事実を知っている。
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