魔女と魔法使いの少女たち

ノムラユーリ(野村勇輔)

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第1章 新入生の魔女

第5回

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「で、肥田木はどんな感じだ?」

 一週間ほどが経過して、僕は職員室で井口先生と向かい合って話をしていた。

 クラス担任なのだから教室でも聞けるだろうに、わざわざ僕を職員室まで呼び出したのは、たぶん真帆が(真帆も僕と同じクラス、つまり井口先生のクラスだった)またふざけたりいい加減なことを口にして茶々を入れてくるのを避ける為なのだろう。

「そうですねぇ」
 と僕は少しばかり困ったように顎に手をあてながら、
「おもちゃです。完全に」

「まぁ、だろうな」
 井口先生は嘆息した。

 わかっていながら僕らに預けるのもどうかと思う。

 あんないかにも弄りやすそうな娘、真帆が放っておくわけがない。

 肥田木さんが来るまでは大抵、僕か鐘撞さんが真帆のからかいの対象だったけれど、肥田木さんが来てからというもの、真帆の矛先は全て肥田木さんに向かっている。鐘撞さんはどこか安堵したように、けれど冷や冷やしながら真帆と肥田木さんの様子を窺い、真帆がやりすぎそうな際には身を挺してそれをとめる、という図式ができつつあった。

 ちなみに僕は、嬉々として暴れる(といった方が正しいだろう)真帆の身体をなんとか押さえつけて「どうどうどう、落ち着いて」と言ってやるしかない。

 真帆は毎日のように家から謎の魔法道具を持ってきてた肥田木さんで試した。

 どこから出てくるのか本当に解らない鳩の湧き出る魔法の箱、いくらでも物が入る小さくて真っ赤なショルダーバッグ、吹いた息が数十倍になって出てくる謎の竹筒、逆回転するだけの壊れた(壊れてるんだと思いたい)懐中時計、握ると延々震える木の枝、昨日などは水の溢れない盆からいかにして水を溢れさするか、数時間ひたすら試してみたり……

 正直、自分らが何のためにそれをやっているのか、まるで判らない魔法道具ばかりだった。

 肥田木さんはそんな魔法道具に、驚くやら呆れるやら、真帆に無理やり試されて鳩に囲まれ、水に塗れ、吹いた息に吹き飛ばされたり……かくいう僕や鐘撞さんも、当然その被害者でもある。

 けれど、自分で作った魔法薬を持ち出さないだけまだマシだ。昨年までは、僕や鐘撞さん、榎先輩を巻き込んで試した挙句、とんでもないこと(一番困ったのは何を見ても笑いが止まらなくなる薬だった。笑い死ぬかと思った)に何度もなっている。しかしそれも時間の問題だろう。きっと真帆は、そろそろ肥田木さんで試そうと、自作の魔法薬を持ち出すはずだ。

「肥田木さん、先生に何か言ってきましたか?」

「いいや、別に? あの娘は自分から何かを言うような子じゃないからな、だから下拂に聞いたんだ。下拂から見て、肥田木はどうだ? 真帆におもちゃにされて、嫌がってないか?」

「いや、それが――」

 不思議なことに、肥田木さんは特に嫌がるという様子もなく、というより日に日に真帆に慣れつつあって、時々やりすぎる真帆に引き気味になりつつも、自ら楽しんで乗っかるようになっていた。さっきも述べたけれど、むしろそこが鐘撞さんと僕が止めに入らないといけなくなる理由である。

 それを井口先生に伝えると、「なるほどな」と先生は頷きながら、
「肥田木には姉と兄がいるだろ? 昔からアイツらにくっついちゃぁ、良いことも悪いこともやらかしてきたタイプなんだ。そのうえ、末っ子だからその責任は姉や兄に向かう。自分は姉や兄に巻き込まれただけだから被害者なんだ、とまでは本人も言いはしないけど、どうしてもそんな感じになっちまうんだよな。たぶん肥田木にとって、今の真帆はその姉や兄と同じポジションになってるんだろうさ。それに気づいたんだろ」

「どうします? 肥田木さんに、真帆にあまり関わらないように言った方が良いです?」

「まあ、そこまでしなくても大丈夫だろ。真帆も羽目を外し過ぎたりしなきゃ、そこまでとんでもないことはやらんさ」

 ホントかなー? と僕は思わず胡乱な目を先生に向ける。少なくとも、僕の知ってる真帆は、他人を魔法で吹っ飛ばしたり、忘れ薬を飲ませようとしたり、巨大なカラスをけしかけてきたり、わりと色々やらかすようなヤツなんだけれども。

「なんだよ、その眼は。大丈夫だよ、心配するな。何年俺がアイツと付き合ってきてると思ってんだ。お前と恋仲になってから、真帆は明らかに大人しくなってるぞ。中学生までの真帆を見せてやりたいくらいにな」

「……そんなんですか?」僕にはイマイチよく判らないけれども、「まあ、井口先生がそういうんなら、もう少し様子を見てようと思います」

「おう、そうしてくれ」
 先生は軽く手を振り、
「それでももし気になることがあるなら、俺に言え。加帆子さん(真帆のお祖母さんだ)に相談するから」

「まあ、先生がそう言うなら……」
 お願いしますね、と僕は言い残して、その頼りなげな先生の背中に一瞥をくれてやってから、職員室をあとにしたのだった。
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