夏とラムネと

ノムラユーリ

文字の大きさ
16 / 33
Day4

第4回

しおりを挟む
   4

 真帆さんの正体が魔女。

 それだけでも意味がわからないのに、潮見まで魔女だと言われたって、とてもじゃないが信じられるわけがない。

 このふたりは何を言っているんだ? 僕をからかっているのか? 魔女なんてものはファンタジーの産物で、現実に存在するなんて、そんなこと――

 けれど、ふたりの様子は僕をからかっているようには全然見えなくて。

 真帆さんも潮見も大真面目な様子で、僕もそこにあると知らなかった(というより、意識してこなかったから気付いていなかった)小さな祠を、まじまじと見つめ、しきりに手で触れ、何度もその周囲をぐるぐる回って、
「――どうですか?」
 潮見の問いに、真帆さんは「う~ん」と唸ってから、
「たぶん、違うと思います。確かに魔力は感じますけど、ここは地力のタマリ場でしかないみたいです」

 そっかぁ、と残念そうに空を仰ぎ見る潮見。

 僕はそんなふたりに、
「タマリ場、って?」

 すると真帆さんは「あぁ」と口にしてから、
「魔力というものはある種の流れというものがあるんです。川の流れを想像してもらえれば、わかりやすいかもしれません。ここはその魔力の流れの中で、一時的に魔力がたまっている場所――池みたいなものですね」

「池? 魔力の?」

「そうですそうです」
 真帆さんは何度か頷いて、
「ですが、ここもその魔力が枯渇しかかっているようです。ここから更にどこかへ流れている感じですね。けれど、いったいどこへ――?」

「魔力の流れを辿ればわかるんじゃないの?」

 潮見の言葉に、真帆さんはバッグから小さな丸い形の何か――たぶん、方位磁石? を取り出すと、それに目を向けながら、
「……ダメですね、全く反応しません。魔力磁石の魔力すら吸い取られちゃってます」

「アレはどうなの?」

「アレ?」

 首を傾げる真帆さんに、潮見は「ほら」と真帆さんのバッグを指さして、
「虹色ラムネ」

 あぁっ、と真帆さんはバッグから虹色ラムネ(本当に何本入っているんだろう)を取り出すと、おもむろにその中身を魔力磁石にばしゃりとかける。

 それを見て、僕は思わず眼を見開いて、
「な、なにやってんの?」

「魔力を注いでみたんですよ」

「魔力? 虹色ラムネが?」

 どういうこと?

「虹色ラムネの中には、少量ですが虹が含まれているんです」

「は? 虹?」

 そうです、と真帆さんは頷いて、
「虹は魔力でできています。虹色ラムネは、その虹を飲料用に加工したものなんですよ。本来虹は飲食するものではないですし、大量に摂取してしまうと魔力に酔ってしまうのですが、それでも美味しいものなので、どこかの魔法使いが手軽に飲めるよう作ってみたら大ヒットしちゃいまして。今では魔法使いたちの夏の定番になっているんです」

「魔法使いたちの、夏の定番……?」

「はい」

「魔法のラムネって言ってたけど、本当に魔法だったの?」

「はい」

 だから、そう言ったじゃないですかぁ、と笑う真帆さん。

 でも、それじゃぁ――

「どうして、うちの伯父さんや、竹田の兄ちゃんは虹色ラムネを飲んでたんだ? どこから手に入れたんだよ」

 呟くように口にすると、潮見が僕に振り向いて、
「竹田くん? それならあたしだよ。あたしが竹田くんにあげたの。バイト先が一緒だから」

「潮見が?」

「うん、そう。あそこはお父さんが無気力症候群で仕事を辞めちゃって、竹田くんが頑張っているでしょ? 一時しのぎでしかないけど、それでも竹田くんまで倒れちゃったら本当に大変だから。あとは、たぶん八千代さんが知り合いに配っているみたいだから、それじゃないかなぁ」

「それだと、うちの伯父さんと八千代さんが知り合いってことになるけど――」

「知らないわよ、そんなことまで」
 と潮見は呆れたように小さくため息を吐いて、
「でも、虹色ラムネは魔法使いの間でしか基本的に流通はしてないから、どこかで貰ったのは確かじゃない?」

「そ、そうか……」

 よくわからないけれど、とりあえず僕は納得する。

 納得しなければならないほど、今の僕は頭がパンクしてしまいそうな状況だった。

 そんな大真面目に魔法とか魔力とか魔女とか魔法使いとか言われたって、どこまで信じていいのか解らない。

 虹色ラムネの正体が虹を飲料用に加工したものだとか、それ、本当?

 若干混乱気味の僕の前で、潮見は真帆さんの持つ方位磁石――魔力磁石を覗き込んで、
「どう? 動く?」

「う~ん、ダメですね。上からラムネをかけてる間はくるくる回りますけど、たぶん、虹の魔力に反応してるだけっぽいです」

「そっかぁ……」

 真帆さんもため息を吐くと、濡れた魔力磁石をハンカチで拭いてバッグに収め、
「仕方ありません。また、別の場所をあたりましょう」

「は~い……」

 潮見とふたり、残念そうに肩をすくめたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...