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25 「黒峰」
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『泉食堂 姫舞』にて神波春雄の語った「出会い」という言葉には、二つの意味がある。
一つ目に関する話は、時和会若頭・藤堂義右が出頭した頃にまで遡る。
元マルミツ自動車所有の廃倉庫で起きた殺人事件、ならびに殺人未遂事件における責任の一旦を担い、藤堂が地元の警察署に自首したのは一年程前の事だ。当該の犯行に及んだのが同じく時和会所属の構成員・志摩太一郎である可能性が高い事(複数の人間により現場で目撃され、到底無関係とは考えられない等)が、藤堂の主な自首の理由である。志摩と、実行犯として存在が有力視される黒ずくめの男は現在も逃亡中だが、藤堂は監督者としての責務を果たす為、また組の看板と組長の身柄を守る為に自ら両手首を差し出した。
一説には、銀一達に対する謝罪、責任の意味も込められているという見方もあった。
銀一のいる病室へ成瀬刑事が見舞いに訪れたのは、その藤堂が出頭する前日の事である。銀一はこの時の邂逅をよく覚えていたが、その後しばらく成瀬刑事と会う機会を得なかった。それから一月半程経った頃、予想だにしなかった人物が銀一達のもとを訪れる。
リハビリに励んでいた銀一を囲み、竜雄と和明が真剣な眼差しを向けていた場に現れたその男は、懐から警察手帳を取り出した。
「初めまして、成瀬秀人と言います」
自らを、成瀬刑事の息子だと名乗った。年齢は四十代に見えた。七十を超えているという成瀬刑事の息子と呼ぶには些か若いが、計算が合わぬ程ではない。しかしそれ以上に驚いたのは、この時既に銀一は成瀬刑事の身に起きた痛ましい事件を、藤堂から聞かされ知っていたのだ。成瀬刑事の妻子は彼が二十代の頃、赤江のヤクザ者による無惨な殺され方でこの世を去った。銀一に話して聞かせた藤堂は、その足で自ら警察署へ赴いたのだ。覚悟を決めて顔を見せに来た男がウソをつくとは、銀一には思えなかった。
「えーっと、何だろうか、この視線の意味は」
と、若い成瀬は言った。自分に注がれる熱い視線に耐え切れず、首のネクタイを弄りながら愛嬌のある苦笑いを浮かべた。
声が低く若干しゃがれているのが成瀬刑事を思わせる。しかし小柄な老人とは違い、若い成瀬は銀一達の誰よりも背が高く、三つ揃いのスーツを着こなした様は警察というよりもファッションモデルのようだった。成瀬を病室へと案内した看護婦は、顔を赤らめて彼を見つめたまま戻ろうとしない。
「男前…」
と竜雄が呟き、和明はムッとした顔で張り合うように己の頬を撫でた。
「君が銀一くんだね。父から話は聞いてるよ。僕は今東京で別の捜査の任についているから今日はたまたまなんだけど、近く時間を取ってじっくり話を聞かせて欲しいと思って…」
「待て待て、おい、ハゲ」
と、若い成瀬の話を、和明が遮った。もちろん若い成瀬は、ハゲではない。
「見て分からんのか。こいつは今ようやく両手を動かせるようになった所や。こうしてベッドに腰かけてるように見えても、今まだ自分で起き上がれるわけやない。そんな状態の人間前にしてお前よくもそんな手前勝手な話をぬけぬけとお前…」
「おいおいおいおい、熱うなりすぎや」
笑いながら竜雄が止めに入り、
「えーっと、成瀬さん言うた? したらあのおじいの、え、息子?」
と目を細めた。
「年齢の事かい? 僕は後妻の子だから、父との年齢は結構離れてるよ。孫とよく間違われる。僕はまだ四十になったばかりで、若く見られるしね」
「知らんがな」
と和明が突っ込む。
銀一は三人のやり取りを面白く見つめるも、腹を抱えて笑う程には回復していない。
「まあ良いさ。今日は、父からの伝言を伝えに来ただけだ。また日を改めて会いに来るよ。きっと、君たちも聞きたいであろう事実なんかも、僕なら話せると思うしね」
成瀬秀人は微笑みを浮かべて、意味深な言い回しでそう語った。
竜雄と和明がぐっと顎を引き、秀人を睨みつけた。秀人は怯むことなく、二人の視線を受け止める。
「良い目だなァ。父が気に掛けるのも分かるよ。じゃあ、また来るよ。銀一くん、リハビリ頑張ってね」
片手を上げて立ち去ろうとする秀人に、
「伝言わい!」
と和明が声を荒げた。
「そうだった、君たちの目が怖くて忘れちゃったよ。父はこう言ってたよ。しばらく身を潜めるが、心配するな。ワシには、奥の手がある」
「奥の手?」
眉間に皺をよせ、竜雄が首を捻る。
秀人が右手の親指を立て、グッと自分の方へ向けた。
「僕さ」
「帰れェ!」
和明が叫んだ。
しかし実際の所、銀一達がこの成瀬秀人という刑事の知遇を得たのは有益だった。警察も探偵も捜査も漢字で書けない銀一達にとって、秀人は事件の概要や人間関係、捜査の進捗具合等をかみ砕いて話せる唯一の人間だったのだ。父である成瀬刑事とどのような話合いが持たれたかは、銀一達には知りようがない。しかし成瀬秀人とは、事件の被害者と刑事という立場以上の関係を築けた事は間違いなかった。
もちろん秀人側にはメリットというべき旨味もあった。銀一達は殺人事件及び殺人未遂事件の被害者であり、重要参考人でもある。任意同行を求めての事情聴取はこれまで何度も行われてきたが、明日明後日にも事件が解決するような見込みはない。秀人としては公表できる内容を丁寧に説明してやる事で、銀一達から少しでも多く情報を引き出したいというのが本音としてもあった。
秀人は亡くなった榮倉刑事の先輩、そして友人関係にもあり、以前から赤江で起きている事件については相談されていたという。
父である成瀬刑事(名を、オウマと言うらしいが確認は取れず)は捜査状況を管轄外の人間に漏らす男ではなく、それは息子に対しても例外ではなかった。しかし事ここへ来てついには頼らざるを得ず、西荻平左殺害から続く一連の犯行についての詳細を、改めて秀人に話して聞かせたというわけだった。
初めて秀人が銀一の病室へ顔を出したその後も、度々訪れてはこちらの質問に答える形で事実関係を教えてくれた。もちろん現在進行形で捜査されている内部事情などは秘匿とされたが、そもそも銀一達が知りたい事のほとんどは、いまだ解明されていなかった。
そんな中でも、成瀬が語った話で最も銀一達を驚かせたのは、バリマツこと松田三郎の正体だった。
「こっちでは黒誠会と呼ぶのかい。…巣? 『黒の巣』。ああ、それは榮倉からも聞いた事があるね。だけどこっち(東京)では主に『黒の団』、縮めてそのまま『団』と呼んでるんだけど、こっちで殺された四ツ谷組の松田はその『団』だと言われているね」
それを聞いた銀一は目を見開いて驚愕し、竜雄と和明は言葉にならない大声を上げた。バリマツの話をしていたわけではないのだ。そこへ突然飛び出した『黒』とバリマツの関係性は、意外というレベルを遥かに超えていた。
四ツ谷組が誇る大看板、当代きってのスターを呼ばれたイケイケヤクザの正体が、『黒』だというのだ。驚き以外の何物でもなかった。
秀人は言う。
「『団』にはいわゆる家督、正確には違うんだけど、そういったモノを先代から継いだ人間側である『本団』と、彼らが使役する『端(は)団』がいて、どうやら松田はその『端団』側の人間だったようだね。もちろんそれは松田の死後判明した事なんだけど、それがね、あんまり僕の口からは言いたくないんだけど、松田を使役していたのが、同じく赤江で殺された警官、今井だったんだ。今井はつまり、『本団』の人間なんだよ」
しかし、その松田と今井を殺害した犯人、犯行の動機については分かっていない。
「よう分からんけど」
と竜雄が口を開いた。
「その使役いうんは、要は使いっ走りにされる側という事やろ?本家側の人間はそれでええかもしれんが、ただ使われる為だけにおる分家になんの意味があってそんな後ろ暗い事しよるんよ。しかもあんた、聞いただけやと普通逆に考えるものと違うか? バリマツが本家で今井なんちゃらが分家と違うのか」
竜雄のもっともな疑問に、秀人は微笑みを浮かべた顔でうんうんと頷いて見せた。
「本家と分家か、分かりやすくて、良いね。だけど本家側もそもそも、同じ一族がずっと本家稼業を繰り返しているわけではないらしいんだよね。先祖代々というわけではなくて、実力主義というべきなのかな。それでも、証拠になるような文書が残されているわけではないから断言は出来ないけど、いつの時代でも本家と分家の立場が逆転するような事はなかったそうだから、その力関係ははっきりしていたんだろうね。つまりは、…あ、松田が本家側じゃないのかって思う理由は、腕っぷしの事かな。だとしたらそれは違うね。いつの世だって、一番力を持ってるのは、お金だよ」
「…金か」
竜雄と和明の声が揃った。これには、銀一を含めた三人も納得せざるを得なかった。言われてみれば、それしか理由などない気がする。
そして秀人が言うには、松田と今井の二人を『団』と結び付けたのは、暴力団関係者からの所謂タレコミだった。ここにもお金の匂いがするね、と言って秀人は自分の鼻をちょんちょんと指で触った。
「昔から息をする古株のヤクザは、揃いも揃って『団』に関して口を閉ざしたがるんだけどね。最近の連中はどうやらそうでもない。同じ裏稼業において一目も二目も置かれる存在なんてのはやっかみの対象でしかないし、正直ほとんど表に顔を出さない連中の事なんか恐れてもいないってのが、東京での実情なんだよね。とは言えバリマツの名前はこっちでも知られていたからね、衝撃は走ったよ。しかもその松田が『団』だったなんて情報が出て来るのは、まあ、普通に考えれば、出来過ぎだよね。タイミング的には、もうお金で解決出来る利害関係による結果だとしか思えないよ。おっと、誰がお金を出したかなんて、聞かないでくれよ?」
「秀人さんは、どの段階でおじいに誘われたんや?」
驚きながらもそう尋ねたのは、和明だった。
突然自分達の前に現れた東京の刑事が、赤江だのバリマツなどと口にしているのが不思議だったのだ。あるいは最初から大規模な捜査が行われていたとも考えられなくはないが、少なくともそこまでの印象を住民である銀一達は感じていなかった。お金に関する疑惑の話など、今の彼らにとってはどうでも良かった。
「事件が起きていた事は、西荻平左殺害事件の時から聞いていたよ。もちろん僕たちが捜査にあたっていたわけではないけれど、何せ父の故郷でもあるし、殺され方が変だったからね。しばらくの間捜査は暗礁に乗り上げていたらしいけど、松田が殺された後かな、あまり時間を空けずに、今度は警官である今井が手に掛けられただろ。そうなると僕たちは全員で立ち上がるからね」
秀人としては警察全体の結束力を言いたいのだろうが、銀一は苦笑いし、和明は内心顔をしかめたくなる思いがした。
(被害者が警察でなくとも、全員で立て)
それが市民の一般的な思いだからだ。
秀人は名前を伏せながらも、松田三郎に対するタレコミの出所を東京の暴力団だと語った。もちろん警察は利害関係の一致した交換取引であっても、暴力団の情報をそのまま鵜呑みにはしない。裏を取るべく捜査している最中、今井殺害の件で初動捜査を開始していた別の班から、不可思議な話を聞いた。その対象は松田ではなく、殺された警察官・今井正憲の方だった。
秀人が声を潜めて言う。
「今井はずっとこの街の巡査部長だった。経歴を見て驚いたよ。四十年間、ずーっと赤江の交番勤務なんだ」
秀人の言葉に銀一達は頷きも驚きもせず、続きを待つように秀人の顔を見つめた。
「え?」
と首を傾げたのは秀人だった。
「何や」
と竜雄。
「ああ、そうか、知らなくても無理はないけど、ひと口に交番勤務と言っても、普通は四十年間ずっと同じ場所で勤務するなんて事はないんだ。転署といって同じ管轄内ではあるけど転勤がある。昇進すれば県警勤務になって仕事の内容だって変わる。希望すればずっと同じ交番勤務で居続けることもできなくはないけど、普通そんな希望は出さない。別に異動と言っても、他所の土地へ飛ばされるわけじゃないしね。それに、交番勤務って意外ときついんだよ、体力的にも精神的も。今井の年齢になるまでしがみ付きたいような仕事ではないね」
「希望したらいけるんなら、別に不思議でもないけど?」
と和明が嫌味のような口調で言うと、秀人は首を振り、
「四十年間一度も変わらないなんて、ないよ。どれだけ地方の田舎交番だって、それはない」
「田舎やけど?」
更に嫌味の篭った声で和明は言うが、秀人は笑って、
「赤江はそんなに田舎じゃないよー」
と取り合わない。
「それはまあこちらサイドにしか分からない事なんだろうけど、やっぱりそこには理由があったんだ。今井もやっぱり『団』、しかも『本団』側の人間だった。警察の人事にまで働きかける事の出来る素性なんだ、さもありなんという所かな」
「おじいはそういう証拠なんか、絶対に掴ませんて言うとったど?」
和明が尚も食い下がると、秀人は初めて神妙な顔つきで頷いた。
「確かに、それは父の言う通りだよ。…これはここだけの話にしておいて欲しいんだけど、決め手になったのは、西荻幸助の妻、静子の証言なんだよ」
「…しず、え、平助の母ちゃんやないか!」
思わず驚嘆の声を上げる竜雄を手で制し、秀人は黙って頷いた。話はこうだ。
今現在、平助の母であり、行方知れずのままである幸助の妻・静子は、和歌山にその身を隠している。平助の話では、赤江にある西荻所有の土地を清算して和歌山へ引っ越すという計画を立てていたが、幸助の変貌により事態は悪化し、難を逃れるようにして静子は故郷へ引っ込んだ。しかし実際は、和歌山の地で警察の手により保護されていたのだ。
静子は実の弟である松田三郎の死を受けて、幸助変貌と同時に自ら警察へ駈け込んだそうだ。そこから間もなく、幸助を変えた調本人とも言うべき今井正憲までもが殺された。
「大事な証言をする。その代わり、私の命を守って下さい。静子はそう言ったそうだよ」
その言葉の内容は、銀一達には複雑だった。
秀人の言葉がどこまで正確か分からないにしても、静子の語る話の中に平助の名前が出てこなかった事が、銀一達にとっては辛かった。
「静子の証言内容というのが、弟である三郎、つまりは自分の家の家系が『端団』である事と、殺された今井という『本団』によって使役されていたという話だったんだ。憶測でモノを言うべきではないし、僕は立場上極力それを避けるけどね、ここまで殺人事件の被害者に真っ黒な相互関係が浮かび上がるとなると、自然、西荻平左はどうなんだ、という事になるよね」
西荻平助が刃物で刺されて入院中、何者かの襲来にあいながらも精神的なダメージ以外の外傷を受けずに済んだのは、それが理由か…。相手は同じ時間に、榮倉刑事を物干し竿で串刺しにしているのだ。銀一達はこの時、何故平助が殺されなかったのか、考えないようにしていたどす黒い疑念の答えを、秀人から聞いた気がした。
竜雄は青ざめながら、くぐもった声で聞いた。
「もしそうやとするなら、平助のじいちゃんは、どっちなんや」
「どっち、とは?」
「使う側か、使われる側か」
ここまで西荻家に関わる人間の素性が『黒』であるとなれば、もはや殺された平左や息子・幸助、孫である平助にもその疑いは濃厚と言わざるを得なかった。
「分からない」
と秀人は正直に答えた。
「殺された人間が全て『端団』ならば西荻もそうだろうね。だけど静子の話を信じるならば、死んだ今井は使役する側、『本団』なんだから」
頷く竜雄達から視線を外すと、成瀬は独り言のように話を続けた。
「静子は自分が知り得る数々の『団』に関する情報を告発したよ。事と次第によっては自分だって手が後ろに回りかねない事案も含めてね。そうまでして、という気もしないではないが、相当恐れている事は間違いないよ。それらの情報はもちろん警察組織としても価値がある。ただ、どう扱っていいか分からないというのも、正直な所でね。相手が国家権力にも食い込んでいる連中だという事もそうだし、そもそも今回の話に限って言えば、被害者である赤江の連中が本当に『団』なのだとしても、死んでいった理由が分かるわけではないからね」
ここまでの話を、銀一達は成瀬秀人との何度かの会合で知り得ていた。
だからこそ余計に、『泉食堂 姫舞』にて志摩響子の語った真実は衝撃だったのだ。
もちろん、響子自身の悲惨な身の上に対する怒りが全てを上回った。だがその背景にある、響子の父かもしれない『庭師』の影と、兄・太一郎の暗躍があまりにも突拍子なく聞こえて、理解に苦しむ事となった。
成瀬秀人の話は、西荻を中心とした事件の背景にある松田三郎や今井正憲といった、既に亡くなった者の正体にこそ重要な謎が隠されている印象を、皆に与えた。そして銀一が刺された事については、その謎に絡んで起きた不慮の事故だという線も、可能性としては大いにありえた筈だった。
御家騒動と呼ぶのが正しいかどうかは別として、『黒』という権力と暴力の申し子を中心とした狂騒に、銀一達はそうとは知らずに踏み込んでしまった…、と誰もがそう考えていた所へ、ケンジとユウジの死の裏側に、響子と春雄の秘密が潜んでいた事を知らされたのである。
病み上がりの銀一はもとより竜雄も和明も、そして隠し通して来た真実を白状した春雄も、誰もが皆疲弊しきっていた。
一つ目に関する話は、時和会若頭・藤堂義右が出頭した頃にまで遡る。
元マルミツ自動車所有の廃倉庫で起きた殺人事件、ならびに殺人未遂事件における責任の一旦を担い、藤堂が地元の警察署に自首したのは一年程前の事だ。当該の犯行に及んだのが同じく時和会所属の構成員・志摩太一郎である可能性が高い事(複数の人間により現場で目撃され、到底無関係とは考えられない等)が、藤堂の主な自首の理由である。志摩と、実行犯として存在が有力視される黒ずくめの男は現在も逃亡中だが、藤堂は監督者としての責務を果たす為、また組の看板と組長の身柄を守る為に自ら両手首を差し出した。
一説には、銀一達に対する謝罪、責任の意味も込められているという見方もあった。
銀一のいる病室へ成瀬刑事が見舞いに訪れたのは、その藤堂が出頭する前日の事である。銀一はこの時の邂逅をよく覚えていたが、その後しばらく成瀬刑事と会う機会を得なかった。それから一月半程経った頃、予想だにしなかった人物が銀一達のもとを訪れる。
リハビリに励んでいた銀一を囲み、竜雄と和明が真剣な眼差しを向けていた場に現れたその男は、懐から警察手帳を取り出した。
「初めまして、成瀬秀人と言います」
自らを、成瀬刑事の息子だと名乗った。年齢は四十代に見えた。七十を超えているという成瀬刑事の息子と呼ぶには些か若いが、計算が合わぬ程ではない。しかしそれ以上に驚いたのは、この時既に銀一は成瀬刑事の身に起きた痛ましい事件を、藤堂から聞かされ知っていたのだ。成瀬刑事の妻子は彼が二十代の頃、赤江のヤクザ者による無惨な殺され方でこの世を去った。銀一に話して聞かせた藤堂は、その足で自ら警察署へ赴いたのだ。覚悟を決めて顔を見せに来た男がウソをつくとは、銀一には思えなかった。
「えーっと、何だろうか、この視線の意味は」
と、若い成瀬は言った。自分に注がれる熱い視線に耐え切れず、首のネクタイを弄りながら愛嬌のある苦笑いを浮かべた。
声が低く若干しゃがれているのが成瀬刑事を思わせる。しかし小柄な老人とは違い、若い成瀬は銀一達の誰よりも背が高く、三つ揃いのスーツを着こなした様は警察というよりもファッションモデルのようだった。成瀬を病室へと案内した看護婦は、顔を赤らめて彼を見つめたまま戻ろうとしない。
「男前…」
と竜雄が呟き、和明はムッとした顔で張り合うように己の頬を撫でた。
「君が銀一くんだね。父から話は聞いてるよ。僕は今東京で別の捜査の任についているから今日はたまたまなんだけど、近く時間を取ってじっくり話を聞かせて欲しいと思って…」
「待て待て、おい、ハゲ」
と、若い成瀬の話を、和明が遮った。もちろん若い成瀬は、ハゲではない。
「見て分からんのか。こいつは今ようやく両手を動かせるようになった所や。こうしてベッドに腰かけてるように見えても、今まだ自分で起き上がれるわけやない。そんな状態の人間前にしてお前よくもそんな手前勝手な話をぬけぬけとお前…」
「おいおいおいおい、熱うなりすぎや」
笑いながら竜雄が止めに入り、
「えーっと、成瀬さん言うた? したらあのおじいの、え、息子?」
と目を細めた。
「年齢の事かい? 僕は後妻の子だから、父との年齢は結構離れてるよ。孫とよく間違われる。僕はまだ四十になったばかりで、若く見られるしね」
「知らんがな」
と和明が突っ込む。
銀一は三人のやり取りを面白く見つめるも、腹を抱えて笑う程には回復していない。
「まあ良いさ。今日は、父からの伝言を伝えに来ただけだ。また日を改めて会いに来るよ。きっと、君たちも聞きたいであろう事実なんかも、僕なら話せると思うしね」
成瀬秀人は微笑みを浮かべて、意味深な言い回しでそう語った。
竜雄と和明がぐっと顎を引き、秀人を睨みつけた。秀人は怯むことなく、二人の視線を受け止める。
「良い目だなァ。父が気に掛けるのも分かるよ。じゃあ、また来るよ。銀一くん、リハビリ頑張ってね」
片手を上げて立ち去ろうとする秀人に、
「伝言わい!」
と和明が声を荒げた。
「そうだった、君たちの目が怖くて忘れちゃったよ。父はこう言ってたよ。しばらく身を潜めるが、心配するな。ワシには、奥の手がある」
「奥の手?」
眉間に皺をよせ、竜雄が首を捻る。
秀人が右手の親指を立て、グッと自分の方へ向けた。
「僕さ」
「帰れェ!」
和明が叫んだ。
しかし実際の所、銀一達がこの成瀬秀人という刑事の知遇を得たのは有益だった。警察も探偵も捜査も漢字で書けない銀一達にとって、秀人は事件の概要や人間関係、捜査の進捗具合等をかみ砕いて話せる唯一の人間だったのだ。父である成瀬刑事とどのような話合いが持たれたかは、銀一達には知りようがない。しかし成瀬秀人とは、事件の被害者と刑事という立場以上の関係を築けた事は間違いなかった。
もちろん秀人側にはメリットというべき旨味もあった。銀一達は殺人事件及び殺人未遂事件の被害者であり、重要参考人でもある。任意同行を求めての事情聴取はこれまで何度も行われてきたが、明日明後日にも事件が解決するような見込みはない。秀人としては公表できる内容を丁寧に説明してやる事で、銀一達から少しでも多く情報を引き出したいというのが本音としてもあった。
秀人は亡くなった榮倉刑事の先輩、そして友人関係にもあり、以前から赤江で起きている事件については相談されていたという。
父である成瀬刑事(名を、オウマと言うらしいが確認は取れず)は捜査状況を管轄外の人間に漏らす男ではなく、それは息子に対しても例外ではなかった。しかし事ここへ来てついには頼らざるを得ず、西荻平左殺害から続く一連の犯行についての詳細を、改めて秀人に話して聞かせたというわけだった。
初めて秀人が銀一の病室へ顔を出したその後も、度々訪れてはこちらの質問に答える形で事実関係を教えてくれた。もちろん現在進行形で捜査されている内部事情などは秘匿とされたが、そもそも銀一達が知りたい事のほとんどは、いまだ解明されていなかった。
そんな中でも、成瀬が語った話で最も銀一達を驚かせたのは、バリマツこと松田三郎の正体だった。
「こっちでは黒誠会と呼ぶのかい。…巣? 『黒の巣』。ああ、それは榮倉からも聞いた事があるね。だけどこっち(東京)では主に『黒の団』、縮めてそのまま『団』と呼んでるんだけど、こっちで殺された四ツ谷組の松田はその『団』だと言われているね」
それを聞いた銀一は目を見開いて驚愕し、竜雄と和明は言葉にならない大声を上げた。バリマツの話をしていたわけではないのだ。そこへ突然飛び出した『黒』とバリマツの関係性は、意外というレベルを遥かに超えていた。
四ツ谷組が誇る大看板、当代きってのスターを呼ばれたイケイケヤクザの正体が、『黒』だというのだ。驚き以外の何物でもなかった。
秀人は言う。
「『団』にはいわゆる家督、正確には違うんだけど、そういったモノを先代から継いだ人間側である『本団』と、彼らが使役する『端(は)団』がいて、どうやら松田はその『端団』側の人間だったようだね。もちろんそれは松田の死後判明した事なんだけど、それがね、あんまり僕の口からは言いたくないんだけど、松田を使役していたのが、同じく赤江で殺された警官、今井だったんだ。今井はつまり、『本団』の人間なんだよ」
しかし、その松田と今井を殺害した犯人、犯行の動機については分かっていない。
「よう分からんけど」
と竜雄が口を開いた。
「その使役いうんは、要は使いっ走りにされる側という事やろ?本家側の人間はそれでええかもしれんが、ただ使われる為だけにおる分家になんの意味があってそんな後ろ暗い事しよるんよ。しかもあんた、聞いただけやと普通逆に考えるものと違うか? バリマツが本家で今井なんちゃらが分家と違うのか」
竜雄のもっともな疑問に、秀人は微笑みを浮かべた顔でうんうんと頷いて見せた。
「本家と分家か、分かりやすくて、良いね。だけど本家側もそもそも、同じ一族がずっと本家稼業を繰り返しているわけではないらしいんだよね。先祖代々というわけではなくて、実力主義というべきなのかな。それでも、証拠になるような文書が残されているわけではないから断言は出来ないけど、いつの時代でも本家と分家の立場が逆転するような事はなかったそうだから、その力関係ははっきりしていたんだろうね。つまりは、…あ、松田が本家側じゃないのかって思う理由は、腕っぷしの事かな。だとしたらそれは違うね。いつの世だって、一番力を持ってるのは、お金だよ」
「…金か」
竜雄と和明の声が揃った。これには、銀一を含めた三人も納得せざるを得なかった。言われてみれば、それしか理由などない気がする。
そして秀人が言うには、松田と今井の二人を『団』と結び付けたのは、暴力団関係者からの所謂タレコミだった。ここにもお金の匂いがするね、と言って秀人は自分の鼻をちょんちょんと指で触った。
「昔から息をする古株のヤクザは、揃いも揃って『団』に関して口を閉ざしたがるんだけどね。最近の連中はどうやらそうでもない。同じ裏稼業において一目も二目も置かれる存在なんてのはやっかみの対象でしかないし、正直ほとんど表に顔を出さない連中の事なんか恐れてもいないってのが、東京での実情なんだよね。とは言えバリマツの名前はこっちでも知られていたからね、衝撃は走ったよ。しかもその松田が『団』だったなんて情報が出て来るのは、まあ、普通に考えれば、出来過ぎだよね。タイミング的には、もうお金で解決出来る利害関係による結果だとしか思えないよ。おっと、誰がお金を出したかなんて、聞かないでくれよ?」
「秀人さんは、どの段階でおじいに誘われたんや?」
驚きながらもそう尋ねたのは、和明だった。
突然自分達の前に現れた東京の刑事が、赤江だのバリマツなどと口にしているのが不思議だったのだ。あるいは最初から大規模な捜査が行われていたとも考えられなくはないが、少なくともそこまでの印象を住民である銀一達は感じていなかった。お金に関する疑惑の話など、今の彼らにとってはどうでも良かった。
「事件が起きていた事は、西荻平左殺害事件の時から聞いていたよ。もちろん僕たちが捜査にあたっていたわけではないけれど、何せ父の故郷でもあるし、殺され方が変だったからね。しばらくの間捜査は暗礁に乗り上げていたらしいけど、松田が殺された後かな、あまり時間を空けずに、今度は警官である今井が手に掛けられただろ。そうなると僕たちは全員で立ち上がるからね」
秀人としては警察全体の結束力を言いたいのだろうが、銀一は苦笑いし、和明は内心顔をしかめたくなる思いがした。
(被害者が警察でなくとも、全員で立て)
それが市民の一般的な思いだからだ。
秀人は名前を伏せながらも、松田三郎に対するタレコミの出所を東京の暴力団だと語った。もちろん警察は利害関係の一致した交換取引であっても、暴力団の情報をそのまま鵜呑みにはしない。裏を取るべく捜査している最中、今井殺害の件で初動捜査を開始していた別の班から、不可思議な話を聞いた。その対象は松田ではなく、殺された警察官・今井正憲の方だった。
秀人が声を潜めて言う。
「今井はずっとこの街の巡査部長だった。経歴を見て驚いたよ。四十年間、ずーっと赤江の交番勤務なんだ」
秀人の言葉に銀一達は頷きも驚きもせず、続きを待つように秀人の顔を見つめた。
「え?」
と首を傾げたのは秀人だった。
「何や」
と竜雄。
「ああ、そうか、知らなくても無理はないけど、ひと口に交番勤務と言っても、普通は四十年間ずっと同じ場所で勤務するなんて事はないんだ。転署といって同じ管轄内ではあるけど転勤がある。昇進すれば県警勤務になって仕事の内容だって変わる。希望すればずっと同じ交番勤務で居続けることもできなくはないけど、普通そんな希望は出さない。別に異動と言っても、他所の土地へ飛ばされるわけじゃないしね。それに、交番勤務って意外ときついんだよ、体力的にも精神的も。今井の年齢になるまでしがみ付きたいような仕事ではないね」
「希望したらいけるんなら、別に不思議でもないけど?」
と和明が嫌味のような口調で言うと、秀人は首を振り、
「四十年間一度も変わらないなんて、ないよ。どれだけ地方の田舎交番だって、それはない」
「田舎やけど?」
更に嫌味の篭った声で和明は言うが、秀人は笑って、
「赤江はそんなに田舎じゃないよー」
と取り合わない。
「それはまあこちらサイドにしか分からない事なんだろうけど、やっぱりそこには理由があったんだ。今井もやっぱり『団』、しかも『本団』側の人間だった。警察の人事にまで働きかける事の出来る素性なんだ、さもありなんという所かな」
「おじいはそういう証拠なんか、絶対に掴ませんて言うとったど?」
和明が尚も食い下がると、秀人は初めて神妙な顔つきで頷いた。
「確かに、それは父の言う通りだよ。…これはここだけの話にしておいて欲しいんだけど、決め手になったのは、西荻幸助の妻、静子の証言なんだよ」
「…しず、え、平助の母ちゃんやないか!」
思わず驚嘆の声を上げる竜雄を手で制し、秀人は黙って頷いた。話はこうだ。
今現在、平助の母であり、行方知れずのままである幸助の妻・静子は、和歌山にその身を隠している。平助の話では、赤江にある西荻所有の土地を清算して和歌山へ引っ越すという計画を立てていたが、幸助の変貌により事態は悪化し、難を逃れるようにして静子は故郷へ引っ込んだ。しかし実際は、和歌山の地で警察の手により保護されていたのだ。
静子は実の弟である松田三郎の死を受けて、幸助変貌と同時に自ら警察へ駈け込んだそうだ。そこから間もなく、幸助を変えた調本人とも言うべき今井正憲までもが殺された。
「大事な証言をする。その代わり、私の命を守って下さい。静子はそう言ったそうだよ」
その言葉の内容は、銀一達には複雑だった。
秀人の言葉がどこまで正確か分からないにしても、静子の語る話の中に平助の名前が出てこなかった事が、銀一達にとっては辛かった。
「静子の証言内容というのが、弟である三郎、つまりは自分の家の家系が『端団』である事と、殺された今井という『本団』によって使役されていたという話だったんだ。憶測でモノを言うべきではないし、僕は立場上極力それを避けるけどね、ここまで殺人事件の被害者に真っ黒な相互関係が浮かび上がるとなると、自然、西荻平左はどうなんだ、という事になるよね」
西荻平助が刃物で刺されて入院中、何者かの襲来にあいながらも精神的なダメージ以外の外傷を受けずに済んだのは、それが理由か…。相手は同じ時間に、榮倉刑事を物干し竿で串刺しにしているのだ。銀一達はこの時、何故平助が殺されなかったのか、考えないようにしていたどす黒い疑念の答えを、秀人から聞いた気がした。
竜雄は青ざめながら、くぐもった声で聞いた。
「もしそうやとするなら、平助のじいちゃんは、どっちなんや」
「どっち、とは?」
「使う側か、使われる側か」
ここまで西荻家に関わる人間の素性が『黒』であるとなれば、もはや殺された平左や息子・幸助、孫である平助にもその疑いは濃厚と言わざるを得なかった。
「分からない」
と秀人は正直に答えた。
「殺された人間が全て『端団』ならば西荻もそうだろうね。だけど静子の話を信じるならば、死んだ今井は使役する側、『本団』なんだから」
頷く竜雄達から視線を外すと、成瀬は独り言のように話を続けた。
「静子は自分が知り得る数々の『団』に関する情報を告発したよ。事と次第によっては自分だって手が後ろに回りかねない事案も含めてね。そうまでして、という気もしないではないが、相当恐れている事は間違いないよ。それらの情報はもちろん警察組織としても価値がある。ただ、どう扱っていいか分からないというのも、正直な所でね。相手が国家権力にも食い込んでいる連中だという事もそうだし、そもそも今回の話に限って言えば、被害者である赤江の連中が本当に『団』なのだとしても、死んでいった理由が分かるわけではないからね」
ここまでの話を、銀一達は成瀬秀人との何度かの会合で知り得ていた。
だからこそ余計に、『泉食堂 姫舞』にて志摩響子の語った真実は衝撃だったのだ。
もちろん、響子自身の悲惨な身の上に対する怒りが全てを上回った。だがその背景にある、響子の父かもしれない『庭師』の影と、兄・太一郎の暗躍があまりにも突拍子なく聞こえて、理解に苦しむ事となった。
成瀬秀人の話は、西荻を中心とした事件の背景にある松田三郎や今井正憲といった、既に亡くなった者の正体にこそ重要な謎が隠されている印象を、皆に与えた。そして銀一が刺された事については、その謎に絡んで起きた不慮の事故だという線も、可能性としては大いにありえた筈だった。
御家騒動と呼ぶのが正しいかどうかは別として、『黒』という権力と暴力の申し子を中心とした狂騒に、銀一達はそうとは知らずに踏み込んでしまった…、と誰もがそう考えていた所へ、ケンジとユウジの死の裏側に、響子と春雄の秘密が潜んでいた事を知らされたのである。
病み上がりの銀一はもとより竜雄も和明も、そして隠し通して来た真実を白状した春雄も、誰もが皆疲弊しきっていた。
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