芥川繭子という理由

新開 水留

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67「繭子、最後のインタビュー 5」

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2017年、3月某日。



「転換点という言葉は上手くないかもしれないけど、あの時代を思い返す時に浮かんでくる場面はいつも決まっていて。大きいのはやっぱり練習見せて下さいって言いに行った時、もっと頼ってくれって言ってもらえた時、バンドに入れて下さいって頭下げた時だよね」
-- 繭子にとって、幸せな思い出だよね。
「私にとってはね(笑)、そうかもしれないけど」
-- なんで? 皆にとってもそうに決まってるじゃない。
「いやあ? 普通に嫌な思い出かもしれないよ」
-- そんなわけないじゃない!
「それは皆の優しさに甘えたいだけだよ。ボコボコの顔した暗い子供が練習見せろって、発声の変な女がいきなり押しかけてきたら普通は怖いと思うもん」
-- そんな事ないよ、分かってるでしょ? 本当は。
「今があるからね。こうやって話す事も出来るけど」
-- …。
「何一つ約束された未来なんてない中で、どうやって私はここへ来たんだっけなって思い返す事があるの。考えてみたら怖い事だよ。私はただ必死だっただけだし、皆に対して何か…、何も、対価というか、お返し出来るような物があるわけでも、そういう行為が出来るわけでもなかった。ただ必死にしがみ付こうとしただけだった。上手に躱す事だって、もちろん皆には出来たんだっていう当たり前の事を考えると、笑って、いい思い出だよねえなんて言えるわけないじゃない」
-- (言葉を、必死に探している)
「言い方はちょっとアレだと自分でも思うけどさ、でも、実際そうだよ。これは別に今になっていきなり思うようになった事じゃないしね。だからそんなどん底みたいな顔しないでよ(笑)」
-- いやいや、そんな、ごめんごめん。どうやって伝えようか今悩んでて。
「うん」
-- 先月、メンバー3人と時間を掛けて最後のインタビューを収録させてもらったんだけど、最後は皆繭子の話をしてくれたんだ。
「うん、聞いてるよ」
-- 皆、辛そうだったよ。
「…」
-- だけどその辛さは3人とも共通して言えるのは、彼ら自身が辛かったんじゃなくて、繭子に対して不甲斐ない人間だったと感じていた事に対して、昔の自分達への後悔だったよ。
「そんなわけないじゃない(笑)」
-- 皆を疑っちゃ駄目。
「疑ってないよ。トッキーの優しい拡大解釈だって思ってるだけ」
-- 繭子。
「うん。でもありがとう」
-- 皆、繭子の事大好きだよ。
「ありがとう」
-- 私も大好き。
「うん、ありがと」
-- おそらくは聞いていると私も思ってたけど、皆と色々話をして、私なりに色々想像を巡らせたよ。
「私の話ね?」
-- そう。繭子優しいから、私がどの程度知ってるか手探りしながら言葉を選んだりすると思って、前もって伝えておかないとフェアじゃないからね。だから今言った。
「そっか」
-- 皆、繭子の強さを褒め称えてた。感心して、尊敬してるって。
「(苦笑いを浮かべて大きく首を振る)」
-- ホントだよ?
「だから、言いたい事は分かるよ。だけど私は自分の努力や人から強さだと見られる何かを全部自分だけのものだと思った事はないし、それは誰がなんと言おうと揺るがないよ。私は何度も諦めかけたし、皆と出会ってなかったらきっと諦めて終わってたと思うから」
- …でも負けなかったでしょ?
「何に?」
-- いじめにも負けなかったし、生きる事を諦めたい気持ちにも、繭子は負けずに立ち向かったでしょ。
「死ななかった事を答えにしていいならそうかもしれない」
-- 絶対そうだよ、それが全てでしょ。
「でも気持ちが一度も折れなかったかって言うとそんな事はないし。それに、自分が強くあろうとする事に勝ち負けも正解もないでしょ。誰が凄いとか誰が正しいっていう他人の力が直接私に関係ないのと同じで、私は私なりに頑張ったかもしれないけど、それはやっぱり皆がいたからだし、努力という点に関して言えばあの人達抜きには語れないよ、何も。トッキーは私を優しいとか頑張ったって言ってくれるでしょ。でもそれはイコールあの3人、あの4人を凄いって褒めてくれるのと同じ事だと思ってるから」
-- う、ん。
「実際、私言われた事あるよ。お前は凄いな、大した奴だ、敵わないよお前にはって。でもね、私思うんだよ。本当に、私の方こそ皆の優しさには敵わないよって。だって彼らはいつも、相手の良い所やチャームポイントを言葉にするのと同時にさ、その相手の人生を褒め称えてるんだよね。そうやって、お前は大丈夫だよ、幸せだよって教えてくれるんだよね」
-- うん。
「自分達の事を多く語る人達じゃないのにさ、自分以外の人に対しては、…まあそれも多くはないかもしれないけど(笑)、でもきちんと褒めたり称賛する場面を私何度も見て来た。私自身は全然誉められたもんじゃないけど、皆にそうやって言ってもらえる事で自信がついた所も一杯あるし、皆の輪の中にいる事も含めて自分を好きになれた。私の人生は今確かに幸せだけど、その根っこには皆の笑顔がある。私自分の力は信じられないけど、皆の力だけは信じてるから」



話せば話す程、私が本当に伝えたい思いと繭子の心が少しずつ離れていく事に気が付いていた。しかし彼女の言葉を聞いているとどこにも思い違いや勘違いなど見当たらないし、人の心は本人だけの物であって、他人がとやかく口出しして良い物では最初からない。
私としてはそんな彼女にどこかでストップをかけて、違う、本当は皆繭子の事をこんな風に思っているよと伝えたかったのだ。だがその隙を彼女は与えてくれなかった。



しかしここからだ。括目せよ。『彼ら』が本当に凄いのはここからだ。



お疲れさまー。
涙を拭って顔を上げると、伊藤織江が大きなトレーを抱えてスタジオに入って来る姿が見えた。
お昼食べよー。
明るく静かにそう言って、彼女は私達にトレーを差し出す。
繭子が立ち上がってそれを受け取りに行く。慌てて私も立ち上がり、ほぼ同時に繭子と二人して伊藤の前に立った。
まだ続けるんでしょ? カレーで良ければ召し上がれ、と思って。
受け取ろうと差し出した私の両手が恥ずかしい程に震え、代わりに笑い声を上げて繭子が受け取ってくれた。
伊藤は笑う事をせず、私も一緒に食べてっていい?と言った。



芥川繭子(M)×伊藤織江(O)。
美味しいカレーライスを戴きながら。

-- 織江さんも、お休みの所わざわざ?
O「うん。まあ、私の場合お休みとかあんまり関係ないしね。タイムカードがあるわけじゃないし、用事がなくても来るしね」
M「織江さんが動けば全部仕事になるっていうね(笑)」
O「え、それは何、お金が発生するってこと?」
M「分かんないです、翔太郎さんがそう言ってたんで」
O「なんだろうね、人の事馬鹿にしてんのかな」
M「あははは!それはないでしょうけど」
O「たまによく分からない事言うからなあ」
-- 翔太郎さんですか?
O「皆そういう所あるけどね、自分達だけ理解してて、相手には上手く伝わってないなんていう事がね」
-- へえ。確信犯でしょうか? 身内笑いに近いような。
O「ううん、笑いたいわけじゃなくて、そもそも伝える気がないんだろうね」
-- ああ、なるほど(笑)。
O「今日これって朝からやってるの?」
-- そうです。だからお昼だって聞いてびっくりしました。
M「ね、織江さん来るまでお腹が減った事にも気づかなかった」
O「疲れてない?」
M「大丈夫です」
-- 早めに切り上げますと言いたい所なんですが、気持ちとしてはまだ終われません。
M「こーわー(笑)」
O「…今日も泣いたね?」
-- 絶賛大放流中です。
O「ちゃんと日記に付けてるからね」
-- ええっ。
M「(笑)、ちょっとどうしよう、笑いすぎて食べれない」
O「2。3日前にね、庄内さんと実際に会って、お話したの」
-- え、そうなんですか?
O「元々相談事のあった所へ良いタイミングであちらから連絡があってね。あの人面白いのよ。時枝さんて出社した時はバッチリメイクで颯爽と取材に出かけるくせにさ、会社に戻って来たら毎日ドロドロに溶けてるんだって」
M「(カレー皿を落としそうになって慌ててテーブルに置き、爆笑)」
-- 嫌だー!なんでそんな事言うかなーあの人ー!?
O「それがもう毎回なんだって。去年後半はずっとウチ(ドーンハンマー)の密着に時間割いてるからもう、毎回なんだって。逆にそうなってくるとケロっとした顔で戻った時なんかは『あれ、今日は先方キャンセルになったか?』って思うんだって」
M「あははは!言うなー庄内さんも」
-- はー、もー、何だかなあ。
O「でね、『え、なんか盛ってます?』って言うとさ、なんて答えたと思う? 『あ、写真見せましょうかあ?』だって。ご馳走様ですって言って帰って来たよもう。何だよって」
(繭子、爆笑。時枝、苦笑)
O「まあでも、別にそれだけで帰って来たわけじゃないよ? うん、全然関係ない話だけど『ネムレ』と『ベスト』のサンプルをお渡ししてから実際に顔を会わせるのは昨日が初めてでさ」
-- ええ。
O「会うなりもう顔真っ赤で。今朝も聞きながら出勤しましたって、ちょっともう言い過ぎかもしれないけど、涙目なの」
-- はい、そういう人ですよ(笑)。
M「ドMのトッキーがちょっとSっ気出てる、お腹痛い(笑)」
O「(笑)、でも今思い出しても嬉しかったなあって。時枝さんを前にして言うのもどうかと思うけど、知り合って10年以上経つからさ。そういう人が今改めて泣きそうになるぐらい心震わせる音楽を作れてるっていう事が。…実はあの人も身内感覚に近いから、ちょっとぐらい採点にも甘さがあるにしたってさ、人間的な評価も込み込みかもしれなけど、それでも今尚現役で格好良いって言わせる物作ったんだなっていう事がさ。前回(『P.O.N.R』)の時もそうだったけどさ、うん、やっぱり嬉しいんだよね、マネージャーとしては」
-- はい。社長兼幼馴染としては。
O「はは、うん、そうね。それもあるかな」
-- 私も嬉しいです。
M「どっちの立場で言ってる?」
-- どっちも(笑)。でも庇うわけじゃないですけど、バンドの作品に関してはえこひいきで聞いたりしない人なんで、そこは信用できると思います。
O「…格好良いとはこういう事だと思いますって、言ってくれてさ」
-- はい。…どうぞ(未使用のハンカチを手渡す)。
O「あはは、ありがとう。持ってるよ」
-- ですよね。
O「自分で言っといてごめんね、全然泣くつもりなんてなかったのにな。タイミングもめちゃくちゃだ(笑)」
-- そのお気持ちは凄くよく分かります。ですが、織江さんの抱えている重圧は相当なものだろうなと思ってますから、あなたのその涙は当然だと思います。重圧という言葉は適切でないのかもしれませんが、何もないわけがありませんから。
O「(微笑んで頷く)」
M「(優しく伊藤の腕をさするものの、彼女の目にも涙が浮かぶ)」
O「アルバムのサンプルと一緒にね、時枝さんが回してくれたアイウィル(『I WILL I DIE』)のレコーディング風景が入ったDVDもお渡ししていて。まあ、中身はそれだけじゃないんだけども、その映像を見ながら、何度もアキラの事を思い出したって言ってた」
-- …そうでしたか。
O「『織江さん、私は今でもあの人達全員に対して感謝しきれない思いで一杯ではありますが、やはりどこかで嫉妬してる部分もあるわけなんです』って」
-- えええ?
O「うん。『自分を棚に上げるような言い方になりますが、映像を拝見しながら、何故だか分かりませんが泣きながら、頑張れ!って思ってしまっている自分がいました。本当に失礼な話かもしれませんけど、でもそうやって私やファンを惹き付けるあの人達の勇姿って、今でも言葉ではなかなか上手く表現出来ないんです。でもきっと、そこにあるのは絶対に音楽の力だなって思ってます。…アキラさんを失っても全くその力は衰えなかったですよね。個人的には頭上がんない人達ですけど、やはりずっと刺激を受け続けていますし、男としては嫉妬しますよね』って」
-- …何言ってるか全然分からないですね、すみません。
O「あはは、ホント辛口だね、庄内さんの事となると(笑)」
-- すみません、あー、恥ずかしいなあ。
O「私は、彼の言いたい事ちゃんと伝わったよ」
-- なら、良いんですけど。
O「普段ね」
-- …。
O「…大成を側で見ていて、本当に、言葉では何も言わないの」
M「(小さく何度も頷く)」
-- はい。
O「その、夫婦で会話がないとかじゃなくてね。大事な芯の部分って簡単に言葉で言っちゃいけないって思ってるような人だから。…それもなんて言うか、じゃあ行動で示すから黙って見てろみたいな、そういう背中で語るような男らしさのアピールもなくって。んー、上手く言えてないけど(笑)、人に何かを示すとか無言で語り掛けるとか、そういう相手の存在を想定した上での行動というものを私、見た事がなくて。自分に対する誠実さという物の塊と言えば、ちょっとは分かりやすいのかな。それが結局全部、周りに対する優しさになって還元されていく所があの人の凄さなんだけど」
-- はい。
O「聞けばね、絶対彼はそれを、好きな事をやりたいだけ、やりたいようにやって来ただけだって、言うとは思うけどね。でも少なくとも自分をすり減らすような生き方をして笑ってる彼から、甘えた言葉は一度だって聞いた事がない」
-- はい。
O「一緒に生活しててさえ、そうだからね。皆そこは似てる。例えば、バンドの練習量でもさ、誰かがこのくらいはやろうなって言い始めたわけではないの。アキラなんて最初口では決まった時間にやる練習すら嫌がってたしね。翔太郎も、彼は何でもすぐに出来ちゃうから本当は長時間やる意味はないのかもしれない。だけどいざ練習を始めて、ひたすら自分と戦うような皆の姿がそこにあるだけで、誰もが途中でやめようとは言わなくなったし、平気で10時間とか練習やり続けてもそれを嫌だと言わなくなった」
-- はい。
M「(頷く)」
O「翔太郎さ、昔はそこまで意識して鍛えてる所見た事なかったけど、繭子が入った後ぐらいから、体バッキバキに作り上げたでしょ?」
М「はい(笑)」
O「私それ知った時さ、もう嬉しくて嬉しくて、泣いちゃったんだ!」
M「…」
O「大成には笑われちゃったけどさ。うわあ、この人本気になった、本気で立ち上がったんだって思ったら、もちろん頼もしくて、有難くて。だけど本当は、心から嬉しかった」
М「(両手で顔を覆う)」
O「それは繭子が入って、その必要があるからこれだけの練習をしてるってわけじゃなくて、この子が入る前から彼らはそうなんだけど。更にその先を目指したと言うか。だけどそこに至るまでの彼らの思いは全然簡単なものではなかったし、単純に、やっぱり彼らは凄いよねーなんていう話じゃなくてさ。それでなくとも別に超人じゃないし、絶対疲れてるし、嫌気もさすだろうし。…それでも尚俺達はやる、もっと先へ行こうっていう。その、尚の部分がさ、彼らが人として格好良くいられる理由だと思うんだよ」
-- はい。
O「あー、何かこないだこんな話したばかりだね(笑)。アイウィルのレコーディングでさ、コーラス入れてる3人が溜息出る程格好良かったって話したじゃない? そういう彼らの人と成りを知ってるかどうかで、見え方が変わってくると思うって。だからあの映像がパッと外に出て、ネットで簡単に見られるとしてもさ、今ここにいる人達程の感動を味わえないって本気で思ってるの。だから世の中に出すべきじゃないって、私は言ってるんだけど」
-- 伝わり切らないという意味では、そうかもしれませんね。
O「うん、どうせならそんな中途半端な映像見られたくないんだよね。まあそれはそれとして、でも庄内さんはさ、やっぱりそこが理解できる人だと思うのよ。アキラの事を知っていて、彼なりの思いもあって、しばらく距離を置いて、いざようやく見た制作風景で、今もあれだけ叫んでる彼らを見たらさ、『頑張れ』って言いたくなる気持ちは、私分かるよ」
-- はい。…ありがとうございます。
O「こちらこそ(笑)」
M「メンバーにはその話?」
O「まだ大成にしか言ってないけど」
M「どんな風でした?」
O「大成? そうだなあ。…あー、繭子を思い出すって言ってたなあ」
M「え、私ですか?」
O「うん。私も、なんかそれも分かるよ」
M「ええ、なんで急に私が出て来るんですか。しかも思い出すって何ですか(笑)」
O「繭子もだから…。庄内さんが彼らを見て言葉に置き換えられない感動を受けて、頑張れって応援したくなるようにね、皆からもそう思われてたって事だよ」
M「あー、いやー、うーん。…あははは」
O「そこは別にそうだと思うよ。何も特別変わった話をしてるわけじゃないもの」
M「えー。…感動?(笑)」
O「悪いか!」
M「悪くないですよ(笑)。ちょっと自分ではよく分からないですけど」
O「この子はねえ、自分の凄さに気付いてないのよ。時枝さんからも一杯言ってやって」
M「えええ(笑)」
-- と、仰いますと。
O「あの3人ですら一度は心が折れたんだよ。その彼らを引っ張り上げたのがこの芥川繭子だからね。でもその事を本人が認めようとしないのよね。そう、気付いてないと言うか認めないっていうのがしっくり来るかな」
-- なるほど。とてもよく分かります。
M「何言ってんの(笑)」
-- それは、織江さんとしては何故だと思われますか?
O「何故だろうねえ。…尊敬して、愛してやまない彼らの絶望を知って、壊れた彼らを目の当たりして、それでも、挫けるギリギリ一歩手前みたいな所で踏ん張ってる彼らに、潰れて欲しくなかったっていうこの子の思いは当然、理解出来るけどね。凄かったもんね、アキラが死んだ時の皆ね」
M「(頷く)」
O「繭子としては、いつまでも格好良いままの彼らでいて欲しいという気持ちもあって、多分自分を踏み台にしても良いぐらいの覚悟を持って彼らを愛し続けているって、私にはそう見えるなぁ」
-- なるほど。
O「だから繭子にとっては自分の功績なんて目もくれないし、自分を認めて欲しいとか、凄いでしょーなんて顔は一切しないし、してこなかった。この子が絶対にモデル業に興味を示さない理由もそこらへんと関係してる気がするな」
-- いくら誠さんの誘いと言えども。
O「うん、繭子にとっては、何の意味もない仕事なんだろうね」
М「いやいや!」
O「もちろんモデルがどうこうじゃなくて、バンド以外は全てという意味でね。そこも相手が誠だからきつく突っぱねなかっただけで、本心としては微塵にもやる気は起きなかったんだと思う。私が勧めてみた時に、これは絶対に無理だって実感したもの」
-- そうなんですか?
〇「だってすごく申し訳なさそうな、悲しそうな顔をするんだよ。駄々をこねたりする子じゃないしね。何と言うか、心からすみませんっていう顔をして一ミリも可能性を感じさせないんだよ。ああ、これはもう駄目だ、って(笑)」
-- ほええー。
O「誠はだから、多分それも分かってたけどね」
-- それでも誘う事をやめなかったのは…。
O「このルックスですから」
M「ちょっともう(笑)」
O「ウソウソ。多分、あの子はあの子で、繭子と一緒にやりたい事が何かあったんだと思うよ」
M「(ぐっと涙を堪える表情で下を向く)」
-- ずっとお二人を見て来た織江さんだから言える事ですよね。私につけ入る隙は全くありません。
O「そういうものかもしれないね(繭子の背中に手をやる)」
M「(すぐに顔を上げて、微笑む)でも私、認めて欲しい願望ありますよ?」
O「どんな風に?」
M「え…、繭子がいて良かったーとか、普通に」
O「(ゆっくりと時枝に視線を送り、首を傾ける)…ね?」
-- はい。
M「ええええーっ(困惑)」
O「相変わらず天然だねえ。それは認めて欲しい願望とは言わないよ」
M「え、言いませんか!?」
O「言いません。繭子はじゃあ、ドーンハンマーが今世界で戦えるのは自分のおかげだと思ってる?」
M「思いません」
O「でも自分を認めて欲しいってそういう事だよ。バンドの中で確固たる地位を築いている事はもとより、もっと自分の才能と実力を正当に評価してくれって。影のバンマスは私だ!ぐらいの。そもそも繭子の言うような、あなたがいて良かったーなんて事は10年以上前からとっくに皆思ってる事だからね」
-- やった!ホームラン!大歓声です!
M「こら(笑)!」
O「あはは。でも、そうよ」
M「あいー(笑)」
-- はあっ、やっぱり凄いなー、織江さんは。
O「そうでしょ。伊達に社長名乗ってないでしょ」
-- 私が言いたくても言えなかった事を代わりに言ってもらった気がします。
O「うん。今すぐ吉田さんのポジション取れますって庄内さんに言われるもの」
-- あいつ(怒)。
O「こらっ(笑)」
M「ごちそう様でしたぁ(苦笑を浮かべたままカレー皿をトレーに戻す)」
O「おそまつ様でした」
-- ごちそう様でした、美味しかったです。あのー、今年に入ってから、何度かアキラさんのお話をお伺いする機会を得ました。皆さんそれぞれの思いを言葉にして頂きましたが、『その表現』だけではどうにも想像が追い付かず苦労していたのが、アキラさんがお亡くなりになった直後の、皆さんのご様子でした。
O「…」
M「表現って?」
-- 皆さんが一様に仰るのが、『壊れた』と。
M「…どっかでなんだろ、格好付けた言い回しする余裕残ってるじゃんって?」
-- いやいやいやいや、全然そんな、そういう意味で感じ取った事は一度もないよ。それはないない。ただこの一年で見て来た皆さんの、繭子も含めてそうだけど、突き抜けたフルスイングの本気を知っているだけに、そんな彼らが壊れてしまったという場面は、想像出来そうで、なかなか出来なかったんだ。
O「普段あれだけ強い人達がっていう意味?」
-- そうです。
M「それとこれとはまあ、ちょっと話が違うんじゃないかな(笑)」
-- そうなのかな。
M「私にしてみたら、私の尊敬する彼らの強さって、純粋な強さとはちょっと違うって思う事もあるからね」
-- 純粋な強さって何?
M「喧嘩もそうだし、精神的にも相当タフだと思うけど、私は見ていてそんなに人とかけ離れた感じもしないんだ」
-- へえ、意外。私が言うのもなんだけど、崇拝に近い思いを皆には抱いてると思ってた。
M「崇拝(笑)。近いけど、盲目だとは自分では思ってないよ。でも、え、意外ですか?」
O「ん? 分からない、何の話か。別に私も彼らを神だとは思ってないよ? どちらかと言うと」
M&O「アクマ(笑)」
-- あははは!
M「えっとー(笑)、私から見る皆の本当の凄さって、人より何かが勝ってる部分での強さよりも、絶対に負けない強さだと思ってるんです。じゃあなんで絶対に負けないかって言うと、どんなに大きなステージでも怯む事なく向き合えるだけの練習量が支えている基礎があるし、じゃあなんでそこまでやって来れたかって言うと、自分の為じゃなくて誰かのための戦いだからだなって、そういう風に見てます」
-- 戦いって?
M「自分に対してね、努力を惜しまなかったり、休む事に対して後ろめたさがあったりって言うのは、皆頑張ってるのに俺だけ休んでいられるかっていう思いがあるからだろうし。そういう意味での戦い。『BATTLES』」
-- なるほど(笑)。
M「でもそれはさっき織江さんが言ったみたいにさ、あの人達は超人じゃないからこそ凄い事なんだよね。お酒が超強いとか喧嘩が鬼のように強いとかはこの際今は置いといてね、割と平均的な40歳なんだと思うんだよ。でもそこを意志の力でさ、軽々と限界超えてく精神構造がえげつないんだよ、きっと」
O「もうちょっと綺麗に褒めて(笑)」
M「あはは」
-- うわー。
O「でも分かるよ、正しいと思う」
-- うわっちゃー、またやらかしたかも。
M「なんで?」
-- 私竜二さんにさ、特別製のエンジン積んでる人ですねって言っちゃった。
M「あはは、うん、違うと思うよそれは。今だけ見ればきっとそれは間違いじゃないかもしれないけど、竜二さんは努力で今の特別製エンジンを築き上げた人だから、初めから人とは違うエンジンを備えてるって言う見方をしてたんだとしたら、違うと思うな」
-- あああ、なんでそういう大事な所に気が付けないかなー私。
O「ははは」
-- 笑い事じゃないですよ。
M「まあでも、笑い事だよね」
-- あはは、やっちゃったなあ。
M「だから、意外とバンドを離れた時の皆は普通だし、普通に一般常識のある優しい男の人だと思う。そこはきっと皆が想像してる以上に自然体だと思う。その、何、あんまり普段気を張ってる人達じゃないから、泣いて笑っての基準ってそんなに世間と食い違う程狂ってないですよね?」
O「普通ー…とは思わないかなぁ」
M「んーと」
O「3人とも共通してさ、日常生活はどうでもいいと思ってる部分は大いにあるよ。音楽以外の事で熱中する事が今はもうほとんどないし、練習とか制作の場以外で感情の起伏を表に出さないっていう横顔だけ見ると、確かに見た目は他人とそう変わるもんじゃないかもしれないけどね」
M「はい」
O「でも見せないだけで、中身は全然普通ではないかなあ」
M「そうですか?」
O「そこらへんには歩いてないと思うよー? あんなの」
M「あはは!いや、うーんと、もちろん特別な3人ですよ。ですけど普段、特別冷徹とか、特別激しいとか、特別暗いとか、特別やんちゃとか、そういうのも今はもうないじゃないですか」
O「うん」
M「トッキーがさっき言った、壊れる姿を想像出来ないっていう話だけ考えると、音楽に対する姿勢は超ストイックだけど、そこを離れた時に受ける悲しみや喜びに対しての感受性は、そんなに人と違わないって思ってるんですけど…」
O「あー、うん、ごめん、うん、そうだね」
M「そうそうそうそう、何か大回りした言い方になっちゃいましたけど。だから大切な人を失った時の反応まで人並外れた強靭さを発揮する理由なんてないし、スタジオ内とかステージ上での彼らと、幼馴染4人組、あるいは織江さん達も入れた、えー、10人組?」
O「どこまで入れた(笑)」
-- (笑)。
M「織江さん、ノイさん、マーさん、ナベさん、テツさん、カオリさんの6人と、アキラさん含めた4人で10人です」
O「誠と繭子は?」
M「幼馴染ではないですもん(笑)」
O「んー」
M「まあそういう昔からの馴染みの中で笑って生きてきた皆とは、だから全然違う生き物だと私は思ってるよ」
-- なるほど。でもやっぱり、そうやって聞いた今でも、彼らが弱り切ってしまった姿は想像出来ないなあ。
O「したくないんだろうね(笑)」
-- そうかもしれません。
M「想像力が豊か過ぎてね、きっと実際の場面よりも酷い状況を思い浮かべちゃうんじゃないかな」
-- あるかもしれない。
M「でもきっと、トッキーが想像しているような姿ではないと思うよ。皆」
-- そうなのかな。
M「そう思いません?」
O「どうかなあ。時枝さんとしてはどんな風に考えてたの?」
-- 所謂そのー、手が付けられないような暴れっぷりとか、大号泣とか…。
M「ほら(笑)」
O「ホントだ、通じ合ってるねえ」
M「分かりやすい人なんで」
-- 違った? 違ったのは別に良いんだけど、逆にもっと辛いお姿は想像も出来ないよ。
M「そういう話は一切しなかったんだ?」
-- 全くしなかったわけじゃないんだけど、再現VTRを作りたいわじゃないからね。そこを細かく聞いてもきっと描写はしないと思ったんだ。ただ活字化しないのはそれで良いとして、自分の中で処理し切れない映像がモザイクの向こう側に残ってるというか。
M「ふーん」
-- まあ、聞いた所でどうせ私は大泣きして苦笑いされて終わるのが落ちかもしれないけどね。
M「意気地なしー」
O「あっはは!」
-- えええー!?
O「面白いね、あなた達は見てて飽きないよ。それじゃあ、後片付けして帰るから、ほどほどにね」
M「え、帰るんですか!?」
O「帰るよ。お昼持って来ただけだもん(笑)。まだまだかかるんでしょ? 私もこの後やる事あるから」
-- すみませんでした、わざわざ。
O「ううん、楽しかった。またね」
-- 終わったら連絡します。
O「よろしく。お疲れ様」
-- お疲れさまでした。
M「ご馳走様でした」




-- 救われたなあ。
「しみじみと本音が出たね」
-- うん。敵わないな。
「やっぱりなーって感じ、分かるでしょ?」
-- マイナーチェンジしないって話?うん、確かにそうだね。やっぱり凄いなって、そう思っちゃうね。
「ね。あんまり他人事みたいに言ってるとまた翔太郎さんに怒られちゃうけど(笑)」
-- 確かに。でも繭子もやっぱり分かってたんだね。
「…翔太郎さんの言葉を借りるなら、トッキーの上位互換だって」
-- 言い得て妙。
「なんだ!?」
-- 分かんないけど、使って見たかったんだ、今の言い回し。
「ふさけてんなー(笑)」
-- 私なんかとは何に置き換えても比較にならないけどね。相手の本音を引き出すだけじゃなくて、きちんと自分の心の中を言葉で伝える事が出来る素晴らしい人だと思う。しかも相手の気持ちを思いやった上で、決して優しい配慮を忘れない。素敵すぎるな。
「凄いタイミングで来るからさあ、トッキーが呼んだのかと思ったよ」
-- そんな気の利いた事が出来れば私も出世出来ただろうね。
「(笑)」
-- 例えばそのー、アキラがさんが亡くなって、その現実や辛さを感じて壊れてしまった時の皆をあえて簡潔に表現するとしたら、繭子ならなんて言う?
「あー…(考え込む)」
-- 一言じゃなくていいよ。
「…耐えてた、かな」
-- (ありふれた言葉のはずが、とても衝撃を受けた)
「何とか自分を保とうとしてぐっと堪えるんだけど、内側から溢れて来るんだよね。悲しみとか怒りとかそういう感情を抑え込もうと精一杯リキんで、そのリキむ力でずーっと震えてたんだ、皆」
-- ああ…(悲しい、と言いたくなる気持ちを飲み込む)。
「…だけどもその、あれだけの人達でも抑え込めないというかさ。そういう部分で、コントロール出来ない思いのせいで、時々意思の疎通が取れない日があったりとか」
-- …そうかあ。ちょっと、想像の全然上を行くなあ、やっぱり。
「目に見える激しさとか分かりやすさはなくてさ、周りがちょっとどう接して良いか分からなくなるような感じで、本人達が自分で言ってたの、『壊れてた』って」
-- ああ、うん。そうなると相応しい表現だとよく分かるね。
「うん。葬儀の時もね。3人並んで、喪主である和明おじさんの隣に立ってるの。だけどその姿は気丈とはまたちょっと違った雰囲気でさ」
-- うん。
「静かなんだけど、やっぱり普段の彼らとは全然違って。…誠さんとたまに思い返す事があると、辛かったねって、言って」
-- うん。
「翔太郎さんは自分の胸の辺りをずっと握ってた。瞬きが多くて、今にも何かを言いたそうな雰囲気なんだけど、きっと尋常じゃない力でそれを抑え込んでるんだろうなあっていうのが、顎とか首筋の震えとかで分かっちゃって。ああいう時に誰よりも頑張りたいのが誠さんなんだけど、そんな誠さんさえ…。本当に辛かったと思う。あの時の皆を思い返すとやっぱり」
-- うん。
「思いっきり泣いてくれた方が良かったって、誠さんも、織江さんもそれは言ってた。私もそう思う」
-- うん。
「だけどそれまでの間に皆一杯泣いて叫んで暴れてって、してるからだろうね。竜二さんが言ってたのはさ。もうそういう衝動に駆られて感情をぶちまけたって、アキラには届かないんだって思うと一瞬で気持ちが冷えるんだって」
-- うん。
「彼らが失ったものの大きさを思うと誰も慰める事は出来なかったし、ただ側で見てるしか出来なかったから。私は私で、私なりにめちゃくちゃ辛かったよ。…大丈夫?」
-- うん。ごめんね。よく分かったよ、ありがとう。繭子も大丈夫?
「…涙が出るのはもうしょうがないね。だけど大丈夫だよ」
-- うん。さっきさあ、繭子の思い出に強く残ってる場面は、皆にとっても良い記憶の筈だって話をしたじゃない?
「うん」
-- バンドに入れて下さいって頭を下げた時の事を、もう少し詳しく話してくれないかな。
「ああ、はいはい」
-- 3つ候補に挙がった場面の中で、私なりに胸が苦しくなるランキングを付けると、1番辛かっただろうなって思うのがバンドに入れて欲しいと伝えた時だと思うの。
「ランキング(笑)」
-- 別にふざけてなんかないよ。
「そうかねえ。ちなみにどういう順番なの?」
-- 私なりにだけどね、練習見せて下さいって声を掛けた日が一番苦しくない、ハッピーな日。それから次が、もっと頼れって皆に言われた日。これは心底嬉しい言葉ではあるけど、それまで色々な事に対して強がって、気を張って生きて来た繭子の心が一度は折れた日でもあるから、嬉しいと同時に苦しい気持ちもあっただろうなって。
「なるほど。いいぞ、そうか」
-- え、私誰の話してるの?
「あははは!うん、それで?」
-- やっぱり最も辛いのがさ、節目だし、ここからがスタートだっていう思いもあるし、絶対幸せな日だって思えるんだけど、繭子と皆の気持ちを考えた時に冷静ではいられないのが、バンド加入を訴えた時だと思うんだよね。
「うん」
-- そこに至るまでの経緯って、去年取材を始めた時に聞かせてもらったのがあるんだけど、あの時と今では状況が全然違うし、今だから言える事があるんじゃないかなって。
「言える事…。うーん、その、バックグラウンド云々は確かにあるんだけどさ、基本的にはあの時答えた話はウソじゃないんだよ、全く」
-- うん、ウソだとは思ってないけどね。
「うん。皆と一緒に大切な時期を過ごして、ここから離れたくないっていう思いがあったのは普通に今でもそうだしね。…うまく、違いを伝えられるか分からないけどさ。アキラさんが亡くなったタイミングなんだけど、アキラさんの代わりを務めたいですっていう、そういう意味合いともちょっと違うんだよ」
-- うーん、うん、うん。
「どちらかと言えば私の個人的な思いが勝ってて…、え、あはは!」



驚いて振り返ると、スタジオ入り口の扉の前で気を付けの姿勢を取り、関誠風にケーキの箱を突き出して持つ神波大成のおどけた姿があった。
なんとか話題を切り替えて自分なりの立て直しに成功したと思い込んでいたが、不意に現れた神波の少し照れた笑顔を見た瞬間、全く成功なんてしていないと思い知らされた。
何度となく見て来たであろう私の決壊する姿に神波は唖然とした顔となり、自分の持って来たケーキの箱を見て「これのせいか?」と言って、笑わせてくれた。





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