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悲しい話
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「今日は気分転換にお散歩に行きましょうか」
「 ⋯⋯! 外に出られるんですか!」
「お部屋にこもって勉強ばかりしていても息苦しいでしょうし、たまには外に出ましょう」
「やったー!」
あれから数週間が経ち、記憶喪失のリオ・グランドールとなった私はザインさんにこの国のことやマナーについて教えてもらっていた。初めは頭の中に入りきらないほどのマナーがあって絶対に覚えられないと思っていたけれど、最近はほんの少しだが食事のマナーや歩き方のマナーが身についてきた⋯⋯気がする。それにこの身体の持ち主であるリオは私と同い年で全てのことを身につけていたらしいから、私も頑張らないといけない。
「それでは、森に行きましょうか」
「⋯⋯森?」
「グランドールの森はとても空気が澄んでいるので気分転換にもってこいなんですよ」
森なんて、行ったことがない。なんだか少しワクワクするな⋯⋯
「それでは馬車を準備いたしますね」
「はい!」
「よろしくお願いします」
城を出て用意された馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車は動き始める。数十分くらい過ぎた頃だろうか、馬車は緩やかに速度を落として停止した。
「リオ様、着きましたよ」
「ありがとうございます⋯⋯わあ⋯⋯!」
ザインさんの手を取って馬車から降りると、そこは一面青々とした緑で覆われていた。爽やかな風を受けて木は揺れ、小鳥たちは歌うように鳴いている。
「綺麗でしょう?」
「はい!すごく綺麗です!」
「この国には広大な土地があり、そして豊富な資源があります。自然はこの国の誇りなのです。きっと他のどの国を訪ねてもこの国ほどの自然や澄んだ空気はないでしょう」
そう話すザインさんは嬉しそうで、本当にこの国が好きなのだと私でもわかった。だけど、少しするとザインさんは眉間にしわを寄せて考えるかのように黙り込んでしまった。そして私の方に向き直って重い口を開く。
「ですが、ユーリ様との婚約でこの国の自然も危ぶまれているのです。ユーリ様のお父様であるヴァイン様は、ユーリ様とリオ様を結婚させることによってグランドールを支配しようとしているのです」
「支配?」
「そうです。先ほども言った通り、グランドールには発展途上の王国ですが広大な土地や資源があります。だからヴァイン様は土地を潰し木を切り、そこに工房や軍事設備を建てようと画策しているのです。それが発展の為に必要だということはわかります。しかし、それは自然を踏みにじり、そこに住む者たちを裏切ることになります」
この森にはきっと鳥だけじゃない色々な動物や植物がいる。もしここがなくなってしまったら動物たちの居場所はなくなり、植物も枯れ果ててしまうだろう。
こんな美しい風景が無くなってしまうかもしれないなんて⋯⋯そんなの絶対駄目だ。
「しかし、隣国である王国、それもグランドールの何倍もの軍備が整っているベルモントの申し入れを断ったらどうなるか⋯⋯それを知っていたからこそ、リオ様は婚約を承諾したのです。リオ様は仰いました。婚約を受け入れることは、自然を犠牲にするということではない。足掻くまでの猶予がほしいのだと」
きっとリオはこの国の人々も自然も大好きだったんだ。だから、自分を犠牲にしてまでもユーリの申し入れを受け入れた。だから私はもっと頑張らなくてはいけない。リオのようにこの国を守れるくらいに強くなって、国の人々も自然も守りたい。
「しかし、ユーリ様もかわいそうな境遇のお方なのです」
「ユーリが?」
「ユーリ様は今の国王様と王妃様との子ではないのです。国王様が今の王妃様と出会う前にできた、違う女性との子でした。その女性はユーリ様を産んだ後すぐに亡くなってしまいましたが⋯⋯」
驚いた。あのユーリにそんな過去があったなんて⋯⋯
ただの嫌なやつだと思っていたから、ザインさんからその話を聞いて複雑な気持ちになってしまう。
「正式な王妃ではない女性との子供、それにその女性は名家のお嬢様でもなんでもない、普通の女性でしたから、常に陰口や悪口に晒されてきたはずです。あんな環境の中で幼少を過ごしてしまったら、あのように育ってしまうのもわかるのです」
私はもうなにも言えなかった。何もしていないのに周りから悪口を言われるのはきっと辛い。それを小さな時からなんて、想像しただけで悲しくなってしまう。
「長話をしてしまいましたね。お身体を冷やしてもいけないですし、今日は帰りましょうか」
帰りの馬車の中で私は、ユーリのあの手の冷たさを思い出していた。
「 ⋯⋯! 外に出られるんですか!」
「お部屋にこもって勉強ばかりしていても息苦しいでしょうし、たまには外に出ましょう」
「やったー!」
あれから数週間が経ち、記憶喪失のリオ・グランドールとなった私はザインさんにこの国のことやマナーについて教えてもらっていた。初めは頭の中に入りきらないほどのマナーがあって絶対に覚えられないと思っていたけれど、最近はほんの少しだが食事のマナーや歩き方のマナーが身についてきた⋯⋯気がする。それにこの身体の持ち主であるリオは私と同い年で全てのことを身につけていたらしいから、私も頑張らないといけない。
「それでは、森に行きましょうか」
「⋯⋯森?」
「グランドールの森はとても空気が澄んでいるので気分転換にもってこいなんですよ」
森なんて、行ったことがない。なんだか少しワクワクするな⋯⋯
「それでは馬車を準備いたしますね」
「はい!」
「よろしくお願いします」
城を出て用意された馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車は動き始める。数十分くらい過ぎた頃だろうか、馬車は緩やかに速度を落として停止した。
「リオ様、着きましたよ」
「ありがとうございます⋯⋯わあ⋯⋯!」
ザインさんの手を取って馬車から降りると、そこは一面青々とした緑で覆われていた。爽やかな風を受けて木は揺れ、小鳥たちは歌うように鳴いている。
「綺麗でしょう?」
「はい!すごく綺麗です!」
「この国には広大な土地があり、そして豊富な資源があります。自然はこの国の誇りなのです。きっと他のどの国を訪ねてもこの国ほどの自然や澄んだ空気はないでしょう」
そう話すザインさんは嬉しそうで、本当にこの国が好きなのだと私でもわかった。だけど、少しするとザインさんは眉間にしわを寄せて考えるかのように黙り込んでしまった。そして私の方に向き直って重い口を開く。
「ですが、ユーリ様との婚約でこの国の自然も危ぶまれているのです。ユーリ様のお父様であるヴァイン様は、ユーリ様とリオ様を結婚させることによってグランドールを支配しようとしているのです」
「支配?」
「そうです。先ほども言った通り、グランドールには発展途上の王国ですが広大な土地や資源があります。だからヴァイン様は土地を潰し木を切り、そこに工房や軍事設備を建てようと画策しているのです。それが発展の為に必要だということはわかります。しかし、それは自然を踏みにじり、そこに住む者たちを裏切ることになります」
この森にはきっと鳥だけじゃない色々な動物や植物がいる。もしここがなくなってしまったら動物たちの居場所はなくなり、植物も枯れ果ててしまうだろう。
こんな美しい風景が無くなってしまうかもしれないなんて⋯⋯そんなの絶対駄目だ。
「しかし、隣国である王国、それもグランドールの何倍もの軍備が整っているベルモントの申し入れを断ったらどうなるか⋯⋯それを知っていたからこそ、リオ様は婚約を承諾したのです。リオ様は仰いました。婚約を受け入れることは、自然を犠牲にするということではない。足掻くまでの猶予がほしいのだと」
きっとリオはこの国の人々も自然も大好きだったんだ。だから、自分を犠牲にしてまでもユーリの申し入れを受け入れた。だから私はもっと頑張らなくてはいけない。リオのようにこの国を守れるくらいに強くなって、国の人々も自然も守りたい。
「しかし、ユーリ様もかわいそうな境遇のお方なのです」
「ユーリが?」
「ユーリ様は今の国王様と王妃様との子ではないのです。国王様が今の王妃様と出会う前にできた、違う女性との子でした。その女性はユーリ様を産んだ後すぐに亡くなってしまいましたが⋯⋯」
驚いた。あのユーリにそんな過去があったなんて⋯⋯
ただの嫌なやつだと思っていたから、ザインさんからその話を聞いて複雑な気持ちになってしまう。
「正式な王妃ではない女性との子供、それにその女性は名家のお嬢様でもなんでもない、普通の女性でしたから、常に陰口や悪口に晒されてきたはずです。あんな環境の中で幼少を過ごしてしまったら、あのように育ってしまうのもわかるのです」
私はもうなにも言えなかった。何もしていないのに周りから悪口を言われるのはきっと辛い。それを小さな時からなんて、想像しただけで悲しくなってしまう。
「長話をしてしまいましたね。お身体を冷やしてもいけないですし、今日は帰りましょうか」
帰りの馬車の中で私は、ユーリのあの手の冷たさを思い出していた。
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