硝子の魚(glass catfish syndrome)

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「――気持ちよかっただろう」
 浅い呼吸に波打つ胸を見下ろして呟く。二つの突起は、既に元の色や大きさを思い出せないほど濃い赤に染まって膨れていた。度を超した快楽が辛いのか、白い喉が時折しゃくりあげるような音を立てて痙攣する。もしかしたら、一度くらい達してしまったのかもしれない。痛々しくも淫らな展望。
 そしてそんな彼の姿に対し、思春期の高校生以上に興奮している自分がいる。もっと見たい。もっと触りたい。そんな恐ろしく単純な欲求で思考が塗り潰されていく。
「いい子だから、服、脱ごうな」
 きっと変質者もこんなふうに喋るのだろう。スラックスを奪うように剥ぎ取りながら、そう思った。
「……綺麗だな」
 初めて見る彼の脚は他の部分同様、細く滑らかだった。フェティシズムとは無縁の人生を送ってきたにも拘らず、下着と同じチャコールグレーの靴下に、つい目を奪われる。白い肌との対比は、あまりに淫らだった。
 脚の間に身体を置いて股を開かせ、立てられた膝から腿を、掌で繰り返し摩る。
「でも、震えてる」
 手が際どい場所に近づくたび、その小波は大きくなった。
「こんなふうに剥かれてまさぐられるのは初めてか」
 否定するとひどいことをされると思っているのだろうか。安達は口を手の甲で押さえて微かに肯く。ぎゅっと瞑った目の端に、汗とも涙ともつかない光が溜まっていた。されるがままといったその風情が心を揺さぶり、暗い感情の澱を浮き上がらせて濁らせる。
「本当か。お前みたいに綺麗だったら、誰も放っておかないだろう。子供の頃はどうだ。一度や二度はそういう目に遭ったことがあるんじゃないか」
 身体を屈めて内腿を吸えば、薄い肉はすぐに赤く鬱血した。
 宛先も出口も融点もない嫉妬に、目が眩む。
 もし彼がこれまでに一度でも、自分のような下衆な男に、こんなふうに悪戯されたことがあったとしたら。
「――気が、狂いそうだ」
 下着の上から彼のものを掴んだ。不意打ちにしなる身体を、もう一方の手で抱き締める。弱い部分を揉み込みながら、べたべたとした口づけの合間に漏れた言葉は、みっともない懇願になった。
「俺以外には誰にも触らせないでくれ」
 混ざり合う唾液は、交錯する視線は、激情を孕んでなお水飴のように甘く蕩けていく。
「なあ、可澄。約束してくれ」
「……ん」
 こちらの馬鹿みたいな科白に、彼は子供のように、唇を合わせたままこくりと首を動かした。
 褒める代わりに、下着の中へ手を突っ込む。
 自分で処理するときと、要領は変わらなかった。
「あ……あー、ぅ……ん、ん、……ふ」
 同性の性器だということに抵抗感はなかった。むしろ彼の官能にじかに触れているという感覚に、異常なほど昂る。
「いきたいか?」
 首筋にかかる彼の吐息の忙しさが、限界を訴えていた。
「いきたいなら、俺が可澄をいかせてやりたくなるような科白を言うんだ。可澄はいい子だから、できるはずだ」
「…………うー……」
 促すようにくびれた部分を優しく引っ掻く。彼はいつものように懸命に瞬きをした。何と言うべきか考えているのだ。が、すぐに小さく唸ってこちらの肩口にしがみついてきた。どうやら早々に諦めたらしい。
 どこまでも甘やかしてやりたい気分に駆られつつ、敢えて尿道に押し込むように先端へと爪を立てれば、微かな喘ぎは声を伴わない悲鳴に変わった。
「悪い子だ」
 強い刺激に逃げようとする腰を床に押さえつけて、小さな穴を爪で嬲る。
「や、いた、いっ……いやっ」
「違うよな。可澄は悪い子じゃないよな。俺の言うことが聞けるよな」
 爪を立てるのをやめ、今度は根本を締めつけた。
「っぅー……」
「言うとおりにすればよくしてやる。できなければこのままだ」
 握り潰すような力に、瞳が怯えている。だが、緩めることはできなかった。
「さあ、どうする」
 彼の選択しうる答えなど、問う前から一つしかなかった。
「す、…………る……」
「じゃあ、まずはこれだ」
 立ち上がると、強張った手を掴んでそれを自分の股間に押しつけた。ワイシャツを引っかけたままの薄い肩が、驚いたように跳ねる。
「これを出して、触れ」
 恐る恐る、といった様子で指先が動いた。素人が爆発物でも処理しているのかと思うような手つきだったが、彼にとっては実際そのとおりなのかもしれない。
「そう。そのまま握って。硬くなってるだろう。可澄が綺麗で可愛いからだ」
 グロテスクに膨張し反り返った肉塊を、彼の澄んだ清潔な指がそっと掴んでいた。膝立ちになり、途方に暮れた表情を浮かべてこちらを見上げるその顔に、欲望が一気に加速する。彼の後頭部に手を回し、ぐっと引き寄せた。
「口を開けてごらん」
 何をされるかわかったのか、彼は慌てて顔を背けた。赤黒い先端が白い頬を掠める。それで爪先を上げ、彼の股間を強く押した。
「っ」
「言うことを聞くんじゃなかったのか」
 これ以上赤くはならないのではないかというほど目許を赤くして、彼はおずおずと口を開いた。
 先刻指で犯した場所を、今度は性器で塞ぐ。
「歯は立てるなよ」
「ん……んぅう……んく、ぅ」
 下睫に溜まっていた水滴が、とうとう零れ落ちる。
 指を含ませたときに感じてはいたが、実際に入れてみると、彼の口の中はかなり狭かった。本人も苦しいらしい。だが、上顎を擦るように動かすと、零れる息が甘くなるのがわかった。
「いい子だ、可澄。口をもっと大きく――そう、それで喉を開くんだ」
 無謀は承知だった。指を口の端に噛ませて固定し、もう片方の手で頭を抱え込む。それから一気に奥まで挿入した。
「――っ!」
 彼の身体は一瞬硬直したのち、どろりと溶けた。
 歯を押さえていた指を取り除く。もう噛まれる心配はなかった。
「そのまま開いてろよ」
 言い捨てて、小さな頭を両手で抱えて動かす。
 中は熱く、狭く、たっぷりと濡れて、ひっきりなしに蠢いていた。時折嚥下するような動きで締めつけてくる。
「そう……上手だな……凄くいい」
 強引に抜き差しすると、硬い肉と柔らかな粘膜とが擦れる、卑猥な音が響いた。彼の口は、今や完全に性器と化していた。
「顔、見せてみろ」
 挿入を浅くして、額にかかった髪を掻き上げてやる。虹彩が潤んで、温めた蜜のように今にも溶けて流れていきそうだった。
 もう一度爪先で彼の性器を探って、ぎょっとした。そこはぐっしょりと濡れて柔らかくなっていた。
「……いったのか」
 硝子細工のように綺麗な顔をした男が、同性の性器に喉の奥まで凌辱されて、射精したのだ。まったくどこまで淫乱なのか。
「本当にしゃぶるのが好きなんだな」
 すると、彼の瞳から新たな涙が溢れた。丸い硝子玉が、目の端からいくつも滑り落ちていく。口には男のものを咥えた状態だというのに、その光景は映画のワンシーンのように美しい。
「泣かなくていい。気持ちがいいのは悪いことじゃない。まあ、とても初めてとは思えない反応だが」
 頭を撫でながら慰めてみる。しかし余計惨めな気分になったのか、或いは単に話を聞いていないのか、安達は肉棒を頬張ったままぐずぐずと泣き続けた。呼吸が乱れるたびに、口の中が狭くなって性器を刺激する。
 彼にとっては不運なことだが、その泣き顔と口の動きに、いたくそそられた。
「……なあ、可澄。可澄だけいくのは不公平だと思わないか」
 濡れた頬を掌で包み、視線を上げさせる。
「もっと、できるよな」
 返事を待たずに、再び奥まで犯した。
 彼の喉は先程よりも従順に性器を受け入れた。頭を抱えて揺さぶりつつ、誘惑する。
「手が空いてるだろう? さっき俺が触ったみたいに、自分のを触るんだ。もっとよくなれる。何度いってもいい」
 相手を見下ろすこの体勢では、彼の手の動きはわからなかった。しかし暫くして突然ぶるっと震えたところを見ると、どうやら素直に助言に従ったらしい。
「可愛いな、可澄は」
 こちらもそろそろ限界だった。
「目を閉じろ」
 吐精する寸前、彼の口から性器を引き抜いた。白く濁った液体を、その端整な顔にぶちまける。
 飛び散った精液を、性器で頬に塗りつけた。ただでさえきめ細かい肌は、粘ついた体液のせいでますます滑らかな感触になった。
「もういいぞ」
 彼は恐々目を開け、指を伸ばして自らの頬に触れた。そして指に付着したものの正体に気づくと、手放しで泣いた。もう涙腺をコントロールできない、といった泣き方だった。
「うぅーっ」
「待て。それで拭くとあとで洗濯が面倒だ」
 シャツの袖で涙と唾液と精液を拭おうとする手を、緩く拘束する。
「それに、こっちを綺麗にするのが先だろう」
 硬度を保ったままのものを、震える唇に近づけた。
「外側を全部舐めてから、中に残っているのを吸い出すんだ。できるよな、可澄」
 ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、それでも彼は性器に両手を添え、舌を出して舐め始めた。このままもう一度出せそうだと思いながら、全体を舐め終えた彼が先端を口に含むのを見守る。
「どうしてこんなに可愛いんだろうな」
 安達は目を閉じ、ちゅ、ちゅ、と音を立て、一生懸命精液を吸っていた。それを見ていると、全てを自分のものにしたくなった。
 一線を越えるということが何を意味するのか、理解していないわけではない。自分は彼に恋愛感情をもっている。しかし彼は違う。初めての相手、初めてのセックスが、まさかこんなものだとは、悲惨すぎて目も当てられない。
 けれど引き返せるポイントは、とうの昔に過ぎていた。ここまで来てしまったら、行くところまで行くほかない。
「――上手にできたな」
 手元のティッシュで体液まみれの顔を拭ってやる。綺麗にしてから向かい合わせに抱き寄せると、彼は素直に身体の力を抜いた。安心したような表情に、胸が軋む。
 こんなにも彼が愛しいのに、どうしてこのまま大切に抱き締めていられないのだろう。
 可澄、と呼びかけると、濡れた眼差しが真っ直ぐにこちらへ注がれる。
「最後までしようか」
 彼は小さく首を傾げた。わからないらしい。それで背中に回していた左手を、彼の腰へと這わせた。
「可澄は女の子じゃないから、ここを使う」
 僅かにずり下げられただけの下着の中に手を入れて、薄い谷間を割り、肉の縮まった部分を探り当てる。たちまち彼は恐慌状態に陥った。首を振って腕の中から出て行こうとするが、ここで逃がすわけにはいかない。
「大丈夫だ。たくさん濡らして時間をかけて解せば、きっと入る。それに中には気持ちいいところがある。さっき口の中をいっぱいにされて気持ちよかっただろう。あれよりもずっといい」
 体内を弄ることに関しては、その手のマッサージを好む悪友から、向き不向きがあると聞いていた。が、彼なら問題ないような気がした。
「可澄だって本当は物足りないんじゃないか。口を犯されてザーメン被るだけで満足か。もっと奥まで嵌められて擦られて、中までどろどろに汚されたいんじゃないか」
 わざと露骨な言葉を使った。これまでの反応から、彼に被虐趣味があることは火を見るより明らかだった。案の定、安達は抵抗をやめた。腕を伸ばして首に抱きついてくる。
 背中が細かく震え、押しつけられた胸が早鐘を打っていた。激しい不安と、それを遥かに凌駕する淫らな期待とが、その薄い身体を支配している。
 ぴたりと抱きつかれたのをよいことに、耳の裏の生え際辺りを舐めた。
「――ぁ」
 感じやすいのも性感帯が多いのも、ここまでくると不憫でしかない。
 そしてそんな不憫な男が、哀れで愛しくて仕方ない。
「可澄の外側も内側も、全部俺のものにしたい」
 届く場所全てに口づけを散らしながら囁く。
「いいよな、可澄」
 彼が肯くまでに要した時間は、ほんの数秒だった。
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