硝子の魚(glass catfish syndrome)

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15. 交合

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 深く舌を交えると、彼の唾液は自分の体液の味がした。そんな当然のことに軽い眩瞑すら覚える。今までどんな相手とセックスしても、こんな当たり前のことに興奮したためしはなかった。
 ぎこちなく動く舌を強引に吸い、容赦なく噛みつく。制御不能の熱が心と身体を支配して、全く手加減ができない。
 キスを続けながら相手の衣服を全て奪った。自分も汗でじっとりと重くなったシャツを脱ぎ捨てる。
「指、好きだろう」
 そう言って口に滑り込ませる。舌をくすぐってやると彼は懸命にそれをねぶった。充分に濡らしたところで、抱き締めたまま後ろから手を回し、先程触れた場所に指をかける。
「力は入れるなよ」
 首に触れる頬の熱。少し濡れているように感じるのは汗だろうか、それとも涙だろうか。
「怖くないから」
 固く閉じたそこは、なかなか異物を受け入れようとしなかった。どうにか中指を第二関節の辺りまで挿入することには成功したが、二本目はどう考えても無理だった。それでも粘膜の熱さと締めつけのきつさに煽られ、ゆっくりと動かすと、抱きつく彼の腕の力が強くなる。
「いっ、や、ぁ」
「痛いか?」
 指を止めて視線を合わせる。彼は歯医者に連れ込まれた子供のような顔をしていた。唯一異なる点があるとすれば、途方もなく淫らなところだろうか。
「…………いた、い」
「そうか」
 経験のない彼の身体にかかる負担は大きい。繋がる前から痛い思いをさせるのは酷だ。頭を撫でてやりながらどうすべきか考えた。暫く枯れた生活をしていたため、ローションの用意はない。アフターシェーブ用のものならあるが、粘膜に塗るには刺激が強すぎる。
「ちょっと待ってろ」
「……っぁ」
 指を抜けば甘い声が滴った。堪らない気持ちになりながら、彼を残し台所に赴く。
 戻ってくると、彼は不安そうな顔でじっとしていた。その目は自分が手にしたものに注がれている。それでただの食用油だと説明した。
「後ろを向いて、四つん這いになるんだ。――可澄」
 一瞬安達の目が泳いだので、すかさず名を呼ぶ。そうするともう彼は抗えない。のろのろと言われたとおりの姿勢をとる。自分は羞恥に震える肌を眺め、まるで状況にそぐわない奇妙な感動を覚えた。
「本当にお前は、何処も彼処も硝子みたいだな」
 ほっそりした腰は最早華奢といってよいほどで、澄んだ皮膚に覆われた白い肉は絶妙な線を描き、何処に視線を置いても傷跡や色素の沈着は全く見られない。触ったら指紋がつきそうな滑らかさだった。
「壊したらどうしようか」
 油を掌に落としながら、思わず呟く。壊すという言葉に怯えたのか、彼の下半身が落ちかけた。油塗れの手でそれを押しとどめ、低く命じる。
「腰は下げるな」
 そのまま肉の少ない臀部を撫で回す。微かに黄を帯びた油が、皮膚そのものがもつそれとは別の光沢を肌に与え、僅かな肉は無理やり掴もうとするたびぬめって指から逃げていく。その感触に取り憑かれて何度も乱暴に揉んでいるうちに、安達の上半身がぺたりと床についた。どうやら腕に力が入らなくなったらしい。それでも言いつけどおり、腰だけは落とさぬよう必死で耐えている姿は、こちらの我慢がきかなくなる程度には可憐で卑猥だった。堪らず両手を添え、二つの親指で奥まった場所を左右に押し開こうとする。
「や……」
 小さな器官は慎み深く懸命に抗った。しかし指の力に敵うはずはなく、やがて僅かに肉がめくれた。
「ここも綺麗な色をしてる」
 ちらりと見える粘膜の色は薄桃色で、凌辱者の侵略の気配に怯え、震えている。
「誰も知らない色だ」
 容器を傾け、油を直接肌へと垂らした。重い液体が浅い渓谷を伝う。蕾の上を通過し会陰を濡らす雫を指でなぞるように拭うと、くぐもった吐息が聞こえた。
 再びぴたりと閉じてしまった縁を、円を描くように中指で撫でる。
「口は塞ぐな。声くらいいくらだって出していい」
 油で潤んだそこへ、ゆっくりと指を突き立てる。
「んぁ……、う……」
 初回とは比べ物にならないほどスムーズに、彼の身体は指を呑み込んだ。心なしか中の温度も前より高い。数回出し入れして油を足したあと、奥まで入れて小刻みに動かし、指を馴染ませていく。その間中、安達は呻き声とも喘ぎ声とも泣き声ともつかない微かな声を漏らし続けた。
「気持ち悪いか?」
 今にも折れそうなほど尖った肩甲骨がぎゅっと寄るのを見て訊ねると、彼は床に突っ伏したまま小さく肯いた。その様子を見ると可哀想になって、先に飴をやることに決める。
 悪友の言葉を思い出しながら、指の位置を少し浅くして腹の側を慎重に探る。酒の席で聞いた情報なので定かではないが、今は信じるほかない。
「あっ」
 不意に、高い声が上がった。腰が大きく揺れる。
「ここか?」
 漸く探りあてたしこりを擦ると、彼はこれまで聞いたことがない声で鳴き始めた。
「あ、や、うぁっ、や、や、っん、いや」
「ここだな。――ああ、こっちも凄いことになってる」
 空いた片手で彼の性器を掴むと、そこは再び硬くなって先走りを零していた。腰が落ちるのを防ぐ意味も込めて、少しどうかと思うほど淡く品のよい色味の陰嚢を掌で転がしてやりながら、見つけたばかりのポイントを攻める。
「初めてなのに感じるのか。本当に可澄はいやらしい子だな」
「や、だ、うっ……ぁあっ」
「こんなに濡らしておいて、やだ、じゃないだろう。気持ちいいって言ってごらん」
 軽く爪を立てると、ぎちぎちと指を締めつけられた。ここに自分のものを入れたい。切実にそう思った。
「言うんだ、可澄」
 中を指で擦り立て、性器をまさぐる掌に僅かに力を込める。
「ひぁっ……ん、……い……きもち、い、んっんっ」
 指を止め、手の中のものを優しく撫でる。
「もっと」
「ふ…………きもちい……」
「中、好きか?」
「…………すき」
 俺のことは?
 危うくそう訊ねそうになり、自虐の笑みに頬が歪む。
「ご褒美だ」
「――っあ」
 二本目はかなりきつかった。だが、少なくとも三本は入らないと挿入は物理的に不可能だ。嫌がる安達を宥めながら、ぎゅっと収縮したまま力の抜けない内部を広げていく。
「っく、いや……ぁん、やだ、いや」
「可澄。もう少し我慢だ。できるな?」
「……うー……」
「――ほら、だんだん柔らかくなってきた」
「……あ……んぅ……」
「ぬるぬるして気持ちがいいだろう。俺は凄くいい。熱くて締まりがよくて、指が融けそうだ」
「…………い、い……?」
 それが問いであると気づいたのは、語尾がほんの僅か上がっていたのと、彼が一生懸命こちらを見ようとして首を曲げたせいだった。細く長い睫が、濡れて心許なげに震えている。
「ああ、凄くいい。お前の身体は綺麗で素直で、全部いい」
 安心させるように肯くと、彼はしゃくりあげた。抱き締めてやりたいと強く思った。恐らく彼もそれを望んでいるだろう。しかしどう考えても最初から正常位で抱くのは難しそうだったし、こちらの下半身もそろそろ不満を訴え始めている。
「あとちょっと待ってろ。指はこれが最後だから」
「……い、ゃあっ、うぅ……っ」
 彼の細い腰は、健気に三本目を受け入れた。
「よく頑張ったな。偉い」
 こちらの肘までべっとり濡れるほど油を追加し、狭い器官を解す。指をばらばらに動かすと、粘り気のある卑猥な音が聞こえてきた。締めつけはきついのに、襞自体は柔らかい。気紛れに前立腺を刺激すれば、びくっと攣る肩の骨格すら悩ましい。
「可澄……」
 これ以上は待てなかった。
 蠢く小さな口から指を抜き取り、自分の性器を取り出した。手に付着した油をそこへ塗り込み、まだ閉じ切っていない場所へと押しつける。暴虐の限りを尽くされた粘膜の色は、清楚な薄桃から口の内側と同じ濃い赤へと変わっていた。
「…………な……に……」
「可澄を俺のものにする」
 ひくつく蕾を抉じ開けながら囁いた。
「俺のものだ」
 何も考えずに、突き入れた。
「ああぁっ――」
 恐ろしいほどの狭さだった。熱くぬるついて、侵入してくる異物に恐れ戦き、拒絶しようと締め出す動きをしている。苦痛と紙一重の快楽に、こちらも息が乱れた。
「……っ、可澄、いい子だから力抜け。な?」
「ぅあ、ん、いや、いたい……い、い、やあっ……ん」
「全部入ったら楽になる。あともう少しだから、頑張れるな?」
「んん、ん……っふ、……あ、あー……」
「そう。上手だな、可澄」
 名前を呼び、萎えてしまった彼の陰茎に指を絡め、宥めすかして騙し騙し腰を進める。
 漸く根元まで咥え込ませた頃には、安達は声も出せなくなっていた。
 彼が呼吸するたび、密着した粘膜が戦慄く。
「可澄」
 白い肌は上気して、しっとりと汗ばんでいた。
 身体を倒し、綺麗に浮き出た背骨へと唇を落とす。
「可澄……可澄」
 声に出すたび、唇で触れるたび、苦しいほどに、愛しい。
 大切にしたい。優しくしたい。望むことなら何でもしてやりたい。決して苦しませたり悲しませたりしたくない。
 できればそう、硝子細工の魚のように、誰にも触れさせず誰にも傷つけさせず、その沈黙の病ごと、透明な水槽に囲い込んで永遠に手元に置いておきたい。
 プラスチックの魚を見つめる瞳。壊れ物のような指先。透明な声。
 だって悲しいでしょう――。
「……動くぞ」
 ひくり、と彼の内部が蠢くのがわかった。
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