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16. 融ける
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ぐちゃ、ぐちゅ、と彼の内部で湿った肉が捏ねられる音がする。
非情に擦り上げるたびに、ぬめる襞が絡みつく。身体が必死で男を受け入れようとしているのだろう。少しずつ締めつけが緩くなっていく。深い部分を何も考えずに抉り続けると、安達は喉の辺りが詰まったような、咽び泣きを堪えているような声を上げた。それで奥まで挿入したまま彼の下腹部に掌を這わせてみる。彼の性器は完全に萎えてしまっていた。
「痛いか? また気持ち悪くなったか?」
腹痛を訴える子供に親がするように、優しく腹を撫でてやる。すると力なく床に落ちていた彼の手が、遠慮がちに手の甲に触れてきた。油に塗れたこちらの指の間に、媚びるようにそっと滑り込む指の感触。官能のざわめきが指から脊髄へ、そして下半身へ、一気に広がる。
「……怖いのか?」
肯く代わりに、彼は絡ませた指をきゅっと握った。
堪らなかった。
彼の腰と胸に手を回し、伏せた上体を強引に起こす。声にならない悲鳴が耳を掠めたが、そのまま後ろから抱く形で膝の上に乗せた。嫌がるかと思ったが、安達は抵抗しなかった。単純に動けないのだとすぐにわかった。自らの体重によって最奥まで犯された痛みのせいだろう。
可澄、と名を呼んで顎に手をかけ、力を加減しながらこちらを向かせる。予想どおり、睫の先からは雫が滴っていた。
「ごめんな。可澄が可愛いから、我慢できなかったんだ。怖いことはしない。だからそんなに泣くな」
あやしながら腕の中の男にキスをする。頬を転がり落ちる水滴を拭ってやりたかったが、自分の指は油で汚れていた。右手で薄い身体をしっかりと胸に抱きとめ、左手ではさっきやったように腹を摩る。それだけで彼は随分落ち着いた。名前を呼ばれること、辱められること、褒められること、そして抱き締められること。可哀想ではあるが、安達の弱点は全て筒抜けだったし、それにつけ込まずにいることなど不可能だった。
髪と同じ、何処か淡い色合いの恥毛をくすぐると、彼は肩を竦めた。こちらの右腕を抱きかかえていた手を離し、悪戯する左手首を咎めるように掴む。
「別に恥ずかしがることはないだろう。色も生え方も綺麗だし、手触りもいい。ちょっと薄めなのも俺好みだ」
囁いて真っ赤になった耳を舐めると、ひくひくと彼の中が動く。蕩けた粘膜の感触が、恐ろしいほど心地よい。このままでいたいと思うのに、欲望はいつも心を裏切る。
「可澄は女とも男ともしたことがないんだよな。だったらいつも独りでしていることになる。こっちに引っ越してきてから、あの部屋で何回くらい自分で擦って抜いたんだ?」
安達は意味がわからないという様子で首を捻った。それでもっと直截な表現に変えることにした。
「俺から壁一枚隔てたところで、何度オナニーした?」
言いながら自分で自分に呆れる。漸く落ち着かせたところなのに、また怯えさせるような言葉を投げかけて、いったいどういうつもりなのだろう。
案の定、安達はふるふると首を横に振った。しかし同時に中のものを軽く締めつけてしまい、それに少し感じたのか甘ったるい吐息が漏れたのを、自分が聞き逃すわけがなかった。
「してないなんてことないだろう? 嘘をつく悪い子は嫌いだ」
「…………っぅ」
厚い涙の膜で覆われた瞳が翳る。だからこめかみに口づけた。
「違うよな? 可澄はいい子だよな? 言うとおりにするって約束したもんな?」
「…………ん」
「いい返事だ」
ぢゅぽ、と淫猥な音を立てて性器を引き抜くと、前立腺を思いきり引っかけられた衝撃に身を震わせている安達を抱き上げた。そのまま寝室に入り、電気をつけてあまり覗く機会もない姿見の前に座る。自分で入れるように命じてもよかったが、そうなると時間がかかるのは明白だったし、こちらとしては一刻も早くあの心地よい襞に包まれたかったので、位置を素早く調整して未熟な蕾を暴いた。
「いっ、ああ、あ、……ぁ」
再び根本まで含ませてやると、安達は疼痛と快楽が半々といった声で鳴く。汗でうなじに絡んだ髪を解いてやり、ついでに首筋にキスマークをつけた。ワイシャツの襟で隠れるぎりぎりのラインだ。もしかしたら、ちらりと見えてしまうかもしれない。だが構わない。この男は自分のものなのだ。
「鏡を見るんだ、可澄」
両膝の裏をすくい上げるように持ち上げる。油や体液でぬらぬらと光る赤黒い杭によって、彼の密やかな部位が無情に貫かれている光景が、余すところなく鏡に映しだされる。それを見て目を見開く彼の表情も、少しずつ力を取り戻し始めた彼の性器も。無残なほど可視的な淫蕩さ。
「可澄のいやらしいところが濡れてとろとろになって、男のモノを美味しそうに咥えてる」
揶揄すると、慄いた襞が、きゅう、と収縮する。
「いつもやってるように、鏡を見ながらここで抜いてごらん」
安達は目を瞑っていやいやと頭を振る。
「どうして。さっきも自分で擦ってただろう」
膝の裏から手を離し、下腹部に掌を伸ばす。徐々に硬度を増していくものをわざと避けて、柔らかな毛並みを楽しみながら続ける。
「可澄のいいところを可愛がってやるから。口を指で犯されるのがいいか、それとも乳首を虐められるのがいいか」
「……っく」
滲んだカウパーが茎を伝って叢へと落ちる。
「――乳首がいいのか。おっぱい弄られるの好きって言ってたもんな」
赤く腫れて尖ったままの小さな器官を、両側同時に摘んだ。手に付着した油のせいで、指の間からぬるりと滑るそれを、指の腹で、爪で、執拗に嬲る。爪を立てて捩ると、途端に締めつけがきつくなった。小波に似た蠢動が、大きなうねりへと変化していく。
「や、やだ、かた、い……あ、ん、ぅうー……」
締めつけられるとこちらとしては気持ちがいいが、本人は余計中を刺激してしまって辛いらしい。何とか力を抜こうとするさまが哀れで淫らだ。
「可澄が可愛いからだって言っただろう。ほら、可澄。やらないとずっとこのままだ。こんなに濡れて、可哀想に」
とうとう彼の指が性器に伸びた。遠慮がちな手つきで、淡い色をした彼自身をそっと摩る。
「そう。いい子だ。鏡を見ながらな」
鏡越しに視線を合わせ、乳輪ごと乳首をつねる。安達は小さく声を上げたが、濡れた目は逸らされなかった。散漫だった彼の手の動きが、少しずつ熱を帯びていく。だから耳にキスをした。
「週に何度くらいする? するとき何を見る? 何を考える? 可澄は何で濡れる?」
ちゅうちゅうと吸いついてくるような粘膜の感触に、問答無用で床に押さえつけ、腰を叩きつけたくなる。
「俺は可澄だ。可澄で抜いた。この部屋で可澄のことを考えながら、毎晩のように抜いた。そしてそのたびに死にたくなった。なあ、お前は知ってたか。自分が隣の男にズリネタにされていたのを知ってたか。知っててここに来たのか。なあ、どうなんだ」
「…………しら、な……あっ、ん、んんぅ」
「じゃあ教えてやる。俺はいつもこんなふうに可澄を犯すことを想像しながら自分で擦っていた。今可澄の中に入ってるのがそれだ。ずっとお前の中に入れたくて堪らなかったやつだ。どうだ、入れられて、どんな感じがする?」
「…………おっきい……かたい……どくどく、してる……うぁっ」
「それだけじゃないだろう?」
「……っ、……き、きもち、い……」
「可澄は処女なのに淫乱だな」
可愛い、と囁いて耳朶を噛み、乳首に爪を立てたまま下から強く揺すり上げると、安達は泣きながら吐精した。
「またいったのか」
性器の先端を摘むと、一度弛緩した内部が再びぎゅっと縮まる。
「……や、……さわ……ないで、……」
「違うだろう。もっとして、だろう。自分がどんなにいやらしい顔をしているのか、よく見てみろ」
ぼんやりとした目を鏡に向けると、自身の表情の淫蕩さに衝撃を受けたのか、とうとう安達は腕で顔を覆ってしまった。顎の辺りから涙の雫がひっきりなしに落ちていくのが見える。だから抱き締めた。
「大丈夫。可澄は何も考えなくていい」
何も考えるな。俺の言うことを聞いていればいい。そうすれば気持ちよくなれる。怖くない。可澄。可澄。
固く抱擁し、悪魔のような科白を吹き込み続ける。やがて少しずつ、彼の腕の強張りが解けていく。細い腕を顔からどかし、身体とまとめてしっかりと抱き込めば、もう彼は鏡越しにすがるような目しか向けることしかできない。
「……しゅう、ご、さん……」
親にはぐれた子供のような頼りない声が、しかし、はっきりと自分の名を呼ぶ。
「可澄」
ゆっくりと彼の内部に収めたままの性器を抜き取る。甘く鳴く身体を抱いて、傍らのベッドに横たえる。覆い被さって顔を覗き込めば、まだ少し怯えの残る目が、真っ直ぐにこちらを見上げた。
無言のまま、彼の腕がこちらに伸びてくる。首を抱かれて、頬に頬をすり寄せられ、再び小さな声で名前を呼ばれる。気が狂う、と思った。愛しすぎて、頭がおかしくなる。
薄い唇を開かせ、舌を吸って甘噛みした。深い口づけを何度も繰り返してから告げる。
「言ってごらん」
情欲の熱に融けたような、けれど何処か冷たい透明度を失わない、美しい二対の硝子玉がこちらを見ている。脚の間に手を差し込んで、濡れそぼった小さな窄まりを探る。指を引っかけて開かせると、蕾はすぐにひくつき、覚えたばかりの男のものを欲しがった。
「言うんだ、可澄」
欲しがる動きを繰り返すそこに、亀頭を押しつける。強引に快楽を教え込まれ、男を受け入れる性器に作り替えられてしまったそこは、懸命に男根を食もうとして蠢き、与えられないことへの不満と焦りに細い腰が揺れる。
「…………いれて……おねがい」
「もっと」
「……いれて……はめられるのすき……きもちい……かたくておっきいの、ほしい……」
「足りない」
先走りを塗りつけるように、蕾に密着した先端を動かすと、安達はむずかるような声を出した。
「やぁ……ん、んー、ほし……」
「俺の言うとおりに、言ってごらん」
耳元に口を寄せる。
この男は自分のものだ。彼をここまで辱められるのは、彼をここまで淫らにできるのは、自分だけだ。
「か、すみ、の……やらしい、とろとろ、の、しょじょま……こに、しゅうごさんのおちんち……、はめて、いっぱい……こすって、せ……えき、たくさん、かけて、くださ……」
腰を進めれば、蕩けた器官は喜んで硬い肉を呑み込んだ。
「ひっ、……ああ、あ……ぅ……」
太腿を大きく開かせてぐいぐいと押し込める。根本まで収めきった頃には、彼の性器は再び上を向いている。
顔を寄せると、口の端から零れかけた唾液を舐め取って、もう一度キスをした。
「気持ちいいか?」
訊ねれば彼は素直に肯く。
「…………ん、きもち……い」
それからそうっとこちらの項を撫でる。
「…………いい?」
承認を求める姿が思わず頭を抱えたくなるほど愛らしく見える。そろそろ三十に手が届く年頃の男なのに、反則だろう。
「ああ。俺もすごく気持ちがいい。可澄は最高だ。そして世界一可愛い」
頬に軽くキスをすると、彼はくすぐったそうに小さく笑った。久しぶりに見た彼の笑顔は、目が痛くなるほど美しい、あの硝子の微笑だった。
「可澄が笑うと、眩しいな」
安達は不思議そうな顔をしたが、耳の付け根にキスをされると吐息を漏らして身体を強張らせた。その途端、くちゅ、と下から音がする。初心なくせに淫らな襞が、再び強い刺激を欲しがり始めている。
「まだ顔にかけただけだったよな。可澄のいやらしいところ、俺の形になるまで擦って、たっぷり精液飲ませてやるから」
もう一度脚を割り開くと、ぎりぎりまで腰を引く。ぴっちりと絡んで甘えていた粘膜が無慈悲な勢いで引きずられ、安達は自らの指を噛んで懸命に悲鳴を殺す。今はまだ痛いのだろう。しかしもう少し辛抱すれば、その苦痛が凄まじい快感に変容することを知っている、そんな耐え方だった。だが、綺麗な指に傷をつけるには忍びない。それで指を絡めるようにして手を握った。
「我慢しなくていいって言っただろう。俺は可澄の声が聴きたい。初めて会ったときからずっと、綺麗な声だと思ってた」
赤くなった唇を舐めて柔らかく噛む。それから奥に食ませたものを突き入れた。カリの部分で小さなしこりを集中して擦ってやる。安達は下の口できゅうきゅうと肉棒を貪り、指を強く握り返して、鼓膜が溶けそうなくらい甘い声で喘いだ。
「うぁ、あ、あぁ、んっ、んぁ、っう、あ、あぁん」
「いい声だ……、可愛いな、可澄。こっち、ちょっと外せ」
きちんと声が出せるようになったのを見計らって右手を離させ、彼の性器を握った。完勃ちしたそれは、先端からとろとろと粘ついた液体を流していた。一瞬先走りかと思ったが、すくってみるとそれは白く濁っていた。少しずつ射精しているのだ。
「凄いな。こんなふうになるのか。エロくて可愛い」
前立腺を狙って腰を動かしながら、壊れた蛇口のように精液を漏らす鈴口を抉じ開ける。何の抵抗もなく、これを口に入れたいと思った。彼が泣くまで徹底的に吸って搾り上げてみたい。だが残念ながら、今の体勢ではそんなことは不可能だったし、何より自分が彼の中に射精する方が先だった。
「可澄、何でもいいから、何処かにつかまってろ」
そう言って左手も離し、自分が達するための動きに切り替える。
容赦のない抽挿が始まった。
パン、パン、という肉と肉のぶつかる音に、ぱちゅ、ずちゅ、という濡れた粘膜が抉られる音が混ざる。
繊細な部分に楔を打ち込んで裂き、粘膜の表面を削り取る。そんな惨い仕打ちにも、彼の内部は懸命に耐えた。まだ綻んだばかりの蕾を限界まで開き、柔らかく濡れた襞でしがみついてくる。断続的にぎゅうぎゅうと締めつけては、中に零された先走りを飲み下そうとするような卑猥な動きを見せるそこは、これまで抱いたどんな相手の中よりも熱く、きつく、気持ちがよかった。
安達は涙と精液を零しながら喘ぎ声を立て続けた。
「い、いい、いや、っく、あ、あ、うぅー……」
最奥を突くと、我慢ができなくなったのか、安達が抱きついてきた。涙でぐっしょりと濡れた頬を首筋に押しつけられる。鎖骨に息がかかり、ぞくりとした。
「…………しゅ……ごさん……も、う、……いって」
次の瞬間、自分は彼を渾身の力で抱き締め、その身体の深いところに自身の欲望を吐き出した。
「あ……あー……ぁ……」
先程よりもずっと長い射精だった。精を吐きながら、腰を回して彼の中を掻き混ぜた。ジュブジュブといういやらしい音が、はっきりと耳に届く。安達は初めて他人の体液を体内に注入される行為にがたがたと震えた。それでも抱きついてくる腕の強さは変わらなかった。
「……可澄。可澄のお腹に、俺の精液を出した。上から手を当ててごらん」
手を引いて腹部に導く。彼は浅く呼吸しながら、とろりとした目をこちらに向ける。
「わかるか?」
目を合わせて微笑んでやると、安達は従順に肯いた。
「…………なか……ぐちゅって、してる」
「そうか。可澄が可愛いからたくさん出たんだ」
彼は恥ずかしげに目を伏せて、また肯く。
「たくさん出したから、抜いたら零れるかもしれない。もったいないから、抜かないでもう一回しような」
可澄の中がいっぱいになって、放っておいても俺のが溢れ出てくるようになるまでしよう。
俺の全部を注がせてくれ。
この身体が、この心が、空っぽになるまで、注がせてくれ。
非情に擦り上げるたびに、ぬめる襞が絡みつく。身体が必死で男を受け入れようとしているのだろう。少しずつ締めつけが緩くなっていく。深い部分を何も考えずに抉り続けると、安達は喉の辺りが詰まったような、咽び泣きを堪えているような声を上げた。それで奥まで挿入したまま彼の下腹部に掌を這わせてみる。彼の性器は完全に萎えてしまっていた。
「痛いか? また気持ち悪くなったか?」
腹痛を訴える子供に親がするように、優しく腹を撫でてやる。すると力なく床に落ちていた彼の手が、遠慮がちに手の甲に触れてきた。油に塗れたこちらの指の間に、媚びるようにそっと滑り込む指の感触。官能のざわめきが指から脊髄へ、そして下半身へ、一気に広がる。
「……怖いのか?」
肯く代わりに、彼は絡ませた指をきゅっと握った。
堪らなかった。
彼の腰と胸に手を回し、伏せた上体を強引に起こす。声にならない悲鳴が耳を掠めたが、そのまま後ろから抱く形で膝の上に乗せた。嫌がるかと思ったが、安達は抵抗しなかった。単純に動けないのだとすぐにわかった。自らの体重によって最奥まで犯された痛みのせいだろう。
可澄、と名を呼んで顎に手をかけ、力を加減しながらこちらを向かせる。予想どおり、睫の先からは雫が滴っていた。
「ごめんな。可澄が可愛いから、我慢できなかったんだ。怖いことはしない。だからそんなに泣くな」
あやしながら腕の中の男にキスをする。頬を転がり落ちる水滴を拭ってやりたかったが、自分の指は油で汚れていた。右手で薄い身体をしっかりと胸に抱きとめ、左手ではさっきやったように腹を摩る。それだけで彼は随分落ち着いた。名前を呼ばれること、辱められること、褒められること、そして抱き締められること。可哀想ではあるが、安達の弱点は全て筒抜けだったし、それにつけ込まずにいることなど不可能だった。
髪と同じ、何処か淡い色合いの恥毛をくすぐると、彼は肩を竦めた。こちらの右腕を抱きかかえていた手を離し、悪戯する左手首を咎めるように掴む。
「別に恥ずかしがることはないだろう。色も生え方も綺麗だし、手触りもいい。ちょっと薄めなのも俺好みだ」
囁いて真っ赤になった耳を舐めると、ひくひくと彼の中が動く。蕩けた粘膜の感触が、恐ろしいほど心地よい。このままでいたいと思うのに、欲望はいつも心を裏切る。
「可澄は女とも男ともしたことがないんだよな。だったらいつも独りでしていることになる。こっちに引っ越してきてから、あの部屋で何回くらい自分で擦って抜いたんだ?」
安達は意味がわからないという様子で首を捻った。それでもっと直截な表現に変えることにした。
「俺から壁一枚隔てたところで、何度オナニーした?」
言いながら自分で自分に呆れる。漸く落ち着かせたところなのに、また怯えさせるような言葉を投げかけて、いったいどういうつもりなのだろう。
案の定、安達はふるふると首を横に振った。しかし同時に中のものを軽く締めつけてしまい、それに少し感じたのか甘ったるい吐息が漏れたのを、自分が聞き逃すわけがなかった。
「してないなんてことないだろう? 嘘をつく悪い子は嫌いだ」
「…………っぅ」
厚い涙の膜で覆われた瞳が翳る。だからこめかみに口づけた。
「違うよな? 可澄はいい子だよな? 言うとおりにするって約束したもんな?」
「…………ん」
「いい返事だ」
ぢゅぽ、と淫猥な音を立てて性器を引き抜くと、前立腺を思いきり引っかけられた衝撃に身を震わせている安達を抱き上げた。そのまま寝室に入り、電気をつけてあまり覗く機会もない姿見の前に座る。自分で入れるように命じてもよかったが、そうなると時間がかかるのは明白だったし、こちらとしては一刻も早くあの心地よい襞に包まれたかったので、位置を素早く調整して未熟な蕾を暴いた。
「いっ、ああ、あ、……ぁ」
再び根本まで含ませてやると、安達は疼痛と快楽が半々といった声で鳴く。汗でうなじに絡んだ髪を解いてやり、ついでに首筋にキスマークをつけた。ワイシャツの襟で隠れるぎりぎりのラインだ。もしかしたら、ちらりと見えてしまうかもしれない。だが構わない。この男は自分のものなのだ。
「鏡を見るんだ、可澄」
両膝の裏をすくい上げるように持ち上げる。油や体液でぬらぬらと光る赤黒い杭によって、彼の密やかな部位が無情に貫かれている光景が、余すところなく鏡に映しだされる。それを見て目を見開く彼の表情も、少しずつ力を取り戻し始めた彼の性器も。無残なほど可視的な淫蕩さ。
「可澄のいやらしいところが濡れてとろとろになって、男のモノを美味しそうに咥えてる」
揶揄すると、慄いた襞が、きゅう、と収縮する。
「いつもやってるように、鏡を見ながらここで抜いてごらん」
安達は目を瞑っていやいやと頭を振る。
「どうして。さっきも自分で擦ってただろう」
膝の裏から手を離し、下腹部に掌を伸ばす。徐々に硬度を増していくものをわざと避けて、柔らかな毛並みを楽しみながら続ける。
「可澄のいいところを可愛がってやるから。口を指で犯されるのがいいか、それとも乳首を虐められるのがいいか」
「……っく」
滲んだカウパーが茎を伝って叢へと落ちる。
「――乳首がいいのか。おっぱい弄られるの好きって言ってたもんな」
赤く腫れて尖ったままの小さな器官を、両側同時に摘んだ。手に付着した油のせいで、指の間からぬるりと滑るそれを、指の腹で、爪で、執拗に嬲る。爪を立てて捩ると、途端に締めつけがきつくなった。小波に似た蠢動が、大きなうねりへと変化していく。
「や、やだ、かた、い……あ、ん、ぅうー……」
締めつけられるとこちらとしては気持ちがいいが、本人は余計中を刺激してしまって辛いらしい。何とか力を抜こうとするさまが哀れで淫らだ。
「可澄が可愛いからだって言っただろう。ほら、可澄。やらないとずっとこのままだ。こんなに濡れて、可哀想に」
とうとう彼の指が性器に伸びた。遠慮がちな手つきで、淡い色をした彼自身をそっと摩る。
「そう。いい子だ。鏡を見ながらな」
鏡越しに視線を合わせ、乳輪ごと乳首をつねる。安達は小さく声を上げたが、濡れた目は逸らされなかった。散漫だった彼の手の動きが、少しずつ熱を帯びていく。だから耳にキスをした。
「週に何度くらいする? するとき何を見る? 何を考える? 可澄は何で濡れる?」
ちゅうちゅうと吸いついてくるような粘膜の感触に、問答無用で床に押さえつけ、腰を叩きつけたくなる。
「俺は可澄だ。可澄で抜いた。この部屋で可澄のことを考えながら、毎晩のように抜いた。そしてそのたびに死にたくなった。なあ、お前は知ってたか。自分が隣の男にズリネタにされていたのを知ってたか。知っててここに来たのか。なあ、どうなんだ」
「…………しら、な……あっ、ん、んんぅ」
「じゃあ教えてやる。俺はいつもこんなふうに可澄を犯すことを想像しながら自分で擦っていた。今可澄の中に入ってるのがそれだ。ずっとお前の中に入れたくて堪らなかったやつだ。どうだ、入れられて、どんな感じがする?」
「…………おっきい……かたい……どくどく、してる……うぁっ」
「それだけじゃないだろう?」
「……っ、……き、きもち、い……」
「可澄は処女なのに淫乱だな」
可愛い、と囁いて耳朶を噛み、乳首に爪を立てたまま下から強く揺すり上げると、安達は泣きながら吐精した。
「またいったのか」
性器の先端を摘むと、一度弛緩した内部が再びぎゅっと縮まる。
「……や、……さわ……ないで、……」
「違うだろう。もっとして、だろう。自分がどんなにいやらしい顔をしているのか、よく見てみろ」
ぼんやりとした目を鏡に向けると、自身の表情の淫蕩さに衝撃を受けたのか、とうとう安達は腕で顔を覆ってしまった。顎の辺りから涙の雫がひっきりなしに落ちていくのが見える。だから抱き締めた。
「大丈夫。可澄は何も考えなくていい」
何も考えるな。俺の言うことを聞いていればいい。そうすれば気持ちよくなれる。怖くない。可澄。可澄。
固く抱擁し、悪魔のような科白を吹き込み続ける。やがて少しずつ、彼の腕の強張りが解けていく。細い腕を顔からどかし、身体とまとめてしっかりと抱き込めば、もう彼は鏡越しにすがるような目しか向けることしかできない。
「……しゅう、ご、さん……」
親にはぐれた子供のような頼りない声が、しかし、はっきりと自分の名を呼ぶ。
「可澄」
ゆっくりと彼の内部に収めたままの性器を抜き取る。甘く鳴く身体を抱いて、傍らのベッドに横たえる。覆い被さって顔を覗き込めば、まだ少し怯えの残る目が、真っ直ぐにこちらを見上げた。
無言のまま、彼の腕がこちらに伸びてくる。首を抱かれて、頬に頬をすり寄せられ、再び小さな声で名前を呼ばれる。気が狂う、と思った。愛しすぎて、頭がおかしくなる。
薄い唇を開かせ、舌を吸って甘噛みした。深い口づけを何度も繰り返してから告げる。
「言ってごらん」
情欲の熱に融けたような、けれど何処か冷たい透明度を失わない、美しい二対の硝子玉がこちらを見ている。脚の間に手を差し込んで、濡れそぼった小さな窄まりを探る。指を引っかけて開かせると、蕾はすぐにひくつき、覚えたばかりの男のものを欲しがった。
「言うんだ、可澄」
欲しがる動きを繰り返すそこに、亀頭を押しつける。強引に快楽を教え込まれ、男を受け入れる性器に作り替えられてしまったそこは、懸命に男根を食もうとして蠢き、与えられないことへの不満と焦りに細い腰が揺れる。
「…………いれて……おねがい」
「もっと」
「……いれて……はめられるのすき……きもちい……かたくておっきいの、ほしい……」
「足りない」
先走りを塗りつけるように、蕾に密着した先端を動かすと、安達はむずかるような声を出した。
「やぁ……ん、んー、ほし……」
「俺の言うとおりに、言ってごらん」
耳元に口を寄せる。
この男は自分のものだ。彼をここまで辱められるのは、彼をここまで淫らにできるのは、自分だけだ。
「か、すみ、の……やらしい、とろとろ、の、しょじょま……こに、しゅうごさんのおちんち……、はめて、いっぱい……こすって、せ……えき、たくさん、かけて、くださ……」
腰を進めれば、蕩けた器官は喜んで硬い肉を呑み込んだ。
「ひっ、……ああ、あ……ぅ……」
太腿を大きく開かせてぐいぐいと押し込める。根本まで収めきった頃には、彼の性器は再び上を向いている。
顔を寄せると、口の端から零れかけた唾液を舐め取って、もう一度キスをした。
「気持ちいいか?」
訊ねれば彼は素直に肯く。
「…………ん、きもち……い」
それからそうっとこちらの項を撫でる。
「…………いい?」
承認を求める姿が思わず頭を抱えたくなるほど愛らしく見える。そろそろ三十に手が届く年頃の男なのに、反則だろう。
「ああ。俺もすごく気持ちがいい。可澄は最高だ。そして世界一可愛い」
頬に軽くキスをすると、彼はくすぐったそうに小さく笑った。久しぶりに見た彼の笑顔は、目が痛くなるほど美しい、あの硝子の微笑だった。
「可澄が笑うと、眩しいな」
安達は不思議そうな顔をしたが、耳の付け根にキスをされると吐息を漏らして身体を強張らせた。その途端、くちゅ、と下から音がする。初心なくせに淫らな襞が、再び強い刺激を欲しがり始めている。
「まだ顔にかけただけだったよな。可澄のいやらしいところ、俺の形になるまで擦って、たっぷり精液飲ませてやるから」
もう一度脚を割り開くと、ぎりぎりまで腰を引く。ぴっちりと絡んで甘えていた粘膜が無慈悲な勢いで引きずられ、安達は自らの指を噛んで懸命に悲鳴を殺す。今はまだ痛いのだろう。しかしもう少し辛抱すれば、その苦痛が凄まじい快感に変容することを知っている、そんな耐え方だった。だが、綺麗な指に傷をつけるには忍びない。それで指を絡めるようにして手を握った。
「我慢しなくていいって言っただろう。俺は可澄の声が聴きたい。初めて会ったときからずっと、綺麗な声だと思ってた」
赤くなった唇を舐めて柔らかく噛む。それから奥に食ませたものを突き入れた。カリの部分で小さなしこりを集中して擦ってやる。安達は下の口できゅうきゅうと肉棒を貪り、指を強く握り返して、鼓膜が溶けそうなくらい甘い声で喘いだ。
「うぁ、あ、あぁ、んっ、んぁ、っう、あ、あぁん」
「いい声だ……、可愛いな、可澄。こっち、ちょっと外せ」
きちんと声が出せるようになったのを見計らって右手を離させ、彼の性器を握った。完勃ちしたそれは、先端からとろとろと粘ついた液体を流していた。一瞬先走りかと思ったが、すくってみるとそれは白く濁っていた。少しずつ射精しているのだ。
「凄いな。こんなふうになるのか。エロくて可愛い」
前立腺を狙って腰を動かしながら、壊れた蛇口のように精液を漏らす鈴口を抉じ開ける。何の抵抗もなく、これを口に入れたいと思った。彼が泣くまで徹底的に吸って搾り上げてみたい。だが残念ながら、今の体勢ではそんなことは不可能だったし、何より自分が彼の中に射精する方が先だった。
「可澄、何でもいいから、何処かにつかまってろ」
そう言って左手も離し、自分が達するための動きに切り替える。
容赦のない抽挿が始まった。
パン、パン、という肉と肉のぶつかる音に、ぱちゅ、ずちゅ、という濡れた粘膜が抉られる音が混ざる。
繊細な部分に楔を打ち込んで裂き、粘膜の表面を削り取る。そんな惨い仕打ちにも、彼の内部は懸命に耐えた。まだ綻んだばかりの蕾を限界まで開き、柔らかく濡れた襞でしがみついてくる。断続的にぎゅうぎゅうと締めつけては、中に零された先走りを飲み下そうとするような卑猥な動きを見せるそこは、これまで抱いたどんな相手の中よりも熱く、きつく、気持ちがよかった。
安達は涙と精液を零しながら喘ぎ声を立て続けた。
「い、いい、いや、っく、あ、あ、うぅー……」
最奥を突くと、我慢ができなくなったのか、安達が抱きついてきた。涙でぐっしょりと濡れた頬を首筋に押しつけられる。鎖骨に息がかかり、ぞくりとした。
「…………しゅ……ごさん……も、う、……いって」
次の瞬間、自分は彼を渾身の力で抱き締め、その身体の深いところに自身の欲望を吐き出した。
「あ……あー……ぁ……」
先程よりもずっと長い射精だった。精を吐きながら、腰を回して彼の中を掻き混ぜた。ジュブジュブといういやらしい音が、はっきりと耳に届く。安達は初めて他人の体液を体内に注入される行為にがたがたと震えた。それでも抱きついてくる腕の強さは変わらなかった。
「……可澄。可澄のお腹に、俺の精液を出した。上から手を当ててごらん」
手を引いて腹部に導く。彼は浅く呼吸しながら、とろりとした目をこちらに向ける。
「わかるか?」
目を合わせて微笑んでやると、安達は従順に肯いた。
「…………なか……ぐちゅって、してる」
「そうか。可澄が可愛いからたくさん出たんだ」
彼は恥ずかしげに目を伏せて、また肯く。
「たくさん出したから、抜いたら零れるかもしれない。もったいないから、抜かないでもう一回しような」
可澄の中がいっぱいになって、放っておいても俺のが溢れ出てくるようになるまでしよう。
俺の全部を注がせてくれ。
この身体が、この心が、空っぽになるまで、注がせてくれ。
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