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17. 眼
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「本当に可愛い」
頬に残る涙を舐め取ってやろうと顔を近づける。すると彼はおとなしく目を閉じた。キスを乞うような表情に誘われ、うっかりその唇に吸いついてしまう。
自分のものに比べ薄く頼りない舌を吸い出し、軽く歯を立てる。少しずつ噛む力を加えながら緩く揺さぶると、彼は喉の奥で切なげに鳴き始めた。手足をこちらの身体に絡ませ、汗と油でぬめる肌を必死で密着させてくる。
片手を互いの腹の間に差し込めば、彼のものは既に次の絶頂に備えて限界まで上向いていた。このまま続けていても、お互い問題なく達せるとわかっていた。だが、ぴたりと押しつけられる肌の熱さに、どうしてももっと自分を欲しがらせてみたくなった。
「……可澄」
噛んでいた舌を解放して囁くと、ぼんやりとした視線が返ってくる。
「今度はお前が上になれ」
安達は零れた唾液を拭おうともせずに瞬きした。いつもは冷淡な印象を与える薄い唇が、今はいくらか腫れぼったくなっている。もう一度それを味わいたくなるのを堪えて、腰を掴んだ。相手の中に性器を収めたまま、強引に体勢を入れ替える。
「うぁっ」
無理やり騎乗位に持ち込まれ、安達は呻いた。膝立ちして腰を浮かせれば最奥を抉じ開けられる痛みは軽減できるのに、下半身が融けてしまって力が入らないらしい。
「自分で動いてみろ」
できないと知りつつ、あえて冷たく命令した。泣くのを堪える表情で、自分の腹の上にぺたんと座り込んでいるその姿に、欲望が膨張する。
「可澄が動かないと終わらない。いきたくないのか?」
萎えずにいるそこへ手を伸ばし、裏筋を撫で上げる。すると、思わず、といった具合に彼の蕾が窄まった。締めつけられるとこちらは気持ちがいい。しかし安達にしてみれば辛いらしく、与えられる苦痛と快感に我慢ならなくなったのか、自分から腰を前後に揺すり始めた。彼が身体を動かすたびに、彼の先端から粘った液体が滴り落ちる。性器を強く握って開いた鈴口の縁に爪を引っかけ、反対の手で赤く尖ったままの乳首を摘み上げると、内壁の動きが激しくなった。押し出そうとしているのか、より深く呑み込もうとしているのか。一つだけ確実なのは、彼はやり方を理解していないということだ。
「そうじゃない。上下に動くんだ。これだとお前のいいところにも当たらない」
彼は呆然とこちらを見つめた。どうやら言ってもわからないようなので、彼の腰を掴むと下から数回突き上げてやる。途端に甘い声が降ってきた。快楽に追い詰められた表情や、痛々しく腫れた胸の突起や、肌に刻まれた赤い痕や、様々な液体に塗れた性器や、あるいはこれまで誰も知らなかった慎ましやかな蕾を食い破って出入りする、自分自身のグロテスクな肉塊が、同時に視界に映っていた。
「あとは自分でやれ」
何度か抉ったあとで突き放す。安達は座り込んだまま、手の甲で目を擦った。ひどく子供じみた仕種だった。
「……っく、……ぅう……」
「泣いたって駄目だ」
「…………うー……」
「可澄」
安達は微かに肩を震わせてから、ゆっくりと腰を上げた。性器がずるりと抜けていく。張った部分が感じる場所を掠めたのか、彼は咄嗟に唇を噛んだ。
「……っ」
けれど声を噛み殺しても、漏れる吐息の艶は隠せない。勃ち上がった性器の先端から、また新たな雫がじわりと浮く。男を咥え込んだ部分も、襞をざわめかせて快感を訴えていた。
「そのまま腰を落とすんだ」
尖った恥骨を撫でて促してやる。そんな些細な接触すら刺激になるのか、彼は苦しそうに息をついた。それでも言われたとおり、じわじわと身体を落としていく。熱くぬめった狭い器官に呑み込まれていく感覚に、こちらも声の調子が狂いそうになる。
「そう……、そうだ。上手だな。もっとできるだろう?」
あとはもう指示を出す必要はなかった。安達は必死に腰を動かしながら、啜り泣くように喘いだ。息継ぎをするときに生じる僅かな合間を、結合部分が立てる水っぽい音が埋めていく。
柔らかな肉に扱かれる快感に身を委ねながら、ただ射精を遅らせるためだけにその身体の細部を見つめた。骨や筋が作り出した窪みや溝に、何処からか生まれた汗が溜まっていく。つけたままの部屋の灯りによって硝子の粒のように輝くそれらは、激しい運動に耐えきれず、やがて下へ下へと滑り落ちていく。その眺めはひどく性的であると同時に、窓硝子に雨粒が流れる光景にも似ていた。肉体はこんなにも熱く密着しているのに、目には何か冷たく、何処か遠い。
「――可澄」
思わず確かめるようにその肌へと手を伸ばした。掌に感じた高すぎる体温に安堵したとき、彼は身を竦めて一際高い声を上げた。
「あっ、あ、あ、あー……」
繋がった粘膜がぎゅうぎゅうと収縮する。搾り取るような動きに我慢はきかなかった。腰を押さえつけるようにして体液を吐き出した。膿んだような襞がそれを嚥下する。
「んぅ……ぁ……」
貪欲に精を吸いながら、彼自身も吐精した。ぬるい飛沫が自分の腹や胸に散る。指先ですくい取ると、ひどく水っぽかった。
「薄いな。量も少ない」
安達は虚ろな目で視線を空に漂わせていたが、こちらの指先に焦点が合うと、忘我の表情が見る間に羞恥に染まった。俯いて泣きそうな顔になる。そのまま虐めて泣かせたいという気持ちと、あやして機嫌をとりたいという気持ちが同時に湧き起こり、笑ってしまいそうになる。
とりあえず言うとおりにできたのだからと、上体を起こして抱き寄せた。
「つっ」
「痛いか?」
向かい合う形になると顔が近い。慣れていない部分に当たって痛かったのか、安達はまた睫を濡らしている。それが哀れで、愛しい。
肉欲に溶解したかのように潤んだ虹彩へと、引き寄せられるように唇を近づけると、彼は驚いたように瞼を下ろした。薄い肉を柔らかく食んでから、怯えの残る頬を指でくすぐる。
「上手にできたから、今度は俺が可澄の言うことをきく。どうしてほしい?」
仮に終わりにしたいと言われたら、即座に却下するつもりで訊ねた。彼の性器はもうおとなしくなっていたが、自分のそれはまだ相手の中で硬く反っている。まだ終われない。
「…………っ」
安達は頬を赤らめたまま口を動かしたが、言葉は出てこなかった。困ったような顔でこちらに手を伸ばしてくる。しかしその手をどうしたものかわからないらしく、遂に彼の表情は絶望的なものへと変わった。してほしいことがあるのに、上手く意思表示できないのが悲しいらしい。それを見ていると、虐めて泣かせたいという欲望へと天秤が傾いた。
「言えないなら俺の好きなようにやる。可澄が孕むまで犯す」
脅して組み敷いた。やはり痛むのか彼は小さく声を上げて微かに顔を歪めたが、その声や表情はただ淫らなだけだった。
「可澄がきちんと言わないから悪い」
そう言いながら、腰を突き入れる。
たとえどれほどその本質が貪婪であろうと、目覚めたばかりの幼い粘膜だ。まだ指で優しく甘やかしてやらなければならない段階にあるものを、硬く張った凶器で抉るのは惨いことだとわかっている。わかっているが、止められない。
「ん……ぁ……や、いや……」
深い部分に押し込んだまま、中に吐き出した精液を粘膜に擦り込むように小刻みに動くと、安達が弱々しく抗議した。
「奥はもう嫌か?」
いいところに当ててほしいのかと顔を覗こうとすると、突然唇を塞がれた。何が起きたのかわからなかった。柔らかく濡れたものが口の中に入ってきて初めて、事態を理解する。
彼の方からキスしてきたのは、初めてだった。
状況がわかると、ほとんど呆れに近い感覚に襲われた。いったいこの男は、何処まで自分を狂わせれば気が済むのだろう。
安達が仕掛ける舌技は、もちろん救いがたく下手だった。単に互いの舌を絡ませたいだけなのか、あるいは舌を吸いたいのか、それとも逆に吸ってもらいたいのか、目的が全くわからない。彼自身、自らの欲しているものを正確に把握できていないだろう。だがとにかく、ひたむきに欲しがる口づけであることに変わりはなかった。
したいようにさせていると、やがて彼は口を離して息をついた。こちらの反応が鈍いのがショックだったのだろう、少し傷ついた目をしている。だから頭を撫でてやった。
「キスしてほしかったのか」
暫し固まってから、安達は首に抱きついてきた。触れた頭が数ミリ単位で縦に動く。恐ろしく可愛い。彼がキスをしたがるのは口腔内に性感帯があるせいにすぎないが、しかしうっかり勘違いしてみたくなる。
本当は彼も自分のことが好きなのではないか、と。
「キスならいくらでもしてやる」
本当に、とでも言いたげに、安達が顔を上げる。揺れる瞳が綺麗で、目を閉ざすのが惜しいと思った。それでもねだるように薄く開いた彼の唇に、自らのものを重ねる。今度はこちらも舌を動かして、相手の好きなところを舐めた。ついでに舌に唾液を伝わらせると、彼は従順に受け止め飲み込んだ。そうしているともう一度下の口に自分のものを飲ませたくなって、絶頂から時間がたち徐々にきつさを取り戻しつつあった器官を、ほとんど力任せに抉じ開けて嬲った。口を塞がれた安達は悲鳴を上げることすらできず、ただがくがくと揺さぶられた。
甘い肉の間に精液を叩きつけて、繋がりを解いた。好き勝手をしたという自覚から、腕の中に入れて視線を合わせる。
「可澄?」
つい先ほどまで紅潮していた肌からは、血の気が引いていた。かたかたと身震いしている。
「どうした? 気分が悪くなったか」
安達は白い顔で肯いた。庇うように腹を押さえている。
「ああ、出てきそうなのか」
返事はなかったが、僅かに目許だけを赤くしたところを見ると、どうやら図星らしい。それで彼を抱えてユニットバスに向かった。ドアを開けて便器に座らせると、脂肪とは無縁な下腹を撫でてやる。
「見ていてやるから、ここで出せ」
途端に安達の顔が引き攣った。案の定逃げようとする。しかし腕力で安達が自分に勝てるはずがない。抵抗を試みる身体を難なく捕まえて、真正面から脅迫した。
「言うことをきかないと、腕を突っ込むぞ」
本気ではなかった。フィストなど、男の性器をやっと咥え込める程度にしか開発されていない彼には物理的に不可能だったし、自分もそこまでひどいことをするつもりはなかった。しかし安達は完全に怯えた。抗うのをやめ、そんなのは嫌だと涙目で首を横に振る。その様子があまりに可愛かったので、湿った目尻にキスをした。
「いい子にできるな?」
マッサージするように再び腹を撫でる。
「さあ、出すんだ」
安達は自らの身体を抱くように身を縮め、固く目を閉じた。そうすれば眼前の男の存在を忘れられるとでもいうかのように。だが、どれだけ待っても変化は起こらなかった。肌は血色を失ったままで、夏場であるにも拘らずひどく寒々しい。
しまいに安達は掠れた声で訴えた。
「でない……」
見られていると緊張して駄目なのだろうか。彼にはアブノーマルすぎたのかもしれない。といっても、自分も他人にこんなことを要求するのは初めてだった。
「わかった」
縋るような眼差しに肯いて、便器から抱き下ろす。そのまま床に這わせて、赤く蕩けた部分に指を這わせた。
「いや、やだ、やだっ」
すると腕を突っ込まれると勘違いしたのか、安達はパニックを起こした。
「落ち着け。指を入れるだけだ」
「やぁ……んっ……」
中指で掻き出すと、とろりと白い液体が溢れた。血が混じっていないことに安堵しつつ、油混じりの精液を少しずつ吐き出させていく。弄られた肉が喜んで指に絡みついてしまうのを恥じているのか、安達は床に突っ伏していた。微かに嗚咽が聞こえる。
「どうだ、まだ気持ち悪いか?」
零れたものをトイレットペーパーで拭う。訊ねても無反応なので崩れた上半身を起こしてやると、血色は元に戻っていたが、赤く充血した目はこちらを見ようとしない。拗ねたようなつれない伏し目が何かの間違いみたいに可愛い。
「可愛い」
思ったままを口にすると、彼はそれだけで機嫌を直して身体を預けてくる。単純で、やはり可愛い。油と汗で肌が滑るのが嫌なのか、居心地悪そうに眉間に浅く皺を作る様子すら、可愛くて仕方がない。
「綺麗にしような」
ユニットバスなのですぐ脇に浴槽がある。くっつきたがる身体をバスタブに入れ、シャワーの湯をかけてから彼の髪と身体を洗う。油が付着しているので丁寧に泡立てて擦ると、浴槽の底に座った彼は陽だまりの猫のように目を閉じた。洗い上げてからバスタオルで髪と身体を手早く拭う。本当は髪にドライヤーをかけてやりたかったが、自分も相当汚れていたのでとりあえず彼をリビングに連れて行き、適当に何か着るよう指示して風呂に戻った。
しかし五分ほどでシャワーを終えてリビングに入ると、安達はタオルを被ったまま、水槽の脇に座ってぼんやりしていた。床に散らばるTシャツやスウェットから、いちおう服を着ようと努力した痕跡は認められたが、途中で戦意を喪失してしまったらしい。暑いせいもあるのだろう。また少し汗ばんでいるようにも見える。だから冷蔵庫に向かった。
二リットル入りのペットボトルには、中身が半分ほど残っていた。グラスを出すのも面倒で、そのままリビングに持っていく。
「ほら」
安達は突き出されたペットボトルを見ても、依然ぼんやりした顔のまま受け取ろうとしなかった。仕方ないので自分が先に口をつける。乾いた喉に冷たい水が滑り落ちていく。勢いよく飲んで一息つくと、こちらをじっと見つめる目に気づいた。恐ろしく透き通った、硝子製の眼差し。
「可澄――」
どうした、と言いかけてやめた。
訊ねるまでもなかった。
彼の考えていることが、手に取るようにわかる。
まるで澄んだ硝子の内部を覗き込むように。
あまりにも可視的で、あまりにも無防備な、愛しくも物悲しい、純粋な欲望。
あるいは自分もまた同様に見透かされているのだろうか。
硝子のような沈黙を、我々は共有してしまったのかもしれない。
けれどそれでいいと思った。それで彼が孤独でなくなるのなら、構わない。
水をあおって安達の顎に手をかけた。唇を合わせると、彼は口を開いた。
何度も口移しで水を与えた。ボトルの水がなくなると、まだ熱の引かない身体を抱き寄せ、所構わず口づけた。喉許の薄い肉を吸うと、彼の息が少しずつ上がっていく。これ以上続けると際限なく求めてしまいそうで、欲望を自制して顔を離すと、至近距離に焦点のぶれかけた瞳があった。
この眼だ、と思った。
自分が初めて欲情したのは、この眼に対してだった。
あの日、瞼に阻まれどうしても触れることのできなかった、曖昧な色の虹彩。それが今、無防備なまま眼前にある。
自分はこの眼が欲しいのだ。
凶暴な衝動が、細胞という細胞をどす黒く染めていく。
両手で顔を挟み、ゆっくりと舌を伸ばす。
蕩けたような虹彩に、明らかな怯えが滲んだ。
「……っ」
閉じようとした瞼を抉じ開けて舌を入れた。その瞬間、鈍器で殴られたような衝撃を感じた。焦がれ続けたそれは、本物の硝子玉のように滑らかで、そして何処か冷たかった。眼窩を口で覆い、その感触を貪った。
どのくらいそうしていただろうか。
気づけば、彼の身体は動かなくなっていた。
舌を離して顔を窺うと、そこには表情がなかった。まるで本物の硝子の置物のようだった。
「可澄」
名前を呼んで、目許に触れる。するとそこから水滴が零れた。溢れ出たその雫を指で拭おうとして、しかし、できなかった。
「ごめん……ごめんな」
抱きかかえて膝に乗せ、背中をそっと撫でてやる。すると、凍りついていた彼の身体が震え始めた。強張った腕が、自分の背中に回されるのを感じた。
「……っ、ひ、……うぅ、……」
彼は泣いていた。縋りついてくる身体は火傷しそうなほど熱かった。抱き返してやれば、よりいっそう強くしがみつかれた。いくら泣いても彼は泣きやまなかった。ただひたすら、小さな子供のように泣きじゃくっていた。
翌朝早く目が覚めたとき、ベッドにいたのは自分一人だった。
リビングは薄暗かった。カーテンを開けて振り返ると、床に落ちた何かが朝日を弾いて光った。
合鍵だった。
嫌な予感がした。
すぐに隣の部屋に行き、チャイムを鳴らした。しかし応答はなかった。
そして、それきりだった。
安達は、姿を消してしまった。
頬に残る涙を舐め取ってやろうと顔を近づける。すると彼はおとなしく目を閉じた。キスを乞うような表情に誘われ、うっかりその唇に吸いついてしまう。
自分のものに比べ薄く頼りない舌を吸い出し、軽く歯を立てる。少しずつ噛む力を加えながら緩く揺さぶると、彼は喉の奥で切なげに鳴き始めた。手足をこちらの身体に絡ませ、汗と油でぬめる肌を必死で密着させてくる。
片手を互いの腹の間に差し込めば、彼のものは既に次の絶頂に備えて限界まで上向いていた。このまま続けていても、お互い問題なく達せるとわかっていた。だが、ぴたりと押しつけられる肌の熱さに、どうしてももっと自分を欲しがらせてみたくなった。
「……可澄」
噛んでいた舌を解放して囁くと、ぼんやりとした視線が返ってくる。
「今度はお前が上になれ」
安達は零れた唾液を拭おうともせずに瞬きした。いつもは冷淡な印象を与える薄い唇が、今はいくらか腫れぼったくなっている。もう一度それを味わいたくなるのを堪えて、腰を掴んだ。相手の中に性器を収めたまま、強引に体勢を入れ替える。
「うぁっ」
無理やり騎乗位に持ち込まれ、安達は呻いた。膝立ちして腰を浮かせれば最奥を抉じ開けられる痛みは軽減できるのに、下半身が融けてしまって力が入らないらしい。
「自分で動いてみろ」
できないと知りつつ、あえて冷たく命令した。泣くのを堪える表情で、自分の腹の上にぺたんと座り込んでいるその姿に、欲望が膨張する。
「可澄が動かないと終わらない。いきたくないのか?」
萎えずにいるそこへ手を伸ばし、裏筋を撫で上げる。すると、思わず、といった具合に彼の蕾が窄まった。締めつけられるとこちらは気持ちがいい。しかし安達にしてみれば辛いらしく、与えられる苦痛と快感に我慢ならなくなったのか、自分から腰を前後に揺すり始めた。彼が身体を動かすたびに、彼の先端から粘った液体が滴り落ちる。性器を強く握って開いた鈴口の縁に爪を引っかけ、反対の手で赤く尖ったままの乳首を摘み上げると、内壁の動きが激しくなった。押し出そうとしているのか、より深く呑み込もうとしているのか。一つだけ確実なのは、彼はやり方を理解していないということだ。
「そうじゃない。上下に動くんだ。これだとお前のいいところにも当たらない」
彼は呆然とこちらを見つめた。どうやら言ってもわからないようなので、彼の腰を掴むと下から数回突き上げてやる。途端に甘い声が降ってきた。快楽に追い詰められた表情や、痛々しく腫れた胸の突起や、肌に刻まれた赤い痕や、様々な液体に塗れた性器や、あるいはこれまで誰も知らなかった慎ましやかな蕾を食い破って出入りする、自分自身のグロテスクな肉塊が、同時に視界に映っていた。
「あとは自分でやれ」
何度か抉ったあとで突き放す。安達は座り込んだまま、手の甲で目を擦った。ひどく子供じみた仕種だった。
「……っく、……ぅう……」
「泣いたって駄目だ」
「…………うー……」
「可澄」
安達は微かに肩を震わせてから、ゆっくりと腰を上げた。性器がずるりと抜けていく。張った部分が感じる場所を掠めたのか、彼は咄嗟に唇を噛んだ。
「……っ」
けれど声を噛み殺しても、漏れる吐息の艶は隠せない。勃ち上がった性器の先端から、また新たな雫がじわりと浮く。男を咥え込んだ部分も、襞をざわめかせて快感を訴えていた。
「そのまま腰を落とすんだ」
尖った恥骨を撫でて促してやる。そんな些細な接触すら刺激になるのか、彼は苦しそうに息をついた。それでも言われたとおり、じわじわと身体を落としていく。熱くぬめった狭い器官に呑み込まれていく感覚に、こちらも声の調子が狂いそうになる。
「そう……、そうだ。上手だな。もっとできるだろう?」
あとはもう指示を出す必要はなかった。安達は必死に腰を動かしながら、啜り泣くように喘いだ。息継ぎをするときに生じる僅かな合間を、結合部分が立てる水っぽい音が埋めていく。
柔らかな肉に扱かれる快感に身を委ねながら、ただ射精を遅らせるためだけにその身体の細部を見つめた。骨や筋が作り出した窪みや溝に、何処からか生まれた汗が溜まっていく。つけたままの部屋の灯りによって硝子の粒のように輝くそれらは、激しい運動に耐えきれず、やがて下へ下へと滑り落ちていく。その眺めはひどく性的であると同時に、窓硝子に雨粒が流れる光景にも似ていた。肉体はこんなにも熱く密着しているのに、目には何か冷たく、何処か遠い。
「――可澄」
思わず確かめるようにその肌へと手を伸ばした。掌に感じた高すぎる体温に安堵したとき、彼は身を竦めて一際高い声を上げた。
「あっ、あ、あ、あー……」
繋がった粘膜がぎゅうぎゅうと収縮する。搾り取るような動きに我慢はきかなかった。腰を押さえつけるようにして体液を吐き出した。膿んだような襞がそれを嚥下する。
「んぅ……ぁ……」
貪欲に精を吸いながら、彼自身も吐精した。ぬるい飛沫が自分の腹や胸に散る。指先ですくい取ると、ひどく水っぽかった。
「薄いな。量も少ない」
安達は虚ろな目で視線を空に漂わせていたが、こちらの指先に焦点が合うと、忘我の表情が見る間に羞恥に染まった。俯いて泣きそうな顔になる。そのまま虐めて泣かせたいという気持ちと、あやして機嫌をとりたいという気持ちが同時に湧き起こり、笑ってしまいそうになる。
とりあえず言うとおりにできたのだからと、上体を起こして抱き寄せた。
「つっ」
「痛いか?」
向かい合う形になると顔が近い。慣れていない部分に当たって痛かったのか、安達はまた睫を濡らしている。それが哀れで、愛しい。
肉欲に溶解したかのように潤んだ虹彩へと、引き寄せられるように唇を近づけると、彼は驚いたように瞼を下ろした。薄い肉を柔らかく食んでから、怯えの残る頬を指でくすぐる。
「上手にできたから、今度は俺が可澄の言うことをきく。どうしてほしい?」
仮に終わりにしたいと言われたら、即座に却下するつもりで訊ねた。彼の性器はもうおとなしくなっていたが、自分のそれはまだ相手の中で硬く反っている。まだ終われない。
「…………っ」
安達は頬を赤らめたまま口を動かしたが、言葉は出てこなかった。困ったような顔でこちらに手を伸ばしてくる。しかしその手をどうしたものかわからないらしく、遂に彼の表情は絶望的なものへと変わった。してほしいことがあるのに、上手く意思表示できないのが悲しいらしい。それを見ていると、虐めて泣かせたいという欲望へと天秤が傾いた。
「言えないなら俺の好きなようにやる。可澄が孕むまで犯す」
脅して組み敷いた。やはり痛むのか彼は小さく声を上げて微かに顔を歪めたが、その声や表情はただ淫らなだけだった。
「可澄がきちんと言わないから悪い」
そう言いながら、腰を突き入れる。
たとえどれほどその本質が貪婪であろうと、目覚めたばかりの幼い粘膜だ。まだ指で優しく甘やかしてやらなければならない段階にあるものを、硬く張った凶器で抉るのは惨いことだとわかっている。わかっているが、止められない。
「ん……ぁ……や、いや……」
深い部分に押し込んだまま、中に吐き出した精液を粘膜に擦り込むように小刻みに動くと、安達が弱々しく抗議した。
「奥はもう嫌か?」
いいところに当ててほしいのかと顔を覗こうとすると、突然唇を塞がれた。何が起きたのかわからなかった。柔らかく濡れたものが口の中に入ってきて初めて、事態を理解する。
彼の方からキスしてきたのは、初めてだった。
状況がわかると、ほとんど呆れに近い感覚に襲われた。いったいこの男は、何処まで自分を狂わせれば気が済むのだろう。
安達が仕掛ける舌技は、もちろん救いがたく下手だった。単に互いの舌を絡ませたいだけなのか、あるいは舌を吸いたいのか、それとも逆に吸ってもらいたいのか、目的が全くわからない。彼自身、自らの欲しているものを正確に把握できていないだろう。だがとにかく、ひたむきに欲しがる口づけであることに変わりはなかった。
したいようにさせていると、やがて彼は口を離して息をついた。こちらの反応が鈍いのがショックだったのだろう、少し傷ついた目をしている。だから頭を撫でてやった。
「キスしてほしかったのか」
暫し固まってから、安達は首に抱きついてきた。触れた頭が数ミリ単位で縦に動く。恐ろしく可愛い。彼がキスをしたがるのは口腔内に性感帯があるせいにすぎないが、しかしうっかり勘違いしてみたくなる。
本当は彼も自分のことが好きなのではないか、と。
「キスならいくらでもしてやる」
本当に、とでも言いたげに、安達が顔を上げる。揺れる瞳が綺麗で、目を閉ざすのが惜しいと思った。それでもねだるように薄く開いた彼の唇に、自らのものを重ねる。今度はこちらも舌を動かして、相手の好きなところを舐めた。ついでに舌に唾液を伝わらせると、彼は従順に受け止め飲み込んだ。そうしているともう一度下の口に自分のものを飲ませたくなって、絶頂から時間がたち徐々にきつさを取り戻しつつあった器官を、ほとんど力任せに抉じ開けて嬲った。口を塞がれた安達は悲鳴を上げることすらできず、ただがくがくと揺さぶられた。
甘い肉の間に精液を叩きつけて、繋がりを解いた。好き勝手をしたという自覚から、腕の中に入れて視線を合わせる。
「可澄?」
つい先ほどまで紅潮していた肌からは、血の気が引いていた。かたかたと身震いしている。
「どうした? 気分が悪くなったか」
安達は白い顔で肯いた。庇うように腹を押さえている。
「ああ、出てきそうなのか」
返事はなかったが、僅かに目許だけを赤くしたところを見ると、どうやら図星らしい。それで彼を抱えてユニットバスに向かった。ドアを開けて便器に座らせると、脂肪とは無縁な下腹を撫でてやる。
「見ていてやるから、ここで出せ」
途端に安達の顔が引き攣った。案の定逃げようとする。しかし腕力で安達が自分に勝てるはずがない。抵抗を試みる身体を難なく捕まえて、真正面から脅迫した。
「言うことをきかないと、腕を突っ込むぞ」
本気ではなかった。フィストなど、男の性器をやっと咥え込める程度にしか開発されていない彼には物理的に不可能だったし、自分もそこまでひどいことをするつもりはなかった。しかし安達は完全に怯えた。抗うのをやめ、そんなのは嫌だと涙目で首を横に振る。その様子があまりに可愛かったので、湿った目尻にキスをした。
「いい子にできるな?」
マッサージするように再び腹を撫でる。
「さあ、出すんだ」
安達は自らの身体を抱くように身を縮め、固く目を閉じた。そうすれば眼前の男の存在を忘れられるとでもいうかのように。だが、どれだけ待っても変化は起こらなかった。肌は血色を失ったままで、夏場であるにも拘らずひどく寒々しい。
しまいに安達は掠れた声で訴えた。
「でない……」
見られていると緊張して駄目なのだろうか。彼にはアブノーマルすぎたのかもしれない。といっても、自分も他人にこんなことを要求するのは初めてだった。
「わかった」
縋るような眼差しに肯いて、便器から抱き下ろす。そのまま床に這わせて、赤く蕩けた部分に指を這わせた。
「いや、やだ、やだっ」
すると腕を突っ込まれると勘違いしたのか、安達はパニックを起こした。
「落ち着け。指を入れるだけだ」
「やぁ……んっ……」
中指で掻き出すと、とろりと白い液体が溢れた。血が混じっていないことに安堵しつつ、油混じりの精液を少しずつ吐き出させていく。弄られた肉が喜んで指に絡みついてしまうのを恥じているのか、安達は床に突っ伏していた。微かに嗚咽が聞こえる。
「どうだ、まだ気持ち悪いか?」
零れたものをトイレットペーパーで拭う。訊ねても無反応なので崩れた上半身を起こしてやると、血色は元に戻っていたが、赤く充血した目はこちらを見ようとしない。拗ねたようなつれない伏し目が何かの間違いみたいに可愛い。
「可愛い」
思ったままを口にすると、彼はそれだけで機嫌を直して身体を預けてくる。単純で、やはり可愛い。油と汗で肌が滑るのが嫌なのか、居心地悪そうに眉間に浅く皺を作る様子すら、可愛くて仕方がない。
「綺麗にしような」
ユニットバスなのですぐ脇に浴槽がある。くっつきたがる身体をバスタブに入れ、シャワーの湯をかけてから彼の髪と身体を洗う。油が付着しているので丁寧に泡立てて擦ると、浴槽の底に座った彼は陽だまりの猫のように目を閉じた。洗い上げてからバスタオルで髪と身体を手早く拭う。本当は髪にドライヤーをかけてやりたかったが、自分も相当汚れていたのでとりあえず彼をリビングに連れて行き、適当に何か着るよう指示して風呂に戻った。
しかし五分ほどでシャワーを終えてリビングに入ると、安達はタオルを被ったまま、水槽の脇に座ってぼんやりしていた。床に散らばるTシャツやスウェットから、いちおう服を着ようと努力した痕跡は認められたが、途中で戦意を喪失してしまったらしい。暑いせいもあるのだろう。また少し汗ばんでいるようにも見える。だから冷蔵庫に向かった。
二リットル入りのペットボトルには、中身が半分ほど残っていた。グラスを出すのも面倒で、そのままリビングに持っていく。
「ほら」
安達は突き出されたペットボトルを見ても、依然ぼんやりした顔のまま受け取ろうとしなかった。仕方ないので自分が先に口をつける。乾いた喉に冷たい水が滑り落ちていく。勢いよく飲んで一息つくと、こちらをじっと見つめる目に気づいた。恐ろしく透き通った、硝子製の眼差し。
「可澄――」
どうした、と言いかけてやめた。
訊ねるまでもなかった。
彼の考えていることが、手に取るようにわかる。
まるで澄んだ硝子の内部を覗き込むように。
あまりにも可視的で、あまりにも無防備な、愛しくも物悲しい、純粋な欲望。
あるいは自分もまた同様に見透かされているのだろうか。
硝子のような沈黙を、我々は共有してしまったのかもしれない。
けれどそれでいいと思った。それで彼が孤独でなくなるのなら、構わない。
水をあおって安達の顎に手をかけた。唇を合わせると、彼は口を開いた。
何度も口移しで水を与えた。ボトルの水がなくなると、まだ熱の引かない身体を抱き寄せ、所構わず口づけた。喉許の薄い肉を吸うと、彼の息が少しずつ上がっていく。これ以上続けると際限なく求めてしまいそうで、欲望を自制して顔を離すと、至近距離に焦点のぶれかけた瞳があった。
この眼だ、と思った。
自分が初めて欲情したのは、この眼に対してだった。
あの日、瞼に阻まれどうしても触れることのできなかった、曖昧な色の虹彩。それが今、無防備なまま眼前にある。
自分はこの眼が欲しいのだ。
凶暴な衝動が、細胞という細胞をどす黒く染めていく。
両手で顔を挟み、ゆっくりと舌を伸ばす。
蕩けたような虹彩に、明らかな怯えが滲んだ。
「……っ」
閉じようとした瞼を抉じ開けて舌を入れた。その瞬間、鈍器で殴られたような衝撃を感じた。焦がれ続けたそれは、本物の硝子玉のように滑らかで、そして何処か冷たかった。眼窩を口で覆い、その感触を貪った。
どのくらいそうしていただろうか。
気づけば、彼の身体は動かなくなっていた。
舌を離して顔を窺うと、そこには表情がなかった。まるで本物の硝子の置物のようだった。
「可澄」
名前を呼んで、目許に触れる。するとそこから水滴が零れた。溢れ出たその雫を指で拭おうとして、しかし、できなかった。
「ごめん……ごめんな」
抱きかかえて膝に乗せ、背中をそっと撫でてやる。すると、凍りついていた彼の身体が震え始めた。強張った腕が、自分の背中に回されるのを感じた。
「……っ、ひ、……うぅ、……」
彼は泣いていた。縋りついてくる身体は火傷しそうなほど熱かった。抱き返してやれば、よりいっそう強くしがみつかれた。いくら泣いても彼は泣きやまなかった。ただひたすら、小さな子供のように泣きじゃくっていた。
翌朝早く目が覚めたとき、ベッドにいたのは自分一人だった。
リビングは薄暗かった。カーテンを開けて振り返ると、床に落ちた何かが朝日を弾いて光った。
合鍵だった。
嫌な予感がした。
すぐに隣の部屋に行き、チャイムを鳴らした。しかし応答はなかった。
そして、それきりだった。
安達は、姿を消してしまった。
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