選挙・開票・そして殺人~君に一票を。死んで欲しいから~

みにぶた🐽

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第8章「裏切りの序曲」

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 午後一時。第三回選挙の演説フェーズが開始された。

 中央ホールに集められた参加者たちの表情は、これまでにない絶望に染まっていた。「生体解剖」という処刑方法の発表に、誰もが恐怖で震えていた。

 演壇の傍らには、例の恐ろしい処刑装置が設置されている。金属製の台に無数の刃物と電気器具が組み込まれ、まさに悪夢そのものの外観だった。

 同盟のメンバーたちは、互いに複雑な視線を交わしていた。仲間の誰かが、他の仲間を残酷に処刑しなければならない可能性がある。その現実が、彼らの結束を揺るがし始めていた。

 スピーカーから機械音声が響いた。

「第三回選挙演説フェーズを開始いたします。候補者は指定順に演説を行ってください」

 最初に呼ばれたのは、意外にも神谷だった。

「第一番目、神谷様」

 神谷が立ち上がった。候補者除外から一転して特別復帰を果たした彼の表情には、これまでにない複雑さが混じっていた。

 演壇に立った神谷は、しばらく聴衆を見回してから口を開いた。

「皆さん、私の正体についてはもうご存知でしょう」

 神谷の出だしに、会場がざわめいた。

「私は復讐者です。五年前の違法実験で父を殺された、復讐に燃える息子です」

 直接的な告白に、参加者たちは息を呑んだ。

「しかし、私は今、大きな誤算に直面しています」

 神谷の声には、初めて弱気な響きが含まれていた。

「復讐の炎は確かに燃えています。しかし、それ以上に恐ろしい存在が、このゲームを支配していることを知りました」

 神谷は処刑装置を指差した。

「あの装置は、私が設計したものではありません。私の復讐は、もっと『公正』なものでした」

 会場が静まり返った。

「真の黒幕は、復讐を超えた何かを求めています。純粋な悪意、人間性の完全な破壊を」

 神谷の表情に、恐怖が浮かんでいた。

「私は皆さんに警告します。もし私が当選すれば、あの装置を使うことを拒否します。たとえ、それが私自身の処刑を意味するとしても」

 神谷の演説は、予想外の方向に向かっていた。復讐者から、警告者への転換だった。

「第二番目、雨宮香織様」

 雨宮が立ち上がった。彼女の表情には、昨日までの絶望から立ち直ろうとする意志が見えた。

 演壇に立った雨宮は、深呼吸してから話し始めた。

「私は昨日まで、自分を殺人者だと思っていました。田中さんを処刑した時、私の心は完全に壊れてしまいました」

 雨宮の声は震えていたが、芯の強さがあった。

「しかし、真実を知りました。私たちは皆、操作された記憶の中で生きてきた被害者なのです」

 雨宮は同盟のメンバーたちを見回した。

「それでも、私は処刑を実行した事実を受け入れます。操作されていたとはいえ、私がボタンを押したのです」

 雨宮の言葉には、深い反省と決意が込められていた。

「もし今回も私が当選すれば、処刑は拒否します。どんな結果になろうとも、もう誰の血も私の手で流したくありません」

 雨宮の宣言に、同盟のメンバーたちは複雑な表情を浮かべた。処刑拒否は勇気ある選択だが、それは彼女自身の死を意味する可能性もあった。

「第三番目、蒼太様」

 自分の名前が呼ばれ、蒼太は立ち上がった。心の中で、何を話すべきかを最終確認する。

 演壇に立った蒼太は、参加者全員を見渡してから話し始めた。

「僕は今、この場で皆さんに謝罪したいと思います」

 蒼太の言葉に、会場が静まった。

「五年前の違法実験において、僕は中心的な役割を果たしていました。記憶操作技術の開発と実施、そして事後の隠蔽工作」

 蒼太の告白に、参加者たちの間に動揺が走った。

「皆さんの人生を狂わせたのは、僕です。偽りの記憶を植え付け、罪悪感を操作し、真実を隠蔽した」

 蒼太は深く頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

 しばらくの沈黙の後、蒼太は顔を上げた。

「しかし、僕は今こそ、その罪を償う時だと思っています」

 蒼太の声に力が宿った。

「このゲームを終わらせ、真の黒幕を暴き、皆さんを真実の人生に戻すこと。それが僕にできる唯一の償いです」

 蒼太は拳を握りしめた。

「もし僕が当選すれば、処刑は拒否します。そして、このシステムの破壊に全力を尽くします」

 蒼太の演説に、同盟のメンバーたちは感動していた。しかし、同時に不安も感じていた。処刑拒否者ばかりでは、真の黒幕の怒りを買う可能性がある。

「第四番目、高橋様」

 高橋が立ち上がった。彼の表情には、研究者らしい冷静さと、強い決意が混在していた。

 演壇に立った高橋は、分析的な口調で話し始めた。

「僕は研究者として、このゲームのシステムを分析してきました」

 高橋の声には、学問的な客観性があった。

「結論から申し上げると、このゲームには必ず脱出方法が存在します」

 高橋の発言に、参加者たちの注意が集中した。

「どんなシステムにも弱点があります。完璧なプログラムは存在しません」

 高橋は自信を持って断言した。

「僕が当選すれば、処刑を実行しながら、同時にシステムの弱点を探ります」

 高橋の発言に、会場がざわめいた。他の候補者とは異なり、処刑実行を宣言したのだ。

「犠牲は避けられません。しかし、その犠牲を無駄にしないため、必ず脱出方法を見つけ出します」

 高橋の現実的な判断に、参加者たちは複雑な反応を示した。冷酷に見えるが、論理的でもあった。

「第五番目、美月様」

 美月が立ち上がった。看護師である彼女の表情には、職業的な使命感が表れていた。

 演壇に立った美月は、優しい声で話し始めた。

「私は看護師として、人の命を救うことを使命としてきました」

 美月の言葉には、医療従事者らしい温かさがあった。

「五年前の実験で、私は知らず知らずのうちに人を傷つける行為に加担していました。それは看護師として、最も許されないことです」

 美月の声が震えた。

「もし私が当選すれば、処刑は行いません。たとえ、それが私自身の死を意味するとしても」

 美月の宣言は、雨宮と同じだった。

「でも、皆さんには生きて欲しいのです。真実の人生を取り戻して欲しいのです」

 美月の言葉に、多くの参加者が涙を流していた。

「第六番目、陸翔様」

 最後に陸翔が立ち上がった。元警備員である彼の表情には、複雑な葛藤が見て取れた。

 演壇に立った陸翔は、低い声で話し始めた。

「俺は警備員として、秩序を守ることを仕事にしてきた」

 陸翔の言葉には、現実主義的な響きがあった。

「五年前、俺は実験施設で被験者たちの逃亡を防いでいた。それが正しいことだと信じていた」

 陸翔は拳を握りしめた。

「でも、真実を知った今、俺は迷っている」

 陸翔の葛藤が表情に現れていた。

「もし俺が当選すれば……」

 陸翔は長い沈黙の後、ついに決断を下した。

「俺は処刑を実行する。それが現実だからだ」

 陸翔の宣言に、会場が騒然となった。

「きれいごとでは生き残れない。誰かが汚れ役を引き受けなければ、全員が死ぬ」

 陸翔の現実論は、高橋のものよりもさらに冷徹だった。

 すべての演説が終わると、参加者たちは投票ブースに向かった。

 同盟のメンバーたちは、投票前に最後の作戦会議を開いた。

「陸翔の演説は予想外でした」

 橘が困惑を隠せなかった。

「同盟のメンバーなのに、処刑実行を宣言するなんて」

 鈴木が不安そうに言った。

「彼なりの考えがあるのでしょう」

 蒼太は陸翔を擁護した。

「現実的な判断だと思います」

 しかし、雨宮は首を振った。

「でも、もし陸翔さんが当選して、私たちの誰かを処刑することになったら……」

 同盟内に亀裂が生じ始めていた。理想論者と現実論者の対立だった。

「問題は投票です」

 高橋が話題を変えた。

「神谷の票がどこに行くかが重要です」

 美月が提案した。

「処刑拒否を宣言した人に票を集中させましょう。雨宮さん、蒼太さん、私のいずれかに」

 しかし、茜が反対した。

「それでは勝てません。神谷や他の参加者が、処刑実行派に票を入れる可能性があります」

 颯真が別の提案をした。

「むしろ、高橋さんか陸翔さんに票を集中させて、確実に当選させるべきでは?」

 同盟内の意見は分裂していた。

 その時、スピーカーから機械音声が流れた。

「投票時間は三十分とします。慎重にご判断ください」

 時間が限られている中、同盟は結論を出せなかった。

 各自が個別に判断して投票することになった。

 投票ブースの中で、蒼太は深く悩んでいた。

 処刑拒否を宣言した雨宮に票を入れるべきか。現実的な高橋に票を入れるべきか。それとも、自分に票を入れて責任を取るべきか。

 蒼太は最終的に、ある決断を下した。

 全員の投票が完了すると、開票作業が始まった。

 参加者たちは固唾を飲んで結果を待った。

 スクリーンに結果が表示される。

【第三回投票結果】

【1位:高橋 (8票)】

【2位:陸翔 (4票)】

【3位:蒼太 (3票)】

【4位:雨宮香織 (2票)】

【5位:美月 (1票)】

【6位:神谷 (0票)】

 結果に、会場が騒然となった。

 高橋が当選し、神谷が最下位だった。

 神谷の完全孤立が実現したが、それは同時に彼の処刑を意味していた。

 機械音声が響いた。

「神谷様が処刑対象に決定いたします。高橋様が処刑執行者となります」

 高橋の顔が青ざめた。処刑実行を宣言していたとはいえ、実際にその時が来ると動揺を隠せなかった。

 神谷は意外にも冷静だった。

「なるほど、完全に孤立したというわけですね」

 神谷は立ち上がった。

「しかし、私にはまだやるべきことがあります」

 神谷は処刑台に向かいながら、最後の言葉を放った。

「真の黒幕の正体を、皆さんにお教えしましょう」

 神谷の発言に、全員が注目した。

「黒幕は……」

 その時、突然施設全体の照明が落ちた。

 緊急用の赤いランプだけが点滅し、不気味な雰囲気に包まれた。

 スピーカーから、これまでとは違う声が流れた。

「神谷の処刑は延期いたします」

 新しい声は、機械音声ではなく、人間の声だった。低く、冷たく、そして恐ろしいほど冷静な声だった。

「参加者の皆さん、ゲームのルールを変更いたします」

 真の黒幕が、ついに姿を現そうとしていた。

「これより、『最終フェーズ』を開始いたします」

 施設内に警報音が響き始めた。

「現在生存中の十八名のうち、最終的に生き残れるのは三名のみとします」

 参加者たちの間にパニックが広がった。

「生き残りをかけた、最後の戦いが始まります」

 ドアが開き、武装した職員たちが現れた。しかし、今回は参加者を案内するためではなく、監視するためのようだった。

「制限時間は二十四時間。その間に、十五名を淘汰してください」

 恐ろしいルール変更だった。

「方法は問いません。殺し合いでも、投票でも、何でも構いません」

 真の黒幕の声は、悪魔のように響いた。

「ただし、最後に残った三名には、特別な『真実』をお教えしましょう」

 参加者たちは恐怖で震えていた。

「それでは、最終フェーズ、開始です」

 照明が完全に落ち、施設は闇に包まれた。

 同盟は崩壊の危機を迎えていた。

 生き残るために、仲間を裏切らなければならない状況が生まれたのだ。

 最終フェーズまで、残り二十四時間。

 真の地獄が始まろうとしていた。
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