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第10章「真実の扉」
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# 第10章「真実の扉」
神谷と蒼太は、暗闇の中を慎重に進んでいた。
神谷が案内する先は、これまで立ち入ったことのない施設の最深部だった。職員専用区域への入り口は、巧妙に隠されており、通常では見つけることは不可能だったろう。
「ここです」
神谷が立ち止まったのは、一見すると何の変哲もない壁の前だった。しかし、彼が特定の箇所を押すと、壁の一部がスライドして隠し扉が現れた。
「なぜあなたがこんな場所を知っているんですか?」
蒼太の疑問に、神谷は振り返った。
「実は、私はこのゲームの設計に深く関わっていました。しかし、完成品は私の設計を大幅に超えた代物だった」
神谷の表情には、困惑と恐怖が混在していた。
「私が設計したのは、もっと『公正』な復讐システムでした。しかし、真の黒幕がそれを改変し、純粋な悪意の塊に変えてしまったのです」
二人は隠し扉をくぐり、薄暗い通路に入った。ここは緊急用電源で最低限の照明が確保されている。
「真の黒幕とは、一体何者なんですか?」
蒼太の質問に、神谷は重い口調で答えた。
「Dr.レオンハルト・ヴァルトシュタイン」
突然出てきた外国人名に、蒼太は困惑した。
「五年前の実験の真の首謀者です。表向きは日本人の教授が主導していたことになっていますが、実際はヴァルトシュタインが背後から操っていました」
神谷の説明に、蒼太の記憶が蘇った。確かに、実験には外国人研究者も関与していた。しかし、詳細な記憶は曖昧だった。
「彼は記憶操作技術の真の開発者です。そして……」
神谷の声が震えた。
「人間の精神を破壊することに、病的な快感を覚えるサイコパスです」
通路を進むにつれて、蒼太は異様な雰囲気を感じていた。壁には無数のモニターが埋め込まれており、そこには参加者たちの様子が映し出されている。
美月は一人で廊下を彷徨い、時折独り言を呟いている。陸翔は武器を探して施設内を駆け回っている。雨宮は個室の隅で震えながら身を縮めている。
そして、高橋は……
「高橋さんが!」
蒼太は画面を指差した。高橋が何者かに襲われているのが見えた。
「誰が……」
画面を詳しく見ると、襲撃者は颯真だった。彼女は生きていたのだ。そして、手には何かの武器を握っている。
「颯真さん……まさか、彼女が『特別な武器』を見つけたのか」
画面の中で、高橋が倒れた。颯真は冷静に高橋の所持品を漁っている。
「生存者がまた一人減りましたね」
神谷の声には、感情がこもっていなかった。
「私たちは急がなければなりません」
二人はさらに奥へ進んだ。通路の先には、巨大な金属製のドアがあった。そこには「CONTROL ROOM」と表示されている。
「ここが制御室です」
神谷はドアの前で立ち止まった。
「しかし、開くためには私たちの生体認証が必要です」
「生体認証?」
「網膜スキャンと指紋認証です。私一人では開きません。あなたの協力が必要なのです」
神谷の説明に、蒼太は疑問を抱いた。
「なぜ僕の生体情報が登録されているんですか?」
「あなたは五年前の実験の中核メンバーでした。ヴァルトシュタインは、いつかあなたを利用する日が来ると考えていたのでしょう」
すべてが計画されていたのだ。蒼太がここに来ることも、神谷と協力することも。
二人は生体認証を行った。網膜スキャンと指紋認証、そして音声認証も追加で要求された。
「蒼太、実験参加者番号2047」
蒼太が指定された言葉を述べると、ドアが重々しい音を立てて開いた。
制御室は想像以上に巨大だった。壁一面にモニターが並び、中央には巨大なコンピューターシステムが設置されている。
そして、その中央の椅子に座っていたのは……
「ようこそ、蒼太君」
振り返った人物を見て、蒼太は言葉を失った。
それは、五年前の実験を主導していた日本人教授、桐生だった。
「桐生教授……まさか、あなたが?」
桐生は不気味な笑みを浮かべていた。
「いや、正確には私ではない」
桐生の声が、突然変わった。抑揚のない、機械的な響きになった。
「私は既に死んでいる。これは、ヴァルトシュタイン博士によって制御された人形に過ぎない」
桐生の眼球が光った。明らかに、何らかの装置が埋め込まれている。
「つまり、桐生教授の身体を使った遠隔操作人形ということですか?」
神谷の推測に、桐生の人形が頷いた。
「正解だ、神谷君。君の父親を殺した実験も、実際はヴァルトシュタイン博士の指示だった」
神谷の顔が歪んだ。
「あなたたちは……人間をここまで冒涜するのか」
「冒涜?」
桐生の人形は首をかしげた。
「これは進歩だ。人間の意識をデジタル化し、永続的に保存する技術の応用例だ」
桐生の人形は立ち上がり、大型スクリーンを指差した。
「ヴァルトシュタイン博士は現在、ドイツの研究施設にいる。しかし、この装置を通じて日本の実験を直接指揮している」
スクリーンに、ドイツの研究施設の映像が映し出された。そこには、車椅子に座った老人の姿があった。
レオンハルト・ヴァルトシュタイン博士。
彼の身体は既にかなり衰弱しているようだったが、目だけは異常なほど輝いていた。
「博士は末期がんです」
桐生の人形が説明した。
「余命は数ヶ月。しかし、死ぬ前に自分の研究の集大成を完成させたいと考えている」
「研究の集大成?」
蒼太が問いかけると、スクリーンの映像が変わった。
そこには、これまで行われた様々な実験の記録が映し出された。記憶操作、精神支配、人格改造、そして今回のデスゲーム。
「人間の精神を完全に制御する技術の確立です」
桐生の人形の声に、恐ろしい響きが込められていた。
「このゲームは、その最終実験です。極限状況下での人間の心理変化を観察し、精神制御の限界を探る」
蒼太は理解した。彼らは実験動物だったのだ。ヴァルトシュタインの研究材料として。
「そして、最終的に生き残った三名には、『完全な記憶操作』を施します」
桐生の人形は不気味に微笑んだ。
「新しい人格、新しい記憶、新しい人生を与える。そうして作り出された『人工人間』こそが、博士の研究の完成形です」
神谷が拳を握りしめた。
「つまり、生き残っても死んだのと同じということか」
「そういうことだ」
しかし、蒼太は別のことに気づいていた。
「でも、そのシステムには弱点がありますね」
蒼太の発言に、桐生の人形が振り向いた。
「何だと?」
「ヴァルトシュタイン博士は遠隔操作でこのシステムを制御している。ということは、通信を遮断すれば制御不能になる」
蒼太の推理に、神谷が反応した。
「そうか! だから私の協力が必要だったのですね」
神谷は制御盤に向かった。
「私はこのシステムの設計者の一人です。通信プロトコルの弱点を知っています」
桐生の人形が慌てて制止しようとしたが、神谷の動きの方が早かった。
神谷は複数のスイッチを操作し、警告音が鳴り響いた。
「通信リンク、切断開始」
機械音声が響く中、スクリーンのドイツとの接続が不安定になった。
しかし、その時、桐生の人形が突然蒼太に襲いかかった。
「させるか!」
桐生の人形の力は異常に強く、蒼太は組み伏せられた。
「神谷君、作業を続けろ!」
蒼太は必死に抵抗しながら叫んだ。
神谷は迷わず作業を続けた。しかし、システムの防御機能が作動し、切断には時間がかかりそうだった。
「あと三分必要です!」
三分間、桐生の人形を食い止めなければならない。
蒼太は桐生の人形と格闘を続けた。しかし、相手は痛みを感じない人形であり、圧倒的に不利だった。
その時、制御室のドアが開いた。
現れたのは雨宮だった。
「蒼太さん!」
雨宮は消火器を手に持っていた。それを桐生の人形に向けて噴射する。
桐生の人形の動きが一瞬止まった隙に、蒼太は脱出した。
「雨宮さん、なぜここに?」
「あなたたちを追ってきました。一人でいるのが怖くて……」
雨宮の判断が、結果的に状況を救った。
「あと一分です!」
神谷の作業が最終段階に入った。
しかし、桐生の人形が再び立ち上がった。今度は雨宮に向かってくる。
蒼太は雨宮を庇って、再び桐生の人形と組み合った。
「雨宮さん、神谷さんを手伝って!」
雨宮は神谷の指示に従い、最後のスイッチを操作した。
「通信リンク、完全切断」
その瞬間、桐生の人形が動きを止めた。糸の切れた人形のように、床に崩れ落ちる。
同時に、施設全体の照明が復旧した。
スピーカーからヴァルトシュタインの怒声が響いたが、それも次第に途切れがちになり、やがて完全に沈黙した。
「やりました……」
神谷が安堵の表情を浮かべた。
「システムは完全に停止しました」
蒼太は立ち上がりながら、制御盤を確認した。
「これで、ゲームは終わりですね」
「ええ。しかし……」
神谷の表情が曇った。
「生き残った参加者たちに、どう説明すればいいでしょうか?」
確かに、これまでの惨劇を正当化することはできない。死んだ仲間たちは帰ってこない。
その時、制御室の別のスクリーンが点灯した。
そこには、施設の外の映像が映し出されていた。
警察車両と救急車が多数到着している。
「これは……」
蒼太が画面を見つめていると、新しい音声が流れた。
「こちら警視庁捜査一課です。建物内の皆さん、安全な場所で待機してください。間もなく救助に向かいます」
外部からの救助が来ていた。
「誰が警察に連絡を?」
雨宮の疑問に、神谷が答えた。
「システム停止と同時に、自動的に緊急通報が発信される仕組みになっていました。私が設計した安全装置の一つです」
神谷の先見の明が、最後の救いをもたらした。
三人は制御室を出て、中央ホールに向かった。
そこには、残った参加者たちが集まっていた。
生存者は、蒼太、雨宮、神谷を含めて九名だった。
美月は精神的に不安定だったが、身体的には無事だった。陸翔は軽傷を負っていたが、歩行に問題はない。
高橋の姿はなかった。颯真に殺されたのだ。
そして、颯真自身も行方不明だった。
「皆さん」
蒼太が集まった参加者たちに向かって話しかけた。
「ゲームは終わりました。もう誰も死ぬ必要はありません」
参加者たちの表情には、安堵と困惑が混じっていた。
「これから警察が救助に来ます。医療チームも一緒です」
雨宮が補足した。
しかし、美月が震え声で質問した。
「でも……私たちは人を殺しました。逮捕されるんじゃ……」
その疑問に、神谷が答えた。
「皆さんは被害者です。記憶を操作され、強制的にこのゲームに参加させられた被害者なのです」
神谷は真実を説明した。五年前の実験、記憶操作、そしてヴァルトシュタインの狂気。
参加者たちは、ようやく自分たちの置かれていた状況を理解した。
三十分後、警察の特殊部隊が施設に突入した。
参加者たちは一人ずつ保護され、病院に搬送された。
蒼太は救急車の中で、これまでの出来事を振り返っていた。
多くの犠牲者を出したが、真実を暴くことができた。ヴァルトシュタインの野望は阻止された。
しかし、失われた命は戻らない。
それが、蒼太にとって永遠の重荷となるだろう。
病院で治療を受けながら、蒼太は考えていた。
これからどう生きていけばいいのか。
どうやって、この罪を償っていけばいいのか。
答えは簡単には見つからないだろう。
しかし、生き残った者の責任として、真実を世に伝えなければならない。
そして、二度とこのような悲劇が起こらないよう、警告し続けなければならない。
それが、蒼太の新たな使命だった。
神谷と蒼太は、暗闇の中を慎重に進んでいた。
神谷が案内する先は、これまで立ち入ったことのない施設の最深部だった。職員専用区域への入り口は、巧妙に隠されており、通常では見つけることは不可能だったろう。
「ここです」
神谷が立ち止まったのは、一見すると何の変哲もない壁の前だった。しかし、彼が特定の箇所を押すと、壁の一部がスライドして隠し扉が現れた。
「なぜあなたがこんな場所を知っているんですか?」
蒼太の疑問に、神谷は振り返った。
「実は、私はこのゲームの設計に深く関わっていました。しかし、完成品は私の設計を大幅に超えた代物だった」
神谷の表情には、困惑と恐怖が混在していた。
「私が設計したのは、もっと『公正』な復讐システムでした。しかし、真の黒幕がそれを改変し、純粋な悪意の塊に変えてしまったのです」
二人は隠し扉をくぐり、薄暗い通路に入った。ここは緊急用電源で最低限の照明が確保されている。
「真の黒幕とは、一体何者なんですか?」
蒼太の質問に、神谷は重い口調で答えた。
「Dr.レオンハルト・ヴァルトシュタイン」
突然出てきた外国人名に、蒼太は困惑した。
「五年前の実験の真の首謀者です。表向きは日本人の教授が主導していたことになっていますが、実際はヴァルトシュタインが背後から操っていました」
神谷の説明に、蒼太の記憶が蘇った。確かに、実験には外国人研究者も関与していた。しかし、詳細な記憶は曖昧だった。
「彼は記憶操作技術の真の開発者です。そして……」
神谷の声が震えた。
「人間の精神を破壊することに、病的な快感を覚えるサイコパスです」
通路を進むにつれて、蒼太は異様な雰囲気を感じていた。壁には無数のモニターが埋め込まれており、そこには参加者たちの様子が映し出されている。
美月は一人で廊下を彷徨い、時折独り言を呟いている。陸翔は武器を探して施設内を駆け回っている。雨宮は個室の隅で震えながら身を縮めている。
そして、高橋は……
「高橋さんが!」
蒼太は画面を指差した。高橋が何者かに襲われているのが見えた。
「誰が……」
画面を詳しく見ると、襲撃者は颯真だった。彼女は生きていたのだ。そして、手には何かの武器を握っている。
「颯真さん……まさか、彼女が『特別な武器』を見つけたのか」
画面の中で、高橋が倒れた。颯真は冷静に高橋の所持品を漁っている。
「生存者がまた一人減りましたね」
神谷の声には、感情がこもっていなかった。
「私たちは急がなければなりません」
二人はさらに奥へ進んだ。通路の先には、巨大な金属製のドアがあった。そこには「CONTROL ROOM」と表示されている。
「ここが制御室です」
神谷はドアの前で立ち止まった。
「しかし、開くためには私たちの生体認証が必要です」
「生体認証?」
「網膜スキャンと指紋認証です。私一人では開きません。あなたの協力が必要なのです」
神谷の説明に、蒼太は疑問を抱いた。
「なぜ僕の生体情報が登録されているんですか?」
「あなたは五年前の実験の中核メンバーでした。ヴァルトシュタインは、いつかあなたを利用する日が来ると考えていたのでしょう」
すべてが計画されていたのだ。蒼太がここに来ることも、神谷と協力することも。
二人は生体認証を行った。網膜スキャンと指紋認証、そして音声認証も追加で要求された。
「蒼太、実験参加者番号2047」
蒼太が指定された言葉を述べると、ドアが重々しい音を立てて開いた。
制御室は想像以上に巨大だった。壁一面にモニターが並び、中央には巨大なコンピューターシステムが設置されている。
そして、その中央の椅子に座っていたのは……
「ようこそ、蒼太君」
振り返った人物を見て、蒼太は言葉を失った。
それは、五年前の実験を主導していた日本人教授、桐生だった。
「桐生教授……まさか、あなたが?」
桐生は不気味な笑みを浮かべていた。
「いや、正確には私ではない」
桐生の声が、突然変わった。抑揚のない、機械的な響きになった。
「私は既に死んでいる。これは、ヴァルトシュタイン博士によって制御された人形に過ぎない」
桐生の眼球が光った。明らかに、何らかの装置が埋め込まれている。
「つまり、桐生教授の身体を使った遠隔操作人形ということですか?」
神谷の推測に、桐生の人形が頷いた。
「正解だ、神谷君。君の父親を殺した実験も、実際はヴァルトシュタイン博士の指示だった」
神谷の顔が歪んだ。
「あなたたちは……人間をここまで冒涜するのか」
「冒涜?」
桐生の人形は首をかしげた。
「これは進歩だ。人間の意識をデジタル化し、永続的に保存する技術の応用例だ」
桐生の人形は立ち上がり、大型スクリーンを指差した。
「ヴァルトシュタイン博士は現在、ドイツの研究施設にいる。しかし、この装置を通じて日本の実験を直接指揮している」
スクリーンに、ドイツの研究施設の映像が映し出された。そこには、車椅子に座った老人の姿があった。
レオンハルト・ヴァルトシュタイン博士。
彼の身体は既にかなり衰弱しているようだったが、目だけは異常なほど輝いていた。
「博士は末期がんです」
桐生の人形が説明した。
「余命は数ヶ月。しかし、死ぬ前に自分の研究の集大成を完成させたいと考えている」
「研究の集大成?」
蒼太が問いかけると、スクリーンの映像が変わった。
そこには、これまで行われた様々な実験の記録が映し出された。記憶操作、精神支配、人格改造、そして今回のデスゲーム。
「人間の精神を完全に制御する技術の確立です」
桐生の人形の声に、恐ろしい響きが込められていた。
「このゲームは、その最終実験です。極限状況下での人間の心理変化を観察し、精神制御の限界を探る」
蒼太は理解した。彼らは実験動物だったのだ。ヴァルトシュタインの研究材料として。
「そして、最終的に生き残った三名には、『完全な記憶操作』を施します」
桐生の人形は不気味に微笑んだ。
「新しい人格、新しい記憶、新しい人生を与える。そうして作り出された『人工人間』こそが、博士の研究の完成形です」
神谷が拳を握りしめた。
「つまり、生き残っても死んだのと同じということか」
「そういうことだ」
しかし、蒼太は別のことに気づいていた。
「でも、そのシステムには弱点がありますね」
蒼太の発言に、桐生の人形が振り向いた。
「何だと?」
「ヴァルトシュタイン博士は遠隔操作でこのシステムを制御している。ということは、通信を遮断すれば制御不能になる」
蒼太の推理に、神谷が反応した。
「そうか! だから私の協力が必要だったのですね」
神谷は制御盤に向かった。
「私はこのシステムの設計者の一人です。通信プロトコルの弱点を知っています」
桐生の人形が慌てて制止しようとしたが、神谷の動きの方が早かった。
神谷は複数のスイッチを操作し、警告音が鳴り響いた。
「通信リンク、切断開始」
機械音声が響く中、スクリーンのドイツとの接続が不安定になった。
しかし、その時、桐生の人形が突然蒼太に襲いかかった。
「させるか!」
桐生の人形の力は異常に強く、蒼太は組み伏せられた。
「神谷君、作業を続けろ!」
蒼太は必死に抵抗しながら叫んだ。
神谷は迷わず作業を続けた。しかし、システムの防御機能が作動し、切断には時間がかかりそうだった。
「あと三分必要です!」
三分間、桐生の人形を食い止めなければならない。
蒼太は桐生の人形と格闘を続けた。しかし、相手は痛みを感じない人形であり、圧倒的に不利だった。
その時、制御室のドアが開いた。
現れたのは雨宮だった。
「蒼太さん!」
雨宮は消火器を手に持っていた。それを桐生の人形に向けて噴射する。
桐生の人形の動きが一瞬止まった隙に、蒼太は脱出した。
「雨宮さん、なぜここに?」
「あなたたちを追ってきました。一人でいるのが怖くて……」
雨宮の判断が、結果的に状況を救った。
「あと一分です!」
神谷の作業が最終段階に入った。
しかし、桐生の人形が再び立ち上がった。今度は雨宮に向かってくる。
蒼太は雨宮を庇って、再び桐生の人形と組み合った。
「雨宮さん、神谷さんを手伝って!」
雨宮は神谷の指示に従い、最後のスイッチを操作した。
「通信リンク、完全切断」
その瞬間、桐生の人形が動きを止めた。糸の切れた人形のように、床に崩れ落ちる。
同時に、施設全体の照明が復旧した。
スピーカーからヴァルトシュタインの怒声が響いたが、それも次第に途切れがちになり、やがて完全に沈黙した。
「やりました……」
神谷が安堵の表情を浮かべた。
「システムは完全に停止しました」
蒼太は立ち上がりながら、制御盤を確認した。
「これで、ゲームは終わりですね」
「ええ。しかし……」
神谷の表情が曇った。
「生き残った参加者たちに、どう説明すればいいでしょうか?」
確かに、これまでの惨劇を正当化することはできない。死んだ仲間たちは帰ってこない。
その時、制御室の別のスクリーンが点灯した。
そこには、施設の外の映像が映し出されていた。
警察車両と救急車が多数到着している。
「これは……」
蒼太が画面を見つめていると、新しい音声が流れた。
「こちら警視庁捜査一課です。建物内の皆さん、安全な場所で待機してください。間もなく救助に向かいます」
外部からの救助が来ていた。
「誰が警察に連絡を?」
雨宮の疑問に、神谷が答えた。
「システム停止と同時に、自動的に緊急通報が発信される仕組みになっていました。私が設計した安全装置の一つです」
神谷の先見の明が、最後の救いをもたらした。
三人は制御室を出て、中央ホールに向かった。
そこには、残った参加者たちが集まっていた。
生存者は、蒼太、雨宮、神谷を含めて九名だった。
美月は精神的に不安定だったが、身体的には無事だった。陸翔は軽傷を負っていたが、歩行に問題はない。
高橋の姿はなかった。颯真に殺されたのだ。
そして、颯真自身も行方不明だった。
「皆さん」
蒼太が集まった参加者たちに向かって話しかけた。
「ゲームは終わりました。もう誰も死ぬ必要はありません」
参加者たちの表情には、安堵と困惑が混じっていた。
「これから警察が救助に来ます。医療チームも一緒です」
雨宮が補足した。
しかし、美月が震え声で質問した。
「でも……私たちは人を殺しました。逮捕されるんじゃ……」
その疑問に、神谷が答えた。
「皆さんは被害者です。記憶を操作され、強制的にこのゲームに参加させられた被害者なのです」
神谷は真実を説明した。五年前の実験、記憶操作、そしてヴァルトシュタインの狂気。
参加者たちは、ようやく自分たちの置かれていた状況を理解した。
三十分後、警察の特殊部隊が施設に突入した。
参加者たちは一人ずつ保護され、病院に搬送された。
蒼太は救急車の中で、これまでの出来事を振り返っていた。
多くの犠牲者を出したが、真実を暴くことができた。ヴァルトシュタインの野望は阻止された。
しかし、失われた命は戻らない。
それが、蒼太にとって永遠の重荷となるだろう。
病院で治療を受けながら、蒼太は考えていた。
これからどう生きていけばいいのか。
どうやって、この罪を償っていけばいいのか。
答えは簡単には見つからないだろう。
しかし、生き残った者の責任として、真実を世に伝えなければならない。
そして、二度とこのような悲劇が起こらないよう、警告し続けなければならない。
それが、蒼太の新たな使命だった。
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