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第11章 「回復への道筋」
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都内の総合病院の個室で、蒼太は白い天井を見つめていた。
救助から三日が経過している。身体的な外傷は軽微だったが、精神的なダメージは深刻だった。医師からは「急性ストレス反応」と診断され、しばらくの療養が必要とされていた。
窓の外には青空が広がっている。五日間の地下施設での生活を経て、自然光がこれほど美しいものだったのかと改めて実感していた。
「蒼太さん、お加減はいかがですか?」
ドアをノックして入ってきたのは、担当の精神科医である椎名医師だった。中年の女性で、穏やかな雰囲気を持っている。
「身体は大丈夫です。ただ……」
蒼太は言葉を選んだ。
「夜、眠ると夢に出てくるんです。死んでしまった人たちが」
佐藤の処刑シーン、田中の狂気的な笑顔、高橋が颯真に襲われる瞬間。それらが繰り返し脳裏に蘇ってくる。
「それは自然な反応です」
椎名医師は優しい口調で説明した。
「あなたが体験したのは、想像を絶する極限状況でした。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が現れるのは当然です」
椎名医師は椅子に座り、蒼太と向き合った。
「大切なのは、あなたが被害者だということを理解することです。五年前の実験で記憶を操作され、今回のゲームに強制参加させられた被害者なのです」
蒼太は首を振った。
「でも、僕は五年前の実験の中核メンバーでした。すべての元凶は僕なんです」
「それも操作された記憶の可能性があります」
椎名医師の指摘に、蒼太は驚いた。
「どういう意味ですか?」
「警察の調べによると、五年前の実験記録は大幅に改竄されています。あなたが『中核メンバー』だったという記憶も、ヴァルトシュタインによって植え付けられた可能性が高いのです」
新たな事実に、蒼太は混乱した。
「つまり、僕の罪悪感も偽物だったということですか?」
「その可能性があります。記憶操作技術は、事実だけでなく感情も操作できます。あなたの過度な罪悪感は、人工的に植え付けられたものかもしれません」
椎名医師は資料を取り出した。
「これは、記憶操作被害者の典型的な症状です。実際の行動以上に強い罪悪感を抱く傾向があります」
蒼太は深く考え込んだ。自分の記憶、感情、人格。何が本物で何が偽物なのか、もはや区別がつかない。
「では、僕は一体何者なんでしょうか?」
「それを見つけることが、回復への第一歩です」
椎名医師は微笑んだ。
「焦る必要はありません。時間をかけて、本当のあなたを取り戻していきましょう」
その時、ドアがノックされた。
「蒼太さん、面会の方がいらっしゃいます」
看護師の案内で入ってきたのは、雨宮だった。彼女も入院しているはずだが、外出許可を得て来たようだった。
「蒼太さん、お久しぶりです」
雨宮の表情は、以前よりもずっと明るかった。あの絶望的な状況から抜け出したことで、精神的に安定を取り戻しているようだった。
「雨宮さん、体調はいかがですか?」
「おかげさまで、だいぶ良くなりました」
雨宮は椅子に座った。
「実は、お話ししたいことがあって伺いました」
椎名医師が席を外し、二人だけになった。
「警察の方から聞いたのですが、颯真さんの行方がまだ分からないそうですね」
雨宮の言葉に、蒼太は頷いた。
「ええ。施設内で最後に確認されたのは、高橋さんを……その後、姿を消してしまいました」
颯真は高橋を殺害した後、完全に行方をくらませていた。施設の徹底捜索も行われたが、発見されていない。
「もしかすると、施設の外に逃げ出したのかもしれません」
雨宮の推測に、蒼太は不安を感じた。
「颯真さんは武器を持っています。もし一般市民に危害を加えたら……」
「警察も全力で捜索しています」
雨宮は蒼太を安心させようとした。
「それに、颯真さんも被害者の一人です。正常な判断ができない状態だった可能性があります」
蒼太は窓の外を見つめた。
「僕たちは皆、被害者だった。でも、同時に加害者でもあった。その矛盾をどう受け入れればいいのでしょうか」
「時間が必要だと思います」
雨宮は静かに答えた。
「私も、まだ田中さんを処刑したことを受け入れられずにいます。でも、少しずつ前に進むしかありません」
雨宮の言葉に、蒼太は勇気をもらった。
「雨宮さんは強いですね」
「強くなんてありません」
雨宮は苦笑した。
「毎晩、悪夢にうなされています。でも、生きている以上、何かしなければならないと思うんです」
雨宮は蒼太の手を取った。
「一緒に頑張りましょう。一人では無理でも、二人なら乗り越えられるかもしれません」
蒼太は雨宮の温かさを感じた。地獄のような体験を共有した仲間同士、特別な絆が生まれていた。
翌日、蒼太は警察署で事情聴取を受けた。
担当刑事は神田という中年の男性だった。ベテランらしく、落ち着いた雰囲気で質問を進めてくる。
「蒼太さん、あなたは五年前の実験について、どの程度記憶がありますか?」
「断片的にしか思い出せません。記憶操作の影響で、何が本当で何が偽物なのか分からない状態です」
蒼太は正直に答えた。
「我々の調査では、あなたは実験の被害者だった可能性が高いです」
神田刑事は資料を見ながら説明した。
「当時の大学生で、心理学を専攻していた。指導教授に騙されて実験に協力させられ、その後記憶を操作されたと推測されます」
新たな事実に、蒼太は驚いた。
「つまり、僕は加害者ではなく被害者だったということですか?」
「その可能性が高いです。ヴァルトシュタインは、被害者に罪悪感を植え付けることで心理的支配を行う手法を使います」
神田刑事は別の資料を取り出した。
「他の参加者の調査でも、同様の事実が判明しています。皆さん、実際の行為以上に強い罪悪感を抱いている」
蒼太は混乱していた。五年間背負ってきた罪悪感が、人工的に作られたものだったとすれば、自分のアイデンティティは一体何なのか。
「ヴァルトシュタインの現在の状況はどうなっているのですか?」
「ドイツ政府と協力して追跡中です」
神田刑事の表情が厳しくなった。
「しかし、彼は末期がん患者で、既に死亡している可能性もあります」
最悪の場合、真の黒幕が処罰されることなく逃げ切る可能性があった。
「そうなれば、正義は実現されないということでしょうか?」
「法的な処罰は困難かもしれません」
神田刑事は率直に答えた。
「しかし、あなたたちの証言により、真実は明らかになりました。それだけでも大きな意味があります」
事情聴取を終えた蒼太は、病院に戻る途中でコンビニに立ち寄った。
何気なく手に取った週刊誌の表紙に、自分たちの写真が載っているのを見つけて愕然とした。
『地下デスゲームの真相!記憶操作実験の闇』
記事を読むと、事件の概要が詳しく報じられていた。しかし、内容の多くは憶測や脚色に満ちており、事実とは異なる部分も多かった。
「蒼太さん?」
振り返ると、神谷が立っていた。彼も週刊誌を見て、複雑な表情を浮かべている。
「報道が始まりましたね」
神谷の言葉に、蒼太は頷いた。
「でも、内容がかなり歪曲されています」
「仕方ありません。センセーショナルに報道した方が売れますから」
神谷は苦笑した。
「問題は、この報道によって私たちの社会復帰がより困難になることです」
確かに、週刊誌の記事は参加者たちを「殺人ゲームの生存者」として扱っている。被害者というより、異常な体験をした特別な存在として描かれていた。
「僕たちは、どうやって普通の生活に戻ればいいのでしょうか?」
「簡単ではないでしょう」
神谷は現実的に答えた。
「しかし、時間が経てば世間の関心も薄れます。そのうち、忘れられるでしょう」
二人はコンビニを出て、病院に向かった。
「神谷さん、あなたは今後どうされるおつもりですか?」
蒼太の質問に、神谷は少し考えてから答えた。
「父の墓前に報告したいと思います。復讐は果たせなかったが、真実は明らかになったと」
神谷の表情には、これまでにない安らぎがあった。
「それから、記憶操作技術の悪用を防ぐため、研究者として警告を発し続けたいと思います」
「それは重要なことですね」
蒼太も同感だった。
「僕も協力します。証言者として、真実を伝え続けたいと思います」
二人は病院の前で別れた。それぞれが、新しい人生に向かって歩み始めていた。
病室に戻った蒼太は、椎名医師と再び面談を行った。
「警察での事情聴取はいかがでしたか?」
「新たな事実が判明しました」
蒼太は神田刑事から聞いた内容を報告した。
「やはり、あなたの記憶は大幅に操作されていたようですね」
椎名医師は納得した様子だった。
「これで、回復への道筋が見えてきました」
「どういうことでしょうか?」
「あなたの過度な罪悪感が人工的なものだと分かれば、それを取り除くことができます」
椎名医師は治療方針を説明した。
「記憶操作の影響を軽減し、本来のあなたの人格を取り戻すための治療を行います」
蒼太は希望を感じた。これまで背負ってきた重荷の一部が、実は必要のないものだったのだ。
「ただし、時間がかかります」
椎名医師は念を押した。
「一朝一夕に回復するものではありません。数年単位での治療が必要になるでしょう」
蒼太は覚悟を決めた。
「分かりました。時間をかけてでも、本当の自分を取り戻したいと思います」
夕方、雨宮が再び面会に来た。
「蒼太さん、良いニュースがあります」
雨宮の表情は明るかった。
「美月さんの容体が安定したそうです。精神的にも回復の兆しが見えているとのことです」
美月の回復は、他の生存者にとっても希望となった。
「陸翔さんも退院が決まりました」
雨宮は続けた。
「彼は元の仕事に復帰するつもりはないそうです。新しい人生を始めたいと言っていました」
生存者たちは皆、それぞれの方法で新しいスタートを切ろうとしていた。
「僕も、新しい人生について考えなければなりませんね」
蒼太は窓の外を見つめた。
「まずは治療に専念して、それから将来のことを決めたいと思います」
「一人で抱え込まないでください」
雨宮は蒼太の手を握った。
「私たちは仲間です。何かあれば、いつでも相談してください」
蒼太は雨宮の温かさに感謝した。
「ありがとうございます。雨宮さんも、無理をしないでください」
その夜、蒼太は久しぶりに悪夢を見ることなく眠ることができた。
回復への道のりは長いだろう。しかし、一人ではない。同じ体験を共有した仲間たちがいる。
そして、真実を伝えるという新しい使命もある。
蒼太は静かに決意を新たにした。
失われた十一名の命を無駄にしないため、そして二度とこのような悲劇を繰り返さないため、自分にできることをやり続ける。
それが、生存者としての責任であり、新しい人生の意味でもあった。
翌朝、病室の窓から差し込む朝日を見ながら、蒼太は深く息を吸った。
新しい一日が始まる。
希望を胸に、回復への道を歩み続けよう。
仲間たちと共に。
救助から三日が経過している。身体的な外傷は軽微だったが、精神的なダメージは深刻だった。医師からは「急性ストレス反応」と診断され、しばらくの療養が必要とされていた。
窓の外には青空が広がっている。五日間の地下施設での生活を経て、自然光がこれほど美しいものだったのかと改めて実感していた。
「蒼太さん、お加減はいかがですか?」
ドアをノックして入ってきたのは、担当の精神科医である椎名医師だった。中年の女性で、穏やかな雰囲気を持っている。
「身体は大丈夫です。ただ……」
蒼太は言葉を選んだ。
「夜、眠ると夢に出てくるんです。死んでしまった人たちが」
佐藤の処刑シーン、田中の狂気的な笑顔、高橋が颯真に襲われる瞬間。それらが繰り返し脳裏に蘇ってくる。
「それは自然な反応です」
椎名医師は優しい口調で説明した。
「あなたが体験したのは、想像を絶する極限状況でした。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が現れるのは当然です」
椎名医師は椅子に座り、蒼太と向き合った。
「大切なのは、あなたが被害者だということを理解することです。五年前の実験で記憶を操作され、今回のゲームに強制参加させられた被害者なのです」
蒼太は首を振った。
「でも、僕は五年前の実験の中核メンバーでした。すべての元凶は僕なんです」
「それも操作された記憶の可能性があります」
椎名医師の指摘に、蒼太は驚いた。
「どういう意味ですか?」
「警察の調べによると、五年前の実験記録は大幅に改竄されています。あなたが『中核メンバー』だったという記憶も、ヴァルトシュタインによって植え付けられた可能性が高いのです」
新たな事実に、蒼太は混乱した。
「つまり、僕の罪悪感も偽物だったということですか?」
「その可能性があります。記憶操作技術は、事実だけでなく感情も操作できます。あなたの過度な罪悪感は、人工的に植え付けられたものかもしれません」
椎名医師は資料を取り出した。
「これは、記憶操作被害者の典型的な症状です。実際の行動以上に強い罪悪感を抱く傾向があります」
蒼太は深く考え込んだ。自分の記憶、感情、人格。何が本物で何が偽物なのか、もはや区別がつかない。
「では、僕は一体何者なんでしょうか?」
「それを見つけることが、回復への第一歩です」
椎名医師は微笑んだ。
「焦る必要はありません。時間をかけて、本当のあなたを取り戻していきましょう」
その時、ドアがノックされた。
「蒼太さん、面会の方がいらっしゃいます」
看護師の案内で入ってきたのは、雨宮だった。彼女も入院しているはずだが、外出許可を得て来たようだった。
「蒼太さん、お久しぶりです」
雨宮の表情は、以前よりもずっと明るかった。あの絶望的な状況から抜け出したことで、精神的に安定を取り戻しているようだった。
「雨宮さん、体調はいかがですか?」
「おかげさまで、だいぶ良くなりました」
雨宮は椅子に座った。
「実は、お話ししたいことがあって伺いました」
椎名医師が席を外し、二人だけになった。
「警察の方から聞いたのですが、颯真さんの行方がまだ分からないそうですね」
雨宮の言葉に、蒼太は頷いた。
「ええ。施設内で最後に確認されたのは、高橋さんを……その後、姿を消してしまいました」
颯真は高橋を殺害した後、完全に行方をくらませていた。施設の徹底捜索も行われたが、発見されていない。
「もしかすると、施設の外に逃げ出したのかもしれません」
雨宮の推測に、蒼太は不安を感じた。
「颯真さんは武器を持っています。もし一般市民に危害を加えたら……」
「警察も全力で捜索しています」
雨宮は蒼太を安心させようとした。
「それに、颯真さんも被害者の一人です。正常な判断ができない状態だった可能性があります」
蒼太は窓の外を見つめた。
「僕たちは皆、被害者だった。でも、同時に加害者でもあった。その矛盾をどう受け入れればいいのでしょうか」
「時間が必要だと思います」
雨宮は静かに答えた。
「私も、まだ田中さんを処刑したことを受け入れられずにいます。でも、少しずつ前に進むしかありません」
雨宮の言葉に、蒼太は勇気をもらった。
「雨宮さんは強いですね」
「強くなんてありません」
雨宮は苦笑した。
「毎晩、悪夢にうなされています。でも、生きている以上、何かしなければならないと思うんです」
雨宮は蒼太の手を取った。
「一緒に頑張りましょう。一人では無理でも、二人なら乗り越えられるかもしれません」
蒼太は雨宮の温かさを感じた。地獄のような体験を共有した仲間同士、特別な絆が生まれていた。
翌日、蒼太は警察署で事情聴取を受けた。
担当刑事は神田という中年の男性だった。ベテランらしく、落ち着いた雰囲気で質問を進めてくる。
「蒼太さん、あなたは五年前の実験について、どの程度記憶がありますか?」
「断片的にしか思い出せません。記憶操作の影響で、何が本当で何が偽物なのか分からない状態です」
蒼太は正直に答えた。
「我々の調査では、あなたは実験の被害者だった可能性が高いです」
神田刑事は資料を見ながら説明した。
「当時の大学生で、心理学を専攻していた。指導教授に騙されて実験に協力させられ、その後記憶を操作されたと推測されます」
新たな事実に、蒼太は驚いた。
「つまり、僕は加害者ではなく被害者だったということですか?」
「その可能性が高いです。ヴァルトシュタインは、被害者に罪悪感を植え付けることで心理的支配を行う手法を使います」
神田刑事は別の資料を取り出した。
「他の参加者の調査でも、同様の事実が判明しています。皆さん、実際の行為以上に強い罪悪感を抱いている」
蒼太は混乱していた。五年間背負ってきた罪悪感が、人工的に作られたものだったとすれば、自分のアイデンティティは一体何なのか。
「ヴァルトシュタインの現在の状況はどうなっているのですか?」
「ドイツ政府と協力して追跡中です」
神田刑事の表情が厳しくなった。
「しかし、彼は末期がん患者で、既に死亡している可能性もあります」
最悪の場合、真の黒幕が処罰されることなく逃げ切る可能性があった。
「そうなれば、正義は実現されないということでしょうか?」
「法的な処罰は困難かもしれません」
神田刑事は率直に答えた。
「しかし、あなたたちの証言により、真実は明らかになりました。それだけでも大きな意味があります」
事情聴取を終えた蒼太は、病院に戻る途中でコンビニに立ち寄った。
何気なく手に取った週刊誌の表紙に、自分たちの写真が載っているのを見つけて愕然とした。
『地下デスゲームの真相!記憶操作実験の闇』
記事を読むと、事件の概要が詳しく報じられていた。しかし、内容の多くは憶測や脚色に満ちており、事実とは異なる部分も多かった。
「蒼太さん?」
振り返ると、神谷が立っていた。彼も週刊誌を見て、複雑な表情を浮かべている。
「報道が始まりましたね」
神谷の言葉に、蒼太は頷いた。
「でも、内容がかなり歪曲されています」
「仕方ありません。センセーショナルに報道した方が売れますから」
神谷は苦笑した。
「問題は、この報道によって私たちの社会復帰がより困難になることです」
確かに、週刊誌の記事は参加者たちを「殺人ゲームの生存者」として扱っている。被害者というより、異常な体験をした特別な存在として描かれていた。
「僕たちは、どうやって普通の生活に戻ればいいのでしょうか?」
「簡単ではないでしょう」
神谷は現実的に答えた。
「しかし、時間が経てば世間の関心も薄れます。そのうち、忘れられるでしょう」
二人はコンビニを出て、病院に向かった。
「神谷さん、あなたは今後どうされるおつもりですか?」
蒼太の質問に、神谷は少し考えてから答えた。
「父の墓前に報告したいと思います。復讐は果たせなかったが、真実は明らかになったと」
神谷の表情には、これまでにない安らぎがあった。
「それから、記憶操作技術の悪用を防ぐため、研究者として警告を発し続けたいと思います」
「それは重要なことですね」
蒼太も同感だった。
「僕も協力します。証言者として、真実を伝え続けたいと思います」
二人は病院の前で別れた。それぞれが、新しい人生に向かって歩み始めていた。
病室に戻った蒼太は、椎名医師と再び面談を行った。
「警察での事情聴取はいかがでしたか?」
「新たな事実が判明しました」
蒼太は神田刑事から聞いた内容を報告した。
「やはり、あなたの記憶は大幅に操作されていたようですね」
椎名医師は納得した様子だった。
「これで、回復への道筋が見えてきました」
「どういうことでしょうか?」
「あなたの過度な罪悪感が人工的なものだと分かれば、それを取り除くことができます」
椎名医師は治療方針を説明した。
「記憶操作の影響を軽減し、本来のあなたの人格を取り戻すための治療を行います」
蒼太は希望を感じた。これまで背負ってきた重荷の一部が、実は必要のないものだったのだ。
「ただし、時間がかかります」
椎名医師は念を押した。
「一朝一夕に回復するものではありません。数年単位での治療が必要になるでしょう」
蒼太は覚悟を決めた。
「分かりました。時間をかけてでも、本当の自分を取り戻したいと思います」
夕方、雨宮が再び面会に来た。
「蒼太さん、良いニュースがあります」
雨宮の表情は明るかった。
「美月さんの容体が安定したそうです。精神的にも回復の兆しが見えているとのことです」
美月の回復は、他の生存者にとっても希望となった。
「陸翔さんも退院が決まりました」
雨宮は続けた。
「彼は元の仕事に復帰するつもりはないそうです。新しい人生を始めたいと言っていました」
生存者たちは皆、それぞれの方法で新しいスタートを切ろうとしていた。
「僕も、新しい人生について考えなければなりませんね」
蒼太は窓の外を見つめた。
「まずは治療に専念して、それから将来のことを決めたいと思います」
「一人で抱え込まないでください」
雨宮は蒼太の手を握った。
「私たちは仲間です。何かあれば、いつでも相談してください」
蒼太は雨宮の温かさに感謝した。
「ありがとうございます。雨宮さんも、無理をしないでください」
その夜、蒼太は久しぶりに悪夢を見ることなく眠ることができた。
回復への道のりは長いだろう。しかし、一人ではない。同じ体験を共有した仲間たちがいる。
そして、真実を伝えるという新しい使命もある。
蒼太は静かに決意を新たにした。
失われた十一名の命を無駄にしないため、そして二度とこのような悲劇を繰り返さないため、自分にできることをやり続ける。
それが、生存者としての責任であり、新しい人生の意味でもあった。
翌朝、病室の窓から差し込む朝日を見ながら、蒼太は深く息を吸った。
新しい一日が始まる。
希望を胸に、回復への道を歩み続けよう。
仲間たちと共に。
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